俺の友達♂♀が可愛すぎて困る! 06 (MFC キューンシリーズ)
- KADOKAWA (2022年7月27日発売)
- Amazon.co.jp ・マンガ (128ページ)
- / ISBN・EAN: 9784046814425
作品紹介・あらすじ
禁断のTSF(性転換)ラブコメ第6巻!
感想・レビュー・書評
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性別が変わろうと変わらないものはありますが、性別が変わるからこそ伝えられるものもあるのです。
例のごとく、本作についてのレビューは五巻までにも送らせていただいたので概要などについては割愛します。延いてはここ六巻についてですが、高校一年間という作中時間の経過をもってしてヒロインが成長した結実を示す、節目となっている巻です。よって願わくば一巻から通しで目を通していただけましたら幸いです。
六巻から読み始めるという厳しいチャレンジはなされず、ここはおひとつ一巻からどうぞ。単巻ごとのボリュームはお手頃サイズなので、お財布事情さえ許すなら素早く追いつけるのが本作のウリなのですから。
反面、一区切りからの新展開を迎える七巻から読み始めることは「可」だと私は思うのですけれどね。
そんなわけで、納得というか薄々感じ取ってはいました。はじまりの一巻から一回りするようにしてここ第六巻で表紙を飾ったのは主人公「天野滉一」にとって第一のヒロインである「沢渡雪緒」に他なりません。
一巻と比べれば顔形は変わらないなりに、彼もしくは彼女も少しだけ大人びたのではないでしょうか。
季節は冬を過ぎて、春に向かうといった頃合い、高校一年間、年度も終わりましての一区切りですね。
雪緒の成長と合わせて、お付き合いには至らないまでもここで終了となっても許されるところですが、幸いにも好評につき連載継続が見込まれるようです。喜ばしいことです。
作劇的には雪緒をはじめ四人のヒロインたちの性別にどう答えを出すかにもっと時間が欲しいわけですし。
時に、かの名作『ドラゴンボール』では十七巻時点で「もうちっとだけ続くんじゃ」というコメントが飛び出し、結果四十二巻まで続きましたが、本作は何巻で締めくくられるのでしょうか。
実のところ申せば、七巻以降収録予定の話と照らし合わせる限りでは天野くんたちの年次が高校一年なのか、二年なのかはあいまいな部分もありますが、このペースなら最長十八巻ということになるのかもしれません。
さて、気を取り直してこの巻の内容について軽く触れていきます。
冬ということでクリスマス会、スキー&温泉回、バレンタインデー&ホワイトデーなど、この季節ならではのイベントが目白押しです。夏に比べて普段の肌面積は落ちようと、温泉に必然性が生まれるので冬は強い。
それと、最後ふたつについてはレギュラーが性別が揺れ動くことを利用した演出もあったりでなかなかに楽しめました。ラストのホワイトデーは告白イベントも兼ねていて、一歩前進という形でいったんの〆に持ってきたことも申し分なし。なお初詣は軽く流されましたが、その辺は来年に期待ってところでしょうか。
それから前述の通り、最初のヒロインでもある「沢渡雪緒」――久々に再会した親友でもある彼(彼女)について。ここまで艶っぽい表情がこの絵柄から描き出せたのか!? という驚嘆と賞賛を送らせてください。
雪緒が無防備に露出する魅せゴマに関しても、一巻の時と比べると段違いでした。
その辺は物語の積み重ねの妙もあるのでしょうが、大まかな画風は変わっていなくても漫画として読ませる力が向上したということもあるのかもしれません。
彼(彼女)が、女の肉体を自覚した上で天野くんを振り向かせるべく勝負に出た決意が見て取れました。
それから、一年間の最後を締めくくる三十五話ラストの雪緒は表情だけでさすがの破壊力でしたね。
根っこの部分は男同士、同性だからこそわかり合える部分があり、その上に女子の肉体が乗っかるからTSヒロインは強いわけですが、ここに来て「沢渡雪緒」というヒロインの強さを思い知らされました。
これが「TSF(後天的性転換を題材としたフィクション作品)」にガチンコで取り組んできたことへの両作者の取り組みの結果、着々と物語を積んできたことの大区切りと思えば、まさしく感無量でした。
もっとも、その余韻も吹き飛ばす新展開が次なる三十六話でやってくるのですけどね、その辺は次巻で。
よって、ここ六巻までに成長の過程を丹念に描き出して、人間的魅力を増した雪緒については以上とします。
あとは五巻で触れようとしていたのですけれど、拾い忘れたことを含めて漫画的に気に入ったところについて語っていこうと思います。
たとえば、天野と雪緒の両者にとってもうひとりの幼馴染であるヒロインの「水瀬夏希」について。
この巻では彼女が持っているお嬢様設定をフルに活用して、ラブコメとしてのテンポアップに貢献してくれているところが漫画として上手いところでした。
彼女の言葉一つに寄っかかれば一ページで場面転換できるってのは美味しい。
それに付随して、水瀬さんのおつきのメイドさんたち(ネームド)が数人登場するようになりました。
彼女たちの役割と言えば話を回す上での潤滑剤でしょうか。
目立ちすぎないくらいの、モブキャラ以上サブキャラ未満くらいの存在感に留まってくれています。
この漫画ってこのクラスの、背景には佇むけれど書き割りで終わらないキャラの描写がうまいですね。
あと、この巻から前後してデフォルメ絵の差し込みがこなれてきたこともあり、ページごとの情報量のコントロールに成功しています。ならびにラブを抜きにしたとしてもコメディとしての雰囲気を高めているんです。
先述の通り、絵自体は最初から完成された部分もあるのですが、コマ組みなど質も上がっているようです。
話を戻すと、漫画を作るうえでサブキャラにお金持ちを置いておくと便利って格言をどこかで目にした気がしますが。水瀬さんもまた、この場合の成功例の一つとして取り上げられるのかもしれません。
同時に、単なる便利キャラだけに陥らず定期的にピックアップされる機会が巡ってくるのもニクいところ。
彼女、水瀬さんは最初から主人公と男女の仲に発展することをあきらめている部分もあって、自分から線を引いています。けど同時に幼馴染たちとステキな仲間同士であることは誰にも否定できないんです。
男女の間に友情は成立しうるのか? という月並みな命題に対し、彼ら彼女らの幼馴染トリオは答えを出していますね。私が思うに、友情と愛情はどちらが優位なのかではなく、並列しうるものなんだって。
男女で構成される三角関係から生まれる微妙な垣根を性転換という軸から乗り越えて、恋の行方よりまず先に友情が尊いのだと教えてくれるわけです。
ただ、この信頼関係を成立させているのが「TS(性転換)」なるファンタジーな部分ありき、と言ってしまえばそれまでかもしれません。作風も地に足着いてる反面、コミカルムードに助けられる部分もありました。
ですが、作品のすべての前提にTSを置いていることに間違いないと言い切れます。TSを無防備で無自覚なヒロインを演出するだけの手段ではなく、彼女たちを描く上で必須の要素であることも実証しています。
幼馴染三人の物語という確固たる基盤もあるので、私個人としてこれからも安心して読んでいけそうです。
では。最後に補足も兼ねながら、まとめに向かっていくことにいたしましょう。
この巻で天野くんと雪緒の関係の進展に尺を振った分、にぎやかし役に退いたTSヒロインたちにも軽く触れていきます。まずイベントのプロモーター(発起人)としては水瀬さんが活躍しましたが、推進役になるプレゼンター(司会役など)に関してはクリス(♀)が優秀でした。なんというか彼女の動きを見てると楽しい。
あと、五巻から本格参戦したミカは前巻の延長で天野くんと日常を共にする家族としての役割を全うしていました。実に強い、唯一無二の役回りでした。ひるがえって、いとこの翼くんは主人公たちとは別軸で動くキャラなので今回の出番は控えめで巻末のおまけで目立ったくらいですが、その辺は続刊に期待ですね。
考えてみれば今回見せ場でもあった入浴シーンをドカンと出せたのも前巻の流れを踏んだからこそ、なのかもしれません。少なくともミカのおかげで、肉体的には異性同士でも混浴できるって前例を示しましたから。
(雪緒も雪緒で、主人公との間に入浴関係のトラブル起こしているということは承知の上です)
ここまでいささかべた褒めの方に寄りすぎかな? とレビュアーたる私個人も思わなくはないですが、ラブコメにもかかわらず主人公以外の男子にきっちり出番を作れるのがTS漫画の強みなのだと再確認できました。TSというジャンルから様々な良さを引き出していることを、きっちり称揚しておきたいのも確かなのです。
文脈を無視し過ぎると物語のクオリティが下がる入浴シーンに物語的な必然性も加えるあたりも本作は強い。
それと地味に注目しときたいのがTSを症候として医学的に説明してくれる、かかりつけのお医者さんが再登場したことです。雪緒に危機感を与える一方、今後への取っ掛かりを作ってくれたのが大きいですね。
七巻からは新展開を迎えるわけですが、当然医師もその流れを説明する上できっちり登場します。
先読みしたうえでの振り返りなのですが、次を踏まえてきっちり布石を打っているなと考える次第でした。
繰り返すようですが、冒頭に述べたとおりに一巻から六巻まで通読いただくか、七巻から改めて読み進めください。きっとあなたの前には軽快でポップなムードに隠れて綿密に組まれたストーリーがやってくることでしょう。全体が丁寧に組まれているので、なんでしたら改めて読み返されてみてもきっと面白いですよ。詳細をみるコメント0件をすべて表示