大鏡 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 (角川ソフィア文庫 87 ビギナーズ・クラシックス)

制作 : 武田 友宏 
  • 角川学芸出版
3.68
  • (6)
  • (28)
  • (16)
  • (2)
  • (1)
本棚登録 : 256
感想 : 23
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (290ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043574247

作品紹介・あらすじ

老爺二人が若侍相手に語る、道長の栄華に至るまでの藤原氏一七六年間の歴史物語。華やかな王朝の裏の権力闘争の実態や、都人たちの興味津津の話題が満載。『枕草子』『源氏物語』への理解も深まる最適な入門書。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 平安という時代、そして『枕草子』や『源氏物語』に興味を持ち出してから、あちらこちらで参考文献として『大鏡』を目にする機会が増えました。
    『大鏡』ってどんなお話だろう。物語系、それとも、史実系かな。恥ずかしながら全く知識がありません。だけどそんなわたしにも、ちゃーんと強い味方がいるのですよ。じゃじゃーん、「ビギナーズ・クラシックス日本の古典」です。古典を楽しく読むために最適な入門書シリーズ、今回もお世話になりました。

    『大鏡』とは、「時の最高権力者である藤原道長の栄華を讃える目的があったといわれ、そこに至るまでの政界の動向、および個々の政治家の言動を、ありのままにえぐりだして、人々の前に提供されたもの」なのです。
    なるほど。だから一条天皇の中宮・定子の私的女房として仕えた清少納言や、藤原道長の要請で宮中に上がり、中宮・彰子の家庭教師も務めた紫式部のことを知ろうとすると、『大鏡』が参考になるわけね。

    「国家の機密情報や、政治家の我欲にまみれたスキャンダルなど、政界の内部告発の書」となっている『大鏡』は、お寺に集まった人々(庶民)が、老翁・大宅世継(なんと190歳!)から歴史の講釈を拝聴する形をとっています。
    当時のお寺は地域最大のコミュニティ。人々はここに集まっては、さまざまな情報交換をしました。もちろん、そこには政治・経済に関する情報もありました。
    要するに、『大鏡』は「庶民のために庶民の目線で書かれた」ものなのです。
    意外と貴族と庶民の垣根って低かったのね。ていうか、そんなゴシップネタまで提供しちゃっていいのかしら。

    そうそう、『大鏡』の語りの場所となったお寺は、雲林院の菩提講。雲林院は桜・紅葉の名所として観光スポットでもあったのですって。

    『大鏡』には、『枕草子』に登場する人物たちも姿を見せます。思えば一条天皇と定子の悲恋をはじめ、この時代もスキャンダラスでありました。
    宮中随一の嫌われ者である藤原道兼に騙されて、出家させられた花山天皇の話では、世継翁は道兼が嘘泣きして天皇を騙したと徹底的にたたきます。そんな話を聞けば庶民の道兼に対する評判も芳しくはなかったでしょうね。道長の兄なのにね。わたしはその際に、天皇の出家を予知した安倍晴明の逸話が、なんだか面白くて好きなんです。
    あ、とっても気になる貴公子藤原行成さまも登場しますね。行成は一条天皇や道長から深く信頼され、清少納言のお気に入りでもありました。行成と幼き後一条天皇とのやり取りの話を通じて、彼の有能さが庶民に紹介されます。こちらは道兼とは反対に人気はうなぎ登りでしょうか。
    定子の兄、藤原伊周も道長のライバルとして登場しますが、関白争いも弓射も賭け双六も、こてんぱんにされちゃいます。伊周、わたしは嫌いじゃないんですけどね。道長とは反対に運が掴めない人だったように思います。
    また『源氏物語』の桐壺更衣に対するいじめ事件に通じる、村上天皇の皇后・安子による芳子に対しての嫌がらせや恐妻ぶり。こんなことまで、庶民には筒抜けだったのね。もう誰も信じられなくなりそう、恐ろしいです……
    そういえば、かの華やかな男性遍歴で有名な和泉式部の敦道親王との恋愛エピソードもありました。いつの世も皇族のスキャンダルって、世間では気になる話題の上位にはいるのでしょうか。

    さて藤原道長といえば、
    「この世をば わが世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば」
    の和歌が有名で、傲慢だとか自分の娘を天皇の后にして出世の足掛かりにしたとか、貴族のなかでもひときわ大きな権力をにぎっていたイメージがあります。現に娘の彰子は自分の子である後一条天皇の即位に対して、ある事情で道長に複雑な感情を抱いたりもしていました。
    ただ道長のそんな面が、彼の全てではなかったと思うのですよね。
    教養のある紫式部を目にかけたり、清少納言からもかっこいいなぁと思われていたらしいのです。決して女性を蔑ろにするような人だったとは思えないのですが、どうでしょう。女性陣は宮中にあがる男性陣をよく見てると思うんですよ。上っ面だけの人間って見抜かれるはず。道長って、そういう男性じゃなかったと思うんですよね。腹立たしい面もあるけれど、やっぱり運も人も惹き付けるものがあったのだと思います。
    わたしは、夢枕獏『陰陽師』の道長像(フィクションだけど)が好きなので、道長を信じたいのですが……甘いですかね。

    『大鏡』は、道長の栄華を讃えることが目的だから、彼の豪胆、豪傑とか優秀な面が押し出され、また男たちの熾烈な権力争いが繰り広げられる、大袈裟に言っちゃうと生きるか死ぬかの世界観なのかなと思います。
    そんな世界を生き抜いてきた道長が人気なのだと思いますが、わたしは『枕草子』や『紫式部日記』に出てくる道長の方に魅力を感じちゃうのですよ。『大鏡』でも、「え、あの道長さまが!」というような面も見たかったですね。ほら、ギャップ萌えというか、そういうところにファンがついたりしませんか 笑
    でも、何もかもさらけ出すのはダメです。だってカリスマ性がなくなるから。ギャップはちょっとがいいのですよ。
    ……てか、注文多っ!レビュー長っ!だよっ!!

    • goya626さん
      源氏物語を書く紙は、道長からもらうしかなかったようですよ。普通の人は紙など豊富に手に入るわけがなかったでしょうから。
      源氏物語を書く紙は、道長からもらうしかなかったようですよ。普通の人は紙など豊富に手に入るわけがなかったでしょうから。
      2020/12/18
    • 地球っこさん
      goya626さん、こんばんは。

      道長が源氏物語を書くための大事な支援者となると、紫式部にとっては蔑ろにすることが出来ない相手ですね。...
      goya626さん、こんばんは。

      道長が源氏物語を書くための大事な支援者となると、紫式部にとっては蔑ろにすることが出来ない相手ですね。
      ふむ。そうなると、ふたりの間柄は……気になります(*>∀<*)

      これからも、この辺りのことアンテナを張っておきたいと思います。
      ありがとうございました♪
      2020/12/18
    • goya626さん
      紫式部の知性は魅力的だったでしょうね。
      紫式部の知性は魅力的だったでしょうね。
      2020/12/18
  • 「大鏡(ビギナーズ・クラシックス日本の古典)」武田友宏編、角川ソフィア文庫、2017.12.25
    278p ¥780 C0193 (2024.02.26再読)(2024.02.16借入)(2018.10.20/3刷)
    NHK大河ドラマ関連で読もうと思って図書館から借りてきたのですが、一度読んでいました。すっかり忘れていました。

    本の内容については、「解説」に述べてありますので、以下に拝借しましょう。
    「内容は、文徳天皇の嘉祥三年(八五〇)から後一条天皇の万寿二年(一〇二五)に至る十四代、百七十六年間の藤原摂関時代の歴史を論評している。とくに全盛期の道長に焦点を合わせ、彼が栄華を極めるまでの過程―皇室との縁戚づくり、他氏の排斥などを、老翁の対話形式の中に、興味深い逸話をふんだんに盛り込んで語る。」(244頁)
    『大鏡』は、紀伝体にならって五部立ての構成をとっている。(244頁)
    一、「序」
    二、「帝記」―皇室系
    三、「大臣列伝」―藤原系の二大主軸
    四、「藤原氏の物語」
    五、「雑々物語(昔物語)」朝廷の秘話

    道長にまつわる以下のエピソードは、「大鏡」に述べられているんですね。。

    道長12歳の時、父親の兼家が
    「そなたらでは公任の影さえ踏めないだろう」
    嘆くのに対し、道長は、次のように言った。
    「いずれわたしは公任どのの影どころか面を踏んでやりましょう」

    984年、花山天皇が肝試しを提案し道隆、道兼、道長の三人がそれぞれ別々の建物に行って戻って来ることになり、道隆、道兼は、怖くて途中で引き返したが、道長は、建物の一部を証拠として持ち帰った。

    道隆の館で催された弓射の会で、弓を射る際に
    「わが家から帝や后が立つ運あらばこの矢よ当たれ!」
    『われに摂政・関白となる運あらばこの矢よ当たれ!』
    と唱えて矢を的に命中させています。

    ●夢について(143頁)
    「夢」の語源は、「寝目(いめ)」で、寝ている時に見えるものの意という。平安時代に入って「いめ」から「ゆめ」に転じた。夢は、自分で確かに見た分、手相・人相より現実感が深く、未来の進路を指示する力も強い。夢の判断を「夢合わせ」、専門の診断士を「夢解き」、凶夢を吉夢に変えることを「夢違え」、そして吉夢を診断士の手で秘密に買うことさえできた。

    ☆関連図書(既読)
    「藤原道長」北山茂夫著、岩波新書、1970.09.21
    「平安人物伝藤原道長(コミック版日本の歴史44)」静霞薫原作・中島健志作画、ポプラ社、2015.01.
    「道長ものがたり」山本淳子著、朝日新聞出版、2023.12.25
    「散華(上) 紫式部の生涯」杉本苑子著、中央公論社、1991.02.20
    「散華(下) 紫式部の生涯」杉本苑子著、中央公論社、1991.02.20
    「小説紫式部」三好京三著、鳥影社、2006.04.24
    「紫式部」山本藤枝著、火の鳥伝記文庫、1987.03.21
    「小説紫式部 香子の恋」三枝和子著、福武文庫、1994.12.05
    「紫式部日記」紫式部著・山本淳子訳、角川ソフィア文庫、2009.04.25
    「紫式部の娘 賢子」田中阿里子著、徳間文庫、1992.05.15
    (アマゾンより)
    大寺院の法会に集まった2人の老人が若侍相手に語る、14代176年間にわたる王朝の藤原氏の歴史物語。華やかな王朝の裏で繰り広げられる道長らのあくなき権力闘争の実態、花山天皇の破天荒な振る舞いや才能豊かな行成の逸話など、平安の都人たちの興味津々の話題が満載。平安という時代や「枕草子」「源氏物語」などの女房文学への理解を深め、古典を一層楽しく読むための最適な入門書。役立つコラムや図版も豊富に収録。

  • 最近ハマっていていろんな古典文学を読んでいるが、1番といっていいほど面白かった。
    こういうところから歴史はつくられたんだなと実感した。

  • 雲林院の菩提講にて、大宅世継190歳、夏山繁樹180歳が色々興味深い話をする。
    大鏡の意味は「歴史の真実を明らかに映し出す鏡」である。
    藤原兼家、道兼が諮って花山天皇を出家させる話。
    花山天皇の出家を予知する安倍晴明の話。
    藤原道長の繁栄の話。
    菅原道真の左遷の話。
    藤原道兼が父兼家の供養をしなかった話。
    とても興味深い。

  • 「古典を難しく感じるのは、時代背景が分からないと作品の内容が理解できないところにある。ビギナーズ・クラシックスシリーズでは古典の原文→その現代語訳→さらにその部分の解説という構成になっているので、当時の風習などを理解しつつ、原文の雰囲気を味わいながら古典に親しむことが出来る。」
    (大居雄一『身になる読書術』の紹介より。

  • 現代語訳がしっかりしてるので話しは大体わかると思いますが注釈が少ないで、わからない単語を携帯で調べる必要あり。
    あとは多少古典知識が必要

  • 「大鏡」の中でも重要なエピソードを分かりやすくまとめたもの。年表や地図などの資料が充実している。菅原道真のエピソードが読みたくて手に取ったが、紹介されているエピソードはいずれも面白かった。

  • 未感想

  • ある程度まとめて読んだのは久しぶりだったけど、この本は古典の中でもかなり好きな本です。

全23件中 1 - 10件を表示
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×