民俗学入門 (岩波新書 新赤版 1910)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (252ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004319108

作品紹介・あらすじ

普通の人々が営む日々の暮らしを深く知り、驚く。人生と生活の細部に直に触れ、世界の奥行きに畏怖しながら、複数の歴史を「私(たち)」からつかみ出す。繰り返される過ちから目をそらさず、よりよい未来を考えたい。これが民俗学のエッセンスである。「人間にかかわることすべて」に開かれた、野心的な「共同研究」への誘い。

感想・レビュー・書評

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  • 暮らし・なりわい・つながりといった民俗学的テーマを平易な言葉で紹介。気楽に始めるための入門書となっています。何より面白いのは大学の講義アンケートと深く知りたい方へのブックガイド。民俗学に限らず様々な分野への興味を広げたい方におすすめの本です。

  • 序論で少し「難しい話なのかな」となってしまったが、各論でわかりやすさ、身近さを感じるにつけこれは面白い…と。最後にもう一度序論の内容を読み直すと、すっと頭に入ってきた。
    とにかくレンジの広い学問で、その辺にあるもの全てが対象となり、特に普通の人々の暮らしの変遷を追いかけるという性質上、隣接する学問分野も多岐にわたっている。各章のブックガイドも人類学から歴史学から社会学、建築、経済史、政治などなどさまざまなジャンルの本が紹介されている。なので楽しそうな学問だな、と思うと同時に概論としてまとめるのにとんでもない労力がかかるぞ…と勝手に慄いている。

  • 「新書」というモノは、或る分野の研究等や関係事項に関して、或る程度一般読者に判り易いように、適当な分量に纏めて示すという性質が在ると思う。そういうことなので「新書」という存在自体が「入門」という性格を帯びるかもしれない。本書は題名そのものに「入門」を冠している。
    本書を読んでみて「大学の少し大きな教室での講義」を拝聴しているような気分になった。大学講師を務めている著者の声や話し口調を知る訳ではないのだが、読んでいて「声音が聞こえるような…」という気もした。時に淡々と、時に少し力が入り、時には笑ってしまうような、そういう空気感が在った。
    実際、本書は著者が大学で担当している講義の内容を整理して、読むための本に仕上げているということのようである。読んでみての感じたことは間違ってはいなかった訳だ。
    「“民俗学”って何?」という扉を開いてみて、更に在る多数の扉を指し示すような感だ。民俗学の研究で論じるような事柄、「くらし」、「なりわい」、「つながり」というような人々の営為を考える扉の鍵になり得る話題を提示しているというのが本書であると思った。
    “民俗学”というのは「成果を挙げている営為」から「失敗を繰り返してしまうような営為」に至るまで、人の在り様「そのもの」を論じてみようとするようなモノなのかもしれない。
    それは「過去から積み上げられた何か」を追うことにもなろう。が、「記録」を紐解く「歴史学」、「発掘されたモノ」を分析する「考古学」とは少し違う。そこには「人々の記憶」とか、「記録」や「発掘されたモノ」とは一味違うかもしれない、「人々の営為が在った何らかの証」を探ってみようとする活動が入り込むのだと見受けられる。
    そういうような事柄に関して、著者御自身の想い出のような手近な所から、よく在りそうな、多くの人が想起し易い何かを引き合いに、実に巧みに語っているのが本書だと思う。
    「つながり」という部分の終盤に、「現在」の論点が示されていた。所謂「ネット社会」というような状況で、最近20年程の様子が巧く纏められていたと思う。(この部分を分冊にするか、少し加筆しても、非常に面白いモノになるような気がした。)
    結局、“民俗学”が見詰めようとする「人々の営為」そのものは、遥かな大昔から延々と現在に至り、未来へと続く。それに寄り添ってみようとするのが“民俗学”だと思った。だから昔の何かの慣行の変遷のようなことから、近年のネット社会の変遷のようなことに至るまで、何でも論じられるという側面も在る“民俗学”だと思った。
    そして面白いのは“民俗学”が「人々の営為」そのものを見詰めようとする以上、「私の人生」もまた「資料?」になり得るのかもしれないという話しだ。何も、少し先の時代に自身の遺した何かが資料になるというような妙な事は意識する必然性が低いとは思う。が、「後世に誰かが注目するかもしれない、自身が生きた証を…」という程度に時々思い出すのも悪くはないと、本書を読みながら思っていた。
    本書は、色々な物事を考えて行く上でのヒントのようなモノを多々与えてくれていると思う。
    扱う事柄が多岐に亘る“民俗学”というような事柄に関して「入門書」ということにでもなれば、複数の筆者が綴った様々な論点の文章を集めたモノになる傾向が在るのかもしれない。対して本書は「単著入門書」という方式だ。自身としては、このスタイルで好いと思う。本当に、時に淡々と、時に少し力が入り、時には笑ってしまうような「教室で語る講師の話しに見入を傾ける」という感で、少しだけ力が入りながら熱心に読了出来たのだから。
    一寸愉しいので広く御薦めしたい。

  • かの有名な柳田國男が、その礎を築き上げた学問である。

    本書は、衣・食・住・働く・運ぶ・取り替える(交換する)という、極めて現代人的な、「営み」を背骨として、平易な言葉と、広範にわたる実例を元に「民俗学」を解説した入門書である。

    筆者のプロフィール欄に、身長186センチと記されているのは、不思議に思うが、北海道出身の中年の大男が、関西で四苦八苦しながらも、民俗学を教えてきた集大成がここにある。

    筆者は冒頭で「民俗学とは、人々の「せつなさ」と「しょうもなさ」に寄り添う学問ではないかと思っている。《中略》「せつなさ」とは、人々がそれぞれ生きる時代や地域や状況のなかで、ひたむきに忍耐と工夫を重ね、一生懸命に「日々の暮らし」を営んでいることへの感嘆と賛辞である。その一方、そうした人々が、しばしば心無い差別や抑圧や暴力の被害者となり、逆に加害者となり、あるいは無責任な傍観者となる。そして、その過ちに学ぶところなく、あるいは、学んでもすぐに忘れてしまい、また同じ過ちを繰り返す。そういった人々が抱え込む「しょうもなさ」も残念なことに認めざるをえない私たちの世界の一面である。(i頁より引用)」と述べる。

    それこそ、今現在、世界を揺るがしているプーチン大統領によるウクライナ侵攻はまさに、「歴史に学ぶことなく、あるいは忘れた帰結として」起こっているといえる。

    そんな人間社会を生きることは、迷いや不安、恐怖に溢れたものであると同時に、喜びや感動、そして希望も多分に含んだものだと思う。

    そうであればこそ、「私たち一人一人のささやかな生きざまそのもの」を「資料」=「研究材料」とする民俗学の入り口に立ってみることは非常に有益である。

    本書を読むことで、普段何気なく見たり聞いたり味わったりしていることから、驚くほど深淵な世界が垣間見える。

    さて、ここで大学について感心する記述が後半にあったので、やや唐突な感はあるものの、引用しておきたい。「役に立つ研究を志すことが間違いとはいわないが、役に立たない研究が必ずしも悪いわけでもない。そういった役に立つ/立たないという区分を一旦棚上げして、事実と論理の前に跪いてみる。そうやって、森羅万象(universe)に対する普遍的な(universal)知識を生産し、公開し、更新し、蓄積する。そのことを通じて、結果的に一定の確率で「役に立つ知識」を提供することが、「制度」としての「大学university」ないし学問の存在意義であると筆者は思っている。(220~221頁より引用)」
    という記述だが、「世の中にある多くの物事」もそうであると改めて思わされる。

    一見、なんの意味も持たないような経験が、たちどころに思い出され、思いがけない出会いや解決策に繋がった経験が皆さんにも私にもあると思う。

    何事にも、効率やスピードが要請される現代であればこそ、本書のように「答えの出ない議論を、答えはありませんが、興味深いですよね?」と馬鹿正直な姿勢で我々に語りかけてくれる本は、なおのこと価値を帯びる。

    帯にもあるように、答えをくれる本ではないが、きっと皆さんの期待を裏切らないと思う。オススメする。

  • 【書誌情報】
    『民俗学入門』
    著者:菊地暁
    通し番号 新赤版 1910
    ジャンル 社会
    刊行日 2022/01/20
    ISBN 9784004319108
    Cコード 0239
    体裁 新書 ・ 252頁
    定価 968円

    普通の人々が営む日々の暮らしを深く知り、驚く。人生と生活の細部に直に触れ、世界の奥行きに畏怖しながら、複数の歴史を「私(たち)」からつかみ出す。繰り返される過ちから目をそらさず、よりよい未来を考えたい。これが民俗学のエッセンスである。「人間にかかわることすべて」に開かれた、野心的な「共同研究」への誘い。
    https://www.iwanami.co.jp/book/b597625.html

    【簡易目次】
    はじめに――「せつなさ」と「しょうもなさ」を解きほぐす

    序章 民俗学というガクモンが伝えたいこと
     コラム① 「日本的」と「伝統的」

    第一章 暮らしのアナトミー
     きる 【衣】
     たべる 【食】
     すむ 【住】
     コラム② 「いま・ここ・わたし」から「あるく・みる・きく」へ

    第二章 なりわいのストラテジー
     はたらく 【生産・生業】
     はこぶ 【交通・運輸】
     とりかえる 【交換・交易】
     コラム③ 目玉をみがく

    第三章 つながりのデザイン
     つどう1 血縁
     つどう2 地縁
     つどう3 社縁
     コラム④ 聞くことの絶望と愉悦

    終章 私(たち)が資料である――民俗学の目的と方法
     コラム⑤ リミナル・エスノグラファーズ

    あとがき――「墓穴」としての入門書、あるいは、本書を書いてしまった理由

    図版出典一覧

  • 柳田國男著『遠野物語』を興味本位で読み、民俗学をかじってみたいな〜と思いこの本を手に取りました。

    読む前は、そもそも民俗学ってなんだろう?とふわふわしていたのですが、おすすめの本や、実際にアンケートという形でいわゆる各地方の風習などを知ることができ、次に読みたい本と具体的な実践方法を知ることができました。

    また、あまり学問本を読み慣れてない私でも読みやすく分かりやすい説明がなされていたので助かりました。

  • 普通の人々の日々の暮らし、その来し方行く末

  • 近代化において形が変化しつつも、日本のなかでいきづいているものもあれば、崩壊していってるものもある
    昔がよかったのか
    今がいいのか
    この本に紹介されいる本は目を通したい

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/770563

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著者プロフィール

菊地暁(きくち あきら)
1969年生まれ。京都大学人文科学研究所助教。民俗学。『柳田国男と民俗学の近代』(吉川弘文館)、『民俗学入門』(岩波新書)、『日本宗教史のキーワード』(共編著、慶應義塾大学出版会)。

「2022年 『「日本心霊学会」研究』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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