古典和歌入門 (岩波ジュニア新書)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784005007752

作品紹介・あらすじ

理想の春、恋人への言い訳、旅のルポ、観音様のお告げ-勅撰集の部立てにならい、四季、恋、雑(世の中・人生)、祈りの4章を立て、和歌史を代表する48首を選出。詠まれた状況、歌人や文法の解説を交え、やさしく読みほどきます。時を越え、人々の願いを今に伝える"祈りの文学"、古典和歌の魅力を味わおう。「あとがき-和歌の一生」では、和歌文化を簡潔に解説。

感想・レビュー・書評

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  • 万葉集や新古今和歌集などから和歌を四季、恋、雑、祈りのジャンルごとにピックアップし、現代語訳を付して解説したもの。とてもわかりやすいし、歌人のバックグラウンドや歌が詠まれた状況の説明なども丁寧で、おかげで和歌がますます好きになる。

  • 刊行日 2014/06/20
    「理想の春のイメージ,恋人への究極の言い訳,旅のドキュメンタリー,観音様の詠んだ歌──勅撰集の部立てにならい,季節,恋,雑(人生),祈りの4章を立て,和歌の歴史を代表する計48首を選び,詠まれた状況,歌人や文法の解説を交え,やさしく読みほどきます.時を越え,人々の願いや祈りを伝える古典和歌の魅力を味わおう.」

    渡部泰明(わたなべ・やすあき)
    1957年,東京都生まれ.現在,東京大学大学院人文社会系研究科教授.専門は和歌文学,中世文学.東京大学の学生時代は劇団夢の遊眠社で演劇に熱中.その反動で時代を超えて変わらない言葉に惹かれ,どうして和歌はこれほど長く続いたのかをテーマに,和歌文学の研究を始める.主著に『中世和歌の生成』(若草書房).最近では,若いころの関心と研究テーマが合体してきて,「和歌は演技である」ことを『和歌とは何か』(岩波新書)で述べた.マンガ「超訳百人一首 うた恋い。」シリーズの作者杉田圭氏との共著『うた恋い。和歌撰 恋いのうた。』(メディアファクトリー)など,若い人に語りかける言葉を大事にしたいと思っている.

    はじめに──ようこそ、和歌の世界へ

    I  四季 春/夏/秋/冬
    II 恋
    III 雑──世の中・人生
     賀/旅/死/世の中
    IV 祈り 神/仏/祈り

    収録和歌一覧
    あとがき──和歌の一生
    初二句による和歌索引
    歌人名による和歌索引

  • 〇新書で「学校生活」を読む⑬

    渡部泰明『古典和歌入門』(岩波ジュニア新書、2020〔第4刷〕)

    ・分 野:「学校生活」×「国語科」
    ・目 次:
     はじめに――ようこそ、和歌の世界へ
     Ⅰ.四季
     Ⅱ.恋
     Ⅲ.雑――世の中・人生
     Ⅳ.祈り
     あとがき――和歌の一生

    ・総 評
     本書は、著者が「これこそ和歌だ」と選んだ48首について、その魅力や味わい方を解説した本です。著者は東京大学大学院の教授で、和歌文学を専門とする研究者です。
     わずか31字で構成される「和歌」ですが、昔の人たちは、自分の作品が勅撰和歌集(天皇や上皇の命令で編纂された和歌集)に掲載されれば、千年後も二千年後も残るだろうと確信しており、だからこそ、文字通り命を削って和歌づくりに励んでいました。この本で取り上げられている和歌の大半も勅撰和歌集に掲載されていたもので、わずか31の文字によって様々な世界が描かれています。この本を読んで面白いなと思った点を、以下の3点にまとめます。

    【POINT①】冬枯れの 森の朽ち葉の 霜の上に 落ちたる月の 影の寒けさ(藤原清輔)
    〔冬枯れとなった森の下に積もった朽ち葉には、一面に霜が降りている。その霜の上に落ちている月の光の、何と寒々したこと〕
     この歌が面白いのは、その大半が名詞で構成され、活用する言葉は「落ちたる」だけという点です。しかし、この「落ちたる」が重要なのです。冬枯れで、森の葉が「朽ち葉」となっているからこそ、月の光が森の下の土(霜)まで「落ちて」くる。葉が茂る夏や秋だと見られない、まさに「冬」だからこその光景と言えます。冬は「人間的なぬくもり」を寄せつけない季節とされ、月の光にも同じような性質があるとされてきました。だからこそ、冬は美しいものなど何もない季節だが、月光だけは美しい――『源氏物語』にも書かれている、日本の「美意識」を具体化したような歌であると著者は指摘しています。

    【POINT②】死ぬばかり 嘆きにこそは嘆きしか 生きて問ふべき 身にしあらねば(小式部内侍)
    〔死にそうなくらい嘆きを重ねました。生きてご病状をお尋ねできる身ではないので〕
     この歌は、夫の藤原教通が病気だった時に見舞いの手紙を送らなかったことに怒った際、妻の小式部内侍が詠んだ歌です。ここで重要なのが「生きて問ふ」の一節です。当時は一夫多妻制で、教通の正妻は位の高い貴族の娘だったので、小式部内侍が「生きて」いるうちは、簡単には一緒に居られない身分でした(当時の夫婦は別居が普通でした)。そして「生きて問ふ」と言う以上、同時に死も想定されており、あなたが死んでいたら、私も嘆きのあまり死んでしまうので、あの世では一緒になれるでしょう……と返すのです。この歌を聞いた教通は、すぐに彼女を許したそうです。それだけ男心に刺さる歌だったのでしょう。

    【POINT③】 わが君は 千代に八千代に さざれ石の 巌となりて 苔のむすまで(よみ人知らず)
    〔私の大事なあなた様、千年も幾千年も長生きしてください。小石が成長し大岩となって、そこに苔が生えるまで〕
     この歌は、日本の国家(君が代)の「元ネタ」となったもので、大切な「君」の長寿を祈る歌です。その表現が面白く、まずは「さざれ石」(小石)が「巌」(大岩)になるという、非現実的な――あるいは「神話的な時間」を示した上で、次に「苔が生える」という、長いと言っても十分人間が体験できる範囲の時間を示しています。その背景には、現実の人物を祝う際、神話的(非現実的)な時間の後に現実的な時間を示すことにより、前者も“現実のものではないか”と錯覚させる効果があると言います。即ち、人間にとって想像の産物でしかない「永遠」を、現実のものとして感じさせる工夫があると著者は指摘しています。

     著者によれば、和歌は「現実をそのまま再現する」のではなく、むしろ、現実には簡単に得られないような「理想的な状態」を追い求めるものだと言います。例えば【POINT①】の歌を詠んだ後、ふと冬空の月を見上げれば、千年以上も前に「理想」とされた月の光に思いを馳せることもできるでしょう。今も昔も変わらない、私たちの「理想」を考える上で、和歌は非常に重要なアイテムになるはずです。最後に、私が一番気に入った歌を引用して終わりたいと思います。

    人の親の 心は闇に あらねども 子を思ふ道に まどひぬるかな(藤原兼輔)
    〔親というものは、心が闇だというわけでもないのに、子のことを思うと迷子になってしまうのです〕

  • 中高生向けのレーベルだが内容は驚くほど深くて、東大に入れない身でもここまでの話を聞くことが出来て、本当に良い時代に生まれたと深く感じる。
    歌が詠まれた背景や歴史、詠んだ人の人柄や文法などまで語りかけるように教えてくれて、すぐそばに先生がいて話を聞いているようだった。
    また、今まで問題集を解く時には気付かなかったポイントも、文法の説明と共にさらりと書かれていて、急に頭の中で繋がったように感じて驚いた。


    それから、私は百人一首の曾禰好忠の歌が好きなのだが、ここでは、

    鳴けや鳴け蓬が杣のきりぎりす
    過ぎゆく秋はげにぞ悲しき

    という歌が取り上げられていて、そのまま読めば普通の内容に感じられるところを、作者自身が身体ごと虫になって虫の目で見た不思議な歌であること、パンクな人物であることなどが書かれていて、やっぱり曾禰好忠は感性が独特な人だと知り嬉しかった。

  • 本来の想定読者の高校生のみならず、和歌に最近興味を持ったおっさんにも優しい素晴らしい本。
    できるだけ現代の若者にも親しみを持てるように、と気を使いつつ解説そのものは普遍的で和歌の意味や技巧のみならず背景や歴史をわかりやすく伝えたい、という著者の気持ちが溢れている。この素晴らしい文化をこの本をきっかけに、さらに味わい尽くしてみたい、と思わせられる。
    個人的には渡辺泰明先生は放送大学の「日本文学と和歌」の授業で初めてその教えにふれ、その朗々とした和歌の歌い上げに惹かれていました。夢の遊民社の立ち上げメンバーであったことはずいぶん後になって知ったのですが、言葉での表現者としての経験と思いが和歌の研究にも根ざされているのだろうなとただただ憧れます。
    岩波新書の「和歌とは何か」も現在読んでいる最中ですがこちらはさらに渡辺泰明先生の思いが溢れている作品で、噛み締めて読んでいきます。

  •  日本における古今の名歌を紹介するとともに、文法の勉強にもなりました。僕自身は和歌は体質に合わないのかなあと退屈気味にページをくりくり、読了しました。

  • 高校生向けに書かれたものなので、和歌に触れるためのとっかかりとしては非常によい。

  • 岩波ジュニア新書、茨木のり子の「詩のこころを読む」が大変面白かったのでこちらも読んでみたけれど、とても面白かった。なにより、和歌とはフィクションであるということが発見できたのがすごく良かった。ある物の素晴らしさや、深い哀しみをそのまま「これって凄いんです」「私はすごく哀しいんです」と言っても人には伝わらなくて、その感動や大きな心の動きを他人に伝えるためにはある種のフィクションを作り出さなければならない。それがこんな素晴らしい日本語で行われていて、その資産が山ほどあるなんて…震えた。こんなこと、古典の授業で習うのかもしれないけど、古典の授業は全て寝ていて全然勉強もしなかったので、今初めてびっくりしたと同時に、ああこれは読んでみたいなと思えた。10年遅いんだよ、いつも…。。

  • 登録番号:11264 分類番号:911.104ワ

  • 和歌って良いなぁ。。京都という場所の奥深さに今更ながら驚いてしまうことだなぁ。。

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著者プロフィール

1957年、東京都生まれ。
東京大学大学院人文社会系研究科教授。
和歌文学専攻。
『中世和歌の生成』(若草書房、1999年)、『中世和歌史論 様式と方法』(岩波書店、2017年)

「2020年 『和歌史の中世から近世へ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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