防衛事務次官 冷や汗日記 失敗だらけの役人人生 (朝日新書)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022951540

作品紹介・あらすじ

防衛省「背広組」トップ、防衛事務次官。2015年から17年まで事務次官を務め南スーダンPKO日報問題で辞任した著者が「失敗だらけの役人人生」を振り返る。自衛隊のイラク派遣、防衛庁の省移行、安全保障法制などの知られざる舞台裏を語る。

感想・レビュー・書評

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  • <東北の本棚>国際情勢交えた仕事論 | 河北新報オンラインニュース / ONLINE NEWS
    https://kahoku.news/articles/20220605khn000009.html

    「『防衛事務次官 冷や汗日記』」の記事一覧 | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)
    https://president.jp/category/c03574

    朝日新聞出版 最新刊行物:新書:防衛事務次官 冷や汗日記
    https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=23345

  • これだけ具体的でリアルな、マネージングに関わる回顧録はあまりない。アメリカの数多の立役者や、日本の政治家の(いささか唯我独尊の香りが鼻につきがちな)それは、確かに正論道理の示唆も含まれてはいるが、自分がいかに大きな仕事をしてきたか、の「自慢話」がほとんどで、恥を忍んで・・というエピソードは、ほとんど出てこないものだ。
    それに対し、黒田氏のこの回顧は、官僚トップまで務めた人物として、コーディネーティングとマネージングのエキスパートであるにもかかわらず、ほぼすべて、振り回されて苦労して失敗したという話で埋め尽くされている。エリート官僚ではあったが、実際には誠実に仕事をしようと務めた小さな一人の人間であったことが伝わってくる。馬力だけで押しとおることがリーダシップだと思っている、世の中の多くのマネージャーさんに読んでいただき、ぜひ参考にしていただきたい本である。

  • 南スーダンPKO日報問題で引責辞任した防衛事務次官の著者が、37年の役人人生の失敗について柔らかい語り口で書いている。
    事務次官まで昇り詰めたのだから物凄く優秀なんだろう、それでもこれだけ失敗するんだということで、失敗から教訓を得て学ぶこともあるだろうし、優秀でもこれだけ失敗するんだということ自体も学び。
    自衛隊初の警告射撃、情報本部の発足、51大綱の見直し、朝鮮半島危機とミサイル防衛、事態対処法制、中国原潜の領海侵入、省昇格、事業仕分けと普天間問題、火器管制レーダー照射事案、平和安全法制、陸自の日報問題という著者が関わってきたイベント。
    いかにうまく板挟みになるか、無理にパワー系調整術は使わず自分のスタイルでいく、仕事と違って夫や父としての自分の代わりはいないので倒れるほど仕事するな、むやみに叱らない、1人で抱え込まない、危機のイメージトレーニングをしておく、官房は頭を下げてなんぼ、ですからはダメ、プロフェッショナリズム、覚悟、思いやりといった仕事に関する教訓。

  • 自分の失敗を率直に紹介するというコンセプトが面が面白く、筆者の謙虚さを学びたい一冊。興味深い記述は次のとおり。
    ・「板挟みになりながら自分が泳ぐ余地を確保するのが重要なんだ」
    ・ソ連の領空侵犯ー不測の事態の武器使用マニュアルをマニュアル化するチャンスだった
    ・情報本部の創設ー戦術情報機能は各自衛隊に残し、戦略情報を一元化する
    ・危機管理は結果が全て。役人は結果よりも制度や手続きを重視する傾向。
    ・中国原潜領海潜没航行事案ー海上警備行動が通過後になってしまう。対応要領の未整備と連絡調整業務を抱え込みが原因。
    ・説明で「ですから」「だからですね」はタブー。サシスセソやオウム返しで相手の気分を上向かせる。
    ・情報を下から上へ流すことだけを繰り返していると上司に判断を丸投げし、上司の判断に疑問を持たないという無責任な態度につながる。速報性と付加価値のバランス。
    ・説明ペーパーは課題・検討・結論の3項目、論点・切り口を3つ、選択肢を3案。数字を使うことはスケール感を理解してもらう上で効果的。
    ・南スーダンPKO日報問題ー抱え込むミス。目先の混乱回避を優先してしまう。

  • 元防衛事務次官の役人人生の振り返り。

    部員時代、課長・審議官時代、局長・次官時代における細かい失敗のエピソード(大臣に車の中でしょうゆをかけてしまった等)も興味深かったが、個人的には各時代において著者が何をどう考え、それを自らの役人としての行動にどのように反映した・しようとした点が非常に興味深かった。

    役人として、あるいは社会人として、人生をどう生きていくかについて、元事務次官という存在は遠いものの、比較的身近に引き付けて考えさせてくれる内容だった。

    本書の内容自体に問題はなかったものの、最後の解説、これが本当に蛇足で、面白いと感じた読書体験を不快感に染めさせられて本当に腹がった。

    著者は自らの役人人生を振り返っているだけであり、安全保障に関する政策的な主張をしているわけではない。

    随所に各案件に関する著者自身の考えは述べられてはいるものの、それは著者がそう考えた・感じたというだけの話であり、それが正しい、そう考えるべきだと読者に対して主張しているわけではない。

    それにもかかわらず解説者は、著者の考えに対して、誰も望んでいない解説者自身の考えを長々と述べ、著者の考えは正しくないという解説者自身の政治的な主張をしている。

    本書に、安全保障に関する精緻な議論を望んでいる読者はいないだろうし、仮にいたとしても、その読者は著者の考えを聞きたいだけで、解説者の主張を読みたいわけではないだろう。

    安全保障に関する議論を読みたい人は、本書のような役人人生の振り返り本ではなく、もっと別の適切な書籍を読んでいるだろう。

    他人の人生を参考にするための本という本題をほったらかしにし、お金を払った読者を完全に無視して、お金をもらって自らの政治的な主張を無理やり読ませようという姿勢は本当に不愉快である。

    本書の改訂版があるのであれば、解説は全部削除するか、解説者を、本書の主題を正しく理解した人物に変更すべきである。

  • 防衛事務次官であった著者が、防衛省役人人生について語った本。「市ヶ谷台論壇」に連載されたものを、朝日新聞社の「論座」に転載、その後書籍化されたもの。著者の誠実な人柄と真面目な勤務ぶりが伺われる。防衛庁が省に昇格し、任務も増加・多様化しつつ、さまざまな事案に対応してきた時々の状況や実態を、別の角度から眺めることができた。参考になる一冊。

    「(英語不勉強)唐突に命じられた米国情報機関の出張の際に一挙に不勉強のつけを払わされることになりました」p34
    「(情報本部設立の企画)当初は庁内に存在するすべての情報関係部署を一元化しようという案からスタートしましたが、予想通り組織を吸い上げられる各幕の反対は強烈でした。前職の運用課で統合運用を担当していたので、「統合」という語に対する各幕の拒否反応は知っていたつもりでしたが、情報部門は運用部門の比ではありませんでした。ある人からは「運用部門で統合の種をまけば芽ぐらいは出るが、情報部門はぺんぺん草も生えない不毛の地だ」と言われました。最初はその言葉さながらの厳しい議論が延々と続きました」p38
    「出向先の外務省から帰ってきた先輩が「外務省は有事官庁だからなあ。それに比べて防衛省は、」とぼやくのを聞いたことがありました」p42
    「ともすれば役人は結果よりも制度や手続き、手順を重視する傾向に陥りがちだと言えます」p80
    「外務省はわが国の国際的地位を向上させるため、できるだけ多くの事案にコミットし、できるだけ多くの活動に自衛隊を参加させたいと考えがちです。これに対して防衛省は、総論賛成・各論精査という立場から、わが国の安全保障に直接関係する活動に限りたいという姿勢になりがちです」p112
    「(防衛庁の天皇 守屋事務次官)当時の保守党に対する働きかけも、省移行法案に対する公明党の同意の取り付けも、彼の強い指導の下で関係者が必死に取り組んだからこそ結果を出すことができたのだと思います」p131
    「(防衛庁の昇格キャンペーン)私が記憶している限り、文官・自衛官・OB団体を含め全庁挙げて施策推進キャンペーンを行ったのは後にも先にもこの時だけでした」p133
    「行事は計画通りに進むのが当然だと思われており、問題なく終了したとしても誰も褒めてはくれません。他方、何か不手際があると、迷惑をかけた相手方からばかりでなく省内幹部からも叱責されることになります。相手方とのトラブルが長引いてしまっても、もちろん誰も助けてくれません。行事の運営はなかなか「割に合わない」仕事なのです」p135
    「(官房長、総務課長、文書課長などの集まる懇親会)そんな時には決まって「官房は頭を下げてなんぼ」という話題と愚痴で盛り上がりました」p143
    「休み明けは文書化の行事担当にとって要注意です。休日に行われた行事の接遇などに不満を感じた国会議員からのクレームの電話がかかってくるからです。席次が低かった、挨拶の順序が遅かった、来賓として紹介されなかった等々クレームの内容は多様です。主催者側の配慮不足が原因の場合も多く、そういうときには当然のことながらしかるべきレベルが頭を下げに行かなければなりません。官房業務は「うまくいって当たり前で誰からも褒められず、少しでも失敗や不具合があると各方面から厳しく叱られる」という割に合わない仕事です」p144
    「(D言葉はタブー)「ですから」「だからですね」」p148
    「(相手を乗せる「さしすせそ」)「さすがですね」、「知りませんでした」、「すごいですね、素晴らしいですね」、「センスありますね」、「そうなんですか」」p150
    「若いうちから自分よりも2階級上の上司が何を考えてどう判断するのかを見ておくことが役に立つ。2階級上の上司は、君には見えないものが見えるし、手に入らない情報にも触れているから、君とは異なる広い見地から判断することができる。それをよく観察して、自分がそのポストに就くための準備をしておくことだ」p218
    「仕事から「逃げない」という気概も大事です。誰しも面倒なこと、難しいことに関わりたくない、逃げて楽をしたいという誘惑にかられます。しかし、逃げるのは責任の放棄だし、責任者が逃げてしまえば仕事は失敗します。周囲はそういう態度を見ています。逃げずに難問に立ち向かえば、苦しいけれども周囲から信頼され評価され、次の仕事にもつながっていきます。逃げれば悪循環、逃げずに立ち向かえば好循環に入っていくのです」p218

  • タイトルが、最近流行りの日記シリーズと被っていて、ちょっとどうかと思うが、防衛省の事務次官まで務めた著者による一種の回想記。同時に、中央省庁で政策を担当する公務員としての後輩に向けての指南書であり、エールでもある。
    役人生活の最後を不祥事対応の失敗という不本意な形で終えたことは大変気の毒だが、その分、割り切りというか、開き直って、数々の失敗を含めて正直かつ真面目に本書を書かれたように思う。その意味で、元事務次官の生き様を学べる貴重な一冊ではないかと思う。

  • 392.1076||Ku

  •  黒江哲郎氏、1958年生まれ、1981年防衛庁入庁、2015年事務次官、2017.7辞職。南スーダンPKO日報問題で停職処分を受けての自己都合退職、パソコンの強制終了のような辞め方とか。40年弱のご勤務、途中、自律神経失調症、ぎっくり腰、呼吸困難、貧血などに襲われたそうです。大変な仕事、お疲れ様でした。「防衛事務次官冷や汗日記」、2022.1発行。

  • 元防衛事務次官の黒江氏の回想録。失敗だらけの役人人生というタイトルのとおり、若手の補佐時代、課長時代、局長時代、事務次官時代と職務のレベルごとに時系列で構成され、その時点でどんな失敗に直面したかが丁寧に書かれている。一言で感想をいえば、失敗に裏付けられたビジネススキルを楽しく学べる書というところ。

    他の方の書評にもあるとおり、回想録とは兎角自慢や成功体験に終始するのに対し、本件は、失敗談とそれをどう乗り越えたかについての視点が中心。人間、失敗から学ぶので、先達の失敗談というのは貴重である。

    また、その中には、だから・ですから・だったらと言ったDワードをやめて、さ行のSワード(さすがとか)の方が入りが良い、一人で抱え込むと碌なことがない、エレベータートークの極意、起承転結ではなく、課題→検討→対応など、官庁職員を超えて参考になるビジネルスキルも織り込まれている。また、大臣に気を利かせたつもりで寿司弁当に醤油をかけようとして大臣本人にかけてしまうなど、はたからみると笑える失敗にも事欠かず、読んでいて飽きさせない。

    それにしても、昭和や平成の働き方はモーレツだったと思い知らされる。筆者は、記憶するだけで6回脳貧血で職場で倒れたという。若い時分に中期防衛力整備計画の調整中に防衛庁内の会議で高官からの反対論の中で脳貧血倒れてしまった筆者が、その後、当時の次官などが反対論をひっくり返して筆者らの案を通してくれたというエピソードがある。筆者はそれを怪我の功名のように誇っていたようだが、当時の大蔵省のカウンターパート(実は今の加藤勝信厚生労働大臣)にそれをたしなめられるシーンがある。つまり、筆者が倒れている間も仕事は他の人がカバーして回っていたこと、一方、家庭人としての夫や父親は一人しか居らず代替が効かないこと、倒れるまで働いてはいけない、それは決して美しいことではない、ということ。

    24時間働けますか?との強精剤のCMすら流れてい モーレツに働くことがスタンダードだった昭和末期、多忙職場の頂点のような大蔵省にいて、そうした視点を持って人を嗜められた識見というのは凄いと思う。

    そうした立派な先輩に助けられ、頼りになる後輩にも支えられて、最後に南スーダンの情報公開事案の処理で失敗したにせよ、トップになれる人望と識見があったのだと思う。それが本書に活かされ、官界のみならず、これから仕事をする人達への読みやすいメッセージになっていると思う。

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