- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784044094249
作品紹介・あらすじ
古代史研究の第一人者であり、1300年の歴史をもつ神社の神主でもある著者が、日本神話の原像を追究した名著。現代人の多くにとって、神話とは『古事記』や『日本書紀』に描かれた神々の話となっている。しかし本来の神話はもっと素朴で、信仰に裏付けられながら、儀礼や祭式のなかで語り継がれてきたものではなかったか。地方の祭りの場に足を運び、文献のわずかな違いにも注目。徹底的に神話を再検討し、最新の考古学の成果も取り入れた待望の新版。
感想・レビュー・書評
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「書かれた神話のみが日本神話のすべてではない。そのなかにある矛盾、そのなかにみいだされる新しきものと古きもの、記・紀神話をおりなす縦糸と横糸とを、丹念によりわけて、日本神話の原像を明らかにする仕事は、まだまだたいせつな作業になっている。」
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日本古代史の研究者として知られる著者が、『古事記』と『日本書紀』を中心とするいわゆる「記紀神話」について論じた本です。
津田左右吉は『古事記』および『日本書紀』の文献批判をおこないましたが、著者は「記紀神話」をすべて政治的な作為や潤色として説明することはできないと述べます。他方で、民族学や文化人類学、あるいは比較神話学の観点からの研究の進展により、「記紀神話」の類型やその伝播の実態がしだいに明らかにされつつありますが、著者は「記紀神話」が政治的な意図にもとづいて構成されたものであることを無視することはできないといいます。こうして著者は、歴史と神話のどちらか一方の観点からのみ「記紀神話」を解釈することは適切ではないと指摘し、「歴史から神話へ」という観点と、「神話から歴史へ」という観点の両面に目を向けながら、「記紀神話」を読み解くことが必要であると主張しています。
ただし、著者の軸足はあくまでも歴史学的な観点に置かれており、天皇および皇室を中心としてえがかれる「記紀神話」の背景に存在していた古代史における事実を明らかにすることによって、「記紀神話」の重層的な構成がどのようにして形成されたのかということを解明することがめざされているといってよいと思います。このような立場から、たとえば語部によって口誦された神話が、どのようにしてヤマト王権の内部に組み込まれていったのかということや、出雲神話とその背景にあるヤマト王権の勢力の伸長が、どのようなしかたで「記紀神話」の叙述に反映しているのかといった問題について、著者自身の考えが提出されています。 -
岩波新書(1970)で発行された書に手を加えた新版。『記』『紀』は元より神話のその多重性や地域性、政治的意図を考察。さまざまな錦糸で編まれた「神話」の「縦糸と横糸」をひとつひとつほどいていく作業をしていると思う。