- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041134818
作品紹介・あらすじ
下関に到着した連絡船から、みすぼらしい老人が降り立った。 ハハハ。イヨイヨ人間レコードを使いおったわい――。 老人には前代未聞の人体実験が施されていた。 美しく、妖しく、甘やかな短編の数々。
感想・レビュー・書評
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夢野久作は短編集をあちこちで読み散らかしているのでどれが既読がわからなくなるのだけれど、最近文庫になったこちらはどうやらほぼ未読の作品ばかりで良かった。
「笑う啞女」は、ザ・久作テイストな田舎を舞台にした狂女もの。似合いの若く美しい新婚夫婦、その婚礼の日に花婿の前に現れたのは、行方不明になっていた啞女。どうやら彼女は妊娠していて…となればオチはもうお約束。
「巡査辞職」も似た感じの舞台立てで、主人公は事件を捜査する巡査になっているけれど、白痴めいた美女をめぐって殺人が起きるあたりはいかにも久作。表題作はスパイもの?で、人間の脳にデータを直接書き込んで送り込むというあたりディストピアSF風でもある。
「超人鬚野博士」は、『犬神博士』にも通じる狂人博士(自称)もの。奇想天外でエンタメ性があり面白かった。
※収録
笑う啞女/人間レコード/衝突心理/巡査辞職/超人鬚野博士 -
久しぶりに夢野久作さんの世界に浸れました。
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独特な文体は相変わらずですが、ご近所トラブル集と思えなくもない。
■笑う啞女
若い医師と才媛の婚礼の宴席に、頭のおかしい女が現れる。女の笑い声の執拗な描写が怖い。「エベエベ、ケケケ、アワアワ」
■人間レコード
東亜の戦時中が舞台。人体そのものを暗号情報に仕立てられた老人の末路。
本当の共産主義は「他人の物は我が物、我が物は他人の物」、志那の共産主義は「他人の物は我が物、我が物は我がの物」というジャイアン思想の一説が印象的。
■衝突心理
川崎でのトラック衝突事故。対向車がいるときのハイビーム問題。ラストでチョイドンデン返し。飲酒運転は危ない。 -
『人間腸詰』より身近な事件が多い。その分、共感しやすくて嫌な気持ちにもなりやすい。(褒めてる)
『ドグラマグラ』みたいな大作もいいけど、『笑う唖女』『巡査辞職』のような小市民の過ちが引き起こす事件もいい。 -
夢野久作さんの作品は、良し悪しが分かれる。これはインパクトとしては普通かなと。
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一番最初の「笑う啞女」が特に夢野久作って感じがした。
絶対に言えない秘密を抱えながら、その秘密を唯一知っている(というか当事者の)啞女に付き纏われた挙句のラスト。怖い。 -
夢野久作といえば『ドグラ・マグラ』。そんな雰囲気をまとった夏にぴったりな回帰短編集ということでうっかり買ってしまった。
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文明が成熟する過程でこぼれ落ちる,もしくは見て見ぬふりをする,人の持つ猟奇性を様々な形で描き留めることが夢野久作という作家の作品を紡ぐ動機だったのかも知れない.幻想文学に含まれる暗黒性に光を当てるこのような行為は,澁澤龍彦に通じるが,オブラートに包まず直截的でなければ意味がないという強い意志を夢野作品群からは感じる.