地元学をはじめよう (岩波ジュニア新書 609)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784005006090

作品紹介・あらすじ

いきいきした地域をつくるために何が必要なのだろう?地域のもつ人と自然の力、文化や産業の力に気づき、引き出していくことだ。それを実行するための手法・地元学は、いま全国各地で取り組まれ、若い人たちも活発に動いている。調べ方から活かし方まで、自ら行動して地域のことを深く知るのに役立つ1冊。

感想・レビュー・書評

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  • 著者の弟子にあたる方と縁ができたので読んでみることに。
    「ないものねだり」をやめて「あるものさがし」をしよう、問題解決ではなく価値創造に目を向けよう、がエッセンスと理解した。
    なぜ課題解決じゃないか?本書には書かれていないが私の理解としては、1.問題解決思考は人的・資本的リソースを持つものに許される考えでありたいていの地域にはそのリソースがない、2.問題解決思考は誰でもできるものではなく訓練が必要、3.地域の人を置いてけぼりにした課題解決に持続可能性はなく、地域の人たちで育てたアクションこそが重要(自治意識・当事者意識)、かと思う。
    リアルでよいと思ったのは、地域のゴミを拾うことが以前は恥ずかしかった、という地域の人の声。都市部以外の地域では地域のことをよく知っており地域を大切にしている、というのは幻想だったりするのだろう。各地を旅している中で感じた自分の実感とも合う(意外と皆自分の地域に興味がない)。
    上記を受けて、だからこそ「あるものさがし」が必要になる。「うちの地域にはなにもない」から始まると思考が止まる、または外から資金やアイデアをもってくるという他人任せの思考になる。だからあるものから始めて、できることから始める(それが地域の第一の課題の解決になるかは別の話)。
    逆に地元学を使わない失敗例の典型としては、地域を豊かにしようの掛け声とともに生まれるトップダウンの投資だろう。うちの街にもブランド牛を、うちの里も箱根のように、大型施設を入れたら人が呼べるぞ、といったものだ。地域に根差したストーリーも魅力もないので地域間の競争の中で埋没する。

    本書はあまり論理的ではない、むしろ情緒的ですらある。理論的ではなくよく言っても実践的フレームワークとケーススタディの本である。貨幣経済と都市と工業への強烈な不信がちりばめられており少々思想的に極端だと思われる向きもあろう。しかしこの地元学は学びが多い。なぜなら多くの地域が地元学を使わずに失敗しているはずなのだから。

    地元学を実践するのには優れたファシリテーターでないとできないと感じる。地域の人たちが「やってみよう」と思うまでには幾多の大きな障壁があることだろう。
    個人のレベルでさえ、自分の地域への卑下、他地域から来た活動への不信感、不満不平しか出てこない、思考停止や他力本願が思いつくし、これに複数人がからめば地域のしがらみ、生活をよく知るはずの女性が公の場でしゃべってくれない、などなど障壁はいくらでも思いつく。これらを乗り越えなければならないのだ。

    地元学における役割:
    - 地域の人は当事者として地域を調べる
    - 外の人は引き出す、聞き出す、質問する
    あるものさがしの心得:
    - 現場に出る
    - 外の人と一緒に行く
    - NO!先入観
    - 対等な立場で
    - やっていることを聞く(意見ではない、具体的な事実を)
    - 話しやすい場所を作る
    - 地域の人は超一流の生活者としてRespectせよ

    あるものさがし切り口:
    動線をつなぐ、地図上で異なるものを重ねてみる、新しい時代のものをはぎ取る
    有用植物の例;
    - どこにある→地図上のつながり
    - 何に使う→季節・気候・歴史
    - 何と呼ぶ→歴史(由来)
    祭りの例;
    - いつ
    - 何のため
    古い道;
    - いつからいつまで
    - 何に使われた
    - どこにある(寺社や遺構とのつながり)

    Output:
    第1段階;絵地図や一代記
    第2段階以降;ものづくり、地域づくり、生活づくり

  • 291-Y
    閲覧新書

  • 地元学を実践するとしたら役に立つと思う。地域を巻き込むのができるのはだれかという話はあると思うが。

  •  地元学って何だろう。地元学をすすめるために必要なこととは。
     まさに,「地元学」を始めようとする人たちのための入門書です。ですから,その取り組み方もしっかり書いてあります。まるで、小学校の総合学習の手引き書のようです。それくらい「すぐに使える」内容です。

     「地元学」について,著者は次のように述べています。

     地元学派,あるものを探します。ないものねだりではなく,あるもの探しなのです。あるものは目に見えるので,写真を撮り,それは何かと,地元の人たちに聞いていきます。そして,驚いたこと気づいたこと別に絵地図をつくります。つくった絵地図を見て,これはどういうことなのかをさらに書いていきます。この取り組みから,それまで見えなかったことが見えてくるのです。そして結局は,自分が見えてくるのです。(本書,p.213)

     過疎化が激しくて,もうぽしゃっていくしかないと地元の人が思っているような土地。そんなところで,どのように地域おこしをしていくのか。その方法論が示されています。もっとも,産業化していくようなところまでの指南書ではありませんが,いくつかの事例から,その方向は示してくれています。

     あたりまえこそすごいことだ。あたりまえにあるものを探そう。でも,外の人でないと気づきにくいから,外の人たちといっしょに調べよう。あるもの探しだ。何もないところから,新しいものは生まれない。新しいものとは,あるものとあるものの新しい組み合わせなのだ。(本書,p.23)

     地元の人たちにとっては当たり前すぎて空気のようになっているものこそ,その土地の特徴であり,他地域と差別化できる部分かもしれません。それを気づかせてくれるのは,地元の人ではなく外から来た人,観光客だったりするわけです。
     そういえば,娘の学生時代の友達が,はじめて釣りをしたときに大変感動していたことがありました。海の近くに育った娘にとっては小学生のころから釣りは当たり前。その当たり前に喜ぶ友達の姿。
     もうひとつ,こんな視点も大切だと思います。

     私は,経済には三つあるといっています。
    1 お金の貨幣経済
    2 手伝いあう結(ゆい),もやいなどの共同する経済
    3 家庭菜園で野菜をつくり,先祖に供える花も育て,海・山・川の幸を採取して食べたりする自給自足の経済
    です。豊かさはお金だけではなくて,共同と自給自足の経済の総和であったはずなのに,いつ,お金だけが豊かさを計る尺度になってしまったのでしょうか。(本書,p.14)

     お給料だけ見ると田舎暮らしはそんなにたいしたことはないかもしれない。でも,ゆったりした自分の家に住み,海や山で遊び(採取し),ご近所からお裾分けを頂いたりすることまで含めると,なんと豊かなことでしょう。

     じつは,地元学はポジショニングのことなのです。自分がいまどこにいるかわかるから,自分が見えてくるのです。やることも見えてくるから,自信がついてくるようです。(本書,p.210)

  • 大事なことは住んでいるところを住んでいる人が説明できること

    アイデンティティ閉塞症

    変化をゆっくり馴染ませるためには地域と自分を知り地域の個性や特徴を把握していること、そうやって自分の地域に自信を持つことが大事。

    あるものを活かす。足元にあるものを確認し意味を把握して昔ながらの知恵特風を含めて新しく組み合わせていく。地域の持っている力と人の持っている力を引き出す。

    事実に驚け、それは何故かと深く考えよ

    地元にあるものを探したら次にそれはどういうものなのかを深く考えていく。見えるものからそれまで見えなかったことをわかるようにしていく。


    地域の人にこれはなんですか、なんと呼びますか、何に使いますかと聞く 地元の人の言葉で記録する

  • 水俣市などを具体例として、地元や田舎を活性化させるための工夫の仕方のひとつとしての地元学について知れた。地元学で、地方にあるものを見つけると地方への愛着が湧き、地元に留まるようになったり、住民が活き活きしたりすることに驚いた。実際私が小学校の時に学区探検に行き、校区への理解が深まり、校区が少し好きになった経験があるので、小学校の時の校区探検の意味のひとつに気づくことが出来たと思う。

  • カメさんの『手話の世界を訪ねよう』、それから『アフリカのいまを知ろう』がよかったので、岩波ジュニア新書を図書館でうろうろと見て歩く。

    ちょうど、江弘毅の『「街的」ということ』を久しぶりに読んでいて、「地元」というコトバが引っかかっていたせいだろう、『地元学をはじめよう』を見つけて借りてきた。

    地元学をはじめよう
    (2008/11)
    吉本 哲郎

    商品詳細を見る

    裏表紙には「いきいきした地域をつくるために何が必要なのだろう? … 調べ方から活かし方まで、自ら行動して地域のことを深く知るのに役立つ1冊」などと書いてある。
    地元のことを自分たちで調べて知っていこう、考えていこうという自治の力を根っこにすえて、水俣という地で取り組みがはじまった。

    どうやって進めていくのか、水俣は地元学によってどう変わっていったかという話も印象深いが、その次の「広がる地元学」のところで、笑いがもれる。

    宮崎県の川南町ではじまった地元学は、隣の高鍋町もまきこんで、鍋合戦にまでなる。川南町は知らないが、高鍋町といえば、大学の同期だったKさんのふるさとだ。「百年の孤独」や「野うさぎの走り」といった焼酎をつくっている黒木酒造がある町でもある。…と、行ったこともないのに(「野うさぎの走り」は何度かのんだことがある)「川南町と高鍋町の鍋合戦」にがぜん興味がわく。しかもこの鍋合戦のもようが、読んでいてぷぷぷと笑える。

    今日借りてきた奥野修司の『沖縄幻想』を途中まで読んだこともあり、都市と自然の話に引き寄せられる。

    ▼都市の暮らしは米や野菜、家具、住まいをつくらないから、買う暮らしになります。そこではお金が必要になり、お金をたくさんもっていることが、豊かさのモノサシになっています。でも、お金とは「つくることの省略」でもあるのです。すると、ものとの、したがって自然との距離が遠くなっていきます。(pp.211-212)


    お金は、「つくることの省略」でもあるし、「時間を買うこと」でもあるなーと思う。ベランダで、ひと夏ぶんのゴーヤぐらいは育てられても、日々のご飯の材料をまかなうのはとてもできないし、ひと冬に、毛糸の帽子を15くらいは編めても、暮らすのに必要な衣類をそろえるのはまず難しい。

    「つくること」はたのしいし、きもちがいいけれど、それなりに時間がかかる。自分の暮らしのなかで、どこを省略し、どこをお金にゆだね、なにを買うのか。

    『We』161号では、牧野カツコさんの「生きるための力を家庭科で」という連載が始まり、「作れる手」のことが語られているが、私は家庭科だけとは思わない。「数学も理科も、台所にあるねん。もっと台所に入り~」と、むかし近所の子のベンキョウを見ていたときにそんなことを言うたなア、とフト思い出す。

    (2009/09/07 22:49)

  • ☆地域資源マップづくり

  • 「ないものねだり」から「あるものさがし」へ。水俣から始まった地元学の吉本哲郎さん。そこにあるものを調べ、考え、つくる。「つなぐ、重ねる、はぐ」というまなざしが欠けてはいけない。そこにこそ考える重みが与えられ、つくることへの固有性、価値が見出される。一見つまらない足元にこそ、まさに多見、多聞することで広がる世界がある。地をいこう。

  • 地域に目を向けたときに、いいなと思った考え方が「地元学」ということで読んでみた1冊。地元が好きっていう人たちのその「好き」を「見える形」に、さらに「地域の力」に変えていくために、どんな取り組みをした地域があったのか。とても興味深く読みました。最初が水俣だったことも良かったと思います。
    印象に残った一節は「調べたものしか詳しくならない」。そこを人に任せたら、自分で判断もできないし、自分も調べることを大事に、あるもの探しから自分の住んでる地域でおもしろいことをしていきたいと思えた1冊でした。

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