重い障害を生きるということ (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004313359

作品紹介・あらすじ

曲がった手足は意志とは無関係に緊張し、呼吸も思うにまかせない。はっきりした意識もないかに見える-こうした心身に重い障害のある人たちは、世界をどう感じているのか。生きがいや喜びは何か。長年、重症心身障害児施設に勤務する医師が、この人たちの日常を細やかに捉え、人が生きるということ、その生を保障する社会について語る。

感想・レビュー・書評

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  • 重度心身障害児施設びわこ学園で働く医師が書いた本。
    重い障害を持つ人の苦しさや辛さの具体的な原因とそれが緩和され周りと関われることで生まれる喜びや生きがいがわかりやすい文章で書かれている。戦後日本の障害児問題に取り組んだ人たちの歴史も。
    2011年の本だけど1冊丸ごとが相模原のあの件への回答。決めつけないで知ること。

  • 重度障害者への医療福祉に長年従事し、施設設立にも携わった医師による手記。
    以下、本書の「はじめに」より。

    びわこ学園では、心身ともに重い障害のある子や成人が生活し、必要な医療と介護を受けている。
    障害の程度は、身体的には「ねたきり」の人が多く、知能的には「ほとんどなにもわからない」と言ってもよい状態の人も多い。

    見学に来られる方は、あまりの障害の重さに息を詰め、言葉なく立ち尽くされていることがある。
    それは、その人たちの人生で、出会ったことも想像したこともない姿ではないかと思うのである。
    こころに立ち現れてくる気持ちを自分でもつかめず、その気持ちをどう表現したらよいかわからず、感想や意見を述べることができない様子であるが、それでよいのではないかと思う。
    この経験が、その人の人生になんらかのかたちで影響があるかもしれないということでよいのだと思う。

    過日、外国のグループでの見学があった。
    その人たちは「かわいそうに」と表現していた。
    日本人のグループでも、重い心身の障害で生きている姿を「かわいそう」と思い、そのように言葉にする人もあり、別に違和感はなかった。
    だが、よく聞いてみると、「これだけ重い障害があるのに生かされているのはかわいそうだ」という意味であった。

    では、この人たちに医療をおこなわず、生活の介助をせず、死に委ねるのがよいのかということになる。
    それは違うであろう。
    だが、このように根本的には改善の余地がないように思える重い心身の障害のある人が、人生を生きていることがほんとうに幸せなのか、という問いが残る。

    本書を執筆しようと思ったのは、多くの方に「重症心身障害」の状態で人生を生き、生活している人たちのことについて知っていただきたいのと、「ほんとうに、生きているのが幸せなのだろうか」という自分自身の問いでもあることに答えたいと思ったことからである。

    それは、人が「生きるということ」について、また人の「生きる喜び」、人の「生きがい」などについて考えていくことになる。
    それは、人間というのはどのような存在なのか、どのような生きものなのかということ、さらに社会の在りようにも広がっていくと思うのである。

  • とても優しい視点を感じる本。
    ただ優しいだけではなくて息を飲むような重い障害に、毅然と対処しようとする優しさ。

    重障害を抱え、自らの身体能力ではただ生存することさえ難しい人たち。神経や筋肉が発達しないために動くことはおろか姿勢を保持することもできず、呼吸をすることですら体力を消耗する。思考や感覚が朧ろで外界を捉えられず、すべての刺激に混乱と恐怖をきたす。
    そういう人たちにとって、生きているとはどういうことなのか。彼らを生かしているとはどういうことなのかを静かに、真摯に考えている。

    障害とは、人類が脈々と子孫を残し進化したりしなかったり無数の取捨選択の上での試作品なのだ、と著者は言っています。すでに彼らは闘って、何らかの痕を遺してきたのだと。
    この考えがこの本の目玉だと思う。
    これを読んで泣きそうになりました。

    著者は世界を捉えられない人でも、太陽のしたで開く花のような原始的な気持ち良さを感じることはできる。その反応はとても細やかで、いつもは強ばっている筋肉が僅かに和らいでいるというような反応かもしれないけれど、それを与えてあげられるように思いやるのが重障害者への介護ということだと言います。

    もしも私に障害があったらこの先生のもとで勇気をもらいたい。
    もしも身近に障害を持つ人がいたらこの人のように接したいです。

    ちょっと整理しきれていないけれど、これが感想。

  • 重症心身障害児について、どういう状態なのか、制度などがどのように変わってきたのかが述べられている。
    広く概観されているが、著者自身のかかわりも丁寧に組み込まれている。

    「快」という状態には言葉もなくてもいいし、それを目指せたら、それを感じ取れたら、本人もこちらも幸せな気持ちになれるのだろうと思った。
    時間はかかりそうだけど、こうやって世の中に出していくことは必要な内容だと思う。

  • 人間は元々弱い存在で、だからこそ同じ人間同士で共感したり、分かち合ったりしてここまで歩んできました。

    にも関わらず、時にそういったことを忘れ、社会的弱者に対して排除につながるような考え方を持ってしまっている自分がいることに気づかされました。

  • 遺伝性の疾患を持っている。子どもたちに対して申し訳ないと思わない日はない。『水蛭子』の「遺伝性の疾患については、悪い遺伝子のためと考える人もあるが、遺伝子にはよいも悪いもなく、生物それぞれの種の存在にとって必要な情報であり、多様の遺伝子の存在によって種が保たれている」という一文を読んでほっとした。こう書いていただくと、とても安心する。それと読んでいると、どうしても、やまゆり園の事件のことが脳裏に浮かぶ。


    「重症心身障害」という言葉を、この本で初めて知った。ほんとうに生きているのが幸せなのか?人間とは?人の幸せとは何か…。自問自答しながら読んだ。読んでも明確な答えは得られなかった。寝たきりでも人として尊重してもらい、痛みや不快を取り除いてもらうことで「快」を感じ、おだやかな表情になる。そうして息を引き取っていかれる方々の話を読んだけど、気持ちを整理することが出来なかった。

    多様性が保たれることにより種が保存させる。
    『生物はなぜ死ぬのか』では、「死」によって「生」が支えられている的なことが書かれていた。文言は違うけれど、2冊の本に書かれていることは似ていると私は思った。様々な本を読んで自分の考えをまとめていきたいと思う。

    そして水上勉と、障害福祉、びわこ園の関係についても知ることが出来た。
    ☞『生物はなぜ死ぬのか』

  • 369.4

  • まずは、第一歩。あのような事件が起きた今、障がい者を本当に尊いと考える第一歩になりました。知らないということは恥ずかしい。逃げていてはダメ。命を考えさせられる本。

  • 前半は重度心身障害児がどのような「感じ方」をしているのかを多くの事例を基にして記述している。
    中でも保護者から離れることの不安や恐怖を入所から14時間で亡くなった事例を挙げながら説明している部分では、いのちの儚さと周囲のかかわりの重要性を感じた。
    後半は重度心身障害児施設を築き上げた、小林提樹、草間熊吉、糸賀一雄の生い立ちや施設が出来るまでのあらましを延べている。
    脳がなくても、周囲の働きかけによって「笑う」。
    多くのハウツーが出回る現在の特別支援教育に携わる物として、子どもと接する際の大切な視点を確認することができた。

  • 「分け隔てなく『快適に生きられる』社会をめざして」著者は医師として40年以上障害のある人々に接してきた。彼らが生きるということ、それを支える社会について思索を巡らせる。いまを当たり前に生きている私たちに「いのち」と向き合うきっかけを与えてくれる本。【中央館2F-東シラバス和 080/IW/R1335】

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