- Amazon.co.jp ・本 (362ページ)
- / ISBN・EAN: 9784037269807
作品紹介・あらすじ
黒人の少年ラシャドはポテトチップスを買いにいった店で万引きを疑われ、白人の警官から激しい暴行を受け入院する。それを目撃した白人の少年クインは、その警官が友人の兄のポールだと気づき現場から逃げた。事件の動画がテレビやネットで拡散し、ラシャドとクインが通う高校では抗議のデモが計画され、2人はそれぞれの人間関係の中で、揺れ動く自分の心をみつめることになる。
事件の当日からデモが行われるまでの8日間を、黒人作家のレノルズが黒人の少年ラシャドの視点から、白人作家のカイリーが白人の少年クインの視点から交互に描き、まさにアメリカの今を映し出す感動作。
ブラック・ライブズ・マター(BLM)の運動が大きなうねりとなっている全米で30万部を突破。
ウォルター・ディーン・マイヤーズ賞、アメリア・エリザベス・ウォールデン賞受賞作。ニューヨークタイムズ・ベストセラー。
感想・レビュー・書評
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ジョージ・フロイドさんが「I can’t bleathe」という言葉を残して亡くなった事件を発端に大きなうねりとなったBLM運動。
日本でも多くのメディアで取り上げられているが、アメリカの黒人高校生の身に似たようなことが起こったら…という視点で描かれている物語。
他の方のレビューでも書かれているが、黒人の高校生ラシャドの物語を黒人作家であるジェイソン・レノルズが、白人の高校生クインの物語を白人作家であるブレンダン・カイリーが書いている。
同じ地域に住み、同じ学校に通い、共通の友人が開くパーティーに参加しながらも、それぞれが属するコミュニティは全く違う。
ラシャドは、絵が好きないたってまじめな高校生。
友だちと会う約束の前に、立ち寄った雑貨店で、リュックの中の財布を探そうとしゃがんだところに、運悪く白人の年配の女性が転んで倒れ掛かる。
それを見た店員が、ラシャドに万引きの疑いをかけ、話も聞かず通報してしまう。
駆け付けた警官は、店の前でラシャドに必要以上の暴力をふるい、ラシャドは意識を失い病院へ運ばれる。
その現場をたまたま通りがかった、同じ高校に通うクインが見てしまう。暴力をふるっていた警官は、幼なじみグッゾの兄、ポールだった。
アフガニスタンで戦死した軍人だった父親は、地域の英雄。しかし父親の不在はクインの家族にとっては厳しい現実。そんな日々で、クインに兄のように接し、バスケットボールを教えてくれたのもまたポールだった。
本のタイトルにもなっている「オール・アメリカン・ボーイズ」とは、「全くアメリカ人らしい(白人の)少年たち」という意味合いで使われるそうだ。
我々外国人は、目にする情報だけで白人、黒人をカテゴライズしがちで、それも大きな問題であるが、アメリカの人々自体が、この言葉に象徴される呪縛にとらわれていることも、読み進むにしたがって見えてくる。
物語の終盤で、クインもラシャドも自分の行動を決める時が来る。
心に残ったフレーズを以下にあげるが、彼らの行動を変えるキーワードにもなっている。
「言うって、なにを?しっかり、しゃんと顔をあげなさいって?それを言ってどうなるのって、あなたを見たときに思ったわ。人間以下の扱いをされた人には、なによりもまず人間として接してあげなくちゃって。気持ちを楽にしてあげたかったら、たんに被害者扱いしちゃいけないわ。あなたはあなた、ラシャド・バトラーでしょう。なによりもまず」p.276フィッツジェラルドさんの言葉。
忠誠や誠実が大事なんじゃない。なにを信じて、なにを守るために立ち上がるかってことが大切なんだ。p.305クインの言葉
"不正が行われているときに中立であろうとするならば、抑圧する側に立つのを選んだことになる"p.330南アフリカで人種差別と闘ったデズモンド・ツツの言葉を引用して。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
抵抗しない、口答えしない、黙って手を上げたまま、言われたとおりにする
これが、黒人が安全でいるために、親から子へ伝えられる言葉だと書かれていました。こんなことを教えないといけないなんて・・・
黒人の子が万引きを疑われ、居合わせた警官に拘束された。
身動きができない状態で殴られ、地面に叩きつけられ、重傷を負う。
その子は、チームメイトの友だち。
殴った警官は、頼りにしてる優しい近所のお兄さん。
なんでこんなことに!?
人種差別を感じていなかった子どもたちの間でも混乱が広がり・・・
黒人の子ラシャドのパートを黒人作家が
白人の子クインのパートを白人作家が描くことで
それぞれの家庭の実態まで伝わってきます。
幾度となく繰り返されるこの問題を、肌で感じられるストーリーでした。 -
ラシャドはバスケが好きで家では反抗期の普通の少年だ。
週末のパーティーに出席する前にポテチとガムを買おうと立ち寄った店で、警官に暴行を受ける。
警官は白人で、ラシャドはアフリカ系アメリカ人だった。
クインはラシャドと同じバスケチームだ。そんなに言葉を交わした事は無いけど。
事件の起きたとき、現場でその様子を見ていた。
警官は親友の兄貴で、いつも面倒を見てくれていた自分のヒーローだ。でも、少年を殴っている姿は、ただ恐ろしかった。
学校も町も、国中が真っ二つにわかれる。
ラシャドは病院の中から、問題が大きくなっていくのを眺めるしかなかった。あれは、自分なのだろうか。家族も元警察官の父と母、差別に憤る兄と、意見がバラバラだ。
クインは、親友と学校とバスケチームのことと、自分が見たものと自分がどう行動するかで悩み続ける。
実際の事件と社会問題を背景に、黒人作家と白人作家がパートを分けて書いたYA 小説。
〇ラシャドのお父さんは社会に心を折られたのだろうかと思っていたら…。苦しかったのだろうけど、本当に向かい合ったのは息子の事件があってだったのかもしれない。ラシャドがダーネル・シャックルフォードの為に決心したことをいつか話し合えるといいな。
〇グッゾとポールについても、もっと知りたかった。いつか、ラシャドが生きていて良かったと思ってくれたらいい。
〇日本についても、たくさん考えさせられる。クインもラシャドも、ポールも皆いるから。
〇尻もちをついた女性が、その場で説明してくれたら…と、思わずにいられない。騒ぎにならなければ、出てこなかったのだろうか。 -
黒人作家レノルズと白人作家カイリーが、それぞれラシャドとクインというふたりの主人公の視点から交互に話をすすめていく作品。原著は2015年。BLMのきっかけになる事件が全米各地で起きたころに書かれた作品で、レノルズに関していえば、2019年に日本で出版された『エレベーター』や『ゴースト』よりも先に書かれている。
物語自体は、ラシャドが身に覚えのない万引きを疑われて警官から過度な暴行を受け、それを目撃していた白人少年クインは、その警官がふだんから親切にしてもらっている近所のお兄さんだと知って思い悩み……という、ある意味図式的な展開。でも、少年たちふたりと、その学校や友人たちの状況がとてもリアルに描きこまれているので、こういうことは至る所で起きているのだろうと納得できた。
ラシャドの父さんの告白が衝撃。隠しつづけて、息子達にたいしては強くて正しい父親を演じてきたことを、かなぐりすてたのは勇気ある行動だった。そしてラシャドと看護師さんや、病院の売店のおばさん、そして例の白人の女の人とのやりとりやなんかは、ジェイソン・レノルズの面目躍如で、こういうふうに頼れる大人が登場するのはとてもいい。
警官のポールに関していえば、「いい人」でも暴力的になりうるし、それが「正義」だと信じこんでいれば、いくらでも正当化しようとするというのが、こわい。ここ最近のニュースやSNSで、そういう人たちをたくさん見るし。どうすりゃいいんだろうね。 -
黒人差別に関する小説だが、高校生目線で描かれているのでとても読みやすく、あっという間に読み終わった。
黒人差別という問題を黒人社会と白人社会の2つ面から描かれていて、個人的にはとても新鮮だった(ニュースなどで目聞きする話は基本的に黒人目線での差別の実態に関することが多いが、白人社会の反応はあんり報道されていない印象)。
主人公は白人と黒人の高校生ということもあり、いい意味で社会に染まっておらず、「差別」を体感したことがない。二人は同じような生活をしていたが、事件後の二人を取り巻く環境の変化が対照的に描かれている。周囲の環境の変化に葛藤する姿はとても感情移入しやすい。
差別はダメとこの世の人は全員わかっているし、世の中をよくしたいという気持ちはみんな共通なのに、差別はなくならない、、、、差別とは目に見えない構造上の根深い問題であることを実感できる作品だった。
特にあとがきのタイトルの意味に関する記述も面白いので是非最後まで読んで欲しい。
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多様な国家アメリカについて、日本でも黒人差別が話題になることはしばしばあるが、身近な事として捉えることが出来ない人が大半ではないだろうか。日本においても差別というものは存在していると思うが、この本に書かれている通り、何もしない事も差別の一端を担っているかもしれないという事を理解すべき。
一人一人がなせる事は小さな事かもしれないが、小さな事の積み重ねが大きなうねりとなり、世の中を変えるなんてことはざらにある。
この世に生を受けたからには、何かを成す事を求められていると思う。歴史に名を残すほどの偉業を成し遂げるというのとは違っても、家族、友人、仲間に支えられ、時には支え、お互いに力を合わせてよりよい人生を送る事が出来ると幸せだ。
異国の物語としてではなく、日本も人口減少社会を迎える中、コロナにより少し沈静化しているが多様な人々が一緒の空間で過ごすことが増えるだろう。また働き方改革という名の下、ワーケーションという言葉も浸透しつつある中、異国で暮らすというスタイルを選ぶ人も増えるだろう。そんな方々は差別を受ける側に回るかもしれない。受容性の高い、相手を受け入れる度量のある人間に少しでも近付けるように心掛けることで、世の中の前向きな変化に貢献できるといいな。
より良い世の中への一歩としてこの本を紹介したいです。 -
令和3年度神奈川県児童福祉審議会推薦優良図書
気になっていたけど後回しにしていた本。アメリカの若者達、黒人が不当に扱われている実情が綴られていました。話は高校生十六歳の黒人ラシャドと白人クインが交互に語って進みます(著者も二人で執筆)。二人は同じバスケットチームに所属していますが、さほど仲良くはしていません。ある日ラシャドは店内トラブルに巻き込まれて不当に逮捕されます。しかも、死ぬかもしれないほどの暴力を受けて…。クインはその現場を目撃しますが、ラシャドには気づかず、警官の方が自分に親切にしてくれた、これまたチームメイトの兄だと気付き、その暴力に恐ろしくなってその場から立ち去るのです。その日からデモまてが語られます。
数字は嘘をつかないと数学の先生が語った話が印象的でした(P291)。2012年イギリスで警察に射殺されたのは、人種問わず一名。(略)アメリカでは2012年までの連続七年間、毎週ほぼ二人の黒人が白人警察に殺されている。
七十四のおばあさんは公民権運動を経験している。差別もリンチもせんぶおぼえてる。選挙にだっていけなかった(P278)。というのにも驚いた。ほんとうについ最近まで人権どころの話じゃない扱いだったのだ。
アメリカ、問題は根深い。
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2月はBHM・ブラックヒストリーマンスだったので積読になっていたこの本を読みました。ヤングアダルトということでなんとなく読むのを後回しにしてしまっていたのですがとにかく素晴らしい一冊でした。
男性作家の作品を女性翻訳者が手掛ける、または女性作家の本を男性翻訳者が訳した文芸作品に名作は無い、というのが長年の読書経験から得た自分の持論なのですが、この翻訳者の方の仕事は素晴らしかったです。正直、最初はちょっとこれ受け付けないかなぁと思って読み進めていたのですが、黒人の若い男の子の会話やノリやカルチャーが本当にとても上手く表現されていてとてもリアルでした。そのおかげでこの物語の核心である暴力や差別などもリアルなものとして感じられました。英文で読んでもこんな感動は無かったと思います。この翻訳者さんの次回作は発売日にリアルタイムで読もうと思いました。
BLM運動、日本ではなんでもいいから反日反米したい左巻きの人達と中国人が結託していたのが分かりやすくバレていて盛り上がりもなく冷笑しかされませんでしたね。でもアメリカに住んでいたことがある人なら誰でも分かると思うのですが、アメリカの警官って本当にひどいんですよ。日系コミュニティはホームレスのいない唯一の人種コミュニティという事である程度の知識層の人達からは日本人もリスペクトを受けますが、白人警官には通用しません。他人事ではないんです。まして奴隷だった黒人には本当に何してもいいと思っている、これは警官だけではなく、カレンと呼ばれるババアでも知られる通り白人全体にある。日本人で言えば、都心で関西弁喋ってる奴はとにかく職質して全員殺してもいい、みたいなノリですよ…自分も嫌な思いしたことあります、そういう意味でもNYやLAに住んでいたことのある知り合いにこの本を勧めました。
おじいちゃんやおばあちゃんの作家が書いた本や古典以外の新刊の翻訳書が年々手に入らない時代になってきているのが本当にさみしいです。このようなカルチャーを知ることができる新刊が沢山翻訳される事とこのような素晴らしい翻訳者の仕事が増える事を願っています。 -
ラシャドとクインの二人は、年齢や家庭環境では大きな差がなく言葉遣いも同じような感じがして、他の登場人物も名前から白人なのか黒人なのか、それ以外の例えばヒスパニックのような人達なのか分かりませんでした。けれどもそれは現在のアメリカの高校生らしさは人種や肌の色で違わないということを表現しているのかなと思いました。
物語が進むにつれ、それぞれ黒人として白人として求められる生きづらさが描かれ、二人の生きてきた道に差があることから、はっきりと二人の姿が想像でき、それぞれの意識の変化を心強く感じることができました。
日本は、人種がアメリカのように多様ではありませんが、性別や障害の有無、経済格差などいろいろと分断されるようなことが多いように思います。この本を読んだ子ども達が、アメリカの話と思わずに自分の身近にも同じようなことがあると思って、考えようとしてくれたら良いなぁと思いました。