シュガーダーク 埋められた闇と少女 (角川スニーカー文庫 220-1)
- 角川書店(角川グループパブリッシング) (2009年11月28日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (282ページ)
- / ISBN・EAN: 9784044748043
作品紹介・あらすじ
えん罪により逮捕された少年ムオルは、人里離れた共同霊園に送られ墓穴を掘る毎日を送っていた。そんなある夜、自らを墓守りと名乗る少女メリアと出逢う。彼女に惹かれていくムオル。だが謎の子供カラスから、ムオルが掘っている墓穴は、人類の天敵・死なずの怪物"ザ・ダーク"を埋葬するものだと聞かされる!混乱するムオルは、さらにダークに殺されるメリアを目撃してしまい-!?第14回スニーカー大賞大賞受賞。
感想・レビュー・書評
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物語はライトノベルというには少々固い文体で綴られる。だが、それは作品を通して感じられる暗い雰囲気に合っている。
舞台は墓地であり、基本的な登場人物はごくわずかである。
昼と夜の場面に分けられており、昼はカラスと名乗る少年と、夜は墓守りである少女メリアとの交流が描かれる。主人公は卑屈ないわゆる典型的なラノベ的少年ではなく、冤罪に反発し、労働を強いられる環境から脱出しようとする、外に向かう自我を持つ積極的な少年である。
作中には、囚人をオリッド、歩兵をモグラとルビ振りをする等の設定が見受けられ、舞台は動かないものの、取り巻く世界観を窺い知る用語には事欠かない。主人公が元々は従軍していたことから、文明的には近代に類似していると推察できる。
ザ・ダークという謎の怪物の正体については言及が少ないものの、それがかえってリアリティを出している。個人的にはダークの存在と文明の発達度合いを絡めた話が興味深かった。マルサスの人口論的な観点を作中に持ち出すのは従来のファンタジーには見られないであろう。
くどくど解説を入れるというのは非常に興醒めであるのでこのあたりにしておく。
まとめ的に言うとこの作品は、真の意味で“シュガー”ダークである。
決して内に籠もらない主人公ムオルの気構えは賞賛に値する。と同時に、従来のラノベ的主人公(平凡を自ら口にするような)に見事に打ち勝ったことはラノベの転換期の兆しではないか。
さて、最後に伏線の張り方が素晴らしいということを述べておく。最終的に収束していき、少女メリアの苦悩を解放する展開は、唸らずにはいられなかった。
これから読む方は、最初のページにあるカラーの折り込み絵を見ないで読み始めて欲しい。
そして、最後まで読んだ後に見ていただきたい。
感動が深まることに違いない。
俺が言うのもおこがましいが、本作は大賞足り得る作品だった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
冤罪により逮捕されたムオルは、共同墓地に送られ墓穴を掘る労働を課せられる。そこで出会った墓守と名乗る少女メリア。ムオルは脱走のためメリアに近付こうとする。
極限状態に於けるボーイミーツガール。物語冒頭から重苦しい空気に満たされ、謎に満たされています。
ムオルは自分が掘る墓穴が人類の天敵である死なずの怪物「ザ・ダーク」を葬るものであることを知り、メリアがザ・ダークを葬るのに我が身を犠牲にしていることを知る。
はじめは脱走のためだった。しかしメリアに課せられた過酷な運命を知った時、ムオルはメリアのために行動する。
主人公であるムオルの視点で語られる物語は、ムオルの心情を丁寧に描き、その変化を自然なものとします。いや変化というよりもはじめから芽生えていた思いに気付く過程かもしれません。
舞台設定は特異なものです。怪物の設定にはやや無理があるようにも感じます。しかしその設定を巧く利用しながら、少年と少女の物語に昇華されているのです。
この世界だからこそ成し得たふたりの関係。そこに感情の山場を持ってきた上でのラストシーンの素晴らしさ。堪能しました。 -
少年向けライトノベルファンタジーとして小さいながら適度にまとまった一作
『サクラダリセット』ほど作者に個性感じないが
『戦う司書』の1巻よりは読みやすい
今後に期待
しかし表紙の「ガー」の位置が面白いな -
ライトノベル
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ハルヒ以来のスニーカー大賞、文章はうまいが内容があんまり突き抜けてない、面白いとは言いがたい
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冤罪により逮捕された主人公の連れ行かれた先は
薄暗い共同墓地。
墓地という場所のため、出てくる人物は
主人公と、そこにいた老人と、何故かいる少女
それに怪しげな少年。
逃げられないように、と教育された犬がいますが
どうやってここまで教育したのか。
そちらの方が気になります。
逃げようと考える主人公と、何もしらない少女。
ただの気味が悪い老人かと思いきや…という
なかなか悪知恵が働いています。
薄暗い場所で、土を掘り、暗がりにて語る。
静かに、というより、静かな淡々とした話。
そのせいか、最後の光がまぶしかったです。
しかし冤罪…。
犯人、誰だったのでしょう? -
ダークな雰囲気がとても好みでした。幸せは人それぞれなんだよな。丁寧にキャラクターの思考を積み重ねているので、最後の結末にもキャラクターが抵抗をさほど感じないという事を、読んでいて納得できた。
今後があったらきっともっと色々と苦悶するのだろうし、カラスについてもいいキャラクターなので、続きがあるともっと深く楽しめるなあと思いました。 -
読了
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独特のふいんきがあって面白かった。
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ダークな世界観で繰り広げられるボーイ・ミーツ・ガール。
仄暗い空気感と、斬新な設定が魅力。
作者のデビュー作であり、確かな文章力と、
プロットの完成度から大いに期待された作品だった、が
その圧倒的な評価の高さがプレッシャーとなったのか、一向に続きは書かれず、結局今に至る。
余談であるが2013年現在、別レーベルで違う作品をスタートさせている -
もう、唸るほどに文章も構成も上手い。スニーカー大賞受賞も納得の出来だ。今のところ、続刊が読めなそうなのが寂しくて仕方ない。
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3.5
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結局よく分からなかった(笑)
だらだらした具合で進み、最後は一気に片が付いた(笑)
カラスの登場はよかった! -
作中一貫して漂う静かに暗い雰囲気はいい。
しかし、物語の核心に迫るまでの序盤中盤が退屈で、あまり身がない話のように感じた。
悪くはない、良いかと言われればまあ、良い。だけどすごくいいかと言われればそれはない。
小説になるための材料がだいぶ足りてない感じ。 -
学校や家族とうまくいかず、目にとまった本を片っ端から買っていった時に読んだ本です。
私の好きなジャンルではなかったのですが、とても読みやすく、ミステリアスな感じがとてもよかったです。まぁ、主人公はすごい厨二ですけどw -
上官殺害の罪を着せられた元少年兵・ムオルが囚人として送り込まれたのは、森の中にある奇妙な共同墓地だった。墓地の穴掘りとして暮らし始めるムオルだったが、掘らされている墓穴は人のものにしては大きすぎる。一体なにを埋めるための墓穴なのだろうか?
夜の墓地で出会う墓守の少女・メリアや、昼間に現れる「カラス」の口からムオルは墓穴に埋められるものの正体を知る。それの名前は、人類の天敵、ザ・ダークと呼ばれていた。
少年ムオルが恋心を抱いた少女のために人類の天敵と戦うストーリーかと思いきや、むしろザ・ダークやメリアなどが持っている謎を解きほぐしてゆくのが秀。事実、ザ・ダークに対しての対抗手段はほとんどなく、相対しても無残にやられているしか術がないのだ。いわばザ・ダークやメリアの有している謎を求心力として進む物語であり、情報開示の仕方が見事。特に「カラス」の配役は見事!
文章についてはやや気取った表現を取るところもあるが許容範囲内、好みにもよるか。
一方物足りなく感じたのは、ザ・ダークの描写があまりされなかったこと。ザ・ダークとはどういったものなのかといった事柄ついては、ザ・ダークの謎を求心力としているため余りなく描写されているが具体的な描写は「六つ足のある虎」や「総身を無数の剣で構成した、長い長い大蛇」など、簡素な描写にとどまっている。 -
タイトル通り、甘くて暗い物語です。
化け物を狩る少女がヒロインですが、その戦いが衝撃的です。
爽快さは無く、ただ少女の悲痛な叫びとグロテスクな表現が綴られております。
しかし、だからこそ少年の一途な心、自分を犠牲にしてでも彼女を助けたいという強い気持ちがより感じられるんでしょうね。
その後の展開がとても気になるところで物語は終わります。
続きが出る日が来るのか、気になって仕方がないです(^_^) -
文句の付けようが無い作品だった。
共同墓地という設定が面白い。その設定の中で、不死の怪物、ザ・ダークがしっかりと生きていて良い。
シリアスな作品の中に、上手に恋が入っている。
とにかく素晴らしい作品だった。 -
なんか雰囲気だけで★5にしてしまった。それぐらい、他のライトノベルとは違ったいい雰囲気の本作。
なんか表紙や序盤読んでるとすごい暗い感じなんだが、途中メリアと出会い、そして後半にいくにつれて主人公・ムオルが現状に抗いそして終盤で一気に返してくれるところが素晴らしい。
8、9割は暗い話なのに読み終わったあとこの物語を単なる暗い物語と思う人はいないだろう。 -
非常に面白かった.よく計算されて練られたことが分かるストーリー.読後,タイトルと副題を確認して,著者の込めた「テーマ」の深さを感じた.ストーリー自体は,理不尽な状況に陥る主人公ムオルが謎の少女メリアと出会い,おぞましい体験を経ながら状況を打破する王子様的ストーリー.しかし作品全体を意識して暗いものにしていることにより,読者には常にその陰鬱さを共感させつつ,最後一気に,まさに“光が射すような”展開へ持っていく.中盤までのダルさと最後のスピード感の緩急が素晴らしい.
その分,表紙や見開き口絵が残念.人によってはネタばれに感じるのではないだろうか.イラストは表象絵みたいなもので十分,と思えるくらい面白いということで. -
なかなかにダークで微妙に甘くてすごくよかった。
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暗くて生々しい描写が続くけど最後には不思議とほんわかできる温かい話です・ω・
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“「おまえは誰だ?」
立ち上がりながら、少年は訊ねた。
フードの少女は相変わらず、不思議そうな視線で少年を見ていた。騒いだり怖がったりするようなことはないものの、彼女の心の中には戸惑いと興味が混在しているようだった。まるで道を歩いている最中、卵から雛が孵るところに出くわしたみたいに。
彼女は不自然なほど間を置いて、それこそ言葉が通じなかったのではないかと思うくらいの沈黙のあと......
「メリア・マス・グレイブ<共通墓地のメリア>」
と、言った。
その単語の連なりが少女の名前だと理解できるまで、しばらくかかった。
「......メリア?」
確かめるように繰り返すと、彼女は小さくうなずいた。
続けて少年は訊いた。
「こんな時間に、一体何してる?」
少女は答えた。
「私は墓守り<グレイブキーパー>だもの」
たった一言ですべて説明が済んだかとでもいうように、彼女は——メリアはそれ以上何も言わなかった。”
最後まで読み終わってから最初の2ページに戻ってしみじみ。
黒いけど綺麗。
“「......メリア」
勝手に赤くなろうとする頬を肩で隠すようにしながら、ムオルは口を開いた。
「こないだも言った通り、オレがここに来たのは冤罪で、俺が囚人<オリッド>になっているのはおかしいんだ」
「......うん」彼女が静かに頷く。
「だから俺は、ここを脱走する。ここから出て行く。この穴が完成したら、さよならだ」
その言葉を理解したときメリアの顔に浮かんだ表情は、ムオルの予想していた反応の中で、二番目にすばらしいものだった。
「......うん......。そのほうが......あなたの為だわ」
——驚きと、それから、悲しみ。
彼女が自分と別れることを悲しんでいる。少年はその事実に、加虐的な喜びさえ感じた。そして二番目にすばらしい反応は、一番楽な反応でもあった。都合の良い想像で申し訳ないが、もし行かないでと手を引かれて泣かれでもしたら、どうなってしまうかわからなかった。
けれどどちらにせよ、やるべきことは変わらない。
時間もない。
やるしかない。
今は囚人としての、最後の穴堀りを。
あとは計画がうまく行くことを、それから自分が耐えられることを、祈るのみだった。” -
すき(・・*
気楽には読めないけど
ぐあーって読めるなんか気になる -
墓堀少年と墓守少女のボーイ・ミーツ・ガールなダークファンタジー。
という割には微笑ましいような物語。あまり怖くもないし。
もう少しテンポ良く読ませてくれる文章なら、もっと面白いと思う。 -
読後感が気持ちいい。クライマックスに向けての土台作りがうまいなー。でも、帯の触れ込みにはどれ一つとして共感できなかったですw