- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784040727943
作品紹介・あらすじ
「私」がこの世界に転生した理由を知った。けどだからって生活が急変するわけもなく、「私」は今も魔族領で力を取り戻すことに専念している。で、その一環として大量製造した偵察蜘蛛を世界中に解き放ってみたら、情報が集まるわ集まるわ……お、反乱を目論む魔族ども発見!
人族との戦争を控える「私」と魔王は、新・魔王軍結成へ向け粛正をおこなうことにした。けど、楽チンなお仕事のはずなのに、なにか引っかかる。この胸騒ぎはいったい……?
感想・レビュー・書評
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これはきっと、母たちの物語。そして誅するを知る虫。
ここまで表紙を彩ってきた主人公を探さなければ見つけられないという異色の構図からはじまる第十巻。赤が際立ち、血を連想させて実に目を惹きます。
とは言え、実際の本編で歴史の表舞台に立つのは恐怖の独裁者として君臨する魔王アリエル、我らが主人公は裏方に徹しているので扱い方としてはこうなるのかもしれませんね。
今回主人公が放った、文字通りの諜報網が敵の謀略の意図を逆用して切り崩し、そこからまた一ひねりして逆に釣り上げている様が鮮やかです。
魔王とはまさに役割分担で、また異なった主人公としての役割を果たしているというもので、これはこれでなかなか乙なモノ。権威と権力を負うことで話を早くしている一方、自身は動きづらくなっている魔王と、その陰に隠れることで目立たないうちに恩恵とフリーハンドを得た主人公、といったところでしょうか。
ところで虫の知らせじゃあないですが、九巻の不穏な引きからしてもあそこで主人公が動いていなかったら確実に主要人物の誰かに犠牲者が出ていたと思われます。
そのようななにかが十巻の流れにはありました。
目に見える敵のポティマスは性格的には見透かしやすい小物で、いやな意味での人間性の塊ではあるんですが、けっして馬鹿ではなく十分主人公サイドを崩せるだけの戦力を持っているっていうのが再確認できましたね。
その辺の危機感を主人公がすべて肩代わりしてくれて、読者たる私にも安心の吐息をつかせてくれました。
それと共に、敵の一部戦力と諜報の目を潰すと同時に、警戒心を解いて水面下で動いている何かの開発を遅らせる、むしろ油断を誘う。
結果論もあるんですが、敵をほぼ主人公の思惑通りに動かせる妙手を繰り出しつつ、あくまでも軽くお茶らけて見せる。
その上で、自身の存在を気取らせることなく事態を裏で動かしていた獅子身中の虫を取り込む。
いや、まだまだコミュ障で、天狗に見えてめっちゃ頭いいし油断しませんね、主人公。正直侮ってました。
それに、もうこの後に及んではいらないキャラ属性なコミュ障(笑)に拘ってらんねーや、みたいな? 開き直り始めたのが、なんか頼もしいです。これからも図太くたくましく生きてください。
最近の流れからするとこの人(?)が喋り出したら大体解決するみたいな雰囲気が作られつつあったのですが、その中で主人公の口下手はなんかシナリオ進行の枷みたいな扱いでした。
でも、やっぱり軽妙な心の声って衆目に発せられても楽しいんですね。勘違いなんていらない、積極的に自己を演出していけ、とでも言ったものか。
目に見える強さの成長から解き放たれたのなら、次は聴き取れる人間関係の構築だ! ってなものです。
それと、この世界における一般的な攻城戦とか「システム」の真実とか、特に後者、今後の展開を握る重要用語の説明がしっかりされているのも嬉しいところ。
思えばその辺、主要人物がなんとなく暗黙の了解で流していたからこそ、かえって説明がしづらくなっていたと思うんです。
ターニングポイントとなる七巻以降察してもらう形になっていたとはいえ、いまいちピンと来なかった読者も多かったんじゃないでしょうか?
ここで、一段上から世界を俯瞰できる立場になった主人公たちが現状確認するとともに解法を提案するって流れで、私自身もようやく腑に落ちた気がします。
ああ、あの村とかそういうことだったんだなって。
あと、主人公の本筋も動いてます。
特に「生徒名簿」まわりの描写強化が嬉しいです。
はた迷惑で、悪戯好きでそれでいて「魂」というすべてを与えながら放り出してくれた「D」。
翻っては「命」というすべてを守ってくれた「先生」と、対等の友人として接してくれる「魔王」。
人に喩えるなら遺伝子を提供しただけの冷たい関係と、本人にその気はなくても無償の愛と思いやりをくれた温かい関係との対比が効いてきます。
その中で主人公の過去のたったワンエピソードが明かされるんですが、ひどく簡素でそっけないのに逆に切なさが効いてくるというか。
時に、今までのレビューでこのシリーズ、何度もマイルストーンが置かれているって書いた気がしますが、ここ二桁目のこの巻、九巻で一区切りついた後の新展開のためには飛ばせないでしょう。
ぶっちゃけた話、自由に動けるようになった九巻、もっと言うなら一巻の時点から主人公が転生した世界のために動く理由なんてないんです。
けれど。別に頼まれていないのに汚れ役を負うことになるだろう主人公、「母」とさえ言える大切な人のために悪役、嫌われ役を演じる「魔王」のために動きはじめます。
ところで「母」は、作品冒頭をはじめ何度も用いられるフレーズだと思いますが、この巻での「子」のほっこりさせられる挿絵は白眉だと思うので読者同志には癒されてほしいです。
それに、母に手を伸ばす子という構図と挿絵が頻出しているのは、読者にまた違った母子の関係性を繰り返し想ってほしいからなのでしょうか。主人公も実年齢はともかく、貫禄ですね。とみに意識させられました。
それと同時、主人公はけっして人のそれとは比べられない複雑な生い立ちを持っていることを思い出します。思えば主人公、マザーを皮切りに「親」と呼べる存在が何人もいるのに、ここまでそういった関係とは無縁だった気がします。
寄る辺なくとも一人で生きていける心の強さを持ちつつ、ふと思い出すとゾッとさせられる「人外」の価値観を忘れさせてはくれませんから。
そのように読者を突き放す孤高な部分を核に置きつつ、同時に何のために怒るのか、何のために動くのか、って魂に似た「動機」を読者に提示してくれる。
それが「なぜか」と言えば「誰か」、はっきり言えば「先生」と「魔王」のためにという回答だったので、今巻は絶対に外せないと思います。主人公が魔王を通したように、読者も彼女たちの心情を理解でき、共感できた。そういうことです。
ああそう言えば、魔王自身も「母」としての役割を持っていましたね。それと「蜘蛛」というアイデンティティーを思い出させました。「蜘蛛」というはすなわち「誅」するを「知」る「虫」が語源ということで、ふたりは義憤を出しても誰からも何も文句の言えない立場にいる。
けれど、ここからは目に見える敵ポティマス以上に、犠牲を強いる世界とその構造「システム」、そして天秤にかけられる人命との心のせめぎ合いが重要になってくるのでしょう。
答えの出ない、少なくとも出にくい、小の虫と大の虫にどちらに泣いてもらうか問題、エンターテイメントから外せず、また外したい命題に対してどう挑むかを、楽しみにして続刊を待たせていただきます。
打算を弾きつつ、情は忘れない。そんな魔王と主人公に私は信を置いていますから。
人や他者の高潔さを理解してその姿勢に敬意を払うその姿勢を再確認させられた巻でもありましたから。だからこそ、そんな姿勢と無縁な方々に繰り出されるだろう扉絵(裏)が痛快なんですよ。
正直、曖昧な感想なのですが、ぱっと見のおちゃらけに隠された誠実な作風を感じ取れました。
魔王領での地歩固めという地味になりそうなパートを、本格的な戦闘抜きでよくぞここまで魅せてくれたという感想です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
分体づくりに励む蜘蛛子/時空間魔術も進歩/強力な情報収集能力を得、魔王軍の一部の反乱をいち早く察知/ラースが先生と出会う/特に目的のなかった蜘蛛子だが魔王と先生と世界を救うため邪神にだってなってやると決心。
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今回は、思いの外 重い内容のストーリー。
魔王一行の心身の成長も著しい。
シリーズ初頭の魔王軍バージョンの印象もかなり変わってきます。
はたして今後どういう展開になるのか楽しみ。 -
今回は魔族領内での内乱平定とエルフの関与の話
オカちゃんと出会った転生者達の決断は……
そして魔王が人族と戦争をする理由なども明らかにされつつ……
ようやく最初のころの閑話にあった転生者たちに追いついていくあたりは面白い
が、個人的にはあの閑話って必要だったのかというと非常に微妙
あと11巻以降新刊が手に入らないことかな
定価以上の中古はあるみたいだけど……
【以下再読のための備忘】
・魔王に笑って「白ちゃんありがとう!大好き愛してる!」って言わせるくらいの大団円用意してやらあ!
・実際に、よっぽどのことじゃない限り、魔王は泣かないと思う。そのよっぽどのことが、ここにはあったってことだ。
【内容:アマゾンから転記】
秘密も陰謀も全部まるっとお見通しだ! 蜘蛛子、スパイ活動に目覚める!
「私」がこの世界に転生した理由を知った。けどだからって生活が急変するわけもなく、「私」は今も魔族領で力を取り戻すことに専念している。で、その一環として大量製造した偵察蜘蛛を世界中に解き放ってみたら、情報が集まるわ集まるわ……お、反乱を目論む魔族ども発見!
人族との戦争を控える「私」と魔王は、新・魔王軍結成へ向け粛正をおこなうことにした。けど、楽チンなお仕事のはずなのに、なにか引っかかる。この胸騒ぎはいったい……? -
Dは冥府関連の人なのか。仕事うっちゃってプレイヤーたちは命がけのゲームしてたのね。魔王の母?サリエルが天の声でしたか。意識奪われてる感じだよね。で、本編はここで止まって、外伝っぽいのが2冊出てるのか。続き気になるけど、白ちゃんが本気?見せたあたりを再読するかなぁ。
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またまた面白かった。オカちゃんの魂に絡むものを想像してゾワーっとした。ほんとポティマスはいいヴィランだと思う。色々と面白いイベントがあって、白ちゃんが一皮も二皮も剥けていくのが非常に読み応えある。ただ、初期の頃のレベルアップとかステイタスを眺める楽しさが減ったのが寂しい。
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悲劇のヒロインは魔王アリエル。システムの構築に身を捧げた女神サリエルを救うために進む。
蜘蛛の白ちゃんはお助けキャラ?