世界史とは何か 「歴史実践」のために (岩波新書シリーズ歴史総合を学ぶ 3)
- 岩波書店 (2023年6月20日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004319191
作品紹介・あらすじ
教員七年目、松本サリン事件の現場から近い高校に転勤した著者が生徒たちと模索した教育実践、歴史総合の授業を充実させるための作戦(方法)を経て、学習指導要領の内容とはかなり異なる授業プラン、「世界史の学び方一〇のテーゼ」まで。国民国家とは何かを掘り下げ、世界史とは何かを探究し、自分を磨く特別授業。
感想・レビュー・書評
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東2法経図・6F開架:B1/4-3/1919/K
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あの松本サリン事件の現場から、それほど離れていない松本深志高校で考える、松本サリン事件(特に河野さんを犯人扱いした報道等を中心に)に始まり、パレスチナにおけるNakba(ガザ回廊等)の物語へと至る、この本の内容(流れ等)を辿るのは、なかなか大変な事でありますが、★四つであります。
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世界史教育史および世界史/歴史総合教育の(史学系人文アプローチとして手堅い)トピック集・兼・エッセイ集だった。松本サリン事件の話から始まるところに面喰らいつつ、そのことが著者自身の実体験および教育実践経験と相俟って優れた導入になっていた。世の残酷さに対して歴史学のアプローチで立ち向かえるような優れた思考法が、理論的にというよりはドリル演習的に、経験できる。それでいてその語られる志向にはリベラルアイロニスト的なものさえ感じさせる(リチャード・ローティ的)。
歴史的事項が単なる暗記学習でないとすれば、どのような問いで世界史の記述に向かい合えば良いか? という点についても幾つか提案してくれており、複周回の読書に堪えると感じた。章ごとの参考文献も、良質な読書案内を兼ねており信用できる。
ベンヤミンと保苅実、遅塚忠躬に関する言及が多い。天野為之(『萬國歴史』など)、「世界史」課程を提案した斎藤斐章(『中等世界史要』『實業教育外國史』)などが、明治政府の『史略』『萬國史略』『日本史略』の後に紹介されていた。「 -
冒頭の著者の実体験である松本サリン事件の話からグイグイと読ませます。結果的にその段階から本書の“歴史実践の実践”とも言うべき土俵の上にまんまと乗せられていた訳で、最後まで読み進めた結果大きな感銘を受けました。これぞ名著!という感じです。
また、本書の出版は2023年6月ですが今現在パレスチナの地を蹂躙するイスラエルによる史上最悪の人種虐殺について、奇しくもその歴史背景や捉え方についてクリティカルな解説がなされています。その点においても歴史を学ぶことがいかに重要であるか、歴史を軽視した時にいかに深刻な問題が生じるか、深く深く教えられました。 -
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【配架場所、貸出状況はこちらから確認できます】
https://libipu.iwate-pu.ac.jp/opac/volume/565707 -
爆弾みたいな新書でした。読みながら自分の固定観念がぼんぼん爆発していく感じに驚きました。いきなりの松本深志高校の教員として「松本サリン事件」にどう向き合ったかというエピソードにも面食らいますがそれがファクトの曖昧さへの対峙の仕方に繋がりベンヤミンの「危機の瞬間にひらめく想起をわがものにする」という言葉の紹介になり映画「ショア」の上映会に至ります。その過程の容疑者の娘の生徒さんのエピソードも胸熱です。「松本サリン事件」からの「ユダヤ人虐殺」へ。そしててIRAの爆弾工場と同じように歴史学が爆弾工場になる、というホブズホームの言葉へ。著者は2022年から始まった高校新科目「歴史総合」を機会と捉え上から教えられる歴史ではなく、生徒が自分で考える歴史を作ろうとしている人です。そのために校長という管理職を辞して一教員に戻ろうとしている人です。そのキーワードは「歴史実践」。「世界と向き合う世界史」と「世界のつながりを考える世界史」。それを考える素材がどんどんこの薄い新書に投げ込まれていきます。「アヘン戦争」からの「廃プラスピック輸出」、「アメリカ独立戦争」から「南北戦争」への黒人主語化、女性主語化、「血の一滴の掟」を巡るアメリカ、ドイツ、日本の共通点、「戦争違法化」の歴史、「民族浄化」という爆弾工場、そこから生まれる「パレスチナ問題」、そして福島の問題…うわ〜!どれもこれも黒白つけられないテーマです。それは現実の世界が黒白つけられない世界地図になっているからです、きっと。現在がこんなに混迷しているのに歴史だけすっきりは、ないのです。この新書、恐るべし。歴史家グレグ・デニングの言葉「書くということは、グランド・キャニオンにバラの花弁を落とし、爆発を待っているようなものだ」。バラの花弁,落とされました。