- Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
- / ISBN・EAN: 9784022599612
作品紹介・あらすじ
「村に戦争が来る」「村が戦場になる」そんな噂を聞いたとき、ただ呆然としていれば、ヒトもモノも敵方の雑兵たちに「乱取り」されてしまう。この乱世を行き抜くための危機管理の焦点に城と隠物があった。多くの落城の光景の中に女性や子どもの姿がある。城は村人たちの避難所であった。だから、城の維持・管理は彼らの責任で行った。城から遠ければ、山中の「村の城」に篭もって難を逃れた。それでは財産はどうするか?持ち運べないものは穴を掘って埋めて隠したり、寺社や他所の村や町に預けたり。「隠物」「預物」の習俗は生き残り策の土台にあった。発掘された銭甕や地下の穴など考古学の成果に注目した著者は新たな視点から戦国びとの危機管理の実態を描き出す。
感想・レビュー・書評
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[評価]
★★★★☆ 星4つ
[感想]
本書では戦国時代を生きる人々と城の関係性や財産を守るための知恵が書かれている。
著者は城を軍事的な防衛設備とだけ捉えるのではなく、城周辺の人々に取っては戦乱に襲われた際の避難所としての機能が存在していたのではないかと仮設を立てている。仮設を裏付ける証拠に北条氏の小田原城や鉢型城などに周辺の人々が逃げ込んではないかと思われるスペースについても書かれていた。
必ずしも避難設備だったとは決めつけは出来ないと思うが、一部の城は人々を城へと引き込み防衛の人員としていたことは十分にありえるのではないかと感じた。一方で山城への避難は城主が引き込んだというよりも放棄された城に逃げ込んでいたのではないかと思う。
また、人々が隠物として財産を埋めたり、寺社に分散して預けていたことは現代で財産を様々な形で分散せせることに似ており、いつの時代でもリスク分散というものは実施されるのだと感じたよ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
戦国時代、武将の争いに巻き込まれ翻弄される農民や町民がいかにその身や財産を守ったかという事実を幅広い史料と考古学、さらには国際比較を通した文化人類学的視点まで駆使して鮮やかに描く。城を取り巻く曲輪に具体的な避難場所に迫る地方探訪もまた楽しい。山城から発想を膨らませた村の城、考古学的裏付けのある山谷のシェルターも興味を惹かれる。特に太平洋戦争時の防空壕にまで受け継がれる行き伸びるための知恵(それは決して現実には効果がなかったとしても)としての観点は、文化の連続性と固定制を明白にしている。預物や隠物への執着もまた同じ事実を捉えている。そういった意味で、問題の今日性を実感できる論旨となっているし、そのこと自体が本書の魅力を増している。
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戦国時代、都市や村が戦火に巻き込まれそうになったとき、民衆は大きく2つの対抗策があった。
1.領主の城に行き、篭城する。
2.近くの山野に身を隠す。
1に関しては、映画やテレビ・小説などでおなじみなので、説明は不要だと思います。
2に関しては、生命・財産を守るための知恵が必要でした。
本書は、乱世を生きる民衆が生き残るために、とった様々な手段を解説しております。
・生命・財産を守るために地下シェルターを作って隠れる。
・戦国時代の貸金庫ともいうべき、土蔵に財産を預ける。
・戦後、預けた財産をスムーズに引き渡すためのルールを明確化する。
・戦火を避けるために、攻め寄せる軍勢に賄賂を贈る。
などなど、当時の民衆の逞しさを語るエピーソードを数多く掲載しています。
また、当時の文書も例としていくつかあげられています。
特に16世紀の関東弁丸出しの文書などからは、当時の話し言葉の一端を垣間みることができました。
また、戦国時代の民衆の文章表現も多彩で、戦が迫ってくる事を、
「乱が行く」と表現したりします。
台風や旱魃のように、天災的な印象さえします。
当時の民衆の心情にある無力感を垣間みれて、興味深かったです。 -
「歴史を知ることは、今を知ることなんだよ。」とセンセイはおっしゃった。その時は意味がよくわからなかったけれど、今はよくわかる。戦国時代の民衆に学ぶべし。
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「城」というと、平時は在地領主の館であり、戦時には兵隊が立てこもる拠点としての機能をもつ、という理解が一般的である。それに対して、本書では、城のもっとも重要な機能は、戦時における地域住民の避難場所である、という新しい説を披露する。すなわち、中世の在地領主は、戦時において領民をいかにして守るか、というのが重要な課題だったのである。これまでに発掘されたいくつかの中世城跡を例にとって、縄張りのどの場所が住民の避難場所であったかを推察することが、本書で取り組んでいる大きなテーマである。たしかに、多くの山城は外周に大きな曲輪を設けているが、この部分は軍事施設とみなすよりも、住民の避難場所だとみなす方が自然かもしれない。
著者の主張は、多くの戦国研究家や考古学者に受け入れられているようである。本書は、近年出版された戦国城跡に関する書物で軒並み引用されるヒット文献になっている。 -
乱取りから逃れるために民衆が逃げ込んだ領主の城は、その日のためもあって維持・管理には民衆が動員された。また、山中には「村の城」が設けられた。さらには、地中に掘られた穴に隠れることも。
さらに、財産を守るため寺院や他の村、土倉などに預けた(寺院や他村は謝礼なしか。土倉は有料)。その時間的余裕がなければ、地中に埋めて隠した。 -
戦国期、戦地に住む人々が危機を前にどのような行動をとったのかについての研究はまだ少ない。
この本は村の城研究の第一人者である著者による村の危機管理研究の現段階におけるまとめである。
中世城郭構造を再検証し避難民の収容がいかに城主たちにとって重大なテーマであったのかを指摘し、戦地の住民たちが大事な資産を守るために行った隠物・預物の習俗を各地の発掘結果、多数の文献から読み解く。
さらにはそうした緊急時の対応が多くの近隣の村々との間の情報ネットワークを通じて行われていた形跡まで存在する。
生きた戦国社会を再現するには支配者たちの歴史を知るだけでは不十分であって、こうした時代を生きた民衆の姿に目を向ける事で初めて生き生きとした戦国時代の姿が浮かんでくるのだという事を思い知らされる。