昭和経済史 (岩波現代文庫 学術 176)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (403ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006001766

作品紹介・あらすじ

恐慌と戦争、廃墟からの再建、高度成長を経てバブル経済に至る時期まで、社会のめまぐるしい激変と経済の実態はどう関連していたか。現在の日本経済の構造はいかにして形成されたのか。経済史の第一人者が時代の変動に向き合いつつ、堅実なデータ分析と説得的な歴史観で変化と連続の両側面を把握した最良の入門書。

感想・レビュー・書評

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  • 戦後の高度経済成長により日本は経済大国となった。その期間、円の価値に非常に神経を尖らせていたのだと感じた。当たり前と言えば当たり前だが。

    戦後、中東の石油開発によって資源を安く手に入れることが出来、さらに1ドル360円の固定レートの環境下で、原材料を仕入れても貿易収支黒字を実現出来たのは、日本にとって幸運であった。

    ただこの戦後に確立した加工貿易でドルを稼いで、日本の安全保障を確固のものとするという経済体制が容易に転換できていないのが現状の問題なのかなとも思う。

    資源の値上がりにより、円安の弊害が顕著になってきている。昭和の頃は一旦引きしめても、再び通貨安政策を取れば経済が浮上する素直な経済システムだったのが、製造業の海外移転や個人消費の増加により従来のようには行かなくなった。

    約10年前から実施されたアベノミクスは円安政策により自動車産業をメインに輸出産業を支えたことは事実である。しかし民主党政権当時の過度な円高(ファンダメンタルズからも外れていた?)は問題であることは留意しても、その期間は経済構造の抜本的な転換をはかる好機であったのではないかと今になって思う。少なくともEV産業にはもっと目を向けるべきだっただろう。

    経済の構造改革というアベノミクスの三本目の矢が、今後実現することが出来ずに日本の競争力が落ちていったら結局、アベノミクスはただ日本経済の延命をはかっただけとなる。長期に渡る金融緩和の代償は浅学な私にはどうなるか想像つかない。しかし円安政策という日本のある種の伝統的政策を固執し続けてきた限界は見えているのかもしれない。

  • 講義の口述を、起こしたものなので読みやすく分かりやすい。経済という側面で昭和の時代を切るとこんな断面がみえるのだなーと感じた。
    戦前の話もさることながら、オイルショックという制約が、産業の合理化にかなり大きな影響を与えたということがおもしろい。まさにピンチをチャンスにできたのですね。当時は。平成になって30年間ずっと不況みたいな状況下、不利な状況が続いて、それは全く活かせなかった、そしていつの間にか周りの国々から追い抜かれてしまいつつあるという現在とは大きく違う。まだ余地があったということなんでしょうか。でも、当時も無理だと思われていたことをどうにかしたわけだからなぁ。
    後半が、経済大国としての日本の責任、みたいな論調が続いて、ジャパンアズナンバーワンを地でゆく時代だったのだと再認識した。

  • 「岩波セミナーブックス」の1冊として刊行された本を文庫化したもので、著者が昭和60年におこなった講義がまとめられています。「還暦」を迎えた昭和経済の歩みを、やさしい言葉で分かりやすく解説しています。

    昭和という時代は、途中に太平洋戦争という大きな出来事を含む激動の時代ですが、本書は戦前と戦後を分断することなく、この時代の日本経済を一貫した流れとして描き出しています。また、高橋是清や石橋湛山といった主要な登場人物の経済思想がそれぞれの時代の中で持っていた意味についても、多少踏み込んで説明がなされています。

    書かれたのが1985年ということで、本書で扱われているのは高度経済成長の終焉と日米経済摩擦までですが、本書の続編として『現代経済史』(岩波セミナーブックス)が刊行されています。

  • 戦前の試練と、戦前戦中の礎から戦後経済がいかに飛躍したかが描かれる。
    自分がひとつ大きな勘違いをしていたことに気が付いた。しばしば戦時中は物不足で大変だった…といったことを聞くとき、戦況が不利だったから物資が国内に入らなかったんだろう程度の認識しかなかった。
    戦争末期は確かにそれもあるのだろうけど、そもそも外貨などの対外支払能力が一定の中で、軍事優先の輸入を1930年代後半に続けていたことが要因としてあげられていた。また欧州での戦争開始とともに国際的に物不足となったことも要因だったとのこと。
    日本が本当に敗戦で痛感したことは何だろうと思うとき、そのひとつは資源小国は貿易や国際金融を生業とする以上、国際的な秩序に機敏でなければならなかったということだろう。

  • 農業と在来産業が有業人口の多数であった昭和初期から経済成長を経験して停滞期に入った昭和50年代後半までを各年代ごと筆者の経験したエピソードなどを交えながらわかりやすく書いている。講演記録の編集なので読みやすい。印象的なのが経済成長を遂げ、大幅な貿易黒字による国際摩擦を起こしていた際の日本を「外から見た日本は一種の怪物で、官民一致して競争力を強くして、あらゆるマーケットに侵入してくるように見える、それで欧米では危機感を持つ。ところが、日本では、日本が立ち遅れているところだけに注目して、もっと頑張れとやっている。日本の経済力についての理解が、国の内外で大きく食い違っていたことが、たいへんな問題であった。」(本文309頁)と評していること。示唆に富んだ文章だと感じる。

  • 東京大学名誉教授の中村隆英(日本経済史)による昭和経済史概説。

    【構成】
    第1章 恐慌のなかの変容 1920年代
     序説 60年間の足跡
     1 昭和初年の経済と社会
     2 不況の時代
     3 昭和恐慌
    第2章 バターも大砲も 1932-37年
     1 高橋財政下の経済回復
     2 産業発展と産業組織
     3 2・26事件と準戦時経済体制
    第3章 戦争の爪痕 1937-45年
     1 経済統制の開始
     2 太平洋戦争
     3 戦争の終結
    第4章 廃墟からの再建 1945-51年
     1 民主化政策の展開
     2 再建への苦しみ
     3 ドッジ・ラインと朝鮮戦争
    第5章 「強兵」なき「富国」 1952-65年
     1 経済成長の出発点
     2 二重構造と社会環境
     3 所得倍増の時代
    第6章 「経済大国」 1966-75年
     1 経済成長の「定着」
     2 成長の終末
     3 戦後最大の不況
    第7章 古典経済への回帰 1975年以後
     1 新しい経済局面への対応
     2 国際化と自由化
    結語 昭和経済史のまとめ

    本書の底本は1986年に岩波書店から出版されたものであり、文庫化にあたって、1986年以後3年間の補論があとがきにつけられている。

    経済史の通史としてバランスのとれた内容だと思うが、特に第1章から第3章までの昭和恐慌から戦時体制下の統制経済に至る過程と力学の記述は評者自身が勉強不足だということもあり、色々と勉強になった。
    雨宮昭一や野口悠紀夫が言うような戦時戦後体制論は行き過ぎた論であるにしても、戦時中の小作人の地位改善や財閥経営者の資本独占の崩れなど、戦時経済から占領期の傾斜生産方式がつながる道は確かに存在したという感覚を改めて覚える。

    戦後史については1952年の独立以後は「高度経済成長」とは何だったのかということ主たる命題として、統計資料を駆使して明らかにされている。

  • 昭和の日本の経済・産業構造を解説。
    データも豊富で読みやすい。

  • 非常に分かりやすい。戦前・戦中・戦後の経済情勢や経済政策について図や表を交えてまとめてある。高橋財政や新体制運動等がどのような流れで生まれたのかある程度理解できた。

  •  とっても分かりやすい昭和経済史で、戦中の井上財政と高橋財政の違いから政策的違いが的確に述べられている。古典に数えられてもいい作である。
     とかく歴史本は、人物がどうしたどう思っただけで終わっているものが多く、それはそれで「歴史」の記述としては、人物劇としては興味深いのだが、それだけでではある種の引っかかりが残る。長期的には、人はどうしたところで法的規制と社会的風潮と自らの思いなどから経済的制約や緩みなどから行動、活動しする。

     そうした意味においては、しっかりとしマクロ経済学からの為政者の描写は背景が分かって非常に興味深いものになる。歴史はマクロの経済から眺めると人物劇と死としての歴史以上に「面白い」と改めて思った著作である。
     

  • ゼミで使用中

    バターも大砲も!
    歴史を学ぶことの意義の重要さをかみしめながら・・・

    読み応えがあります

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著者プロフィール

中村 隆英
中村隆英:元東京大学名誉教授

「2015年 『明治大正史 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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