日本人のための第一次世界大戦史 (角川ソフィア文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 30
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  • Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784044005795

作品紹介・あらすじ

日本人はこの戦争の重要性を知らなさすぎる――。欧米では”The Great War” と称される第一次世界大戦。その実態を紐解くと、覇権国と新興国の鍔迫り合い、急速な技術革新とグローバリゼーションの進展など
、WW1開戦前夜と現代との共通点が驚くほどに見えてくる。旧来の研究の枠を超え、政治・経済・軍事・金融・メディア・テクノロジーなど幅広い観点から、戦争の背景・内実・影響を読み解く、日本人のための入門書。

感想・レビュー・書評

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  • 先日読み終えた『天国でまた会おう』は、冒頭が第一次世界大戦の塹壕戦だった。映画『1917 命をかけた伝令』を観たときも感じたが、読みながら、第一次世界大戦のことはあまり知らないと思った。歴史の授業でも、サラエボ事件からの簡単な流れを教えられるだけだったように記憶している。そこで検索して格段に評判の良さそうな本書を読むことにした。結果、大正解で、非常に勉強になった。

    本書は週刊エコノミスト連載を書籍化したもので、著者の板谷氏は歴史学者でもない。たが、ありとあらゆるデータに基づき、ここまで精緻に、かつわかりやすく第一次世界大戦を扱った書籍は少ないのではないかと思う。巻末に参考文献が挙げられているのもありがたい。

    興味深いのはテクノロジー、経済の面から戦争を俯瞰する視点である。艦船の進歩、鉄道の発展、飛行機や潜水艦の登場、銃火器の大量生産、石炭から石油へのエネルギー転換…諸々の事象が、近代国家の成立による総力戦への移行とも相まって、戦争をより大きな、悲惨なものへと突き進ませる。

    簡単に人が死んでいく。この戦闘で5万人が死んだ、10万人が、100万人が…と本書では淡々と語られる。『坂の上の雲』で日本人が知る日露戦争全体の砲弾が、第一次世界大戦では一地域の戦闘で消費され、最終的にはその500倍の13億発が撃ち込まれた。そもそも、夏に参戦した若い兵士たちはクリスマスには帰れるだろうという認識だったという。結局、戦争は4年も続くことになる。

    第一次世界大戦は、世界地図を大きく変えた。地図を見ると今とはまるで国境が違うことがわかる。現在の東欧諸国はこの大戦で独立した国が多い。本書を読むと、第一次世界大戦と第二次世界大戦は地続きであることがわかる。また現在の社会情勢も第一次世界大戦の影響下にある。ウクライナも同様であるし、中国や韓国の反日感情もこの時代に端を発する。

    今こそ読みたい本かもしれない。図書館で借りたが、購入して手元に置いておこうと思う。

  • 科学技術、兵器、外交、参考となる映画まで詳細に述べられた大作と言ってもいい作品。

    日本は勝者だった程度の第一次世界大戦への浅い知識が、第二次世界大戦での敗戦への道の途上であったのだと新しい視点が身に付く。

    第二次世界大戦の敗戦を知る読者にとって、ノンフィクション作品なのに、じわじわと二度目の開戦の恐怖へ近づくホラー映画のような作品でもある。

    著者の専門分野である金融面からのアプローチもあり、ありきたりな歴史家の作品とも一線を画す。

  • コテンラジオで深井さんが薦めていたので読みました。
    とてもよくまとまっていると思いますが、不勉強のため理解できないところもままあります。
    ラジオを聴き返したり、別途本を参照して理解を深めたいと思います。
    良い資料をありがとうございます。

  •  数年前の第一次世界大戦勃発百年の時期に関連書籍がかなり出るなどしたものの、なかなか全体像を理解することは難しかったが、本書はそのような思いに応えてくれる一冊である。

     一話読み切りのスタイルで全73話から成っているが、
    特に技術関係の記述が具体的で分かりやすく、戦争が一変してしまった背景が良く理解できる。特に、それまでの馬や刀槍、銃の戦争に代わって、軍艦と鉄道、銃器の発展、毒ガスや戦車、航空機の登場など、「20世紀の戦闘システム」が出現に至った経緯が平易に語られていて、あまり詳しくなかった技術関係の進歩について興味深く追いかけることができた。
     
     個々の戦闘について名前は聞いたことはあるくらいだったのだが、これも簡潔な叙述で、戦術的な意義や戦闘経過、その影響等がコンパクトにまとめられている。

     ドイツの敗北で戦争は終結したが、その戦後処理の失敗がワイマール共和国の不安定化を招き、ナチスの登場につながったということは良く知られたことである。ただ、休戦時ドイツ軍は疲弊の極みにあったのに、自国の領土を少しも失っていなかったということが、ドイツ国民が敗北を心底からは受け入れられなかったことに繋がった訳で、その辺りについても、本書は目配り良く気づかせてくれる。

     また、第一次大戦では日本軍の山東出兵の史実は知っていたが、地中海遠征のことなどは知らなかった。日本が主要当事者で悲惨な結果に終わった第二次大戦とは異なり、ことほど左様に第一次世界大戦全体を俯瞰することは難しい。

     本書は入門書ではあるが、政治・経済・軍事・金融・メディア・テクノロジーなどの幅広い観点から、戦争の背景・内実・影響を読み解いた(本書カバー紹介文より)、歴史に興味ある者には是非お勧めしたい一書である。

  • COTEN RADIOの第一次世界大戦編がめちゃくちゃ面白くて好きなんだが、そこで超オススメされていた本がこちら。

    なかなか硬派な見た目。
    中身も硬派。

    日本人にとっては馴染みの薄い第一次世界大戦。
    本書はそこに至る前からの時系列で、各国の政治、経済、軍事、メディア、テクノロジーなど、幅広い観点から網羅的に描き出し、この戦争の背景、内実、影響を読み解いている。

    全然関係ないけど、こういう内容だと語尾が、〜だ。とか、〜である。とかが多い気がするんだが、全てをですますで締める文章が印象的だった。

    それにしても本当にめちゃくちゃ学びが多い1冊。
    特に大戦に向かって進んでいくテクノロジーや各国の思惑、動き…。
    渦中にいたら絶対に見えないであろう、史上最大規模の戦争に至る構造がよく理解できる。
    でもマジで今まで全然知らなかった情報が多くて、初読ではうまくまとまらないな。COTEN RADIO聴いてなかったら理解も難しかっただろう。

    今回1番印象に残ったのは、言い出しっぺのアメリカが国際連盟に加入しなかった理由。
    そう言えばその事実は知っていたけど、なぜなのかを知らなかった。
    民族自決が叫ばれたり、国民国家で国の意思が統一されているように見えても、国家はやはり個々人の集まりであり一枚岩ではないということ。これは当たり前だけと連盟に加入しなかったアメリカだけに言える話ではないというのを改めて感じた。

    この戦争が、今現在にも継続的に影響があるのは勿論、はるか昔の世界歴史はダイレクトに今に繋がっているということを思い出させる良書。
    面白かった!

  • そもそもなぜ第一次世界大戦になったのか。
    そこんところから丁寧に説明してくれる。

    日本人に馴染みのある身近な例を用いて、かなりかみ砕いて話かけるように教えてくれるので非常にわかりやすい。
    著者の気づかい、やさしさが伝わってくるようだった。

    そのため
    ・船や鉄道の成り立ちや仕組みなどの技術的なお話
    ・戦術や地理的なお話
    などは入門として本書を読もうという読者には一般的にはツマラナイ内容になりがちだと思うが「ふ~む。なるほどぉ」なんて言いながら読み進められた。

    飽き性で忍耐のない自分には、読み切り形式の一話数ページで構成してあることがとても良かった。

    そんなこんなで読みながら「とは言えどうせ今に難しいこと言い出すんでしょ?」なんて思っているうちに、いつの間にか戦争史に突入してしまう。

    戦争ものは10年ほど前にクラウゼヴィッツの『戦争論』とリデルハートの『戦略論』ぶりだったから読みやすさを比べるのは間違っていると思うけど大変読みやすかった。

    株式市場等経済からの視点もあるから、小学生ではきついかもしれないけど、真面目に授業を受けていて理解力のある子なら中学2年生くらいから面白く読めるんじゃないだろうか。
    小林よしのりのゴー宣並みといったら言い過ぎ?

    第一次世界大戦の入門書として間違いなく良書だと思う。

    孫子関連の本、読み返してみようかと思った。
    孫子は非常に面白い。

  • 日本人にはあまり馴染みのない、第一次世界大戦についてわかりやすく解説してくれている。第一次世界大戦はその規模だけでなく、戦争の中身としても人類が未経験の大戦であった。その背景には科学技術の発展があり、主に以下の要素が挙げられていた。
    ・軍事技術(機銃掃射や戦車の登場)
    ・鉄道網の構築による兵站・兵士の補給といったロジスティクスの進化
    ・通信技術の発達による参謀本部への指揮機能の集中

    第一次世界大戦は経緯を辿ると勃発は必然に見えてくる。普仏戦争を経て帝国を樹立したドイツは鉄血宰相ビスマルクの体制のもと平和を保っていたが、ビスマルクの穏当な方針に不満を抱くヴィルヘルム二世が権力を握った後に綻びが生じ始める。ドイツはヨーロッパ列強の中では比較的後進であったため植民地が少なく、国力増強のために植民地の拡大に動き始める。1905年、鉱物資源が豊富なモロッコへのフランスの進出に対して、ヴィルヘルム二世が軍艦を率いてモロッコに上陸して抗議を行った(タンジール事件)。6年後の1911年には、モロッコの内乱を鎮圧するため派兵したフランスに対して、モロッコの自国民保護を名目として軍艦を派遣する(アガディール事件)。実際モロッコにはドイツ人はいなかったため、工作としてドイツ人を送り込んだが、到着したのは軍艦が到着した後だったらしい・・・。タンジール事件/アガディール事件を経て、独仏の対立が先鋭化すると共に英仏の結びつきも強化され第一次世界大戦勃発の土壌が培われていく。ビスマルクはこの事態を予想し植民地の確保には慎重だったのだが、若きヴィルヘルム二世にはそのビジョンは理解できなかったようである。
    第一世界大戦はザックリ、英仏露の三国協商、独墺伊の三国同盟の衝突の構図だが、勃発の最後のダメ押しとなったのは墺(オーストリア=ハンガリー帝国)によるバルカン半島への進出であった。バルカン戦争を経てオスマン帝国による支配が弱まる中、ボスニアではセルビア人による国民国家樹立の機運が高まっていた。このような背景の中、ボスニアを訪問中のオーストリア皇太子が過激派集団のメンバーにより暗殺される事件が起きる(サラエボ事件)。暗殺の背景には大セルビア主義があると見たオーストリアは反オースリア的なプロパガンダの禁止やボスニア政府へのオーストリア側の代表者の参画等を盛り込んだ最後通牒を出したが、ボスニアには到底受け入れられる内容ではなく事実上の宣戦布告であった。この際、オーストリアは同盟国ドイツの軍事支援の確約を取り付けてから最後通牒を出しているが、ヴィルヘルム2世はこの時、ロシアとの衝突になる事も予想しておらず、すぐに事態は収まると考えていた(ロシア皇帝はヴィルヘルム2世の親戚でもあったためどこか安心感を抱いていたという説もある)

  • とても勉強になりました。
    序盤にも記載があった通り、日本人にとってあまり学ぶ機会も少ない第一次世界大戦ですが、人類にとって大きな転換点だったのだと感じました。
    技術の発展と国民国家の熟成が背景にあるのはなんとなく認識していたのですが、未熟な世界が泥沼な大戦に突っ込んでいったという認識がめちゃくちゃ変わりました。
    直近は悲惨な記憶が残るのでしょうが、過去を都合よく解釈したり、客観的に判断できなかったり、メディアに煽られたりなどはいくら時代が進んでも起こりうると思います。第二次世界大戦との間隔の短さが恐ろしいです。現代の状況に重なる部分が大きいだけに恐ろしく感じます。
    勝っても負けても悲惨な目に遭うのだと、泥沼の大戦を読み通して再認識できたのはとても大きかったです。情報の密度がすごいので読むのに時間がかかりましたが、それだけの価値はあると思います。

  • 社会人になってから30年以上経過しますが、その間ずっと取り組みたいと思っていた歴史上の事件は、日本人が知っておくべき第一次世界大戦でした。この本のはしがきにもあるように、第二次世界大戦は日本でも多くの本が書かれてきましたが、それと比較して、第一次世界大戦について書かれた本は、私が目にする限りは少なかったように思います。

    この本は2017年に単行本として発刊されたものですが、この度それが文庫化されて持ち歩きがしやすくなりました。コロナ後は在宅・出勤勤務が混在していますが、会社のノートパソコンを持ち歩くことになったため、文庫本は有り難いです。

    500ページ強の大部な本ですが、興味深く読むことができました。特に、なぜ第二次世界大戦が終わるまで、各国が国家予算においてかなりの部分を使って軍拡競争をすることになったのかが、この本で理解できました。技術革新により、既存軍備が陳腐化することが繰り返されてきたからなのですね。技術発達も使い方を誤れば、皆を幸せにできないこともあるのだと痛感しました。

    以下は気になったポイントです。

    ・電信ケーブル網は1866年に大西洋横断を果たしていて、71年には日本や香港にまで延長されていた(p23)

    ・江戸末期には日本の知識人達の間ではヨーロッパの軍隊との圧倒的な戦力差は認知されていた、幕府はアヘン戦争の翌年1842年に異国船打払令を排して、薪・水の便宜を図る、薪水給与令を発令している(p31)イギリス軍は蒸気軍艦だったので、布陣した清国の大部隊を避けて上陸地点を任意に選択できた。鉄道普及以前の陸上部隊の歩行による移動速度は、蒸気船に叶わない(p33)

    ・1853年シノップの海戦において、ロシア側はペクサン砲による炸裂弾を搭載した戦列艦に蒸気軍艦が随行、オスマン帝国は旧式の帆走木造戦列艦であった、ロシア艦隊はオスマン艦隊をほぼ全滅させた(p42)

    ・千葉県の本八幡駅では、軌道の異なる3つの鉄道が乗り入れている、JRは1067mm(日本最初の鉄道)、都営新宿線は京王線との接続を優先したために、馬車鉄道由来の馬車軌である1372、京成線は以前は京王線と同じだったが、1959年に都営浅草線と接続する関係で1435mm(新幹線と同じ標準軌)なので、接続できない(p49)

    ・普仏戦争において、戦勝国ドイツのビスマルクはドイツ側の戦費を約20億フランと見積もり、フランスに払わせた。金本位制採用後のレートで計算すると、1ポンド=約10円=25フランなので、当時の8億円、約20年後の日清戦争の戦費が2億3千万円で日露戦争が18億円、ドイツはライヒスマルク金貨を本意貨幣とする金本位制を採用した(p71)

    ・普仏戦争当時、フランス軍は革命以来の徴兵制を採用していたが、時とともに除外規定が増えて代人を立てることも認められていた、代人には兵役経験者が多かったので、プロの傭兵的な要素が強かった、一方プロイセンは厳格な国民皆兵性を採用して平等に徴兵されていた(p75)

    ・国家が常時維持できる兵力には歴史上の鉄の法則がある、そレは人口の約1%である、原則全員に兵役の義務があった紀元前2000年のエジプトでも、300万人の人口に対して2万人の兵を持ったに過ぎない(p76)日本では1873年から徴兵令が施行された、入営は甲乙丙丁の4つのランクの中の兵隊適格である甲種の中から抽選、日清戦争までは5%、以降でも10%、満州事変直前でも15%。第二次世界大戦では8−9割の根こそぎ動員となった(p77)

    ・新聞の記事中に挿絵に替わって写真が掲載されるようになったのは日露戦争から、新聞記事の口語体化は1918年の大阪毎日から(p92)

    ・1873年のウィーンとニューヨークの金融恐慌に端を発する「大不況」以降に各国が保護主義に方針を変えて、帝国主義のもとに植民地を囲い込みそれが原因で第一次世界大戦に至ったと見られたが、世界貿易のグラフを見る限り貿易量は20世紀に入って加速している(p96)

    ・イギリスは1717年に銀のアジアへの流出を止めるべく公定金銀比価を、1:15.21とした。これは当時の相場と比べて金が過大評価されていたために、人々は銀貨を退蔵して金貨を使うようになった、これが実質上イギリスを金本位制にしてしまった原因とされている(p98)

    ・日清戦争では速射砲を装備した軽快な巡洋艦を揃えて、大型艦を揃えた清国北洋艦隊に打ち勝った(p109)

    ・世界初の近代的戦艦である「ロイヤル・ソヴリン」級と基本設計が同じ1893年発注の戦艦、富士・八島の健造費は、1隻1050万円、現在の国家予算に例えると10兆円余りの船を2隻購入することになる(p117)

    ・上下運動のレシプロエンジンでなく、回転運動のタービン・エンジンを装備した「タービニア」号は、イギリスのいかなる警備艇も寄せない高速で逃げ回った、このためそれまではタービンの採用に消極的だったイギリス海軍はタービン推進の駆逐艦を2隻発注する、その後10年もしないうちにタービンは駆逐艦だけでなく主力艦のエンジンとして採用される。日本海海戦は戦艦「三笠」など蒸気レシプロエンジン同士の最後の戦いとなり、第一次世界大戦では、タービンエンジンが主力となる(p142)

    ・1853年のペリー艦隊来航は、日本に捕鯨船の補給基地が欲しかったからと教わったが、実はその直後に高価な鯨油は灯油にとってかわり、捕鯨船は北太平洋では不採算となった(p170)

    ・産業革命の先進国イギリスは1865年に出された赤旗法(馬車屋を守る法律)が障害となり、1896年にこの法律が失効するまで自動車の開発は活発に行われなかった、イギリスは鉄道で世界をリードしながらも、自動車の生産については、ドイツ・フランスに対して10年ほど遅れをとることになった(p184)

    ・1911年に、ガソリンとナフサの合計が、灯油を上回った、石油産業がガソリン中心の時代に入ったのは、ちょうど第一次世界大戦が始まる頃だった(p186)ディーゼルは高圧縮のために振動騒音が大きく、乗り心地が悪いが、メリットは、燃費性能とともに、燃料の引火点が高いことにある、被弾しても爆発しにくい(p188)

    ・第一次世界大戦では銃後の本来の発電用のダイナモであっても、逆に電気を通せば今度は電動機として作動することがわかった、これが巷間伝えられるモーターの発明の瞬間である(p190)

    ・クリミア戦争ではオスマン帝国はイギリスとフランスからの借款によって戦費を調達した、オスマンは中央に税収が集中しない制度的な問題もあり、1875年に国家破産を宣言して国際的な発言力を低下させた(p206)

    ・日露戦争後の日本は、日露戦争の戦費のための巨額な債務に苦しんでいた、元利返済のための国債費3割、軍事費3割、残りの4割で国家運営されていた、(p249)

    ・日露戦争後のポーツマス条約でロシアから承継した権益の期限は意外と短い、旅順・大連は1923年、満鉄経営権は1939年に失効(p253)

    ・日清戦争の敗北で、清は日本に賠償金2億両に加え、三国干渉による遼東半島還付金3000万両、合計日本円で3億4500万円支払った、当時の国家予算規模は8500万円、日清戦争戦費は1億5000万円(p264)

    ・戦争の勝敗の決定要因は、産業革命以前の戦争では、作戦の妙や兵士の勇敢さであったが、工業生産能力が鍵となった、フランスでは官僚、ドイツは軍部、イギリスは文民を中心とそれぞれが特色のある国内体制で対応した(p305)

    ・日露戦争において、日本とロシアは開戦後間も無く金本位制の維持を宣言した、これは戦時国債の海外発行に備えて国家としても信用力を維持しておくため(p311)

    ・1868年にはドイツにおいて、ユダヤ人への最後の法的束縛が解かれ、ギルドへの加盟、ドイツ人との通婚、居住地選択の自由が確保され、1871年にはユダヤ人に市民権が与えられた、政府機関、軍隊には差別は残されたままであるが(p320)

    ・絹の場合、原材料のかいこも国内農家から調達できるので、製品を海外に販売しただけで外貨収入となった、綿の場合は綿花の輸入が伴う(p382)

    ・第一次世界大戦中に、航空機において先進国から大きく下り残された、このため陸軍はフランス航空団、海軍はイギリス空軍を招いて学んだ(p402)

    ・ナポレオン戦争後のウィーン会議までは外交文書はフランス語で書かれるのが慣習であったが、アメリカの影響力拡大を反映して、初めて英語も公式言語に加えられた(p454)

    ・日本のスペイン風邪による死者は45万人、日露戦争の戦没者8万4000、関東大震災10万5000よりも大きな災害である(p488)

    ・ケインズの計算した、ドイツが支払うべき妥当な損害賠償額は、20億ポンド程度であった、日本円で200億円(一般会計歳出額14億円)(p490)最終的に、1320億金マルク(=約66億ポンド)となった、30年間に毎年20億金マルクと輸出額の26%の支払いということで決着した(p493)

    ・ドイツは1918年11月に休戦条約に調印したが、その際にドイツが考慮した条件は、米ウィルソン大統領が発表した「14箇条の平和原則」と、2月に同大統領によって議会で語られた「無併合・無賠償・無報復」の原則であった(p491)

    ・毎年の支払い原資には、ドイツ政府の財政黒字が必要、増税し財政支出を減ずると経済規模の縮小となるので、支払額は自ずと限度がある、金や外国通貨での支払いは、対外収支の黒字が必要であるとされた、(p494)1990年の再統一後にドイツは、ドーズ債、ヤング債の元利払いを再開し、2010年10月3日にすべての支払いを完了した(p496)

    ・日本において世界第3位だった商船隊の88%を喪失、乗務員の死亡率は43%(6万人)、海軍の16%、陸軍の23%を遥かに上回る数字である(p500)

    ・日本海軍における潜水艦の戦効は、戦艦・空母撃沈は60点の加点、3000トン以上の商船撃沈は7点、掃海艇や駆潜艇よりも低い評価であった(p501)

    2022年2月5日作成

  • 予備知識がほとんどなかったのもあってか、内容はかなり新鮮だった。とくに経済金融の面から多く知見がしめされているのがよかった。

    500ページ読むのは大変だったけど、読んでよかった。

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著者プロフィール

1955年、兵庫県西宮市生まれ。作家・コラムニスト。関西学院大学経済学部卒業後、石川島播磨重工業入社。その後、日興証券に入社し、ニューヨーク駐在員・国内外の大手証券会社幹部を経て、2006年にヘッジファンドを設立。著書に『日露戦争、資金調達の戦い 高橋是清と欧米バンカーたち』『金融の世界史 バブルと戦争と株式市場』(ともに新潮選書)。

「2020年 『日本人のための第一次世界大戦史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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