津波災害 増補版――減災社会を築く (岩波新書)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004317081

作品紹介・あらすじ

「必ず、来る!」。東日本大震災の発生直前、そう警鐘を鳴らし、震災後に大きな反響を呼んだ本書。今回、最新のデータと調査研究をふまえ、311大津波の実相と、南海トラフ巨大地震で想定される被害の様相について増補する。決して避けられない、迫り来る「国難災害」。その減災・縮災対策の緊急性を訴える。

感想・レビュー・書評

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  • 私が生まれた大阪市大正区は、江戸期の新田開発目的の干拓を発端にして海に向かって低い土地が広がるエリアだ。そのため、他の地域では見られないような巨大な防潮水門が河川に設置されている。小さい時からそれを見て育ったので、ずっとこう思っていた-「これがあれば、たいていの津波が来ても安心じゃないの?」
    正直に言うとこの考えは2011年のあの震災の津波を見ても変わらなかった。「大阪湾は奥まっているし、これだけ頑丈な水門や堤防があれば津波も多少は弱められるし」という理屈で。でもこの本を読んで考えは変わった。全くの間違いだと。

    この本は当初、南海トラフ巨大地震が確率的に必ず来ることを再三警告する内容で刊行されたが、東北地方太平洋沖地震による津波大被害が発生してしまい、東日本大震災に関する考察を含めた増補版として改めて刊行されたものだ。
    東日本大震災を経験した目によって増補版を読んでいくと、その前に書かれた旧版の記述がいかに“予言的”な内容だったかが痛切にわかる。そして自分自身に返って考えてみると、巨大地震による津波が明日にでも起こるかもしれないというのはわかった、でも今の自分はその時どうしたらよいのかが全くイメージできない、という思いに突き当たってしまった。

    この本によると、東日本大震災の際に、住民の約30%の人が、津波が来ているにもかかわらず避難しなかったらしい。三陸沖はさかのぼっても多くの地震や津波の被害に遭っており、津波の危険性に関しては他の地域よりも敏感なはず。なのに30%、つまり3分の1弱の人は、テレビで大津波警報を頻繁にアラーム音で放送しても、役所がサイレンを流しても、その他津波のさまざまな情報が行き交っても、避難行動に結びつかない何らかの要因があったということだ。

    たぶん、避難しなかった人には、私が冒頭に書いたように一種の自己判断により避難する必要なしと(勝手に)決め込んだ者もいただろう。
    そういう一般社会の雰囲気を河田先生も十分すぎるほど感じてして、津波被害を減らすためには、私たちが津波を正しく理解し、正しく行動することであると何回も力説している。つまり、ここで「正しく」と書いたように、この本では私たちが津波をいかに「誤解」し、「間違った行動」を取ろうとしているかが多くの角度から論証されている。
    しかし結局のところ、冒頭の私の例のようにインフラ面の整備とか、地震発生後にどうしたらいいのか教えてくれるとかに期待するのでなく、究極は自分の判断ですぐに、そして一直線に逃げるというのがこの本で得られる“最終結論”である。(だから今はスマホでの個々の情報のやり取りの時代だから…とかいうのは根本的な発想の誤り。)

    この本の中で私が特にマーキングして頭の中に残しておきたいと思った箇所は次のとおり。
    ①津波は引き波(潮が沖の方にいったん引いて海の底が見えるくらいの状態になる)から起こるというのは間違い。押し波から起こる場合もあるし、微弱な引き波であればその発生は気づかないまま押し波が来ることもある。
    ②「事前に被災後のまちづくりの青写真を作っておくことの大切さを理解すべき…被災してから防災集落をつくっても、肝心の住む人が減少したのでは災害に負けたのと同じ」(P44)
    ③「いかに情報システムや警報発令の精度が上がろうとも(内容的にはより正確、迅速、詳細になるということである)、結局は早期避難に勝るものはない」(P49)
    ④「津波は長時間にわたって変化する危険性をもっている。せっかく避難所に素早く避難しても、1、2時間後に素人判断して「もう大丈夫」と考え帰宅すると危険な場合がある」(P74)
    ⑤(2003年午前4時台に発生した十勝沖地震の翌日、著者が震度6弱だった豊頃町の子どもに話を聞くと、父親からこんな地震で津波は来ないと言われて初めは避難しなかったと言われ)「自分に都合の悪いことは屁理屈をつけて自分で納得してしまう『正常化の偏見』が見られた」(P100)
    ⑥「津波による被害は、深さ(津波の高さ)よりも流れ(速さ)によって発生する場合が多いことを考えないといけない」(P128)
    そして最後のこれにつきる。
    ⑦「2011年東日本大震災では、小・中・高校生のおよそ1700人が親を失った。残された彼らは一生、悲しみから逃れることはできない。だから、命を亡くしてはいけないのである。命を落とさないためには、逃げればよいのである。」(P203)

  • 授業で頂いた図書。津波は東日本大震災のインパクトで、言い方が悪いかもしれないが勉強になった。テレビの映像に勉強になったつもりだけど、改めてこの本で恐怖を重ねた。
    もうね、津波が来そうなところには住んではいけないのだと思う。ただ、そうすると漁業等々を諦めるのか、ってことになってしますのですが・・・
    南海トラフ,首都直下地震。もうカウントダウンが始まっていると言われているが、実際に発生したら本当にどうしようもない気がする。

  • Kindle Unlimited本

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  •  この書籍は、「津波災害」の恐ろしさを、わかりやすく説明した解説書である。2010に刊行された書籍に、「東海トラフ巨大地震」、「311大津波」を新たに加筆し、増補版として2018年に新たに刊行された。2011年3月11日、東日本大地震が起こり、2万人を超える犠牲者と20兆円に達する社会経済被害が発生した。「国難災害」と呼ばれる南海トラフ巨大地震発生がさらに迫っている。もはや一刻の猶予もならない、来るべき大津波に、どう備えるか。被害をいかに最小限におさえるか、という「減災」の視点を重要視し、災害研究の第一人者が、津波災害滅災社会の構築へ向けた具体的施策を示す。津波について、気になり出したら、手にしてみてください。

    京都外国語大学付属図書館所蔵情報
    資料ID:623787 請求記号:369.31||Kaw

  • 摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB50094179

  • 展示テーマ:防災

  • ■多岐にわたる形状の湾に面した地域では少なくとも6時間は要注意状態が継続する。

  • 災害の話は考えたくないのがデフォルトなんだ。そりゃそうだ。これからスマホが見たいものだけ見せてくれるようになると、リスク対応はする人としない人にもっと分かれていくんだろうなあ。うー。

  • 【配架場所】 図・3F文庫新書(岩波新書 新赤版 1708) 
    【請求記号】 080||IS||NR-1708

    【OPACへのリンク】
     https://opac.lib.tut.ac.jp/opac/book/184202

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著者プロフィール

2022年2月現在
京都大学名誉教授、関西大学名誉教授
関西大学社会安全研究センター長・特別任命教授
阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター長

「2022年 『災害文化を育てよ、そして大災害に打ち克て』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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