追われゆく坑夫たち (岩波新書 青版 391)

著者 :
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  • Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004150244

作品紹介・あらすじ

付: 日本の中小炭鉱とその労働者たち (正田誠一)

感想・レビュー・書評

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  • 先日読んだ『シャギー・ベイン』も閉山した炭鉱町が舞台だった。80年代だったが、その行き場のない鬱屈した感じ、貧困が人の希望を根こそぎ奪うところは、国や時代が変わっても変わらないと感じた。
    また、その劣悪な、人道も人権も無視した労働は『ケルト人の夢』のアフリカやアマゾンの原住民の様子と重なった。
    しかし驚くのはこれが戦後高度成長期の日本だったこと。戦前ならまたわからないでもない。戦前戦中に人権なんかなかっただろうと思う。しかし戦後は憲法も変わり、人権意識も芽生えた頃だし、生活も右肩上がりで豊かになった時代。
    石炭をあらかた掘り尽くした上、エネルギー原料が石油・天然ガスに変わって行く中、炭鉱労働者達がいかに悲惨な暮らしをしていたかを知ってショックを受けた。
    特に採炭率が低く、ガスや水が出たり、地盤が弱かったり、機材が持ち込めないほど狭く低く全てを人力で行わなければならなかった中小の炭鉱労働のひどさは、植民地の原住民や奴隷とどちらがひどいか言えないくらいである。植民地の原住民や奴隷は無理やり連れてこられたが、炭鉱労働者は自らヤマに入る。それしか食べていく道がないからだが、ヤマでヒロポン打たれて一歩も地上に出ないで働いても、自分と家族が食べていけるかというと、いけないのである。しかし逃げ出そうにも監視は厳しく、働けば働くほど借金が嵩むシステムなのである。どうしても休みたくて、決まった時間外に穴から出るとツルハシで殺されることもあったとか、落盤しても助ける手間がかかるから放置とか、それが許されるとは、どういう国家なんだ。
    労働法も機能しておらず、労働者は短期間で別のヤマに移る者も多い上、経営者が目を光らせているので、労働組合を作るのも難しい。誰が密告するかもわからないし、組合を作ろうとしていると目されれば即刻クビ。一家全員路頭に迷う。
    閉所恐怖症もあり、夜読むと息苦しくなって眠れなくなった。

    著者が書き残さなければ、永遠に闇に葬られていたことだったろう。なかったことにされたことだろう。京大出てエリートコースだって歩めたのに、労働者としてともにヤマに入り、彼らの声を書き残すのは、信念がなければできなかったことだと思う。
    読むのは辛かったが、高度成長期の影を記録した記録文学の名作だと思う。
    そしてまた、上野英信、森崎和江、石牟礼道子らを生んだサークル村の文学者たちの偉業に改めて頭を垂れる思いがする。
    サークル村の特徴は、ドキュメンタリーやルポルタージュ、ノンフィクションというより、文学であるという点。この本の文章も著者の思いがつまった文章が胸に迫った。
    これは日本の歴史であり、世界で今も同じような劣悪な労働を続けている人々の怨嗟の呟きであり、こういう人々がいるということを忘れてはいけないと強く思う。

  • 日々の暮らしの中に、辛く悲しくかちこちになって動けなくなった坑夫の暮らしがフラッシュバックするようになった。売血の記述目当てで読んだけど、現在のブラック企業は非人道的な旧時代企業と地続きなことを痛感した。

  • 夏目漱石の坑夫とは比べ物にならないぐらい悲惨でリアルである。それも戦前、戦後の話である。端島の軍艦島で逃げ出せないので軍隊に入る、あるいは戦後では炭鉱では給与が払われないので自衛隊に入るという話である。会社を整理解雇で社宅を追い出されるということは現代と同じである。
     世界遺産に軍艦島がなったが、いい炭鉱でのはたらきということで貨車で連れてこられ、船で島に連れてこられた。さらに、コンクリートの建物で、上から鉄の柱があり、逃げたりさぼったりするとこれにつるされて殴られ、さらにアカエイの毒のムチでたたくことが監督から言い渡されるなどひどいことである。このことを世界遺産となるときにはひとことも説明がなかった。明らかに企業側の功労としての世界遺産である。こうした悲惨な状態は掲示されたという話は聞かないので、朝鮮人労働者として強制連行されたという事実も掲示されていないのは当然であろう。給与がきちんと支払われたという会社の説明や上級幹部の説明をうのみにした説明が現在でも行われている。
    ルポルタージュのひとつであるが、フィールドワークのの事例としても貴重である。
     世界遺産となった富岡製糸場の時の、ああ野麦峠と
    同じ状況である。

  • かなり衝撃的な内容だった。ここに書かれている坑夫の様子は、現在の派遣契約を見るようでもあった。資本家による搾取は金銭や健康だけでなく、目に見えない「心」までも奪うことができるのかと、恐ろしい気持ちになった。

  • (1999.07.27読了)(1991.09.20購入)
    (「BOOK」データベースより)amazon
    戦後日本には「貧困」があった。地の底の炭坑では人間が石炭を掘っていた―石炭から石油へのエネルギー転換の時代を背景に、日本資本主義を最底辺で支えた筑豊の中小炭坑の悲惨な実態を暴いた。1960年8月初版の本書は、怠惰と飽食の時代を痛撃しつづける戦後ルポルタージュの古典である。

  • これこそルポルタージュ。「事実」が「言葉」によって、書かれ、残されている。しかし…収録されている写真も…書かれていることはもとより…むごい。

  • とにかく悲惨。ショッキング。
    中小鉱山の坑夫たちは、1度入ったら抜け出せない絶対的貧困のループに入りこみ、財産も人間性も失い、ただ動く物体として、危険な現場で限界まで肉体を搾取され続ける。

    絵に描いたような、いや絵よりも衝撃的な「資本家に搾取される労働者」。
    ここには確かに組合が必要だったし、国家の統制による共産主義に希望を見出そうとした人がたくさんいたのもうなずける。
    比べたら「派遣切り」なんてかわいいものだ。

    1950年代にこんな闇の世界があったとは。
    あの子供たちはいまどうなっているんだろう。

  • 昭和30年代の炭鉱夫の実態を追ったルポである。

    現在と比べ全く坑夫の待遇が違って驚く。

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著者プロフィール

1923年、山口県に生まれる。京都大学支那文学科を中退して炭鉱に入り、1957年まで海老津炭鉱、高松炭鉱、崎戸炭鉱などに鉱夫として働く。そのころより炭鉱労働者の文学運動を組織するとともに、炭鉱についてのルポルタージュを書く。1964年に「筑豊文庫」を創設。1987年没

「2014年 『眉屋私記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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