EXTRA LIFE なぜ100年で寿命が54歳も延びたのか

  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (356ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784023319936

作品紹介・あらすじ

私たち人類は、100年で寿命を2倍に伸ばした。さて、この先はどうする? 医薬品、殺菌、安全な乗り物、飢饉の回避、統計データ解析……。名もなき人たちが奔走し、叡智を結集させて成し遂げたイノベーションの物語。【目次】序章 二万日第1章 長い天井 平均寿命の測定第2章 災禍のリスト 人痘接種とワクチン第3章 生命統計  データと疫学第4章 牛乳は安全  低温殺菌と塩素殺菌第5章 プラセボ効果を超えて  薬の規制と治験第6章 世界を変えたカビ  抗生物質第7章 卵落としとロケットそり  自動車と労働の安全第8章 世界を養う  飢饉の減少終章 ボーラ島、再び

感想・レビュー・書評

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  • 数十億人の命を救ったイノベーション
    化学肥料、トイレ・下水道、ワクチン

    数億の命を作ったのイノベーション
    抗生物質、二又針、輸血、塩素消毒、低温殺菌

    数百万人の命を救ったイノベーション
    エイズカクテル療法、血管形成術、抗マラリア薬、心肺蘇生法、インスリン、腎臓人工透析、経口補水療法、ペースメーカー、放射線医学、冷蔵、シートベルト

  • 序章 人類はどのように“二万日”を勝ち取ったのか?/第1章 「私はあとどれくらい生きられるのか」を知る方法ー平均寿命の測定/第2章 ひらめきを世界に普及させる方法ー人痘接種とワクチン/第3章 生死を分ける数字を探す方法ーデータと疫学/第4章 青い牛乳に殺されない方法ー低温殺菌と塩素殺菌/第5章 大規模な薬害を起こさない方法ー薬の規制と治験/第6章 世界を変えるカビを大量生産する方法ー抗生物質/第7章 卵を屋上から落としても割れないようにする方法ー自動車と労働の安全/第8章 土とヒヨコの力で世界を養う方法ー飢饉の減少/終章 寿命を縮める「災禍のリスト」

  • 進歩はたんなる科学的発見の結果ではないというのが、本書の主題。
    パスツールが低温殺菌を発見して、それが実用化されるだけでも50年かかっている。
    まるまる半世紀の間に、どれだけの子どもが命をなくしたか。
    そう、19世紀初期の牛乳を飲むことは、かつてないほど命取りな行為だったのだ。
    科学だけでは世界を改善することはできない。
    本書で取り上げる長寿化への貢献も、専門家ではない人たちによる、積極的活動や政治的策略などの闘争が不可欠だった。
    天才の物語だとされていたのが、実は素人たちの無数のネットワークと共闘の話だったのだ。

    人類はたった1世紀で平均寿命を2倍に延ばした。
    長く生きれるようになったのではなく、ただ乳幼児が死ななくなったからだ。
    全人口のうち、生後5ヶ月や5歳で死亡する割合が高ければ、その死亡が全体の平均寿命を大幅に引き下げる。
    しかし、そうした子どもの大半が大人になるまで生き延びれば、平均寿命は急上昇する。

    人口の約三分の一は、旧石器時代でも、17世紀のロンドンでも、大人になる前に死亡していた。
    平均寿命35年というのは、長らく破れない天井だった。
    それは貴族階級であろうと、労働者階級であろうとも同じだったのだ。

    平均寿命を延ばすためには、先進的な医療や薬が欠かせないと思われるが、それらはある時期、命を縮める作用しか果たしていなかった。
    とりわけ上流階級が庶民より長生きし始める前の1世紀においては、貴族の寿命は庶民より短かった。
    金銭的な余裕があり、医療を利用しやすいはずなのに、水銀やヒ素、ヒルを用いる「英雄的治療」によって命を縮めていたからだ。

    19世紀後半にイギリスの人口が倍になった要因は、出生率の増加によるものではなく、乳幼児の死亡率の低下にある。
    では、その死亡率の低下の要因は、医療の進歩によるのか?
    違う。
    医学的な介入の影響は限定的で、生活水準の向上の効果の方が大きかった。
    むしろ、医療のお粗末さは第二次世界大戦終了時点でも相変わらずで、愚行と言ってよいほどで、何もせず生来の免疫力に期待した方がはるかにマシな状態だった。
    同様に、20世紀前半まで薬もお粗末そのもので、効能不十分のものがたくさん出回っていたし、中には明らかな毒もあり、たくさんの患者が亡くなっていた。
    薬がついにただのプラセボ効果以上のものから脱したのは、抗生物質の登場からで、これこそ平均寿命という観点で掛け値なしにプラスの力を与えた立役者だ。

    天然痘ワクチン開発におけるブレイクスルーは、ジェンナーの突然のひらめきによってなされたのではない。
    そもそもイギリスでは人痘接種が普及していたため、古くからの原理を利用して牛痘接種を試みるのに、何ら飛躍はなかった。
    ただし、もしメアリー・モンタギューの夫がトルコ大使に任命され、彼女が彼の地を訪れなかったら、その後の歴史は大きく変わっていたはずだ。
    レディ・モンタギュー。
    ロンドン上流階級への影響力を持っていた彼女が、つなぎ役と伝道者の役割を果たした。
    彼女がトルコから持ち帰った奇跡の治療法の噂は、貴族の間で瞬く間に広がった。
    決定的だったのは、その後で王室でも接種が進んだことだ。
    上流階級が人痘接種を採用したことは、人間の平均寿命に大きなインパクトを与えた。
    医学史に果たした役割を考えると、従来の進歩や発見の物語とは異なっているのがわかる。

    ブレイクスルーを起こすためには、アイデアそのものと同じくらい、アイデアを伝える代弁者が必要なことがよくわかる。
    アイデア自体に社会を変えるほどの力はない。
    必要なのはそのアイデアが広いネットワークとつながっていること、聡明で影響力のある若い女性の目にとまることが重要だったのだ。
    新しいアイデアは、彼女のような「つなぎ役」兼「広め役」によって、境界を越え社会に根付くことが出来た。
    つなぎ役に地位の高さは関係なく、かつては奴隷が務めたこともある。

    もう一つ重要なことは、彼らが医療の専門家ではなかったという点。
    伝道者は、科学者や医者に限らない。
    アメリカにおいては、トーマス・ジェファーソンが大統領という職務の副業的に、イギリスにおいてはチャールズ・ディケンズが、大衆紙で熱心にワクチン接種を訴えていた。
    義憤にかられたせよ、捏造に近いセンセーショナルな暴露記事を書くジャーナリストも関わっていた。

    歴史を紐解いていくと、しばしば問題を解決する方法が、視点の転換、つまり問題の捉え方を変えることによって、次の進歩が生まれていることがわかる。
    例えばワクチンの集団接種についても、限られた供給量から背に腹は変えられず限定的なものにせざるを得ず、じゃあ仕方ないからと、発生源を取り囲むような包囲接種が生まれた。
    このアプローチは今から見ると、当たり前のようだけど、ジェンナーの時代には想像もつかないものだった。
    患者個々人の身体から離れて、感染の広がりを鳥瞰図的に捉える疫学者の視点が必要だったのだ。

    ペニシリンの話はふつう、フレミングによる偶然の発見の物語とされているが、実はかなり大掛かりで計画的な調査の物語でもあった。
    スーバーで腐った果物を見つけては買っていく謎の女や、アメリカ軍による史上最も壮大な「干し草の山で一本の針を探す」的な土壌採取作戦など、背後には実に複雑な物語が隠れている。

    ペニシリンの最初の被験者は、庭いじり中にバラの棘が原因で感染症に罹患した警官だった。
    投与から、ホラー映画の逆再生のようにみるみる症状が改善したが、やがて死んだ。
    なぜか?
    命を救うために必要な十分な量がなかったためだ。
    生産規模の問題は、実験室では解決しない。
    しかし真に革命的な特効薬となるためには、欠かせないピースだった。

    フレミングは発見者ではあるが、ペニシリンの開発者ではなかった。
    というかむしろ彼は、その可能性を完全には理解しておらず、細菌を殺す力を確認する基本的な実験すら行っていなかった。
    主役は天才や偉人なのか、それともネットワークなのか?
    あるいは偶然の発見なのか、計画的な調査によるものなのか?
    顕微鏡を覗き込む天才が、アメリカの資金や軍、政府、トウモロコシなどとつながらなければ、実験室のカビは奇跡の薬に変わらなかったのだ。

    それともっと重要なのは、ペニシリン開発における戦争との関わりだ。
    平時においてこのイノベーションは果たして生まれただろうか?
    いわばかつてないほど必要にされた時だからこそ、生まれたとも言える。
    ナチス・ドイツも奇跡の薬を求めていたが、結局彼らには作れなかった。

    ナチ党幹部のハイドリヒは、チェコで暗殺者の手によって命を落としたとされているが、実は彼の負った傷は致命傷ではなかった。
    医者も完全に回復すると楽観視していたのだが、傷の一部に、車のシートの布地に使われていた馬の毛が入り込み、そこから敗血症を起こして死んだのだ。
    ハイドリヒの命を奪ったのと同じような致命的な感染症に、実はヒトラーも罹りかけたのだが、結果的にアメリカ兵捕虜が持っていたペニシリンによって救われている。

  • 想定された内容ではあるのですが、きちんと順を追って書かれているので、基礎理解に役に立つと思います。寿命というある意味極めて個人的な問題を扱いながら統計的に考えてゆくと世界全体を、そして未来までを見通し、さまざまな問題があぶりだされ組み合わさって新しい世界観に意識が向いてゆく、そんな著書だと感じました。

  • 感慨深い、最後に書いてあるけど。寿命が伸びて人口が増えて経済発展し、それがゆえの危機的状況。グレートリセット!

  • 女子栄養大学図書館OPAC▼ https://opac.eiyo.ac.jp/detail?bbid=2000057350

  • 子どもが死ななくなった。
    天才 X ネットワーク、データ
     1968年 カラハリ砂漠 狩猟採集民クン人の年齢 相対的に年上年下はわかる
      平均寿命35年と想定 青年期を乗り越えれば60代までは難しくはない
     17世紀 ロンドンも同様に35歳
     18世紀 天然痘 オスマントルコに赴任した貴族から伝わった人痘接種で改善
        免疫学の父 イギリス人 ジェンナー 牛痘接種で死亡率低下のデータ
     19世紀 アメリカで接種法律化 公的機関WHOへ発展 1979年天然痘根絶
       工業化の最初の数10年 寿命低下 地図データ分析で上下水道が原因
       牛乳のパスツーリゼーション(低温殺菌) 水道水の塩素殺菌
       100人に60人しか大人になれない → 現在99人
     20世紀 インド、バングラデシュ 点滴よりも経口補水液 水と砂糖と塩
       薬がまだ水銀とヒ素を基本とする18世紀からの偽りの治療薬 
     20世紀後半 薬、タバコの法規制 RCT試験
       1928年 抗生物質ペニシリン フレミングの発見→判定→市場

    機械による事故
     鉄道から20世紀の自動車(戦争の3倍の死者)へ
     人間は「パッケージング」によっては200Gの衝撃でも生き残る 
      フォード 安全装備は商売にならず
      ボルボ 1959年 3点式シートベルト(サーブ航空機技術者)事故死者75%減
     アメリカ 10万マイル当たりの死者 6人/1955年→2人弱/2010年~
      1966年シートベルト義務化、制限速度低下で3人台に
     倫理の問題 自動運転のクルマは誰の命を優先するか?

    隣接可能領域
     イノベーションが意外な別分野と隣接しているようには見えない
      ワイン醸造用のネジプレスからグーテンベルクの印刷機  土は化学工場

    飢餓 
     戦争による外国の食物買い締めによる東洋の餓死 当時の戦争の死者を上回る
     19世紀 農業の改善 エネルギー革命(カロリー)
      1980年からの40年 500万人、その前の40年間 5000万人
      10万人当たりでは1915年ペルシャ大飢餓 82人から 近年0.5人へ 
     硝酸アンモニウム
      硝酸塩 硝酸カリウム:火薬、硝酸アンモニウム:肥料 空気から窒素を分離
     鶏肉 工業式畜産  鶏卵から食肉へ 
      鳥類の半分以上230億羽が生息、600憶羽を生まれて2,3カ月で食べる
      鳥インフルエンザのリスク 人間よりも鶏の監視
     
    イノベーション
     民間企業から生まれていない、民間の生産と流通基盤で広く採用
     数十億の命: 化学肥料、トイレ下水道、ワクチン
     数億の命 : 抗生物質、二又針、輸血、塩素消毒、低温殺菌
     数百万の命:
     エイズカクテル療法、麻酔、血管形成術、抗マラリア薬、CPR、インシュリン、
     人工透析、携行保水療法、ペースメーカー、放射線医学、冷蔵、シートベルト

    農業社会、工業社会の黎明期で命を縮めた次の可能性は、工業社会の環境への影響
     バングラデシュのボーラ島
      天然痘を没滅から数年後、洪水により、現在は海面上昇で失われている 

  • 請求記号 490.2/J 64

  • 5月新着
    東京大学医学図書館の所蔵情報
    https://opac.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/opac/opac_link/bibid/2003604276

  • 寿命の延び(=ゼロ歳の平均余命の延び)は乳幼児死亡率の劇的減少(20%→1-2%)で起こった。20世紀の前半まで子供の何割かが大人になる前に死んでいた。その子供たちがほぼ成人になり生殖して子供を作る、この部分で人口爆発が起こった。本書はこの事実をメインに据えながら、それをもたらした、あるいは補完したイノベーションを8つ取り上げる。

    第1章  平均寿命の測定ーそもそも原初、寿命はなぜ短かったのか、それを記録し平均寿命という概念ができる。そこから平均寿命の差は乳幼児死亡率の差であることがわかる。

    第2章  人痘接種とワクチンー乳幼児はなぜ死んだのか。これは端的に感染症が原因だ。特に天然痘が重大な死因だった時代は長く続いた。中国やインドで行われていた人痘接種をメアリー・モンタスキューがイギリスに持ち帰り、それがジェンナーの牛痘につながり1979年の根絶宣言に到る。

    第3章  データと疫学ー工業化し人口密集した都会でのコレラなど不衛生に由来する感染症を細菌学以前の社会で激減させたのは発生のデータと疫学。ジョン・スノウの井戸汚染の発見から上下水道の分離につながる。

    第4章  低温殺菌と塩素殺菌ー都市化にともなう牛乳の産業化と汚染牛乳死。天然牛乳信奉を打破する啓蒙と低温殺菌法の義務化。飲料水の塩素消毒。

    第5章  薬の規制と治験ー法規制がなかった製薬産業のせいで薬剤死が頻発。1950年頃まで野放し。サリドマイド事件(アメリカはFDAの厳格さで救われる)後に、薬剤の安全性、さらには効能を証明する義務を制度化、その手段としてのランダム化比較試験(RCT)の定着。

    第6章  抗生物質ーフレミングの発見からフローリーとチェーンによる実用化。第二次世界大戦の戦略物質となり米英の勝因の一つにも。

    第7章  自動車と労働の安全ー自動車事故死が普通に起こっていた時代(ジェームス・ディーンや赤木圭一郎の時代)、鉄道労働者の事故死。ボルボが三点式シートベルトの特許を開放し自動車事故死は75%減少。安全社会へ。

    第8章  飢饉の減少ー1940年頃の大飢餓時代。土壌の窒素循環への気づき、鳥糞や魚肥の時代を経て、1908年のフリッツ・ハーバーが発見した窒素固定法から化学肥料による農業の大増産。タンパク源は1920年代、偶然にはじまったブロイラー農業による鶏肉の時代。

    著者によるまとめでは

    数十億人の命を救ったイノベーション

     化学肥料・トイレ/下水・種痘とワクチン

    数億人の命を救ったイノベーション

     抗生物質・二股針(種痘の普及)・輸血・塩素消毒・低温殺菌

    数百万人の命を救ったイノベーション

     エイズカクテル療法・麻酔・血管形成術・抗マラリア薬・CPR(心肺蘇生)・インシュリン・人工透析・経口補水療法・ペースメーカー・放射線医学・冷蔵・シートベルト

    しかし、よかれと思い進んできた寿命の延長の果てにある、人口爆発とそれにともなう気候変動、地域紛争。そもそも、人間になるまでの遺伝的進化の結果が20%の乳幼児死亡率を織り込んだ狩猟採集生活であったとすれば、乳幼児死亡の激減と定住化農業・商業・工業がもたらした超長寿の現在の高齢者が求めるものが、狩猟生活時代では当たり前だったピンピンコロリだという矛盾。なかなか考えさせる。

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著者プロフィール

ライター。7冊のベストセラーがある。訳書は『イノベーションのアイデアを生み出す七つの法則』『ダメなものは、タメになる』『創発』『感染地図』など。

「2014年 『ピア』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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