江南の発展: 南宋まで (岩波新書 新赤版 1805 シリーズ中国の歴史 2)

著者 :
  • 岩波書店
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感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (234ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004318057

作品紹介・あらすじ

ユーラシアを見わたせば,中国は,北は遊牧世界,南は海域世界へと開かれている.第二巻は,長江流域に諸文化が展開する先秦から,モンゴルによる大統一を迎える南宋末までの長いスパンで「海の中国」を通観.中原と対峙・統合を重ねながら,この地域が経済・文化の中心として栄えゆく姿を,社会の重層性にも着目しつつダイナミックに描く.

感想・レビュー・書評

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  • 中国の通史をあつかうシリーズの一冊として宋代までの江南史を担当しているのだが、単なる地域史にとどまらず、中国という国の成り立ちにせまるようなスケールの大きい論考。新書でこういうのが読めるのは嬉しい。

    あとがきによれば、士大夫、農民、アウトローのいずれにも共通する「人つなぎの論理」を表す言葉がなかったので「幇の関係」なる造語を提起したそう。そんなに大胆に要約していいのかちょっと心配になるところもあったが、やはり複雑に絡まった事象をスパッと切り分ける補助線を示すのが学問の力というものだろう。読んでみて腹に落ちた。

    しかし、ここで描かれる国家と社会が乖離していて、社会的流動性が高い中国の姿は、ほぼほぼ現代社会と同じものである。ポスト近代社会での議会制の機能不全は中国史研究者には既視感があるとのことで大変に興味深い。

  •  〈シリーズ中国の歴史〉の第二巻。
     
     本シリーズは、巨大な中国、多元多様な中国の歴史を、グローバル化の現代にふさわしい形で叙述していくことを目指している。
     本書の射程は、古代から南宋末に至る、揚子江周辺の江南地域を巡る歴史である。

     これだけ長期にわたる時間軸なので、どういったところにフォーカスを当てるかがポイントとなるが、魏晋南北朝時代から、隋唐の統一王朝を経て、五代から北宋、南宋へと至る政治史上の主要な出来事には触れつつも、古典国制の受容と変容、南北朝時代の貴族制、宋代の科挙官僚の登場の意義、江南の農業、商業の発展状況等が、分かりやすくまとめられている。

     特に、中国における中間団体の不存在が社会的流動性を高め、人つなぎの論理として、個人間の信頼関係の連鎖=「幇の関係」を作ってきた、そしてそれは日本やヨーロッパとは大分異なるものである、との指摘はなるほどと思った。それが、歴史の進み方から、社会構成の違いにも影響しているのかもしれないと思われるからである。

     現在、中国においては、発掘等による出土資料の増加に伴い、中国史が盛況を来し、歴史の書換えも進んでいるという。そうした最新の成果にも一部触れることもできて、大変ありがたい。

  • 三国志を読んでいて、江南には何となく「しぶとい」イメージがあった。その理由を少し理解できたと思う。江南は中原とは地形や気候が異なり、交通の仕組みも異なる。孫呉の時代には海を通って朝鮮と交易していたというのが印象的だった。難しくて、読むのに時間がかかった。

  • 前巻と重なる時代も多いが、視点を南に置くだけで印象が変わる。三国志で言うところの呉に当たるエリア。中原とは違い、海洋進出も含め全方位外交をしているのが印象的。
    そして、中原から夷狄と見られていた江南地方が時代を経ていく中で古典国制の継承者となっていく経緯が語られている。
    また、”一君万民”(国づくりの論理)と対立するのではなく相互補完してゆく”幇の関係”(人つなぎの論理)という人間関係に着目すると、現代まで続く中国の形が見えてくる。

  • [評価]
    ★★★★☆ 星4つ

    [感想]
    2巻は1巻と時代が重なるが対象が江南地域となっている。
    春秋戦国、秦漢の時代は中華の範囲からは少し外れた地域である江南であるが三国志の呉が生まれた時代から中華として扱われ始め、徐々に拡大・発展していった事がわかる。
    特に北方の遊牧民からの侵入を受けた普が南に退避したことで南北の対立がおこり、以降も同じようなことが繰り返し発生している。
    また、皇帝が人民を直接的に従え、間に介在するものが存在しないことを理想とするが現実的には官僚が存在し、官僚同士の横のつながりが皇帝と人民の縦の繋がりと対立していたということも面白い。
    また、横のつながりは官僚だけではなく、一般社会に広く浸透しており、様々な繋がりがあり、相互に補完しあっていたということも印象に残った。

  • このシリーズ面白い。王朝というより、地域で分けてる。今までの視点とは異なって新鮮な解釈

  • シリーズ中国の歴史の第2巻。第1巻では先史時代から中唐までの時代を扱っているが、本巻は南に目を向け、長江流域の古代文明から南宋に至る経済発展のあらましを語る。一元的な君臣関係を社会の末端まで貫く「国づくりの論理」と、同質的な集団が郷党や朋党、あるいは任侠集団など「人つなぎの論理」という2つの旋律をとおして、中国の歴史に新たな視点を与えてくれている。

  • 備忘録メモ

    中国の歴史を、①国家が垂直的・一元的な君臣関係を社会の末端まで貫き、横つながりを断ち切ろうとする中華帝国の「国づくりの論理」と、②それに対する、民衆が広げていった、いざという時に頼りに出来る仲間との間に横つながりの連携、「人つなぎの論理(幇の関係)」という2つの軸で読み解く。

    「規制もしないが保護もしない」という中華帝国の王朝のあり方は、なかなか面白いし、「上に政策あれば、下に対策あり」という中国民衆のしたたかさも、今につながる。

    相続のあり方が、家族のあり方、ひいては、社会のあり方につながっているというのも面白い。トッドの話にも通じるものがある。

    今の中国を理解するうえでも、参考になりそうな軸を得た感じ。

  • 中国って、ヨーロッパよりも国土も人口も多い。歴史の叙述はどうしても統治機構の特徴や推移になりがちだけど、本シリーズは、中国の多様性にフォーカスする。日本の教育現場で示される中国って。実は彼の国の1/4の領域でしか語られていない。本書は統一国家はあまり出していないけど、文化と産業を形成してきた江南地区を中心に中国史をみていく。とっても新鮮。

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