人とミルクの1万年 (岩波ジュニア新書)

著者 :
  • 岩波書店
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感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784005007905

作品紹介・あらすじ

氷河期が終わり、約1万年前、家畜の飼育が始まった。やがて"搾乳"の発明により、家畜のミルクに大きく依存する、牧畜という生活様式が西アジアで始まった。ミルクを保存食にするための工夫から、ヨーグルトやチーズ、バターなど乳製品も生まれた。ユーラシア大陸の各地に牧畜民をたずね歩いてきた人類学者が、読者を牧畜と乳文化の雄大な歴史へと案内する。

感想・レビュー・書評

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  • 成分や製法や地域など、子ども向けの新書とは思えないほど充実しています。それぞれの地域の加工品はどれも特徴的でおいしそうです。いろいろな意味で、日本がおいしい乳製品を製造するのが大変な国であることもわかりました。

    • syriasheepさん
      きあらさん。読んで下さって、ありがとう。乳製品というと、私たちは、ヨーロッパのものしか知りません。でも、ユーラシア大陸では、実に様々な乳製品...
      きあらさん。読んで下さって、ありがとう。乳製品というと、私たちは、ヨーロッパのものしか知りません。でも、ユーラシア大陸では、実に様々な乳製品が、それぞれの地域の生態環境に育まれて、発達しています。そんなことも、本書で伝えたかったです。10の乳製品に出会えば、8くらいまでは、えっっっ;と思える乳製品ですが、それでも、牧畜民にとっては命の糧。10の内、2つくらいは、「あーー、苦労して、この地まで足を運んで良かった!」と思える乳製品に出会います。それはそれは感動で、現地に赴くしか味わえません。きあらさんも、ぜひ、色んな乳製品を楽しまれて下さい。注意していると、日本でも、ずいぶんと色んな乳製品に出会えます。著者の平田より
      2014/12/30
    • きあらさん
      コメントありがとうございます。とても感激です。年末年始、メールを見ていなかったので、お返事が遅くなりました。アジアの乳製品はとても興味深く、...
      コメントありがとうございます。とても感激です。年末年始、メールを見ていなかったので、お返事が遅くなりました。アジアの乳製品はとても興味深く、貴著で堪能致しました。出会える機会があればよいです。加工の過程が丁寧だったのがうれしいです。人間との長い歴史を考えるのがおもしろかったです。
      2015/01/06
  • 良い意味で期待を裏切られた一冊。ミルクの加工の伝播とその歴史を豊富なフィールドワークから分析する。伝播の過程の論理も分かり易く、なぜ?という点にきちんと応えているのも良。

  • 普段飲んでいる牛乳や、食べているチーズやヨーグルトなどの乳製品。
    今や日本の食卓にはなくてはならない存在となっているが、こうして食卓に乗るのはごく最近のこと。
    しかも、ヨーロッパ文化の影響を強く受けているため、実は私たちは乳文化のごく一部しか知らない。
    1万年の歴史があり、しかも文化圏ごとに全く違った表情を見せる乳文化の美味しくて不思議な世界を辿ってみよう。

    まず、ヒトの母乳を考えてみよう。
    あの真っ白なほのかに甘い液体は、母親の血液で作られている。
    どこでどうやって赤が白になるんだ!
    ウシは1リットルの乳を出すのになんと500リットルもの血液を必要としているという。
    著者が感じたように、私も偉大さと尊さを感じる。
    この乳というものは、人間のように年中繁殖期ではないので、ある一定の期間しかとることができない。
    それをどうやって保存していくか、ということが課題となる。
    西アジアではヨーグルト、バター、バターオイルの順に加工され、チーズはカチカチの塩辛いものが出来上がる。
    対してヨーロッパでは熟成の方向へ向かう。
    カビを使用するという、高温多湿のアジアとは全く異なる方向へ!

    その一方、双方の技術が重なり合った地域も存在するのだ。
    この文化の広がり、技術の広がりは歴史を考える上でとても面白く、興味を惹かれる。
    搾乳とは素晴らしい発明だった(ヒトにとっては!)。
    母が子にしか許さない行為を利用して、それを自らの栄養にして、さらに子孫を繁栄させる。
    この発明があって、いまの「おいしい」があるのだ。

    私がミルクを飲んで、それが血液になって、さらにそれが子に与える乳となる。
    命の営み、生命のつながりを考えるととても感慨深い。

  • 乳文化(酪農とミルクの加工)はどのように伝播したのか。
    乳文化の研究者である著者による説明には、好きなものについて語る人の楽しさがある。
    ジュニア新書のわかりやすさで好奇心を刺激してくれる良書。
    その場所にあわせて育っていく文化と、それを裏付ける科学や考古学や歴史を知ることができる。

    暑く乾いた西アジアで、ミルクは貴重な栄養源。
    暑さで腐る前にとにかく発酵させて、それから加工する。
    冷たく乾いたモンゴルでは発酵より分離が先に進むから、クリームをとってから加工する。
    冷涼多湿のヨーロッパでは加工したチーズを熟成させた。
    乳以外の食品で栄養摂取できるアジアでは、乳製品は嗜好品や栄養補助食品として受け入れられた。


    『パスタの歴史』http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4562047534には、イタリア南部の暑く乾いた風が良質な乾燥パスタをつくったとあった。
    この本にはイタリア北部の冷涼湿潤な気候が熟成チーズを発展させたとある。
    南のパスタと北のチーズが合わさってイタリア料理になっているのか。
    ものをみるものさしが増えていくのは楽しい。

  • 身近な乳製品が人類の歴史とこんなに密接な関係にあったとは。意外に長いつきあいなんですね。乳加工の発展の件や、乳文化の地域差などが興味深かった。紹介されていた各国の乳製品の味も気になります。読みやすくおもしろい本でした。

  • 家畜の肉利用と比べて、乳利用は餌から食料を生みだす効率は3.7倍に向上する。牧畜民が肉を食べるのは祝い事や客を迎えた時くらい。ケニアのトゥルカナやマサイの牧畜民は、食料の60%をミルクに依存している。

    トルコ南東部の紀元前8700~8500年の遺跡から出土したヒツジとヤギの骨は野生種に比べて小さく、幼獣の比率が高く、家畜化の最も古い時代を示している。紀元前7500~7300年には西アジアの広い範囲で本格的に飼われるようになた。ウシやブタの家畜化は、紀元前6400年頃。

    西アジアでは、ミルクをヨーグルトにして保存性を高め、ヨーグルトから乳脂肪と乳蛋白質を分離してバターからバターオイル、バターミルクからチーズを作る。西アジアでは、極度に乾燥させたハード系チーズしか作らない。

    北アジアや中央アジアでは、ミルクからクリームとスキムミルクを分離し、クリームからバターやバターオイル、スキムミルクからヨーグルトを経て乳酒やチーズを作る。

    冷涼なバルカン半島では、チーズを塩水の中で熟成させて食べる。冷涼、湿潤な西ヨーロッパでは、カビを利用した熟成ソフトチーズが発達した。

    南米のアンデス山脈では、リャマは荷物運びの使役動物として、アルパカは毛の生産用に飼育されており、搾乳は行われていない。保存食としては、ジャガイモを乾燥させたチューニョが用いられている。

  • とても面白い

  • ふむ

  • [評価]
    ★★★★★ 星5つ

    [感想]
    日本におけるミルクの利用は飛鳥時代が始まりだけど、一旦断絶した後に江戸、明治に復活するわけだけど、日本におけるミルクの利用方法は世界においては極一部に過ぎないのだなと感じる内容だった。
    特にミルクからバターオイルを作ることがメインであることには驚いた。アジア地域においては保存食としての一面が強言うのだと強く感じた。また発酵を利用しないチーズにも驚いた。


  • 歴史

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著者プロフィール

帯広畜産大学教授。文化人類学・牧野生態学。アフロ・ユーラシア大陸の乳文化と牧畜について研究。著書に『ユーラシア乳文化論』(単著、岩波書店 2013)岩波ジュニア新書『人とミルクの1万年』(単著、岩波書店 2014)など。

「2022年 『西アジア・シリアの食文化論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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