ロシア 語られない戦争 チェチェンゲリラ従軍記 (アスキー新書 71)

著者 :
  • アスキー・メディアワークス
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784048671866

作品紹介・あらすじ

豊富な天然資源とプーチンという強力な指導者により未曾有の経済発展を遂げたロシア。だがその影で、けっして表に出ることのない「語られない戦争」が、いまでも行われている。紛争地帯の取材を続ける著者が、1年半ものあいだ行動を共にしたチェチェン独立派ゲリラ部隊での体験をもとに、ロシアの闇を暴く。

感想・レビュー・書評

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    【要約】


    【ノート】

  • 2008年刊。著者は元NBC長崎放送報道局記者。

     チェチェン(独立派)ゲリラ従軍記の副題は伊達ではないが、その点の叙述はさほど多くはない。むしろ、チェチェン独立派との知遇から、ロシア(プーチン政権)の秘密警察体質、チェチェン紛争に関する、露諜報組織(FSB。KGB後継)の偽装テロ事件工作や要人暗殺。或いはゲリラ組織潜入による情報収集、宣伝工作や情報操作(対外的マスコミ向け)の実態情報を赤裸々に暴く書だ。

     確かに、著者自身が偏っていると自認するように、反露・反プーチン・反FSB、反グルジアの観点で叙述する。
     が、そもそもゲリラと行動を共にするジャーナリストが皆無な中、余りにも貴重すぎるレポートを送る著者の価値は揺るぎないだろう。
     この点、FSBの取調経験者の逸話というだけでも価値があるが、殊に、アレクサンドル・リコビネント元ロシア連邦保安局(FSB)元中佐への直接インタビュー記事は、彼が暗殺?された今となっては、他の追随を許さない、極めて重要な記録であるはず。

     また、マスコミの情報取得源が、ロシア公式発表一辺倒という危険性に加え、このチェチェン問題に限られず、日本を含む各国のマスコミ取材の一般的な問題点であり、その取材力の限界、反対側からの情報収集の重要性の高まりに光を当てた書とも評価できそう。

  • 「甦る怪物」として豊富な天然資源を背景に未曾有の経済発展の陰で、「闇の戦争」が行われているロシア。本書はフリージャーナリストである筆者が一身を賭して綴った貴重な記録であるいえます。今だからこそ是非。

    僕がこの問題に興味を持ったのは映画「コーカサスの虜」を見てからで、これが現在でも続くチェチェン紛争というものを知るきっかけになりました。筆者はフリージャーナリストとして世界各国の紛争地帯を渡り歩き、ここでは1年半ものあいだ行動を共にしたチェチェン独立派ゲリラ部隊への従軍取材や、取材中のイングーシ共和国でのロシア秘密警察(通称「FSB」)による拘束などの経験を通して、われわれが知ることのないロシアの持つ「暗部」を白日の下にさらしていきます。

    おそらく、彼がもしロシアを拠点としたジャーナリストであるならば、確実に「不審死」を遂げていたであろうな、ということが全編にわたって描かれており、文字通り体を張って従軍した経験からつづられるチェチェン紛争の内幕は壮絶の一言で、知らないところでここまでのまさに「血で血を洗う」ような恐ろしいことが行われていることには戦慄を隠せませんでした。

    さらに筆者は特務機関であり秘密警察のFSBに長期間拘束されるという経験を持っているわけですが、おそらく彼自身も彼らの監視下に置かれているだろうな、という予想はつきますし、取調べの最中に日本語を話す連中がいたことに筆者は驚いておりますが、佐藤優氏の著作によると、彼らの中には現在の日本語のみならず、沖縄の方言である「ウチナー口」を完璧に操り、日本の古典文学を原文で読み込んでいる方がいるそうなので、さもありなんという思いがありました。

    本書もロシア語に翻訳され、その内容は本国に「資料」として保管されているであろうということは容易に察しがつくのです。本書の巻末には、「不審な死」を遂げたアレクサンドル・リトビネンコ氏と友人であった著者が2004年に2回に渡って行った彼へのインタビューの全文を掲載しています。その内容がまさに「おそロシア」を地でいくもので、FSBの恐るべき諜報活動の実態にはじまって ロシアの今の繁栄がどのような犠牲の上に成り立っているのか、さらにはプーチンから大統領職をバトンタッチされた当時のメドベージェフはどのような宿題を渡されたのか。などが語られ、本当に貴重な話で、まさに「いのちの言葉」と呼ぶのにふさわしいものでした。

    2012年時点で再度、プーチンへの大統領返り咲きが果たされたからこそ、本書の「価値」というものがあるのではないのでしょうか?

  • 読み助2012年3月2日(金)を参照のこと。http://yomisuke.tea-nifty.com/yomisuke/2012/03/post-7db5.html

  • 著者が常岡さんというきっかけで読んだに過ぎず、ロシア情勢、ましてやチェチェンについて予備知識ゼロ。だけどもチェチェンで何が起こっているのかというのと、イスラムというのがどういうことの一端を著ることができた。あとはロシアの諜報。中国、北朝鮮、ロシアという隣国でこんなことが起こっているというのが改めて驚き。

  • チェチェンの武装組織に同行し、彼らの視点でロシアと被支配民であるチェチェン、イングーシ、その他の民族の悲哀に満ちた現状を書いたもの。グルジアの苦悩も感じられた。
    ヘリからミサイルを放たれ、拘束され、しかし、日本人であるが故、尋問されたものの数々の幸運が重なり危害を加えられず生還したこと、その真実の体験をまとめて出版するという危険な行為に著者のジャーナリスト魂、信念を感じる。
    北オセチア、ベスランでの学校占拠事件に対するくだりは、世論誘導のためにあえて非合法行為を自作自演している国家があるのではないか、とその罪を告発している。
    重い内容だが、その戦禍から離れた日本にいるからこそ、この現実を受け入れ、彼らに思いを馳せる時間を持ちたいと思った。

  • ロシアとチェチェンの戦争を、筆者自らチェチェン側から書くしかなかった事情も明らかにして、かなり公平でしかもそこにいたことでしか書けない臨場感のあるルポ。筆者の考え方もよく理解でき、最後のリトビネンコとのインタビューも興味深かった。

  • ロシア側の情報しか入りにくいチェチェンとロシアの戦闘.著者はチェチェンのゲリラ部隊のカフカスの森からアブハジアへの進攻作戦に従軍しルポする.グルアジアの援助を受けてるとはいえ山岳地帯を地雷やロシア側の攻撃をさけながらの飢餓行軍はよくぞ生きて帰ったと言う感じ.実際、著者のチェチェンでの知り合いは短期間のうちに死亡や行方不明が多数いるとのこと.また著者はロンドンで放射性物質で毒殺されて有名になったリトビネンコとも面識があり最後に彼とのインタビューが掲載されている.ロシアはエリチィンからプーチンにかわって再びソ連時代のKGB(今はFSB)の支配する暗黒政治に戻ろうとしている.

  • 隣国であるにも関わらずロシアの事を知らなすぎたと痛感。かなりチェチェン側の肩を持った内容だが、ロシア政府側のリークが垂れ流されている現状を考えると資料的な価値は非常に高いように思えた。チェチェン戦争の悲惨さよりもロシア政府のマスコミでは描かれることのない陰湿さが個人的に印象に残った。

  • 当然だけれど、現地に足をつけて取材をしていればこそ分かる事実もたくさんある一方で、知れば知るほど簡単に何が真実で何が真実ではないか分からないことがたくさんでてくる。
    当初は聖戦だったというチェチェン独立派の戦いは、時間が経ち、多くの人が関わるにつれ、異なった聖戦の解釈や戦いのアプローチを持つ人々が関わる紛争に変容している。

    この本の中で常岡さんは、命がけでチェチェン独立派の部隊に従軍している、友人や助けてくれた協力者などもたくさんいるので、そういう意味ではとても個人的な感情のこもった描写はしているものの、チェチェン独立派を美化したり「英雄」視しているような内容はいっさいない。実際、腐敗したチェチェン内部の人々や様子についても詳細に描写されている。

    チェチェンの現実は、おそらくきっとどの現実もそうなのだろうけれど、一面的にまとめられないからこそ終わらない紛争が続いているのだと思う。どの人々や組織の思惑も、行動も一枚岩ではない。

    アマゾンの批評を見て、ほとんどが好意的なものなのだが、時々この本に載っている情報の正確さに疑念を呈したり、もっとより深い「分析」を求めるものが散見されたのだが、そういう人たちは暖かいところから分かりやすい計算式を求め過ぎだと思った。



    争いにはフレームワークなんてないし、答えなんてないのだ。
    真実は至る所に転がっていて、その為に正義をかけて戦う人がいる中で、そこに付随してくる政治的思惑や欲望みたいなものが真実を見えにくくし、だからこそ、分かりやすい計算式では切り取れなかった真実を提示するために、こういうルポがあるのだと思いたい。それをどう自分の頭の中で整理するかは、読者がもっと頭を使って考えないといけない。

    チェチェン側からの記事を書く人はとても少ないのだ。
    そしてその数少ない人は命の危険に晒されている。
    実際にそうやってたくさんの人が死んでいるのだから、そういう人たちの書いたものや撮ったものに対して、真剣に向き合うべきだと思う。

    「ひと、点描」という章は、この場所で個人としてたくさんの人と関わり、そこで活動して来た常岡さんならではの人々の描写が読めて、とても興味深く読んだ。

    ちなみに私は個人的に昔から常岡さんを知っているので、当然彼に対する感情は今回の人質事件で知っただけの人よりは親近感もあれば、贔屓に近い感情もある。講演会での彼を見れば、会場からの質問にはどんな質問でも真剣にいちいち頷きながら聞き、私がいらない寝袋があると言えば、バイクで取りにいきます、というくらい、奢らなくて変なかっこつけをしない等身大の人なのだ。そんな常岡さんのやったようなことをできる人間なんて、この日本にはそうそういないと思うから、私は好意的になる。

    ジャーナリストのあり方や取材方法にどんな一家言を持っている人でも、人質の事件の際に全く興味を覚えなかった人でも、この本は読むべき本だ。

    私はチェチェンのことについては、教科書的な紛争の歴史や、現在争いが泥沼化しているということと、ロシア側の動きが胡散臭い、ということ以外、詳しいことは何も知らなかった。この本を読んで、自分が今まで言葉だけで捉えていたチェチェンの様子が、すこしイメージ化された。

    チェチェンのことに関して、無知で無関心あるのは罪だと思った。だって、ロシアはこの国にとって遠そうでとても近い国であり、私たちが向き合っているロシアという国は、チェチェン問題を抱えるロシアなのだから。

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