- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004316541
感想・レビュー・書評
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人文科学と自然科学の接続をめざす野心的な試みにも見えるが、どうも周辺分野の学説を浅く広く紹介するにとどまり、終盤では人文寄りの話に終止している。「実験」社会科学を掲げているものの、社会心理学では昔から実験はごく当たり前だしね。
最後通告ゲームの結果に見られるように、ヒトの社会行動にも進化的な基盤を持つ(=概ね人類共通)ものとそうでもないものがあるみたいなので、もっとその境界を探ったりしてくれれば面白そうなのに。 -
キーワード:適応、群れ、共感
本書は、人間一人ひとりが利得の最大化を目指して行動した結果、却って望ましくない状況に陥ってしまうという「集合行為問題」について、学際的な知見と事実を用いて検討している本といえる。
人間が群れ(家族、会社などなど)を構成するのは環境に適応するためだというのは面白いと思った。他の生き物群れを作って利他的な行動をとるという事例があったのも興味深かった。
特に印象に残ったのは「クールな利他性」という言葉。困っている他人を助けたいという気持ちには二種類あり、一つは他人を自分に重ねる自他融合的なプロセスを経る「情動的共感」。もう一つは相手の視点を自分と切り離して考える自他分離的な「認知的共感」=クールな利他性。
クールな利他性をもつ人の方が日常生活でも他人への援助を行いやすいらしい。
本書でも引用されていたが、マーシャルの”cool head,but warm heart.”を思い出した。
この言葉は科学的にも適切な心構えなのだ。 -
本書の主題は、利他性・道徳性の起源を進化的な観点から探求する試み。ジャンル分けすると心理学だが、細分すると進化心理学なのだろうか。実験社会科学というシリーズもあったが。
このテーマは、人文科学(特に人間観について)と社会科学(主に政治哲学、正義論)と自然科学(特に進化生物学)との重なる領域にあり、本書で参照される知見も幅広い。……なお(私の知識では)、社会心理学はこの三つの内どこに分けたらいいか判然としない。
要約は控えるが、一般向けの新書として、素晴らしい出来上がりになっている。
【書誌情報】
著者:亀田達也[かめだ・たつや](1960-) 意思決定科学、社会心理学、行動生態学。
→〈http://www.tatsuyakameda.com/〉
通し番号:新赤版1654
ジャンル:哲学・思想
刊行日:2017/03/22
ISBN:9784004316541
Cコード:0211
体裁:新書・208頁
定価:本体760円+税
群れで生きるための心の働きを,進化的に獲得してきたヒト.しかし,異なるモラルをもつ人々を含む大集団で生きる現代,仲間という境界線を越えて,人類が平和で安定した社会をつくるにはどうすればよいのか.心理学などの様々な実験をもとに,文系・理系の枠を飛び越え,人の社会を支える心のしくみを探る意欲作.
〈https://www.iwanami.co.jp/book/b281719.html〉
【簡易目次】
はじめに [i-x]
目次 [xi-xiii]
第1章 「適応」する心 001
1. 生き残りのためのシステムとしてのヒト 003
2. 適応環境としての群れ 013
第2章 昆虫の社会性、ヒトの社会性 021
1. 群れを優先させるハチ 023
2. 個人を優先させるヒト 032
第3章 「利他性」を支える仕組み 045
1. 二者間の互恵的利他行動 047
2. 社会的ジレンマと規範・罰 055
3. 情と利他性 076
第4章 「共感」する心 087
1. 動物の共感、ヒトの共感 089
2. 内輪を超えるクールな共感 102
第5章 「正義」と「モラル」と私たち 115
1. セーギの味方の二つの疑問 117
2. いかに分けるか――分配の正義 120
3. 社会の基本設計をめぐって――ロールズの正義論 141
4. 正義は「国境」を越えるか 159
おわりに(二〇一七年元旦 亀田達也) [169-172]
主要参考文献 [1-2]
【詳細目次】
長いので、目次のみの記事に。
〈https://contents-memo.hatenablog.com/entry/20190929/1569682800〉 -
【本学OPACへのリンク☟】
https://opac123.tsuda.ac.jp/opac/volume/581519 -
なんで、こんなのが流行なの?と、思ってしまう…それに対する回答がここにあった!
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☆令和2年度先生が選んだイチ押し本☆
請求記号 I-1654
所蔵館 2号館図書館 -
最新の所在はOPACを確認してください。
TEA-OPACへのリンクはこちら↓
https://opac.tenri-u.ac.jp/opac/opac_details/?bibid=BB00530822 -
たぶん刊行当時手にとって迷ったはずだ。そのときはおそらくほかに優先すべき本があり、購入をひかえたのだろう。今回、キャンペーンで岩波新書を3冊買うと「生きのびるための風呂敷」がもらえるということで再び手にした。なにも風呂敷がほしいわけではない。それをもらったことをツイートして自慢したいのだと思う(と自己分析している)。さて、本書の内容のおそらく半分くらいは知っていることだった。できれば著者自身の実験をもっとくわしく知りたかった。なかなかその仕組みが難しく、その結果をどう判断していいのか分からないことも多かった。そんな中、共感したのは、「情動的共感」と「認知的共感」そしてクールな利他性ということ。医者や教師は専門家としてはあまり情動的であってはいけないのかもしれない。多岐にわたる情報を吟味したうえで、冷静に(クールに)治療や指導に当たるべきなのだろう。感情移入しすぎると、受験指導であやまることも多い。しかし、それはそうなのだろうが、それでも、やはり情動的な部分は必要だと思うし、ホットな利他性もあってほしいと思う。薬剤師を主人公としたドラマがあったけれど、そこでのテーマも同じようなものであったかと思う。さらに、最終章での話。メタモラルとしての功利主義。「最大多数の最大幸福」高校性のころ倫理社会の授業でこのことばを知って、「それがいい」と思ったものだ。しかし、それだけではうまくいかないという議論をたくさん読んできたし、それは理解できる。それでも、どうしても価値観が対立したときにメタレベルとして功利主義を持ち出すのは有効なのかもしれない。ただその議論をするときに、いったい、幸福とはなんなのだろうか、ということも考える必要があるように思う。例として挙げられているのは年収だろう。年収は少ないのは困るけれど、多ければ多いほどいいのかというとそれは違うような気がする。そういえば、最近のドラマで30億とかの遺産を手にしていながら夫に内緒にしていたという話があった。それはハッピーエンドで良かったのだけれど、幸せについてはいろいろと考えさせられる。共感するということ、利他的であるということ、そしてそれぞれの幸福、こういうことを引き続き考えていきたい。ところで、まだ風呂敷は届かない。