草原の制覇: 大モンゴルまで (岩波新書 新赤版 1806 シリーズ中国の歴史 3)

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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004318064

作品紹介・あらすじ

南の中原に拠る農耕王朝と北の草原に拠る遊牧王朝。生業を異にする二つの王朝は、千年にわたり対峙し、たがいに覇権を争った。五胡十六国の戦乱から大元ウルスの一統まで、騎馬軍団が疾駆し隊商が行き交う、広大なユーラシア東方を舞台に展開する興亡史。伝統的な中華史観の枠組みを超え、多様な民族が往来する多元世界の歴史を描きだす。

感想・レビュー・書評

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  •  文明の中華に野蛮の遊牧民とを対比させる中華主義的歴史観こそなくなったものの、遊牧集団があまり文字史料を残さなかったため、どうしても周縁的存在とみなされがちであった。それが近年は、対立のみではなく、経済的交流や相互影響関係があったことが解き明かされてきた。

     本書も、そうした潮流の中で、ユーラシア東方史という枠組設定の元、遊牧民及び遊牧国家の動向とその中国とのかかわりを描いたものである。

     地理的に重要となるのは、モンゴル高原の南側と華北の北側とにまたがる農耕・遊牧境界地帯で、遊牧民の生活に適した草原と農耕民の生活に適した可耕地とが入り組んで存在していた。
     生態史観ではないが、環境によって生活様式が決まってくる場合も当然ある訳で、実際、遊牧国家の武力は騎馬軍団によって支えられていたのであるが、良馬の産地は限られていたのである。

     このゆるやかに開かれたユーラシア東方との地域概念を用いることにより、中央ユーラシアの騎馬遊牧民の集団・王朝と中国王朝の双方の歴史的展開、あるいはその相互の対立・交流・融合、遊牧王朝による中国統合・支配、中国本土に拠点を置く王朝の中央ユーラシア進出といった多様な関係性をあわせて見通すことが可能になる、と著者は言う。

     各論として、北魏の華北統一、北魏分裂以降の拓跋国家の推移、隋・唐と対峙した突厥、ウィグルの動向、契丹と沙陀系王朝、契丹と宋(北宋)との「澶淵体制」、金と南宋との対峙、そして大モンゴルの統一へと、順次紹介されていく。また、あまり多くは取り上げられないチベットや西夏についても、他の国家との関係に重点を置いて説明がされており、細かな史実はともかく、多国間関係を大掴みに理解できるようになっている。

     相互関係の理解に資するよう、適当なところに地図が掲載されているが、中央ユーラシアは広大である。少し詳し目の地図を手元に置きながら読むことをお薦めする。

  • ユーラシア東方世界の歴史として遊牧民と中国の歴史を描き出す。感想はこちら。
    https://historia-bookreport.hatenablog.jp/entry/2020/03/22/224007

  • 大元ウルスが物凄くて、これ以外の歴史の出来事がどれも小さく見えてくる。
    特に面白かったのは安禄山の話。通訳から頭角を表して強大な軍閥を築き上げ、そして楊貴妃の養子になる。めちゃくちゃ興味を惹かれた。

  • 従来ではモンゴルが中心になるであろうこの巻で、契丹に詳しく書かれている点は新しい。かつては北宋との関わりで文化的に発展したと言われていた契丹であったが、早い段階で遊牧民ながら都城を造るなど新たな発見により大きく印象を変えている。そんな彼らが北宋と結んだ澶淵の盟は後の国家にも大きな影響を与えている。また、沙陀系王朝についても詳しく書かれていて学ぶところが多かった。

  • (後で書きます。本書で「澶淵体制」と呼ばれる、盟約により複数王朝が併存する多国体制の状況が興味深い。参考文献リストあり)

  • 岩波新書のシリーズ中国の歴史の第3巻で、北方草原地帯の遊牧民に焦点を当て、ユーラシア東方史という枠組みで中国史を捉え直している。時代としては、大体、五胡十六国時代から大元ウルスの時代までを扱っている。
    従来の中国王朝交代史では周辺扱いされがちだった草原地帯の遊牧国家(契丹、金など)を中心に据えたダイナミックな興亡史で面白かった。本書で扱われている時代についていえば、いわゆる中華王朝よりも草原地帯の遊牧国家こそが時代の主役だったということがよくわかった。
    拓跋国家、沙陀系王朝、澶淵体制といった概念は、本書で初めて知り興味深かく思った。特に、唐朝が、拓跋国家としてまさしく遊牧国家と位置付けられる存在だったというのは目から鱗だった。

  • 本シリーズの第2巻(江南の発展)は、漢詩や書、水滸伝などで知った名前が多くでてきて、読んでいてパズルのピースがはまるような感じがあった。一方、こちら第3巻は馴染みのない人名、地名がぞくぞくと登場。各地で王朝の興亡も激しくて、何が何の話だったか脈絡を見失いがち。他の方も書かれていたが、詳しい地図の一つでも手元にあればいくらか読みやすいかも(私は手頃なのを見つけられず)。

    読むのにすこし苦労はしたが、隋も唐も遊牧民系の政権だよなんて話は、まさに「へえ」と思わされるもので、今までにない視点を教えてもらった気がする。

    精強な軍事力を背景に中国の歴史に深く関わり、ひいては元という空前絶後の大国家を打ち立てた中央ユーラシアの遊牧民だが、近代になってその後裔はすっかり中国・ロシアの辺縁に後退してしまった感がある。本書でもウイグルの名は何度も登場しており、現代のウイグル情勢についても考えてしまう。

  • シリーズ中国の歴史の第3巻。第2巻での江南の歴史の叙述から一転、ユーラシア大陸中央部における雄大な騎馬民族興亡史が描かれる。多様な部族の興亡の中から大モンゴルが誕生し、ユーラシア全体を制覇する様はまさに圧巻。中国の何たるかを知ろうとするには、多元多様、俯瞰的な視点が必要であるとの本シリーズの趣旨に深くうなずく。

  • シリーズ第三巻。この巻でも従来の中国史の枠組みを排し「東方ユーラシア」という視点でその歴史を追う。従前、周縁として扱われた騎馬遊牧民が、騎兵という前近代においては非常に強力な軍事的優位を保持し、大きな役割を果たしたことが分かる。隋・唐を含む「拓跋(タブガチ)国家」、五代から北宋に至る「沙陀系王朝」、「澶淵体制」を画期とした多国体制、モンゴルによる契丹の制度の承継など近年の学説がコンパクトにまとまっている。現代中国を知るという点では元による統合が中華人民共和国による統合にまでつながっているという示唆も重要。

  • 遊牧民族と華北との関係を、北魏からモンゴル帝国までの期間で俯瞰する。華北は多国体制と統一国家を繰り返してるけど、遊牧民族国家は部族単位での興亡が続く。
    武力を誇る遊牧民族と、生産力・統治能力に優れた中国とのせめぎ合いだったわけだ。
    遊牧民族は環境の変動にあわせて移動する。匈奴が華北に侵攻したのも寒冷化が進んだからだそうだが、遊牧民族でなくても、環境の影響を受けない人間はいない。ちゃんと考えなくちゃね。

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著者プロフィール

1972年生まれ
1997年 京都大学大学院文学研究科修士課程修了
1999年 京都大学大学院文学研究科博士後期課程退学
京都大学人文科学研究所助手、同助教、岡山大学社会文化科学研究科准教授などを経て
現 在 京都大学人文科学研究所教授、博士(文学)
著書:
『草原の制覇──大モンゴルまで』(岩波新書、2020年)
『金・女真の歴史とユーラシア東方』(共編、勉誠出版、2019年)
『中国経済史』(共著、名古屋大学出版会、2013年)他

「2024年 『ユーラシア東方の多極共存時代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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