岡山県謎解き散歩 (新人物文庫 し 10-1)

著者 :
制作 : 柴田一 
  • KADOKAWA/中経出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (295ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784046025388

作品紹介・あらすじ

吉備国、法然、備前焼、岡山城、閑谷学校から「果樹王国」、倉敷美観地区、ジーンズ生産まで豊かな歴史・文化・自然が支える「晴れの国」岡山を学ぼう。

感想・レビュー・書評

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  • 各県の文庫本があるこのシリーズ、4年以上前の刊行ではあるが、歴史好きの私もこういうのは避けてきた。「逆説日本史」などを読めばわかるが、一様に科学的根拠が薄いので、時間の無駄だと思っていたからである。

    読んだら、やはり文庫版ムックという体裁であり、ひとつひとつのエピソードの文量があまりにも短くて、若干眉唾なモノも含まれていて、統一が取れていない。ただ、これを手にとったのは、たくさん懐かしい名前を見つけたから。こんな小さな文庫本に24人もの執筆者が集っている。

    考古学に目覚めたばかりの頃、年数回「古代吉備国を語る会」が主催する遺跡巡りの催しがあった。一日がかりで時には20数キロも歩く本格的なモノで、有名無名の古墳や弥生遺跡を見る目を養ってくれたもので、たいへん感謝している。その講師がたくさん書いているのである。彼らは教育委員会に在職している人が多かったから、どんな質問にもたいていは答えてくれるその道の専門家だった。また、冒頭の岡山県の概略を紹介してくれている、フリーライターという肩書きの香月真理子さんの名前は何処かで見たな、と思っていたら「ビッグイシュー」のライターだった。そうか、こんなところ迄書いて糊口をしのいでいるわけだ、と変な感慨を持ってしまった。

    酒の話のタネになるような、エピソードばかりがあるので、郷土の話だし薀蓄にはいいかもしれない。

    一つだけ紹介。何度か、遺跡巡りで聞いていて、私も支持している説がある。
    「造山古墳は倭国の大王陵」説である。
    (1)従前の大王陵のように、水をたたえた周濠は伴ってはいない。「しかし、墳丘の周囲に平面盾形(半截長楕円形)の周庭帯(塚域)を、周濠と同様の周辺施設に伴っており、痕跡が現在も地割に認められる。」と難しく書いているが、要するに造山古墳は大王陵仕様になっているというわけだ。
    (2)5世紀前葉の築造。現時点から見れば、大きさは前方後円墳歴代4位。しかし築造時点では、渋谷向山古墳(4世紀後葉)を凌いで、最大規模を更新していた。「中期の前方後円墳の巨大化の先鞭をなす。前方後円墳の最大規模の推移が、造山古墳を除くすべてが倭国大王陵であるので、その推移状況の中で、造山古墳も倭国大王陵と評価すべきである。」
    (3)中国の考古学研究者は、その立地が風水観による王陵の地に適応していると看破している。古墳時代中期は、倭国大王が中国王朝への朝貢を積極的に行った時期であり、造山古墳が風水観に適応するのであれば、朝貢の反映となる。
    (4)「日本書記」では、雄略天皇の時期に、吉備の群像が「吉備氏反乱」を展開している。つまり、「書記」の吉備ネガティブキャンペーンの記述は、かえって造山古墳が大王陵たる由縁の逆説的な説話と評価すべきである。

    以上、D氏の説を私が簡単にまとめました(^-^)/。章立ては私がしました。その他、培塚の存在や、熊本産の長持ち石棺の採用など、大王陵級の根拠は幾つかあります。日本列島で吉備に唯一、この時だけ倭国の首都が「移転」したのならば、大和政権における吉備国の位置づけは、もっと考えるベキだと、私は思うわけです。

    2017年3月9日読了

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著者プロフィール

昭和5 年7 月、岡山市上阿知に生まれる。昭和28 年3 月、岡山大学教育学部を卒業。昭和28 年4 月~同51 年3 月、岡山県下の高校教諭を歴任。昭和51 年4 月~同56 年3 月、岡山県教育委員会文化課、県立博物館に勤務。昭和56 年4 月~平成8 年3 月、兵庫教育大学に勤務。平成5 年2 月、広島大学より博士(文学)。平成8 年4 月~同17 年2 月、就実大学に勤務(同13 年2 月~同17 年2 月、就実大学・就実短期大学学長)。平成17 年2 月就実学園顧問、就実大学名誉教授。平成23 年6 月岡山県郷土文化財団理事長。
岡山県文化奨励賞、山陽新聞賞、文部科学大臣表彰、三木記念賞、就実学園賞、福武哲彦教育賞を受賞。
著書は『近世豪農の学問と思想』『渋染一揆論』『岡山藩郡代 津田永忠』『備前児島野﨑家の研究』(共著)『岡山県の百年』(共著)『吉備の歴史に輝く人々』『昔は今の知恵袋』など。

「2011年 『沖新田・沖田神社と沖田姫』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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