本業転換――既存事業に縛られた会社に未来はあるか

  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784046041937

作品紹介・あらすじ

あらゆる業種・業界に、“本業喪失”の可能性がある時代。
企業は、どのような経営戦略を考える必要があるのだろうか。
  *  *  *
欧米であれば、IBMのように大胆な事業売却やM&Aで事業構造を変えた例は少なくない。
しかし日本では、そうした事業の組み換えは容易ではない。
そんな日本にも「本業を変えることで、生き残った企業」がある。

たとえば、写真フィルムが事実上消滅した富士フイルムは、「いつ」「何」をどう決断したのか。
紡績を担っていた日清紡が、なぜブレーキやエレクトロニクスの会社に転身できたのか。

本書では、難しいとされる本業転換を行ってきた企業と、
同じ業種に位置しながら、転換がうまくできずに倒産・解体されてしまった企業の
戦略の違いを探ることによって、本業転換を成功させるポイントを探っていく。

本文で取り上げる主な企業は、

1 富士フイルムホールディングス vs. イーストマン・コダック
2 ブラザー工業 vs. シルバー精工
3 日清紡ホールディングス vs. カネボウ
4 JVCケンウッド vs. 山水電気

の4ペア。
実際の企業事例をベースに、「本業」というキーワードを通して、
これからの企業のあり方・あるべき姿をも問い直す一冊。

感想・レビュー・書評

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  • 両利きの経営にも通ずるテーマのタイトルだったので、読んでみました。

    企業はどうやってうまく本業を転換できるのか?あるいは、どうやったらうまくいかないのか?
    中々興味深いテーマに著者はチャレンジされています。
    と、思っていたら、著者のビジネススクールの社会人学生の研究(卒論?)をまとめたようなもののようです。
    研究(卒論?)といっても、著者のチェックが入っていますので、
    とても読みやすく学びになります。

    本自体は事例も豊富で分かりやすいのですが、
    自分の感想としては「やはり両利きの経営」を実行・実践していくのは、
    並大抵のことではないな…ということです。
    まず、(本業転換が)うまくいった企業とそうでない企業の違いを分析しているのですが、
    確かにうまくいった企業は早め早めに次の事業のタネを育てているのですが、
    タネがしっかり実になるかどうかは、
    成功確率を上げるためのコツのようなものはあるものの、
    やはり最後は結果論というか運も関係していくようによめました。
    この辺りが経営の難しく、面白いところですよね。
    この辺は自分にはもう少し深堀り・探求が必要と認識しました。

    まずは、「両利きの経営」を読まないと。。

  • 長靴メーカーだったノキアが携帯電話メーカーになり、今では通信インフラの企業。化粧品のDHCの前身が、大学翻訳センターと言う翻訳会社だったり、豪華な付録で有名な女性誌の宝島社の前身が、地方公共団体向けコンサルティング会社であったり、有名なスポーツ選手を広告に使った寝具のエアウィーヴがプラスチック射出成型機メーカーだったことを知る人は少ない。会社は、変化しながら生き延びている。

    上場企業は株主からの期待に応えるためにも、売上が横ばいではなく持続的成長を果たさなくてはならない。しかし事業にライフサイクルがあり、いつか成熟期から衰退期を迎える。そのため企業が永続していくためには事業構造を変えていく必要がある。

    本著は、その成否を分けた企業のケーススタディをしていく。極めて典型的な事例だから、多くの中間的な企業には当て嵌めにくいかも知れない。しかし、知っておく事に意義がある。

    存続する企業の共通点。本業の需要が安定している時期に多角化を始めたという事。キャッシュが潤沢な時期に次の一手を打っていた。もう一つの共通点は、新たな収益源を確保する過程で、どの事業を選択したかという事。所謂シナジーだ。最近ではライザップが本業のフィットネス等は市場も技術も関連の無い業績が悪化した異業種の企業のM&Aを続けてきたが、このやり方は早々に破綻。分かる気がするが言うは易し、か。

  • 『本業転換』山田英夫、手嶋友希

    第1章 転換して生き残る企業、転換せずに終わる企業

    第一歩を遅らせる5つの理由
    1.本業のライフサイクルがいまどの位置にあるかを正確に知ることはできない
    →いつ衰退期を迎えるかを予測できない
    2.衰退は波動を持って忍び寄る
    →まだ行けるはず…ここを乗り切れば…
    3.大企業で長年行ってきた事業は、現実に固定客がついていて、ステークホルダーに対する社会的責任もある
    →簡単には撤退できない
    4.競合企業が先に撤退することによって、結果的に残存利益を得られる可能性もある
    →最後の一社を目指して頑張るというスタンスになりやすい
    5.本業を評価する明示的・暗示的な尺度が形成されている
    →その尺度に合わない事業は社内で正当な評価を受けにくい

    本業が成熟・衰退した場合
    1.成熟・衰退した事業から、新事業への投資のために、いかにキャッシュを刈り取るか
    2.どのような事業に転換していくべきか
    3.どのように新事業に転換していくべきか

    一業にこだわる企業に明日はない
    ・会社の寿命は30年
    ・日経ビジネスの定量調査
    ・売上高トップ100社に何期連続して入ているか

    両利きの経営
    ・本業の深化と新事業の探索
    ・大企業はこのまったく異なる能力が必要

    社員30歳、本業7割
    ・会社の寿命調査
    ・多角化が上手くいくと新事業部門に若い従業員を採用する→結果的に平均年齢が下がる

    イノベーションのジレンマ
    ・組織は、成長→優位性→効率の段階を経て老化していく
    ・効率を求める組織は、イノベーションを抑圧する傾向が強い


    事例研究 ブラザー工業vsシルバー精工

    二社のオリジン事業
    ・組立加工系の製造業
    ・BtoB
    ・繊維機械製造業

    ブラザー工業
    1908年 ミシン
     ↓国内の競争激化
    1954年 編機、楽器、工作機器、家電(モーター技術)
    1961年 タイプライター(切削プレス加工、プレス整形技術)
     ↓コンピュータの普及、工業製品の電子化
    1971年 高速ドットプリンター
    1979年 家庭用コンピュータミシン
     ↓ワープロやPCの普及
    1980年代 低価格帯日本語ワープロ、パソコンソフト自販機(どちらもヒットせず)
    1987年 新事業推進室設置、情報通信機器分野への参入を決定→ファックス、カラーコピー機、ラベルライター(熱転写印字技術)→ラベルライターが国内外でヒット
    1990年 家電とカラーコピー機から撤退、米国での一般家庭向けファックス事業に資源投入


    第三章 本業転換のポイント

    1.主力事業の需要が安定してキャッシュも潤沢なうちに多角化を始める
    2.主力事業で培った市場に関連性がある分野で多角化する、ブランド力
    3.主力事業で培った技術やノウハウが生きる分野で多角化する、コアテクノロジー

    関連多角化→同じ・近しい業種
    非関連多角化→異なる業種、成功確率は低い、コアテクノロジーは買収しても無理

    遠そうで近い事業→花王のフロッピーディスク(界面活性技術)、富士フィルムの化粧品(酸化防止技術)、日清紡のブレーキ(紡績技術)
    近そうで遠い事業→米国コンチネンタル航空のLCC(フルサービスから削るのではなくまったく異なる発想が必要だった、コストが高すぎる)、エーザイのジェネリック薬品(重点を置くべきフェーズが違う、新薬の研究開発か低コスト・高品質の生産か)

    V字カーブを描く業界
    ・コストリーダーシップ戦略とニッチ戦略だけが生き残り、中途半端なフルライン企業の利益率が最も低くなる現象。死の谷
    ・セブンは規模の経済、セイコマは高い利益率で成功しているが、サークルKはファミマの傘下になった
    ・より規模を大きくするか、事業を絞って小さくして生き残るか
    ・後者の場合は、顧客にとって付加価値のある、利益率の高いニッチ商品を開発する必要がある

    業界の臨界投資額
    ・業界ごとに投資額の相場がある
    ・自社にとって思い切った投資でも、相場に届いていなければ競争上意味をなさない

  • 富士フィルムのフィルム事業からの転換など、
    本業転換の事例がわかりやすかった。
    ただ、経緯が具体的すぎたので、もっと抽象化した説明に分量が欲しかった。
    大事なのは、領域の選択とタイミング。
    メーカーは技術力を応用できるので多角化しやすいのかなぁと思った。本業と似ている領域か、領域は離れているが根底の技術が似ている領域。
    あとは、新規事業を本業規模にするのには時間がかかる(20年とか)というのも心に残った。
    技術の蓄積が大事。

  • 製造業中心話だった。
    サービス業が多角化して、成功した例もたくさん知りたい。
    帝国ホテルのビジネスホテル進出。→結果、撤退
    コンチネンタル航空がLCC進出→結果、撤退と失敗事例はあるが…。

    --------
    本業転換は難しい
    ①本業のライフスタイルが、いつ衰退期を迎えるか難しい。
    導入期→成長期→成熟期→衰退期。今どこにいるのか。
    ex:ウィスキー。成熟期と思われていたがハイボールでV字回復。
    ②「衰退は一気に生じるものではなく、波動をもって忍びよる」
    ③事業規模が大きいほど、撤退することの影響を考える必要。
    従業員の雇用。ステークホルダーの存在など。
    ④衰退事業であっても、競合企業が先に撤退したら残存利益が得れる。
    ⑤事業を評価する明示的・暗示的な尺度がすでに形成されており、新興事業が正当な評価を受けにくいP18-21

    存続企業に共通していること。
    ①新事業の開始時期
    「本業の需要が安定している時期に、多角化を始めた」

    ②事業分野の選定
    「主力事業で培った技術やノウハウが生きる分野を中心に、多角化を行った」P174-181

    衰退企業から学べること
    ・コダック
    ①収益源をフィルムに依存するという、短期的な経営判断を行った
    ②写真フィルム需要予測が甘かった
    自社の戦略次第で、市場規模が変化することもあるわけであった。
    ex:任天堂のスーファミ投入タイミング

    ・シルバー精工
    ①本業の衰退に備えて次の事業を行うタイミングが遅すぎた
    ②意図的に縮小均衡制作に舵を切った
    集中戦略をとるにしても、顧客にとって付加価値のある利益率の高いニッチ商品を開発できなかった。

    ・カネボウ
    ①5年という短期間に3つの異分野に多角化した。
    企業体力の消耗。その企業にとって”相当の投資”でも、その業界において”相当の投資”になっていないと意味がない。
    ②異業種への進出がすべてM&Aで、本業の繊維と技術面での関連が薄かった。(化粧品・食品)収益になったのは化粧品だけだった。

    ・山水電気
    ①需要の予測が甘かった。
    ステレオセット→システムコンポ
    ②ホームオーディオの販売戦略変更時期が不運
    オーディオ不況が来る5年前に拡大戦略。
    ③新事業へ進出する時期が遅かった P182-191

    ■経営上の示唆
    1.「遠そうで近いもの」と「近そうで遠いもの」
    富士フィルムの化粧品・医薬品。日清紡のブレーキ。
    業種的には非関連に入るが、コアテクノロジーは本業で培ったおのを応用できて、技術面での関連は高かった。
    米国コンチネンタル航空がLCCに参入したが、フルサービスの会社にとってLCCは発想(思想)が違う
    事業が近いか遠いか、ということ以上に、体内時計の違う事業に転換・進出しようとすると失敗の確率が高い。

    2.やらないことを貫く
    「やらないこと」を決めることは、決して逃げているわけではなく、企業理念との整合性を保ったり、資源の拡散を防いだりする意味がある。

    3.本業転換を早急に求めるな
    豊田自動織機の中に1933年に自動車制作部門設立。クラウン発売が1955年。22年もの時間がかかる。

    4.新事業に本業の規模を求めるな
    自動車産業が住宅産業へ進出はほぼ失敗。自動車と同等の売上規模がある市場ではあった。

    5.転換の必要のないときに本業転換の準備を
    本業が衰退し、CFが十分得られなくなった段階では、多額で長期の投資が必要な事業には進出できない。
    タイミングの重要性
    「景気は循環するので、今が悪いだけ」という発想がスタートを遅らせる。逆にいうと市場の急減の方が組織の力は集中される。
    仮に認識できたとしても起業を経験した役員が少なくなり、創業モードに持っていくことが難しい。P192-212

  • よくまとまっていて凝縮された内容だった。
    取り上げられた会社の歴史が読み物としても面白かった。
    新しい事業を始めるタイミングと、どんな事業を始めるかが大事。
    あと、新規事業は時間がかかり、いきなり本業と同じ規模を目指すとうまくいかない。
    というような結論だった。
    他の事業に転用できる技術を持っていたり、M&Aを仕掛ける資金力がある大企業についての研究だったので、中小企業の参考にはあまりならないかもしれない。

  • 会社の本業だけでビジネスを継続していくことが難しい現在、いかにして多角化によって、会社の存続・成長を図っていくか?
    実際の成功例・失敗例を出しながら、存続・成長させていくポイントを説明する内容。
    この手の成功例の本はややもすれば、結果論と読み手に思わせてしまいがちではある。
    但し、成功例と失敗例を比較し、そのポイントを論じている点で、大変納得感のある内容と感じた。

    同じ事業が未来永劫、成長し続けることは決してないというスタート地点に立つことの難しさはあるのかもしれないが、
    その気持ちになれさえすれば、その来るべき成長鈍化のタイミングに向けてやるべきことは多くあること。
    どのような形であれ、その事業に携わるビジネスパーソンであれば、誰しも果たすべき責任のあることがよく理解できた。

    また、ゆでガエル状態に陥ることのリスクを改めて痛感。
    うまく行っている時にこそ、次の準備をしたたかに進めておくことが大変重要であり、
    その準備に向けては、世の中の趨勢であったり、現場で起こっている事実など、
    アンテナを高く張って、感度良く情報収集していくことも必要。
    そのためのインプットの重要性にも気持ちを新たにした。

  • 5つの対比事例はとても分かりやすく整理されていた(富士フイルムvsコダック、ブラザー工業vsシルバー精工、日清紡ホールディングス vs. カネボウ、JVCケンウッドvs.山水電気)。多角化する際の適切なWhenとWhere(近いようで遠い、遠いようで近い)の考え方など参考になります。

  • 浅い

  • 非常に読みやすく、データもわかりやすく。だからこそ、安穏とした平和ボケの感覚での保証は信じていけなくて。
    今、自分達がいる立ち位置はドコなのか。この見えない世界、広大な世界の中での僕たちの羅針盤は、自分たちが見極めていくしかない――そんなことを読後に思ったのです。

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著者プロフィール

早稲田大学教授

「2016年 『経営戦略[第3版]』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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