子どもが育つ条件: 家族心理学から考える (岩波新書 新赤版 1142)

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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004311423

作品紹介・あらすじ

自己肯定感の低下、コミュニケーション不全の高まりなど、子どもの「育ち」をめぐって、様々な"異変"が起きている。一方、子育てのストレスから、虐待や育児放棄に走る親も目立つ。こうした問題の要因を、家族関係の変化や、親と子の心理の変化に注目して読み解き、親と子ども双方が育ちあえる社会の有り様を考える。

感想・レビュー・書評

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  • 子育てについて、母親だけでなく父親も育児参加することの重要性を訴えている点が印象的。今よりまだ父親の育児参加が進んでおらず母親の負担が大きい状況を前提とした内容と感じた。

    気になった参考文献など。
    菊池ふみ・柏木恵子「父親の育児」『文京学院大学人間学部紀要』 9巻1号、2007年

    柏木惠子・若松素子 「「親となる」ことによる人格発達」「発達心理学研究』 5巻1号、1994年6月

    伊藤裕子、相良順子、池田政子「既婚者の心理的健康に及ぼす結婚生活と職業生活の影 響 『心理学研究』 75巻5号、2004年12月
    (幼児をもつ男性の大半は、稼ぎ手として仕事中心で家庭に投入するエネルギーはごく少ないのが現状ですが、そうした男性たちの幸福感や充実感は何か、ということについて検討した研究)

    ILO(国際労働機関)条約第156号「家族責任をもつ男女労働者の権利」
    (家庭をもった者にとって、家庭(家族) 責任、権利が男女の労働者双方のものであることが明記されている)

  • 教育系の本かと思ったら、フェミニズム系の本だった。日本の男女の子育て観の違い、それによって起こる障害、子供の育て方などを知る事ができた。読みやすかったけど、同じような内容が何回も繰り返し出てきてちょっとくどかったかな。当時は目新しかったのかもしれないけど、現在だとニュースとかど結構知れ渡ってる内容。

    日本に顕著な育児不安
    母親の職業 m字型 「母の手で」神話
    アイデンティティ 社会的孤立 自分の時間
    生物の課題は自身の生存発達と種の保存
    父親の育児不在 育児困難な子を持つ動物はオスが静止提供者から父となる
    第一責任者か2番手かで態度が変わる 性別的違いは無い

    先回り育児の加速がもたらすもの
    子殺し 抑止力を凌駕するほどの強い感情 社会の偏見 正規職への困難
    子供の価値の変化 子供二人で豊かな生活 少死から少子へ モーツァルト 心理的価値を期待
    少子良育 受験 自分とはなにか 登校拒否不登校 さなぎとして
    対人交渉スキル 親の介入 日本の社会性とは 和
    親子より両親の関係が大事な場面も
    つくる教育 先回り育児 質が大事 よかれからよゐこの反乱へ 自立性の弱体
    日本の子供の勉強に対する認識 親の満足を念頭に 自己有用感の機会のなさ自立した生活体験の欠如
    他者のために働く体験 育て上げ

  • 背ラベル:367.3-カ

  • 良き。専業主婦はしんどいんじゃーん、子どもがほしくて専業主婦したがってる友達が周りにいたら教えてあげたい。そして親も成長し続けるのが大事って本当全親に伝えてあげたい、完璧じゃなくていいんだよって。先回り育児、男性の育児不在、課題山積。この頃から今どう変わってるか、聞きたいこの人に。

  • 長女が大学進学することになったこの春、育児のゴールを感じている。今までを振り返ることも増えた。この本はそんな時期の私にピッタリだと読み始めたが、もっと早く出会いたかったと思っている。初版が2008年。その時なら長女も次女もまだ就学前。三女に至っては生まれていない。子どもは育てるのではなく、子どもが育つことを待つ行為だと、自分が属する研究会では言っていたけれど、自分がしてきたことは育てる気満々に突っ走っていただけ。長女が持つ良さや育つ可能性を埋もれさせたままで押し込んでしまったように思う。心から、申し訳ない。また、社会が家庭に入り込むという点についても思い当たることが多かった。教師という職業は、家庭に持ち込まれる事柄が、精神を含め、とても多い。自分自身も未熟で自分のことを対処しきれていなかったのに、我が子の心に寄り添うなんてできるはずなかったのだと思う。そして今、夫に対してよく言っている、「主体的に家事をする」というのは、この本にあるような、男が仕事ばかりしないで家庭にも参加することを進めたかったからだと思った。私もいいとこ気づいたね。反省ばかりの読了感だけど、自分を肯定もできた。読んでよかった。これからも勉強しようっと。

  • 10年以上前の書籍で社会の意識は変わってきたのかなという印象。男性の育休は人によって長短こそあれど、ここ10年で大分増えたのではないか。
    第一章の育児不安の心理はとても腑に落ちる内容でした。母親よりも父親、特に子育てをしない父親ほど、子どもは自分の分身と思っているという統計には納得。自分の父がそれこそ仕事で毎日終電もしくは朝までもザラにある働き方をしていて、私が結婚してからも言葉の端々に男は働いてナンボというニュアンスがあるので本書勧めたい。

  • 【キーアイデア】
    『親の成長が子どもの育ちに重要』

    【目的】
    子どもを育てるにあたって、どういう考え方で臨めばよいのかを探るため

    【引用】
    ・子どもがどう育つかという問題は、その親たち夫婦の関係のあり方と密接に関連しています。
    ・父は名ばかりで職業人、母だけが子育てという性別分業は、妻の夫に対する不信、不満を募らせ、「母子密着」「母子連合」をつくり、夫と妻の分裂を生み出します。このような両親の姿を子どもは歓迎していません。
    ・子にとって重要なのは、親のしつけや性格以上に、二人の親が夫婦として調和した関係にあることが臨床ケースからも明らかにされています。
    ・知育中心そして親に万事庇護された生活も、日本の子どもの自身の低さの背景です。
    ・親が「できるだけのことを子にしてやる」ような生活は、子どもにとっては何でも「してもらう生活」にほかなりません。
    ・「してやらないこと」、子どもに自分でさせることは極めて重要です。
    ・家族生活には三種のケアがあります。家族全員のための家事、子どもが誕生した後の育児、それと夫と夫婦の間の心身のケアです。
    ・子どもが自発的に熱中する活動は、子どもが育つことそのものなのです。それはおとなの計画や教育以上のものです。

    【感想】
    夫婦間の関係性が子どもに影響を与えることは、客観的なデータがなくとも日々感じるところである。頭で理解はしているものの、子どもの前で喧嘩をしてしまうことも一度や二度ではない。反省。

    【学んだこと】
    何でもしてあげることが子どものためにならないと知りつつも「できる限りのことはしてあげたい」という思いもある。でも子どもが自己重要感を得るためには、子ども自身が何かを見つけ夢中になって没頭し、結果を出す必要がある。

    【行動】
    親として「やらないこと」をリストアップし、子どもが自発的に取り組めるようにする

  • 子育て中の当事者はもちろん、子育て支援活動をしている人も必読。

    育児不安が強いのは、子育てのために退職した母親にむしろ多いという事実が、子育て中の人が現在置かれている状況を如実に表している。

    “母親が有職か無職かの違いは、子どもの発達になんら直接の影響はなく、それどころか、子どもの自立の発達については、有職の母親の子どもの方が優れている場合が少なくないことさえも明らかにされています。”

    “父親の育児不在、すなわち父親はいるのに育児せず、子どもの生活圏にはいない状況は、子どもの心理発達にマイナスに作用します。父親がいるのに、幼少時以来、父親との交流がない場合、青年の心理的健康は低いのです。”

    “引きこもりや不登校を自我発達がより成熟した自我の新生のための「思春期内閉」ととらえて、おとなになるうえで積極的な意味があるという考察も、豊富な思春期臨床経験を踏まえてなされています(中略)。”

    “不登校に限らず子どもに何か問題が起こると、親のしつけが悪い、親子関係が問題だと批判されます。けれども(中略)子どもに起こった問題は親たち夫婦の問題へのサインである場合が少なくないのです。”

    1930年代初頭の大恐慌の時アメリカでは、中流家庭の子どもも、家計を助けるために働いたり、勤めに出る母親に代わって家の手伝いをするなど、それまでの恵まれた暮らしから生活が一変したという。しかしそのような体験によって「自分が家族の役に立っている」という自信と自尊感情を芽生えさせ、その子どもの発達にとってはむしろプラスになったという研究があるそうだ。

    “家事をよくする子どもは、社会的関心が強く積極性に富み自立に優れていることは実証されています(中略)。”

    さらに、最近の研究では、赤ちゃんというのは外界からの刺激をただ受動的に受けているのではなく、好奇心を持って受け入れ積極的に学び発達しようとしているというのだ。

    “ユネスコの就学前教育プロジェクト(二〇〇七年)は次のような報告をしています。すなわち、子どもが四歳の時、その子の興味や関心に沿って自発的な活動をする保育(自由遊び)を受けた子どもは、読み書きや計算能力を高めることをねらいとした保育を受けた子どもよりも、七歳時の読み書きの能力が高かったというのです。早期の知育限定の教え込みが必ずしも効果を上げないこと、逆に「機能の喜び」を味わう自発的、探索的な活動の方が重要なことなどを示唆しているといえるでしょう。”

    “では、子育て支援が対象とすべきものは、誰なのでしょうか。(中略)結論からいうと、本来、何よりも支援すべき対象は、子どもであり、「子どもの育ち」でなければならないのです。”

    “動物に新しい芸を仕込むには、このアメとムチの訓練しか方策がありません。ところが人間はそうではありません。自分から新しい行動を習得します。他人が何をしているか、その結果どのようなことが起こるかといったことを観察して、その行動を自分のものにしてしまう、すなわち「観察学習」ができるのです。”

    “子どもは親のしつけの受動的な受け手ではありません。「自らの発達の能動的プロデューサー」ともいえる存在です。また母の手だけ、あるいは家庭内だけの生活は、こうした子どもの豊かな能力と関心に応え切れず、子どもの育ちを阻んでおり、その意味で貧困な環境です。あらゆる問題を親のしつけのせいとするような風潮は間違いです。むしろ子育てを社会化していく意義はここにあります。”

    “女性は子どもの養育か、自分の成長か、そのどちらに投資するかの選択を迫られているということです。”

    “日本の男性は(中略)そもそも家事や育児のために時間をとるという意識がないのでは、とさえ疑ってしまいます。(中略)男性に「仕事のあと、さらに一時間あればどうするか」と尋ねたところ、「仕事をする」が最多であり、ついで「どこかに寄って(から帰る)」、なかには「一杯やって帰る」だったということです(中略)。”

  • 子どもができてからというもの、昔以上に子育てや子どもとの接し方について興味がわくようになった。

    第一章は、育児不安の心理について。
    「育児は主婦の役割」という時代遅れの施策が1979年に意図的に提示されたために女性の育児の役割が過大になった、というのは初めて知った。また育児不安の正体として、子どもの育て方だけでなく、親として以外の生活、活動から疎外されてしまうことによる不安、即ち個人のアイデンティティに対する不安や焦燥があるというのは、一定期間、仕事を離れざるを得ない女性ならではの視点であり、男としてこれまで気付けなかったポイント。このあたりを冒頭で整理してもらえて非常に分かりやすい。

    第二章は、少子化時代ならではの子どもの育て方、育ち方について。
    親の介入が早すぎるため、子どもの他者への関心や交渉能力の育ちを妨げるケースがあること、「良かれと思ってやってあげる」ことが「やさしい暴力」となり、子どもの負担になり得ることなど、子どもの数が少なく、向ける期待が大きいからこそ起こる様々な問題について紹介されている。気をつけておかないと子どもに負荷をかけ過ぎてしまいかねないトピックばかり。

    第三章は、家族の生活環境の変化について。
    家電の発達により、子どもが家事に参加する時間や機会が減ってしまったため、子どもができることは親は敢えて「してやらない」工夫が今の時代は求められているとのこと。

    第四章は、タイトルにもなっている「子どもが育つ条件」。
    自発的、探索的な活動を通じて自分ができるようになった力を用い、様々なことを発見するようにさせることが重要。また、対人関係としては幼少期から様々な年齢の者との交流の機会を作る必要があるとのこと。これは、自分の幼少期を振り返って年の離れた従姉妹や近所の方々と接していたことを思い出すと、自分の身に起きたこととして納得。

    最終章は、子どもと親、両方が育つための視点について。
    女性に優しい職場とは、「女性が家事・育児と仕事を両方やる条件を作った会社ではない」、即ち、女性が育児や家事をやることを前提とした制度や施設を持つことで、むしろ男女の性別分業の固定化を助長している危険性がある、というのは良い指摘。実際、育児休業や子どもの保育のための働き方の支援は女性にしか適用されないものも多い。男性が心置きなく育児ができる環境こそ求められる。
    著者は「ワーク・ライフバランス」のワークには仕事の他、生きるために必須の労働である家庭内の家事や育児も含まれるとしている。そこにおいて、長すぎる労働時間の短縮と、家事のジェンダーアンバランスの解消が不可欠だと説く。いずれも日本社会の病巣と言っていい。

    子供が健やかに育ち、本当の意味でジェンダー平等が成立するには、まだ大きな社会変革が必要だということと、その中でもできることは幾許かある、ということを学べる良書であった。

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著者プロフィール

東京女子大学名誉教授

「2018年 『ウォームアップ心理統計 補訂版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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