- Amazon.co.jp ・本 (265ページ)
- / ISBN・EAN: 9784006000547
感想・レビュー・書評
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タイトルが『田沼意次の時代』であるように、田沼意次自体の評伝ではなく、享保期から天明期にかけての江戸中期の経済史に関する本である。徳川綱吉の時代から、近世的な生産力の発展が頂点に達した。そこから農民余剰が生まれて、農民層と商人層が大いに潤っていた。一方、幕府財政は、金銀山の枯渇、貿易収支の低下などから危機的状況に陥っており、幕府の財政再建のための年貢増徴策、運上金の徴収などが吉宗時代から取られた。その延長上に田沼時代があることが本書を読めば分かるだろう。
文章がとてもうまく、江戸中期の経済を知るには良い本だが、田沼意次の擁護本としては微妙な出来だ。本書では、田沼意次の革新性として、貨幣政策、蝦夷地開発、印旛沼干拓が挙げられている。しかし、貨幣政策は成功したが、他の政策は尽く失敗しているので、あまり弁護として上手くいってない。田沼の政治生命を終わらせてしまった蝦夷地開発、印旛沼干拓を怪しげな「山師」的政策として捉えた藤田覚の説の方が正しいと思われる。また、田沼が贈賄を受け取ったとする『伊達家文書』の記述は信用できないと結論付けているが、後に完全な「誤読」であるとする藤田覚の手厳しい指摘を読む限りは、「汚職政治家」田沼像を覆すことができてない。田沼を持ち上げるあまり、松平定信の評価が公平ではないのも気になるところである。本書は、田沼意次vs松平定信の二項対立史観であるが、近年の研究では、田沼時代と寛政の改革期での政策の連続性が強調されており、些か古い史観であると思われる。田沼意次を知る本としては中途半端な印象を受けた。
江戸経済史を知るには、同筆者の『江戸時代』(中公新書)の出来がいいらしいので、こちらを読んだ方がいいかもしれない。
http://blog.livedoor.jp/yamasitayu/archives/51792495.html詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
賄賂の権化みたいに言われてきたが、実際は開明的な人、歴史の評価はとても恐い。
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リポート用。以下覚書。
田沼意次というのは、賄賂とりまくりの悪徳政治家と伝えられているけれども、それを伝える史料はけして信頼できるものではないと。
構造改革を試みた人。
通貨一元化(金銀銭がそれぞれ別の通貨で、日本国内で両替してたとは知らなかった)。
蝦夷地開拓。
税制改革。年貢のみでは財政がまかなえないので株仲間などを認めるかわりに税をとる。
(株仲間って、ちょっと相撲の組織に似てる?)
史料批判って大事だなぁ。