86―エイティシックス―Ep.9 ―ヴァルキリィ・ハズ・ランデッド― (電撃文庫)
- KADOKAWA (2021年2月10日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
- / ISBN・EAN: 9784049133097
作品紹介・あらすじ
犠牲は――大きかった。〈電磁砲艦型〉との戦いは、セオの負傷はもちろん、幾人もの仲間の命をその荒波で飲み込んだ。
シャナ。シデンの隊「ブリジンガメン」副長だった彼女も、その一人であった。復讐を誓うシデン、そしてシン行方不明の報に動揺して狙撃できず、シャナ死亡の遠因となったクレナは、平静を失う。
しかし、戦況は少年少女らを慮ることはない。〈電磁砲艦型〉の逃亡先――現在交信可能な最後の国家・ノイリャナルセ聖教国。レギオンの脅威と戦う同胞でありながら、ヴィーカたち連合王国や、連邦上層部すら警戒する謎の国家に、シンたちは足を踏み入れる……!
機動打撃群・派遣作戦最終盤のEp.9!
“敵を撃てなければ、
兵でいることはできない。”
感想・レビュー・書評
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ちょっとくどい感じもしてきたけどでもやっぱ無限に読んでいたいわ
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冒頭、まずは衝撃が大き過ぎた前巻のフォローから
前巻ラストの衝撃と言えばそりゃセオの件が筆頭に来るけれど、他のメンバーだって大きく傷ついている。小説においてはどうしても数として扱わなければならない犠牲だって、当事者としては顔も声も知る相手。幾ら絶死の戦場で死に慣れたエイティシックスと言えど、仲間の喪失に何も思わないわけではなくて
特に長年の隣人を失ったシデン、戦えなくなったのに生きているセオ関連の心理ダメージは大きいようで
喪失の一方で遂にレーナがシンに応えたぁ……
第1巻の頃から特別な繋がりを持ち始めていた二人。本当に少しずつ心を近づけていって互いの差を理解して。そうして何度も大切な相手を失いそうになった二人だけど、こうして遂に心を通わせられましたか…
簡単に死んでしまう世界だからこそ、死ぬまで一緒とか二人には正しい言葉とならない。死線を越えて帰ってくる、帰ってきてと誓いを交わしあった二人は本当に大きな一線を越えたのだと判るよ
これまでもエイティシックスが抱える運命を重ね合わせるような存在を度々登場させてきた本作だけど、今回舞台となったノイリャナルセ聖教国は後書きによるとエイティシックスの原型の一つだとか。いわばプレ・エイティシックスか。また同時に登場するミルメコレオ連隊もどこかエイティシックスの運命と似た部分を持つ集団
こうもエイティシックスとストレートに重ね合わせる存在を出したのはここ最近、エイティシックスの中が二分され始めたからなんだろうなぁ…
以前は未来なんて無い絶死の戦場で誇りを共にして戦っていた彼らだけど、八六区の外に出て、特に中心のシンが未来への展望を持つようになり。それらの影響で同じく将来を考える者が出るようになった
けど変わらず心が八六区に囚われた者も居る
ならそんな前に進めていない者達を本当の意味で八六区の外に出す為にかつての自分達を直接的に想起させる存在が必要だったのだろうね
戦えなくなったけど生きている。まだ未来は残っている。その実感はセオにとって凄まじい衝撃となったのが作中で描かれるね
八六区では戦えないエイティシックスなんて生きる道なんて皆無だった。でも今のセオが暮らす世界は戦えない「程度」で生きる道を閉ざされたりしない
特にイシュマエルの助言が良いね
セオは仲間達と同じようにはもう戦えない。自分という存在を規定する拠り所を失った
でも本当に仲間を失ったわけではないから、彼という人間は失われない
共和国によって理不尽に散々失って、誇りの象徴とも言える戦う力も失ったのに、仲間がいるから「取り戻せる」と考えられるようになった
セオはようやく八六区を出たのだと感じられたよ
逆に仲間がいるから八六区から出られない代表として描かれたのがクレナか…
戦争が終わったらなんて到底考えられなくて、慕うシンの役に立つのは戦場ばかりで
そんな彼女にとって仮初であっても失いたくないと成るのは戦場の世界か…
終盤でシデンも言及しているけれど、絶死の戦場でもそこを棲家としてしまったならそこに居心地の良さを感じてしまう者も居るわけで
そういった者にとって八六区から出ろと、出るのが当たり前だと強要されるのは不快の一言
だから彼女らに必要だったのは「出ろ」と言われる事ではなく、「進もう」と自分で感じる事
その意味では聖教国の裏切りと凄惨な運命は八六区から出られないエイティシックスに改めて戦場の残酷さを突き付けるもの
ヒェルナの叛逆は理不尽と悲惨さを併せ持つものだね
エイティシックスに自分達の為に戦って死ねと強要するのはかつての共和国、奪い取られ続けて最後に残った誇りすら奪われた在り様はかつての自分達
はっきりと突き付けられたからこそ自覚できる自分達の心情。そこに歪みを見てしまうから自分の間違いに気付く。凄惨な戦場を望んだ果てにかつての自分達と似た年嵩の少年少女達が虐殺される様。ヒーローを望んだわけじゃないけど、助けたい何かがエイティシックスにもあった筈で
その感覚がクレナ達を進ませるなんてね…
最終的に八六区や仲間の死に心が囚われていたシデンやクレナの一撃によって戦いが終結する様は美しいの一言
ラスト、大切な人に秘めた想いを打ち明けた上で、それが叶わないと知った上でシンの幸せを願えたクレナもようやく八六区の外に出られたのだと感じられたよ -
惰性で続いているように思えるけど終わりが見えた巻。
次巻からは終盤だろう。
もう終わらせても良いよ。
戦闘に盛り上がりがない気がする。 -
7月26日読了。図書館。
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無理に引き延ばしてるんじゃなく、ちゃんと完結に向かってる感じが安心感のあるシリーズです。
だんだんこれまでの記憶が薄らいできてるからどこかで最初から読み返したいなー! -
今回はいつも以上にいかれてたな。
次も楽しみや。 -
シリーズ9巻は言ってみればクレナの巻だった。
彼女の心の揺らぎが86達の心そのものを象徴していた。
前巻でセオが傷ついて戦えなくなり、最期まで戦い抜くという86の矜持を貫けなる事態に動揺する仲間たち。
クレナも戦いに対する矜持が時に戦争が終わらないことを望む呪いへと変化しそうになる中、同じような境遇の聖教国の兵士たちを前にして戦う意味をもう一度見出す展開。
ようやく、実にようやく86たちも戦争のその先を見ることができるようになったのだなあ。
長かった。
それにしても、このシリーズではなんとも理不尽な境遇が次から次へと登場して精神を持って行かれる。
聖教国の兵士たちもそうだし帝国の私兵たちもそう。
けれどその先に描かれたこのラストはいい。
葛藤の末の吹っ切れたクレナに喝采を送りたい。