法医学者の使命 「人の死を生かす」ために (岩波新書 新赤版 1890)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004318903

作品紹介・あらすじ

異状死の死因を解剖・検査を通して究明し、法的判断の根拠を提供するのが法医学者の役割だ。その判断はどのように行われるのか。法医学者が死因を誤り、犯罪死を見逃すのはどのような場合か。日本の刑事司法および死因究明制度のどこが問題か。長年第一線で活躍を続け、数々の冤罪事件の鑑定を手がけた法医学者が、これまで経験した事件を取り上げながら訴える。

感想・レビュー・書評

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  • 冤罪事件生む解剖情報軽視に怒り [評] 山村基毅(ルポライター)
    <書評>法医学者の使命:北海道新聞 どうしん電子版
    https://www.hokkaido-np.co.jp/article/601123?rct=s_books

    法医学者の使命 「人の死を生かす」ために - 岩波書店
    https://www.iwanami.co.jp/book/b587792.html

  • 数々の事件の死因究明を手掛けてきた法医学者が、「人の死を生かす」の副題で、ケース1からケース59までの実例で、法医学の役割を語る書。
    突然死の様々な要因を述べ、犯罪死を見逃さないよう注意を促す。
    一方で、冤罪事件のケースを列挙し、どうすれば冤罪被害をなくせるかと言及する。
    専門的知識の乏しい検察官などが、予断に基づき自らの見立てに沿って作文をしていることが常態化していると警告する。

  • 類書を何冊か読んだことがあるが、
    これは法医学と裁判実務での実例や問題点にも深く踏み込んでいて、興味深かった。
    「その行為のせいで死亡した」のか「たまたまその行為の時に突然死した」のか、の判別の困難さは知らなかったので勉強になった。

  • 検察、裁判所に対する厳しい批判に説得力がある。おそらく、裁判官・検察官に、自らの医学的判断(鑑定)を軽視された法的判断には納得できない、ということなのであろう。裁判官は、しばしば、科学や合理性の根拠を無視して、自らの「心証」に合わせて自由に「事実」をつくり、警察官・検察官の「事実認定の誤り」を認めても正すこともせず、誰にも批判されることはない、という指摘が筆者の根底にある。
    59のケースが取り上げられており、冤罪事件の防止のためにも広く参照して欲しい著作である。

  • 医療事故裁判のリアル

    気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトのブックガイドです。第107回目のテーマはやや医師向けですが「医療過誤と刑事裁判」。
    警察主導の死因究明で起こる犯罪の見逃しと冤罪ですが、われわれ医師にとって他人事でないのは医療関連死における臨床医の責任追及です。そこで読んでおきたいのが吉田謙一著「法医学者の使命 『人の死を生かす』ために」です。
    著者は、法医学の大学教授を退官して大阪の監察医務監になった1953年生まれの法医学者です。前半はよくある法医学OBモノという感じだったのですが、後半の「医療事故と刑事裁判」「どうすれば、冤罪を防止できるか」で取り上げられる医療事故裁判のケースレポートがとてもリアルで、「他人事ではない」と読みふけることになりました。
    医療事故と法医学の微妙な関係を含めて、結構濃厚な世界を知ることができました。医療に携わるものであれば、第3章と第4章だけでも読むことを強くお勧めします。
    医療事故をとりまく登場人物、警察・検察・裁判官、さらに法医学者・病理学者・関わった臨床医・関わらないのに安易に証人になる医師たち…そこで繰り広げられる、公平な目からみた真相解明とは程遠い法廷闘争。これはひどいです。これでは冤罪が起こるよね…と思わざるを得ないです。

    本書のケースレポートの中から、いくつか紹介します。
    (1)1955年の東大ルンバール事件
    医療で障害を残した被害者と家族に補償するため、裁判官が医師のミスであるとする科学的根拠なき因果関係(ルンバールと脳出血)の認定という、変な論理がまかり通るようになってしまいました。著者曰く、「東大ルンバール事件判決が示す法律家の法的判断至上主義と科学軽視の意識が、多くの裁判で私が感じてきた裁判官や検察官の科学的根拠軽視の根底にあると感じる(P125)」。
     「被害者がいるなら加害者がいるはず」という考え方を医療の不確実性にあてはめることの愚ですね。
    (2)2004年の福島県立大野病院事件
     この事件は医師が逮捕されたという衝撃もあって注目されましたが、ここでも「検察・警察が医師を逮捕・起訴した背景には、医療事故発生後、病院が保険を使って遺族に補償をするには医師の過失と患者死亡との間の“因果関係”を認めなければならないという事情に基づいて作製された事故調査報告書があった(P137)」とあります。
     …これも医師側には怖い話です。
     ただし、こちらは弁護団のがんばりで、「安福弁護士を中心とする弁護団のメンバーは、病理医Cの説明を丁寧に聴き、多くの産科医に手術の場面を再現してもらいながら疑問をぶつけて勉強し、議論を重ねたという。その理解に基づいて、決定的な科学的根拠となる事実を複数見つけ、法廷で、被告人、弁護側・検察側証人、検察官に対して、『真実の曝露』と『無知の曝露』を促す弁論を展開したことが功を奏した。(P140)」…となりました。
     また、「検察側の病理医Bは、癒着胎盤の診断経験が乏しいうえ、担当医の見解や子宮の肉眼所見を参照しなかった。(P140)」の記述には、なんともお粗末な病理医の参考人、としか言えません。
     さらに、病理解剖が多くの場合臨床医の立ち合いのもと行われるのに対し、司法解剖では医療専門家の意見を聞くシステムがなく、臨床医との連絡が法的制限を受けているというのも驚きの事実でした。
    (3)1999年の杏林大学医学部付属病院割りばし事件
     検察側はすべての証拠を開示する義務はなく、自分たちに不利な陳述は証拠として採用しません。その証拠を検察側しか知らなければ、握りつぶされることになるのです。
     「(無罪にはなったものの)検察官が、解剖所見・診療経過に関する十分な情報を提供した上で解剖執刀医である村井教授や第三者専門家に予断なき意見を聴取する、といったことをせずに、村井鑑定と異なる自らの「見立て」に従って事件を処理しようとしたことが、誤った起訴から刑事裁判の混乱を招いた根本原因であることがわかる。」
     「(中略)司法解剖の情報や鑑定書、刑事捜査の過程の情報が関係者に開示されず、第三者専門家の評価・チェックを受けないまま、専門的な知識の乏しい検察官が自らの見立てに沿って捜査を進め、起訴できることが、本件に限らず冤罪事件全般の背景にある。この刑事司法システムを変えない限り、冤罪はなくならない。(P158)」
     このように、結局は見込み捜査問題に至ります。

     これらの事例の裁判経過を法医学者の解説で読めるなんてめったにないことなので、読みごたえ十分の一冊です。保険医学においても、自殺か他殺か・事故死か自殺かなど検死結果が支払に与える影響はけっこう大きく、日本の死因究明制度のみならず死因がからむ裁判もまた闇の部分があることをアンダーライター・査定医は認識しておくべきでしょう。 

    コロナ3年目の2022年ものこりわずか。来年もまたよろしくお願いします。いいお年をお迎えください。

  • 異常死の死因の解明に関して長年にわたり第一線で奮闘されてきた著者が、独白したセリフがp186にある.曰く、専門的知識の乏しい取調官が、専門家に意見を聴取する際、予断に基づいて専門家に呈示する資料や前提条件を絞り、自らの見立てに沿った問いを発し、聴取内容を作文することが常態化していると感じる.恐ろしいことが常態化していることに驚く.情報を開示することに前向きでない我が国の体制を根本から見直す必要性を感じた.

  • 愛媛大学1期生の大先輩であり、のちに東大法医学の教授になられた著者の書籍であり興味深く読ませていただいた。科学者としての良心や誇りをもって働いてこられた著者の、一方では前近代的な我が国の刑事司法に対して、その科学的根拠を持った事実認定に対して自説に合わないと切り捨てる姿勢を一挙両断される。そのために数々の冤罪事件や医療事故に対する司法介入で冤罪が更に増えている状況を科学的根拠を持った事実で冷静に述べられる筆致には感動を覚える。事例に即して説明されるので説得力がある。日本の法医学が置かれた状況を知るにはお勧めの一冊と考える。

  • 冤罪の事件を取り上げ、法律家の法的判断至上主義と科学軽視を批判し、刑事司法システムの改善の必要性を唱える。そのために多数のケースを短く紹介されているのだが、医学知識の乏しい読み手にとっては若干辟易。著者の想定した読み手は医学生等なのかもしれない。事例検討会など地道な取り組みをされているが、刑事司法システムの改善につながらないのは何故だろう?

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著者プロフィール

吉田 謙一 (よしだ・けんいち) 大阪府監察医務監

「2023年 『ケースから読み解く法医学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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