戦争と広告 第二次大戦、日本の戦争広告を読み解く (角川選書 568)
- KADOKAWA/角川学芸出版 (2016年2月24日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784047035836
作品紹介・あらすじ
戦争広告は、いかに”嘘”をついたのか――?
太平洋戦争中、雑誌には多くの戦意高揚広告が掲載され、また、日本各地で戦争展覧会が開催された。 それらは誰の、どんな意図によって作られ、人々はどのような影響を受けたのだろう。視覚イメージから戦争を読む。
はじめに
序章
第一章 戦争のはじまり
第二章 乾坤一擲と大躍進――大東亜戦争における軍事力
第三章 視覚文化としての銃後の覚悟
第四章 二一世紀における大東亜戦争
おわりに
感想・レビュー・書評
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戦時中の広告をいくつか引用しながら、時の権力がどのように市井の人たちを広告で発揚して戦時体制を作り上げていったかが分析されている。
本のコンセプト自体は非常に興味をそそるし、実際に面白い。ただ、唯一にして最大の難点は、記述されている広告が必ずしも引用されているわけではなく、しかも特に注釈なく次ページに載っていたり、文中にその広告が引用されているのかどうかも、そのページや次ページを確認しないとわからない。お陰で視線をあちらこちらにひたすら動かす結果になり、非常に読みづらかった。100ページまで読み終えたところで中止。疲れる読み方になってしまったのが残念。
もう一度言うとコンセプトは非常に面白いので、あとは本のレイアウトというか、構成の仕方の問題だったような気がする。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
まず、「聖戦」日中戦争の有料博覧会という存在が奇異だ。政治的動機は当然あるとは言え、エンタメの対象でもあったのだろうか。
他に著者が分析する主な資料源は写真誌。政治性は大体予想のとおりだが、太平洋戦争緒戦時は戦果を強調する記事が多いのに対し、以後は耐える等を強調する記事が多いという指摘からは、やはり現実とは無縁ではいられなかったようだ。
また著者は、女性が日本人・アジア現地人を問わず専ら「癒し」「護られる対象」として描かれていることを随所で指摘している。(新たな労働力化を描くものも少しはあるが)。
最終章では遊就館や「永遠の0」等、現代の「物語化」について述べている。
なお、当時の多くの写真や雑誌記事が掲載されているが、文字が判読できないほど小さいのが残念だ。著者が解説を加えているとは言え、現物そのままを見られた方が当時の雰囲気をよく感じられただろうに。 -
戦時下の日本を、当時の広告や雑誌記事から読み解いていく本である。
すでに類書も多い(『戦争と広告』という同タイトルの本も過去にあった)から、類書にない斬新な切り口を出せるかどうかが、著者の腕の見せどころとなる。
類書の一つ、早川タダノリの『神国日本のトンデモ決戦生活』や『「愛国」の技法』は、戦時下の広告を現在の視点から笑い飛ばすユーモア読み物であり、かなり笑える。それに比べると、本書はガチガチにアカデミックな著作で、笑いの要素は絶無。
本書の価値・独創性は、読み物としての面白さではなく、別方向にある。
一つは、「広告」といってもかなり広義の広告を扱っており、戦意高揚のために開かれた展覧会・博覧会の内容までが検証されている点。
また、第4章「二一世紀における大東亜戦争」では、今世紀に入ってからの日本で開かれた「平和展示(戦争記録展示)」の内容が検証されている。そのような射程の長さが、本書の独創性である。
ただ、第4章で百田尚樹の『永遠の0』の原作と映画版を比較検証している箇所は、さすがに間口を広げすぎで、蛇足だと思った。
本書のもう一つの特徴は、著者が歴史学者ではなく、文化地理学を専門とする地理学者(三重大学准教授)である点。
地理学者として、視覚文化研究の視点から昭和の戦争を論じたからこそ、本書では各種展示会の内容が重きをなしているのだ。 -
「写真週報」について分析したものである。写真をもっと大きく出して文章を付属にするとメディアリテラシーの教材となるが、写真が小さすぎるので少し見づらい。戦争広告としての資料のひとつとしての写真ではある。永遠のゼロについての解説が最後にあるので、映画を見た人も見ていない人も参考になるであろう。