人権と国家 理念の力と国際政治の現実 (岩波新書 新赤版 1912)
- 岩波書店 (2022年2月18日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (252ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004319122
作品紹介・あらすじ
今や政府・企業・組織・個人のどのレベルでも必要とされるSDGsの要・普遍的人権の理念や制度の誕生と発展をたどり、内政干渉を嫌う国家が自らの権力を制約する人権システムの発展を許した国際政治のパラドックスを解く。冷戦体制崩壊後、今日までの国際人権の実効性を吟味し、日本の人権外交・教育の質を世界標準から問う。
感想・レビュー・書評
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人権という規範がどのように広まり、国家の主権を乗り越えるまでにいたったかを丁寧に紐解く良書。ポピュリズムが蔓延る現代も、人権という規範が弱まることはないので、悲観的にはならずに、それぞれが人権力を磨き続けることの重要性を説く。
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【本学OPACへのリンク☟】
https://opac123.tsuda.ac.jp/opac/volume/683336 -
最近の興味の一つ人権について、新書でざっと把握しようと思って読んでみた。
全体の構成としては、
・人権という思想が「普遍的な価値」として誕生し、国際政治の重要テーマとなるまでの歴史プロセス
・それが国際的なシステムとして設立する過程と内政不干渉の原理とのジレンマ
・人権が世界的システムとしてどこまで有効に機能したか
・それらを踏まえた日本における人権思想と運動の流れ
ということになっている。
これらが新書1冊に入っているので、重要なことも記述はコンパクト。だが、濃縮度が高く、集中を要する本だと思う。
しばしば、人権というのはキレイ事で、現実の政治においては機能しない、偽善的なもの、自国内の人権問題は置いて他国を批判するために戦略的に使われるダブルスタンダードなもの、という批判があるし、私もよくそう思う。
にもかかわらず、これは大切な概念だという思いが同時にある。
本書は、人権は理念で現実との差はあるが、長い目で見ていくと、その理念は少しづつ現実を変えていく力を持っているというスタンスに立っていて、元気が出た。
最終章での日本での人権についての記述は発見が多かった。私たちは、人権は戦後にアメリカから与えられて、自ら勝ち取ったものではないと考えがちだと思う。だが、このディスコースって、本当だろうか?という感覚は常にあった。
改めて、こういうテーマで日本における人権史を整理してみると、明治以降、少しづつではあるが、さまざまな活動を通じて、戦前においても人権が拡大していったし、国際的にも意味のある貢献をしているところもある。まずは、こうした日本における流れを学ぶ必要性を感じた。
また、人権に関連する運動は、社会的弱者、被害者というスタンスで行うと一般的な共感を得ることができないが、「普遍的な理念」として訴えることで、共感が進むというのも示唆に富む指摘だと思った。(一方では、その「普遍性」が軋轢を生むこともあるのだが)
そして、国内における議論だけでなく、他国から見られるということが、人権への取り組みを促進するという視点も大事なことに思える。
例えば、第2次世界大戦時に、反全体主義の国は、人権や民主主義という高次の目的を掲げて、国家の総資源の動員を行なったのだが、戦後になると、それが自分に返ってきて、それぞれの国での人権拡大への要望を受け入れざる得なくなる。
また、冷戦時においては、アメリカはソ連の全体主義を批判するのだが、その批判は、自国内での黒人差別への批判として戻ってくる。当時は、民主主義と社会主義の戦いを理念の上でもしたわけなので、国の安全保障の問題として、黒人差別の改善に取り組まざるを得なくなる。アメリカにおける公民権運動の進展はこうした文脈も考える必要があると思う。
全ての人には生まれながらにして誰でも持つ権利があるという思想は、自然なものではなく、普遍的なものでもなく、18世紀くらいに誕生した言語による社会構築である。つまり「自然権」みたいなものはある種のフィクションである。
人権は社会構築であるという認識は、人権に関連して、ペシミスティックになったり、シニカルになったりする理由にもなる。
そう考えるのは簡単だけど、それがない世界に住むことは想像したくないこと。これまで、数世紀かけて人類が学び、育ててきた理念は脆いかもしれないけど、それゆえに大切にして、少しづつでもその成長を願っていたいと思った。 -
【石橋湛山賞(第43回)】【サントリー学芸賞思想・歴史部門(第44回)】今や政府・企業・組織・個人のどのレベルでも求められる「人権力」とは。人権の普遍化の歩みをたどり、内政干渉を嫌う国家が自らの権力を縛る人権システムの発展を許した20世紀の国際政治の逆説を解説する。【「TRC MARC」の商品解説】
関西外大図書館OPACのURLはこちら↓
https://opac1.kansaigaidai.ac.jp/iwjs0015opc/BB40288734 -
教科書みたいな本だった。
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現代の人権理念の特徴として
①普遍性
②内政干渉の肯定
の2つがある。
人権はそもそも国家主権を制限する対立した概念であるが、第二次世界大戦や冷戦下においてこの人権が、対立陣営を批判するためのイデオロギーとして利用されることで結果的に力を持つようになってきた、というのは逆説的で面白いと思った。
人権は進歩・拡大を続けているものの、ジェノサイドのような短期間で大規模に広がる人権侵害に対しては無力であることが多かった。今後の国際社会において、一市民としてどのような声をあげていけるかを考えながら生活したいと思った。 -
《良かった点》
▼人権という難しい論点を、実際にあった国際問題を紹介して具体例を示すことで、理解のハードルを下げている。
▼時代順に人権の発展を述べ、さらに国際機関(国連、国際刑事裁判所等)の発展を関連付けることで、立体的な論展開になっている。
《学んだこと》
▼人権ブーメラン
第二次世界大戦において、西欧諸国が普遍的人権を武器に枢軸国を避難し、自らの戦争を正当化した。結果として、戦後、西欧諸国は普遍的人権を尊重せざるを負えなくなった。
→自らが他者の批判のために用いた理論は、自らに返ってくることがある。
▼人権のパラドックス
冷戦期において、アメリカ又はソ連・中国の拒否権によって国際人権委員会の実行力が虚無化していた。よって、独裁国は国際人権規約を批准するハードルが低く、内政干渉を受ける可能性はないとタカをくくっていたため、多くの国が人権規約に参加することとなった。そして、冷戦終結後に人権委員会が実効性を持ち始めると、独裁国は国際社会からの非難を直に受けることとなり、後の祭りとなった。
→人権委員会の実効性のなさがかえって批准国を増やしたというパラドックス
▼3つの原則
⑴ジェノサイドや人道に対する罪から人々を守る責任は当該国家にある
⑵その国家が責任を果たせない場合は、国際社会がその責任の履行の手助けをする責任がある
⑶それでも事態が改善しない場合は、国際社会が介入してでも人々を守る責任を負う(飽くまでも軍事介入は最後の手段)
▼国際人権システムの限界
国際人権システムは世界中の人権問題を全て解決することはできない
→どういった場面でどのような対策を取れば、人権問題に対して有効なのかを見極め、その認識をもとに国際法や制度の整備をしていくことが必要
▼「人権力」を身につける
→組織は、日頃からリスクマネジメントの一環として人権関連の案件に対応する準備をする
→個人のレベルでは、人権関連の報道に目を向け、遠い国での問題にも関心を払い、自分に関わる問題でもあるという意識を持つことが重要
(例)ブラック校則、周りの人の人権差別発言に対して
同調するか批判するか
《ぐっときたフレーズ》
「国際人権の本当の影響力は、人々の人権に対する考え方を変えるこの力にある。普遍的人権の理念が国際社会で正当性を持つ規範であることが重要で、その限りにおいて人権規範が世界中に広まることで、それまで自分たちの置かれてきた不平等な状況や周りに当然のようにあった不正義に対して、これはおかしいと思って立ち上がり状況を変えようとする力を生み出すこと、これが国際人権の最大の影響力である。」
《これからの行動指針》
▼人権への関心
人権関連の報道を読み、彼らのために「いま」何ができるかを考える
▼ 可変的な人権政策の追求
現時点での諸条件において、どのような人権政策を打ち出せば、人権問題を解決するために有効であるかを、常に問い続ける -
やっと読みきった。淡々とした歴史記述って感じであんまり読みなれない文体でけっこう苦労した。国際関係となるとやっぱりジェノサイド中心だけど、FGMの話も何度かとりあげられてる。90年代あたりの旧ユーゴやルワンダあたりの話は勉強になった。同時代生きてたのによくわからなかったからねえ。