- Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
- / ISBN・EAN: 9784023308855
作品紹介・あらすじ
遊山箱、京葛籠…日本全国の職人による手技の名品を紹介する「AERA」連載の「掛けたくなる軸」を加筆、書き下ろしを加えた一冊。
感想・レビュー・書評
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「伝える職人になりたい」山口智子は言う。
日本にはいっぱい、いいものがある。それを伝えたいという。
「どうやって、うるしを口で感じてもらえるか?」
使う人のわがままと職人のわがままがワイングラスをうるしで
包んでしまった。そんなグラスも本をかざる。
「自分も世の中の借景である。」
生きている空間も含めて物とかに敏感になる。
物も人も緊張感をもって、世の中の風景に溶け込む。
そして、日本は空気と同じものと気づく。
豊潤な言葉と美しい写真。「掛けたくなる軸」は
あげたくなる本です。
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思わず早口に本に収められた言葉を聞いてしまう。饒舌ということではないが、何かしら前のめりの勢いがそこには、ある。しかしその早口に性急さを聞いてしまわないかと言えば、少し答えに窮したような心持も浮かび上がる。何かを急いで伝えたいという勢いは、時に聞くものの口を塞いでまで、という心情が隠れているのかという猜疑心にも繋がりかねない危うさも持っている。
言葉と共に見開きで並べられた写真には、その性急さを窘めるような働きがある。如何にもという光の陰影、そして、構図。そこに少々鼻に付きかねないあざとさも、時として見え隠れしそうにもなるけれど、写真の特性であるところの時間の封じ込めに頼らずとも、凛として物の内側に存在するであろう何かが、落ち着きよく絵の中に納まって佇んでいる。自然と足を止めてしまうような心持の気配が、頭の中で起こるのを感じる。
物じたいは決して動きを見せるわけではないけれど、だからと言って全てが、静、というわけではない。例えば、物の内側に存在するであろう何か、と言い喩えた先には、別の材料から抽だされる動きが見えている。時に、切り出し、削り出し、染め上げ、塗り上げ。抽出という余分なものを取り除く意味合いの強いの言葉の裏側で、工程を通して職人たちの持つ何かが手を通して物に移りゆく様子が想像される。物質が物の輪郭から外されてゆくにつれ、逆に手を通して何かが色濃くなってゆくという収支が、佇まう物の向こう側に、動、として見えている。手が入るとは、全く言い得て妙。
そんなことを思っていると、漱石が夢十夜の中で語った運慶の話が思い出されてくる。運慶が仁王像を彫っている。それを眺めて感心していると横から誰かが、あれは埋まっている目や鼻を掘り出しているだけだ、という。自分は家に帰って薪にしようと思っていた木に盛んに鑿と金槌を振るうが、ついに仁王は現れず、明治の木に仁王は埋まっていないのだと悟ったと独りごちる、という話である。
物が形を成す時、それは余分なものがただ単に取り除かれて設計された姿へ近づく、ということでは決してないのだろう。縦んば仁王の鼻が木の中に埋まっていたとしても、それに気付き彫り起こす術を持たない者には取り出し得ない。そこには物と者との対話と呼ぶことのできる動きがある。明治の木には仁王が埋まっていない、といった漱石は、西洋合理主義へ急転換する明治という時代に対する厭世の気持ちと過去への憧憬があったのかと思うが、過去を否定したような現代の様に対する多少自虐的な思いと失われてしまった時への憧憬は、漱石に限らず、伝統的な技術に頼る工芸品を眺める全ての人に、時代を違えず起こる気持ちであるようにも思う。
とはいえ、山口智子の言葉に厭世の気配は感じない。今の「伝統工芸品」を素直に尊ぶ心持が前面に立つ。それは彼女が、物を過去という無人格からただ単に受け継いだものとして眺めないからだろうと思う。そこに伝統を受け継ぐ手を見るからだろうと思う。手は不特定の顔であり、時に銘を持つ顔でもある。だが手が生身の人間に等しく属するものであるということに気付けば、今への繋がりと未来への道筋もまた見えてくる。手は職人の声を物に伝える道具であり、究極的には物は手の形を写したものに他ならないのだから。人類が手を失ったわけではないのだから。物を通して山口智子が見ているものは写し取られた手の形であり、手の持ち主なのだと思う。 -
興味の持てる内容だった。
語り口が急いでる感じ。
力入りすぎ・・・かなぁ。 -
軸の縦横比の写真が新鮮。
もっとフツーの、気張ってない文章だったらよかったのに。
仏壇についての思いは、同感。 -
出会いは衝撃的でした。「掛けたくなる軸」に出会ったのは、たまたま通院していたクリニックに置いてあったAERAの連載でした。それは僕が知っている女優・山口智子とはまったく別の古くて新しいもの、匠の技を大事にし、洗練された文章と美しい写真で、その大事でほんとうに欲しい「かたち」を紹介していくというものでした。
この本はいつまでも手元に置いておきたい一冊、人にプレゼントしたくなる一冊です。 -
2011-6-21