思想検事 (岩波新書 新赤版 689)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004306894

作品紹介・あらすじ

戦前、「国体」に反するとみなされた思想・言論はきびしい取締りの対象となった。治安体制の一方の核として特高警察と両輪をなした思想検察は、"倫理上の善悪の審判官"を自任し、治安諸法令の制定・運用を主導、保護観察・予防拘禁などの抑圧装置を次々と創出した。その実態と全体像を、戦後公安検察への継承性も含めて解明する。

感想・レビュー・書評

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  • 思想検事。なんか強そう、宇宙刑事みたいな。ではなく、NHKのドキュメンタリー「治安維持法 10万人の記録」に出ていた荻野富士夫さん(小樽商科大特任教授)の本を読めば治安維持法のこともっとわかるかなと著作一覧を見たところ、このタイトルが目に飛び込んできた。特高警察はよく耳にするけど、思想検事は初耳で、この名称のインパクトに、特高より先につい手を出してしまいました。
    思想検事は正しくは思想係検事という。思想犯罪(当初は主に共産党思想)を捕まえるのは特高警察だが、その次の手順として、彼らを起訴して裁判にかけるのは思想検事の役割だった。特高は拷問でもなんでもやるから忌み嫌われてるし、捕まった人に同情もあったかもしれないけど、そうやって挙げられた疑わしい人を「正式な」手続きで裁判にかけて、「正式に」罪を科す。警察組織の暴走や腐敗ではなく、国として下流から上流まで思想犯罪を取り締まる正当な仕組みを持っていたところに治安維持法の恐ろしさがある。国が認めた犯罪者だから国がおかしくなってない限り(いや、おかしくなっていても)罪は罪なのだ。特高の暴力を、国を動かす最高の知力を持った人々がバックアップしてどんどん思想犯罪を取り締まった。こんなことを国は認めていたし、推し進めていた。恐ろしい。
    思想検事のもう一つ怖いところは、悪名轟き解体された特高警察と違って、表に出なかったために、組織は温存され、検事たちも裁かれず戦後も脈々と生き続けたこと。冷戦構造による共産党への脅威もあって、思想検事は自分たちの行為を反省することもなく、公安検察へと形を変えて戦後も生き残った。そして、不都合な発言を封じるためか長期間拘留されたり、喚問されても「忘れた」と言い続けたり、訴えても無視されたりと、黙ってた方が得なことが頻発するようになった今のこの時代、思想検事が完全復活するような気がしてならない。

  • 新書文庫

  • 戦時、司法がどのように役割を果たしたかを思想検事を焦点に描く。
    特高警察に遅れを取りつつも主体的に治安維持に奔走し、
    かつそうした体制を戦後にも維持した流れがわかりやすく描写される。
    また頻繁に行われる特高警察との対比も理解の助けとなった。

  • 図書館

    特高が思想警察なら、思想検察もまた存在していたということですね。
    時局の悪化と共に、弾圧も躍起になっていくようで恐ろしい。うむむ…
    大義名分があったり自分こそ正義と思いこんだりすると厄介だな。
    かといって、破壊活動や体制をひっくり返したい輩を放置しとくわけにもいかないわけで。
    よい体制、よい制度ってどれなのかほんと難しい。

  •  戦前、特高警察とともに思想統制・弾圧に猛威を振るった思想検察・検事の歴史。思想検事設置の経緯、権限拡大過程、治安法制確立における役割、警察や裁判所との関係、戦後の公安検察との継続性などを、史料根拠を明示しつつ、平明簡潔に叙述する。治安法制・思想統制の通史として極めて有用な本である。

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著者プロフィール

小樽商科大学教授。

「2011年 『太平洋の架橋者 角田柳作』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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