国民の天皇: 戦後日本の民主主義と天皇制 (岩波現代文庫 学術 214)

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  • Amazon.co.jp ・本 (520ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006002145

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  • 日本の大学に在籍した事もある米国人研究者が戦後天皇制を緻密に描いた。日本人より自由で客観的な視点なのが良かった。
    福沢諭吉の「帝室論」には「帝室は政治の社外なり」と、戦後の象徴天皇制に近い考えを示している。その福沢の考えを受け継ぎ、現在の天皇の教育係となったのが小泉信三だった。小泉は福沢の考え方と英国王室をモデルにしていた。
    長い皇室の歴史から見れば明治以降の天皇制が逸脱だったという言説は、戦後の保守派によって好まれたもの。元号の法制化や、建国記念日の制定などの経緯も面白かった。奈良県橿原市長の奮闘など具体的エピソードもよく調べている。
    「大まかに言って現在の天皇の行動目標は以下の二つである」「一つは社会の片隅に追いやられた人々を引き出す事、もう一つは戦後を終わらせる事」という指摘は十分うなずける。

  • 著者は現在ポートランド州立大学助教授で、日本を研究する米国人である。ということで、日本社会における「天皇制」なるものを、「外部から」の視点で考察している。
    この書名は多くの浅はかなネトウヨ群を助長した、馬鹿げた歴史観に基づく「ベストセラー」を思い出させるが、全く関係ない。著者は右翼からも左翼からも距離を置き、完全に公平な、客観的な立場を崩すことなく、学術的に日本の「天皇制」を記述しているという点で、この本は非常に貴重なものである。
    著者の日本研究は細部にわたり、私などよりもはるかに日本の歴史を知っている。
    戦後の象徴天皇制は左翼ばかりでなく多くの右派陣営もが支持し、「歴史的に天皇制のもともとの姿」であるとの主張をしたが、これが虚構であることを著者は看破する。
    一方で、戦後においてすら、今でさえ、「内奏」等を通して天皇は政治的影響力を持っている可能性を指摘し、「政治と切り離された存在」というイメージが嘘であることをも語っている。
    この本には、我々日本人の多くが知らない、近代以降の天皇の姿が描かれており、私の天皇観は変わらざるを得なかった。
    この本によると、昭和天皇に戦争責任はあるかと問うならば「ある」のであり、天皇が国民のために平和を願って戦争終結させたなどというイメージは嘘っぱちだということになる。しかも、戦後の日米安保体制や、沖縄を切り離し米国の支配下にとどめた点なども、昭和天皇の意向が強く影響したらしい。
    著者は象徴天皇制を良いとも悪いとも言わない。それが民主主義の障害にはなっていないということを、公平な視点から判断している。
    いずれにしても、象徴天皇制とは、「イメージ」である。そこには、実際に日本国民「大衆」の情動がこめられており、そうそう廃止できるものではないようだ(私は子どもの頃から天皇制なんて廃止すればいいのに、と思っていた)。「元号」制の法制化も、国民の多くが支持したから実現されたようだ。
    「いま」はどうだろう? 若者は「元号」なんて計算をややこしくするだけの厄介な代物だと思わないのだろうか?
    日本はそういえば、イギリスをモデルとした「君主制」国家ということになるが、「主権在民」と微妙に齟齬をきたしそうなこの危うい制度は、国民の情動性が時間をかけさらに変容しなければ、なかなか変わりそうもない。
    日本国の多くの「事実」に向き合わせてくれる、非常に優れた書物だった。

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