世界が動いた決断の物語【新・人類進化史】

  • 朝日新聞出版
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (279ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784023317697

作品紹介・あらすじ

【歴史地理/外国歴史】「新・人類進化史」シリーズ第3弾。人生・組織・文明の進路を大きく変える、生涯に一度あるかないかという重要な意思決定のモデルとなる、世界の社会的歴史を形作ってきた「選択肢」を分析・解説。「英断」のメカニズムを解き明かす。

感想・レビュー・書評

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  • Decisionsのうち熟考型意思決定プロセスを論じた書籍。フルスペクトルと不確実性によるマッピング、レッドチームとシナリオプランニングによる予測、そして決断。部分部分の話は面白く、多様な集団による不確実の(≒自信のない)決断は実は正解な可能性が高く、ベゾスは確実性をあえて70%下げるという話は興味深い。『ホモサピエンス全史』と同じくこれからの不確実性の時代におけるナラティブベースの思考の重要性を説くのも納得感がある。

    ただ内容的には散漫な印象が強い。第4章と第5章は唐突。全体を通して意思決定を解明するわけでもなく、著者の調査や主張を章立てにしただけのようにも感じる。たぶん冒頭の例示が適切ではなく、本書で取り上げるテーマと取り上げる理論にマッチしていないからだろう。

    そして邦題が良くない。『How We Make the Decisions That Matter the Most』なのに『「決断」の物語』とはこれ如何に。個々のエピソードは自身の意思決定の概念を振り返り再考するのに役立つ内容だったため残念。

  • 本書を一言でいうと:
    複雑な意思決定は難しい。だからこそ具体的に取り組む方略が必要である。その方略を人類は築いてきた。その歴史と蓄積に学び、複雑な意思決定をできる知を身に着けよう。

    スティーブン・ジョンソンの書籍では"Everything Bad is Good For You"が印象深い。ビデオゲームの学びにおける有用性について指摘した本である。そのときから「多くの人が常識だと思っていることに、データと事実から鋭い議論を立て、それを惹き込むような文章で書く人だな」となんとなく思っていた。
    今回数年ぶりに彼の書籍を読んで、さらにスケールアップしたジョンソンの議論を堪能させてもらった。

    本書は、大きなインパクトを長期に渡って生み出す可能性があるような「複雑な意思決定」について論じている。その失敗と成功の歴史をいくつかの事実に沿って取り出し、その上で科学、技術の観点を踏まえて、その意思決定の方略のある程度の一般化に取り組んでいる。
    と、このように書くと実に固くて読みづらい本を想像されてしまいそうだが、実際にはまったく逆で、もう先が読みたくて読みたくてたまらなくなる本である。それは、著者の論の組み立てと、ストーリー展開が実に秀逸だから。

    単に事実としては知っていたことについて、いままで自分がまったくもっていなかった観点を学ぶ事ができたという意味で、まったく知らない世界を知るのとは違った意味で、感動を覚える。そんな本だ。

    気になったところをまとめる。

    序章で、複雑な、先を見通した意思決定が難しい要因を8つ挙げている。
    ・複数の変数がかかわる
    ・スペクトル全体の分析が必要である
    ・将来の予測を強いる
    ・さまざまなレベルの不確実性が関与する
    ・相反する目的が関与することが多い
    ・未知の選択肢を隠している
    ・システム1の失敗をしがちである
    ・集合知の欠点に弱い
    このリストを見るだけでも納得感は高いが、特にこれに関連していうと行動経済学の知見との関連が興味深い。すなわちシステム1(速い思考)の特性から来る失敗が多いということがひとつ。もうひとつは、これまでに世に出ている行動経済学に関する書籍はシステム1の陥る罠についてはたくさん解説してくれているけれど、どうやったら「時間を使った上でのよい意思決定ができるか」を納得感高く描き出してくれているものがほとんどないということ(私が知らない)。
    まさにここにフォーカスした本書は、稀有であり、そして極めて面白い。

    本書でとりあげるエピソード群のうち特に私が好きなのは2つ。
    ・アメリカ政府によるビン・ラディン捕獲作戦の意思決定
    ・チャールズ・ダーウィンによる結婚とインチキ医療に関する個人的選択
    前者については、2011年にアメリカ軍がパキスタンでビン・ラディンの屋敷を急襲して殺害に成功した、という事実はだれでも知っている。だが、その裏でどのような意思決定のプロセスがあったかについてはほとんど知られていない。上で取り上げた「意思決定の難しさ」の各要因が織り込まれている事例であり、何も考えずに適当にやっていては、確実になんらかの大失敗を起こしていたことだろう。だが結果的にアメリカ政府/アメリカ軍はこれをやり遂げた。暗殺という行為の善悪はさておき、意思決定の成功についてこれほど学べる事例だったとは、という感動がある。
    後者については、ダーウィンが結婚するか否かをメリット・デメリットでノートに書き出した話が面白い。まずそれを私は知らなかった。現代までに得られた知見として、「線形価値モデル」の話がある。すなわち、それぞれのメリット、デメリットなどの「価値」の相対的な重み付けを設定して、選択ごとに自分の核となる価値について100点満点で採点する。
    この手法の有用性は相当に高いと感じる。あくまでダーウィンの選択の事例は個人の話だが、これは立場が異なり利害が衝突しやすい複数関係者がいる上での意思決定においても充分に使える。

    終章で書かれている話は「ああたしかに」と強く思う。それは何かというと「生まれてから四半世紀をすごした学校では、長い期間で意思決定そのものを教える授業はなかった」「学校で学ぶ価値がある」という話。それは本当にそうだ。
    個人として生きる上でも、あるいは集団や組織と関わって何かを行っていく上でも、どちらにおいても意思決定の技術は極めて有用だ。
    意思決定を学校で学ぶことは「科学と人文学の架け橋だ」と著者は言う。人生をアンサンブルシミュレーション(天気予報に使われる、条件を少しずつ変えたシミュレーションを多数行って確率的に何が起こりやすいかを計算する方法)は使えない。その代わりに、小説などの物語が使える。
    逆もまた然りで、科学的知見と手法のおかげで、意思決定にまつわる難題を定量的に描き出したことが、私達の認識を進歩させていく。
    科学と人文学は対立するものではなく、ともに使うことで私達の意思決定の質を高めていける。

    ★★★★★(5/5)

    世界が動いた決断の物語【新・人類進化史】 (日本語) 単行本 – 2019/3/27
    スティーブン・ジョンソン (著), 大田直子 (翻訳)

  • 20201122読了

  • <目次>
    序章   モラルの代数学
    第1章  マッピング
    第2章  予測
    第3章  決定
    第4章  グローバルな選択
    第5章  個人的な選択
    終章   うまくできるようになったほうがいい

    <内容>
    さまざまな決断の物語を取り上げながら、上手な「決断」の仕方を説く。第5章では小説を読み、「決断」を学ぶことが挙げられている。安直な解決策ではないが、最近小説をトンと読んでいないので、なんとなく「読まなきゃな」と思った。

  • 人生の岐路における悩ましい決断、世界の行く末を大きく左右する困難な政策決定を、間違えずに行うためにはどうしたら良いのか。本書は、マンハッタンのコレクトポンド埋め立て(失敗)、ワシントンのブルックリンの戦い(失敗)、ニューヨーク・メドー湖の浄化(成功)、ニューヨーク廃貨物線路高架橋の再生=ハイラインパーク(高架線路公園)(成功)、オバマ政権のビン・ラディン作戦(成功)などの事例を検証しながら、賢明な決断を行うための方法論を展開している。

    著者の結論は、平たく言うと、あらゆる影響を見極め、考え得る限りの選択肢を挙げ、各選択肢の効果を予測・評価した上で結論を下すべし、という至極当たり前のもの(もちろん、そのための方法論がとても重要なのだが)。そして、適切な判断材料をしっかり供給すれば、あとは人間の優れた脳が、そのデフォルトネットワークの働きにより賢明な意思決定を行ってくれる、と言い切っている(人間の脳力、そんなに優れているのか?)。

    マッピングや予測の方法論については、「インフルエンス・ダイアグラム(影響図)」や「死亡前死因分析」、「シナリオプランニング」、「線形価値モデル」などの手法を紹介している。また、個人なら自分の能力を過信せず自分が無知であることを自覚すること、集団なら同質な集団より多様な集団を構成することが、賢明な判断行うために極めて重要であることを強調している(「多様性は能力に勝る」)。この当たりは行動経済学と相通じるものがある。日本は同質性が高くて(ある意味)住みやすい国だけど、本書によれば賢明な判断を行い難い状況なのかな?

    得るものがあったような、それでいてなんだか消化不良で煙に巻かれたような。微妙な読後感。

    著者は、文芸小説やSF小説の価値・効用を繰り返し強く主張し、その中でもエリオットの「ミドルマーチ」を絶賛している。ドロドロした話のようだけれど、古典でもあるし、いずれ読んでみるか。

  • 前作ほどの興味深さを感じられなかった。テーマが普遍的だからか。

  • 意思決定論の歴史とまとめ。
    ここ数十年意思決定論が出ていて、カーネマンに代表される行動経済学から短期と長期の考えが異なり、歪みが生じるという理解が進んでいる。方法としてはディシジョンツリーや加重平均、スーパーコンピューターを使ったアンサンブル予報、死亡前死因分析、シナリオ分析、あるいはランダムテストがあるが、本当にその人にとっては一回こっきりしかないような結婚するかどうか?というものに資するツールかはよく考えないといけない。ここでは、温暖化、シンギュラリティ、エイリアンとの遭遇を超長期課題の例としているが、そのようなものに対しては、様々な角度、人、の深く長い分析討論が必要である。

  • 決断の技術を向上させるには、ストーリーが重要とのこと。その為には文芸小説が良いらしい。
    小学生の息子には沢山の本を読んでもらいたいです。

  • 序盤から中盤は退屈に感じた。
    5章でようやくこの本で言いたいことを理解でき,それまでが伏線だったことに気づく。
    せっかくためになる教訓を述べているのに,この構成は何だかもったいない。

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著者プロフィール

ライター。7冊のベストセラーがある。訳書は『イノベーションのアイデアを生み出す七つの法則』『ダメなものは、タメになる』『創発』『感染地図』など。

「2014年 『ピア』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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