- Amazon.co.jp ・マンガ (130ページ)
- / ISBN・EAN: 9784049120134
作品紹介・あらすじ
人に視えざる存在を視ることができる、天涯孤独な少年・夕。彼は世話になっていたおじの家の蔵で、【千の仔孕む森の黒山羊】と呼ばれる人ならざる存在と邂逅する。
姉弟の契約を交わした二人は、ともに時間を過ごす中で、強く、深い絆を結んでゆくのだった。
それと時を同じくして、狂気に囚われ入院する夕の叔父に、異形の影が忍び寄る――。
クトゥルフ神話の最果てで、異形の姉弟愛を描く話題作、『姉なるもの』第3巻、ここに登場。
感想・レビュー・書評
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果たしてこれは慈しみ深き存在なのか、それとも打算の上のことなのか。不穏な空気感は常に湿気のごとく身に纏わりつき、狂しいほどの熱量を持つ。この倒錯的な日常は日常たり得るのか、破滅の序章か。千夜が夕くんに依存しはじめている事がどんな影響を与えるのか気になりつつ、一体この叔父さんは何をやったのか。「神の祝福」と書いて「悪魔の契約」と読む。これは同義語であるべきものか、それとも神への冒涜か。しかし、夕くんを助けたのは神ではなく悪魔であり、悪魔が神である可能性は否定できない。
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ゆらりと振れる日常が止まる時。
フラッシュバックのような形で挿入される意味深な一コマは過去か未来か、そういった感傷を思い起こさせます。
けれど、それが現在(いま)に近づいてきたような感覚を覚えました。
それが振り子のようだと思い、それが止まった時には雷鳴のような変革がやってくる、それが夏。
つまりは。
「陽(ハル)」と名乗る少女が訪れ、一人と一柱、極小の世界で完成していた「弟」と「姉」の、「それだけ」が終わりを告げることになりました。
とはいっても、彼女は、「千夜」は。神か悪魔か、どちらにしても、あまりにもいと高い位置にいます。
調子はずれの振り子を予定調和の振れ幅に戻すのは、たやすいことかもしれません。
けれど、これからを意識させられました。
振り子が私たちをまどろみに誘うのか、それとも時を刻む時計を動かすのかは、わかりません。
どちらにしても、辛うじて人知におよばぬモノを定義できていたこの物語が、予想できないかもしれない、という懸念を生じさせ、張り詰めた糸のような緊張感を保たせた、それは確かです。
夢なら醒めるかもしれない、時計なら壊れるかもしれない。
そんなわけで千夜姉が絵遊びやお酒を介して夕くんと戯れつつ、着実と思い出を作っている「夏」に終わりがきてしまうのか、と危惧を覚えています。
ヒマワリを片手に、嫌でも「夏」を意識させられるというのはそういうことなのかもしれません。
ヒマワリの花言葉についてはここでは語るまいとしても、「君を見ている」「君を見ているぞ」「見つけた」と言いたげで、不穏な視線を感じてしまいます。
さしずめ、中央の管状花は複眼のようで。
「ヒマワリ畑と白いワンピース」。晴れやかな少年の夢の直後がこれなのだから、ぞくりと背筋を撫で上げられるような感覚が、癖になってしまいそうです。
美しく、あでやかで、恐ろしくて、強い。
美しく、はかなげで、あやうくて、弱い。
同じく、美しいという言葉からこういった異なる印象を同居させ、一挙に与えてくるのだから全くもって名状しがたき彼女。
正体に大まかなアタリは付けられても、言い切ったところで本質には辿り着けそうになく、それでいてまた違った女性美を見せた陽(ハル)さん。
彼女はどうなるのか、今後さらなる来訪者はあり得るのか、そういった示唆に胸を灼かれつつ、次の夏を待つことにいたします。