ひとり暮しの戦後史: 戦中世代の婦人たち (岩波新書 青版 924)

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  • Amazon.co.jp ・本 (219ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004110958

感想・レビュー・書評

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  • ツィッターで回ってきた。この新書が隠れた名著として話題なのだという。「戦中世代の婦人たち」の副題があり、その世代は100万人近くが婚期を逃したりしていて、ずっとひとりで生きてきたらしい。若い人は知らないかもしれないが、むかしは「お局」の労働条件は酷かった。

    とは言っても、1975年の刊行である。女性差別を扱っているとしても、データは古い。この本の素晴らしいのは、20数人のその世代の綿密なインタビューがあるのだ。それを読んで行く中で、私は30年前に亡くなった伯母のことを思い出した。

    伯母は24才で敗戦を迎えた。青春をまるまる戦中の看護師として生き抜き、何処かに意中の人はいたかもしれないが、ここのデータにあるように時代の緊迫と男性人口の消失があり、気がついたら独身のベテラン看護師として残っていた。最終的には街で大きな病院の婦長にまでなったので、給与はここの登場人物よりはまだ良かった。それなのに、伯母の晩年には悲劇が襲った(内容については決して言えない)。趣味もあり、付き合いもある方だったのに、仕事を退いてからの彼女は孤独だったようだ。伯母の決して幸せとは言えないかもしれない生涯を具体的に考えるきっかけになった。私は今、彼女の寓居を引き継いで住んでいる。

    独身中高年婦人は、この新書の時点で約50歳前後。働き盛りで、生活苦に苦しんでいるばかりではなく、かえって意気軒昂な女性も多い。しかし、そのあとが心配になった。独身になったのは、彼女達の意思とは言えない。また、給料が少ないのも、仕事がきついのも、彼女たちのせいとは言い切れない(そのあたりは説得力持ってこの本が書いている)。親の介護と自分の老後は大きな壁として立ち塞がっていた。この時代「恍惚の人」がやっと話題に登った頃だ。そこから、今の女性問題はどこまで前進し、変われたのか?

    また、現代のロスジェネ世代(超氷河期世代)は独身者が多い。第三のベビーブームが起きないのは、つまり少子化が起きているのは、この世代があまり結婚できなかったからだと言われる。400万人とも言われるこの世代は、ずっと非正規で働いている方も多く、時代のせいでこうなっている。つまり戦中世代の婦人たちの問題は現代の問題とも被るのである。いろんなことを考える新書だった。

    内容を推察するために目次を以下に載せる。(機種依存文字があるために、一部の数字を変えた)

    はじめに
    A 統計は語る
    B ひとり暮しの戦後史
     1 病院の調理士として
     2 ちいさな美容室を経営して
     3 雇われの洋裁師
     4 家政婦からマッサージ師を志願
     5 誇り高き独身
     6 働き盛りに定年
     7 退職を強要されながら
     8 勤続28年,下っぱのいかり
     9 “生きがいってなんだろう”
     10 給料明細を見ないで捨てる
     11 戦争疎開のまま住みついて
     12 労働運動のオルグとして
     13 保育に生きる
    C 現実のなかで
     1 差別の体系の下で
     2 ひとり暮しの哀歓
     3 結婚について
     4 老後をどう生きる
    D 若い世代へ
    あとがき

    • 佐藤史緒さん
      kuma 0504 さんこんにちは、
      レビューたいへん興味深く読ませていただきました。
      生活者を取り巻く環境は年々厳しくなってるな…と思...
      kuma 0504 さんこんにちは、
      レビューたいへん興味深く読ませていただきました。
      生活者を取り巻く環境は年々厳しくなってるな…と思います。本当に現代の問題とかぶりますね。

      本文の訂正ですが、いいね!が付いた後に訂正しても、その数も誰が付けてくれたかの情報も削除されないので大丈夫ですよ! 私しょっちゅう訂正してます。
      レビューそのものを削除してしまわないかぎり大丈夫です♪

      これからもkuma0504さんのレビュー楽しみにしています(^ ^)
      2019/12/11
    • kuma0504さん
      佐藤さん、情報ありがとうございます。
      やっぱりそうなんですね。
      これで安心して訂正できます(^_^;)。
      佐藤さん、情報ありがとうございます。
      やっぱりそうなんですね。
      これで安心して訂正できます(^_^;)。
      2019/12/11
    • pさん
      kuma0504さんのレビュー見て、図書館で借りてきました。
      kuma0504さんのレビュー見て、図書館で借りてきました。
      2020/03/23
  • めちゃくちゃ考えさせられた!

    戦争後って、旦那さんを亡くした方のことは知ってたけど
    男の人が戦争で犠牲になって独身女性が多かったってことは思いもしなかった…

    その時代、私だって結婚できた自信ない…

    賃金の低さ、定年の年齢…
    私、もうすぐ定年じゃん!って思えて考えさせられた。
    まだまだ働けるのに定年になって年金で親の面倒もみてって自分の老後、どうなる⁉︎って精神的にキツイわぁ。

    びっくりしたのが、あの日のオルガン?の中に出てくる方と思われるインタビューが!!
    その中で気になってた子の、その後も知れてよかった。

  • 初版は1975年、終戦30年後である。
    2015年、戦後70周年を機にアンコール復刊された。

    女性たち、特に、夫や家族を奪われ、1人で生きることを余儀なくされた女性たちに焦点を当てる。
    多くの戦死者を生んだ第二次大戦。徴兵された多くの男たちが死んだ。それはその一方で、男たちの妻、あるいは婚約者が、伴侶を失ったことを意味する。
    戦後の厳しい状況下、彼女たちはどのように生き延びたのかを追う。

    当時の社会モデルとして、主たる働き手の世帯主男性がいて、その妻は家庭に入るかまたは従属的な職業に就くという形の家庭が一般的とされていた。企業等の給与体制や厚生制度もそれに合わせたものとなっており、ひとり暮らしの女性にとって手厚いものではなかった。
    加えて、(本人らのせいではないとしても)ひとり身でいること自体がどこか「不完全」と見られ、本人ら自身にとってもどこか後ろめたく思わせる風潮があった。

    本書では、月収や住居形態、職種といったさまざまな統計データと併せて、個々の聞き取り調査も収録されている。
    統計部分は、労働局によるものであったり、国勢調査であったり、(当時女性就労者が多かった)繊維業の組合のものであったり、多様なところから採られている。それはつまり、データ同士を単純に比較はできないということでもあるが、異なる目的で実施されたであろう調査の奥にうっすら見えてくるのは、苦境にあったであろう女性たちの影である。
    だが、やはり本書の読ませどころは聞き取り調査部分だろう。あるいは姉妹で協力し合い、あるいは組合活動に没頭し、あるいは得意な洋裁を武器に苦闘し、幾人もの女性らが戦後を生き抜いてきた。中には、当初、対象とされていたであろうような戦争未亡人(婚約者を失ったものも含む)の枠からは若干はみ出すような人もいるのだが、いずれにしろ、彼女らが「ひとり暮らし」の戦後を生きてきたことに違いはない。
    つまりはこれは、戦後という時代を、(ある種、不平等・不利な条件下で)独身女性が生きるとはどういうことだったのかを切り取ったものなのだ。

    但し、著者らも認めているが、取り上げられているのは、どちらかといえば恵まれた人たち、成功した人たちであり、「最下辺」の人にはなかなか手が届かないのは残念なところであろう。これはこうした人たちがそもそもそうした調査に応じられるほど、経済的・精神的な余裕がないことが大きかったと思われる。

    これが戦後30年か、と思いつつ、今から45年前のことなのか、とも思う。
    取り上げられた女性の多くが、「老後」を心配している。「老人ホームに入れれば」と話している人も多いが、実際、彼女らの老後はどのようなものだったのだろうか。本書が出た当時に50歳前後であったとすれば、現在95歳前後。亡くなった人も多いだろうが、あるいは存命の人もいるものか。彼女らのその後を聞いてみたい気もする。

    時代の空気も漂わせる読み応えある1冊。

  • 実際の当事者たちの話を採録しているのがすばらしい。「ひとり暮し」ではくくれない豊かさを、ひとりひとりのエピソードから感じることができた。
    それにしてもこの本が出版された年と今とで、女性が直面する問題の本質があんまり変わってないのが、情けないやらあきれるやら。

  • 読み終えて言葉が出なかった。
    戦争によって旦那や未来の旦那を奪われ、未亡人や独身となった女性たちの暮しについての話。
    データをふんだんに使用し、主観だけでなく客観的に解説、問題提起される。データを見れば見るほど、辛く居た堪れない気持ちになる…。

    本書が出た1975年当時、女性の収入は男性の約半分だった。女性の結婚が当たり前の時代で、女性が1人で生きていくという想定はされておらず、男性には家族手当があった。それから約45年経った今、何が変わっているだろうか。都市部にいたら女性も大学進学が当たり前になり、専門職や給与の高い仕事に就くことも出来ている時代ではあると思う。結婚せず1人で生きていくという選択肢も最近は増えてきたように思うが、平均年収はいまだに男性の半分程度だ。
    年代によっては女性は結婚して仕事辞めるのが当たり前だと感じている人も多いだろう。

    45年前とほぼ変わらないことに絶望した。
    また本書に出てくる女性たちのインタビュー記事が辛い。一生懸命働いてるのに給与面で報われず、老後の心配を抱える…私は独り身だ。他人事に思えないしこのまま定年まで大して高くもない給料で仕事をするのかと暗い気持ちになった。
    ただこの人たちが組合を発足し戦ってくれたからかそ、この時代よりは少しではあるものの女性の社会進出に繋がっていると思う。

  • 気が滅入った。
    この時代から40年以上が経ち、経済状況の変化や運動のおかげで、改善されたり獲得されたりしてきたことも少なくないなと実感するけれど、残念ながら変わっていない部分も多い。本質的なことはほとんど解決されていないのではないか。今や、独身であってもそうでなくても、若者も老年も、不安だし生活は脅かされるばかり。この時代と比べて生活が向上して幸福になったともあまり思えない。

  • 50年近く前の本なのに、今と何も変わらない、、、

  • ポリタスで富永先生が紹介されていて読んだ。
    フィールドリサーチに基づいて書かれていてかなり読みがいがあって世の中への具体的な提言・メッセージもあって骨太な内容だった。

    戦後未亡人でもない女性の一人暮らし (それも戦争の影響でそうせざるをえなかったと言う状況)は社会に見過ごされてきて、結果高齢になり貧しい生活をせざるを得なかったり老後に不安をかかえながら最低限の中で暮らしているという話なのだが。。。

    まさに社会保障負担増で資産のない高齢者が今後どう生活していくか?が重要テーマになっている2022年のいま、高齢女性の貧困が深刻だという話をきいて本作のことが頭に浮かんだ。。。

    税制・年金は今後の日本で本当に本当にクリティカルなテーマ。今こそこの本みんなに読んでほしい。。。。

  • 今と変わらないよね…?というのが分かりなかなか気持ちが重くなる本。
    変わってないことを認識するのにはベスト。
    ただ、金利で旅行に行けるとか介護保険ないとか、今とは違う部分を感じ更に気が滅入った……。

    あと、男女は結婚するものであるみたいな規範が見え隠れし、同性間についてはノータッチどころか想定されてない雰囲気と他者への性欲愛情がないなんてありえないみたいな文が出てきて、どんよりします…。
    仕方ない部分もあるけれども。

  • 戦後30年の節目に書かれた本だが、戦後75年を超えた今に通じることが山ほど書かれていて古さを感じない。そんな時代があったんだ、と思えた方がきっと幸せだったろうに。

    戦争で若い男性が大勢亡くなり、本来なら出会いに恵まれて結婚していたであろう女性たちが結婚の機会を奪われた。それでは稼がなければ、と社会に出ても、女ひとり満足に暮らして死んでいけるだけの稼ぎは手に入らない。男に認められているあらゆる手当ては認められず、男性より圧倒的に早く定年を迎える。
    男女間の分断だけにとどまらず、世代を超えた分断も存在する。
    戦後生まれのより若い女性たちは寿退社を望み、ともに会社での待遇改善を求めて動いてはくれない。

    「マッカーサー革命」、「新憲法」で「女も一人前の人間で、大学にも行けるし、選挙権もあるし、どんな仕事にもつける」ことが保障された(p.112)はずなのに、『「(略)日本人民一億が、あの戦でたとえようもない大きな犠牲の末、やっと手に入れたこの大切な憲法が、空文句にすぎない」』(p.199から孫引き)、『(略)戦後三〇年の民主主義とは一体なんだったのか』(p.209)という叫びは過去のことだと言えるだろうか。

    第二章の大勢の女性たちからの聞き書きは一編づつは短いがそこに人ひとりの人生が詰まっていて読みごたえがある。これだけ延々と読んでいたい。
    市井の人がなにを感じなにに憤りなにを諦めて生きていたのか。貴重な資料だと思う。

    さすがに現代では女性の定年が45歳とか、男性と明らかに差がある会社というのはないかと思うが(ないですよね…?)、本書の時代から現代までの経緯を知るのにちょうど良い読みやすい本はないだろうか。それから、本書以前の、なぜこれほど男女不平等がまかり通ってきたのかがわかる本も。
    あとはやはり民主主義か、民主主義の勉強をしないといけない…。

    昨年末まで開催されていた国立歴史民俗博物館の『性差の日本史』展にいまさら興味が湧いてきた。見たかったなあ。

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