アイデンティティの心理学 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (198ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061490208

作品紹介・あらすじ

自分とは何者か?これまで何をしてきたのか?何のために生きているのか?生涯に幾度か訪れる自己喪失や自己崩壊の危機を、いかにして乗り越え、本当の「自分」に出会うか。

感想・レビュー・書評

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  • 「アイデンティティ」という言葉は、今や日本語の一般の会話の中でも使われることが多くなったが、この言葉を心理学的な概念・言葉として最初に提唱したのは、20世紀のアメリカの心理学者・精神分析家であるエリク・H・エリクソンである。
    エリクソンは、生涯自らの父親について知らされることはなく、かつ、北欧系ユダヤ人として様々な差別を受けて育ち、そうした出自や生育歴が、その後の理論・思想形成に大きな影響を及ぼしたと言われている。
    本書で著者は、そのエリクソンの自己形成と、並行した研究の過程について述べ、更に、エリクソンが自著『幼児期と社会』の中で示したライフサイクル論(人間の八つの発達段階)、『アイデンティティ』の中で著したアイデンティティを作り上げている8つの重要な心理学的側面(アイデンティティの心理構造)等、エリクソンの理論について詳しく説明している。
    そして、アイデンティティに関連する臨床問題として、登校拒否、アパシー、様々な非行、対人恐怖症、離人症等についての分析を示し、最後に、日本人のアイデンティティについて、1900年代半ばにパリへ留学し、その後26年間帰国することなくパリで没した哲学者・森有正を取り上げて、その体験と、森氏が「日本語は一人称と二人称の言葉であって、そこには三人称的な言い方が本質的に欠けている」という日本的な考え方が、日本人のアイデンティティの形成にどのような影響を与え、現代社会の変化の中で今後どのような対応が求められるのかを述べている。
    1990年発刊であるが、アイデンティティの心理学的概念の基本を掴むには格好の一冊と思う。
    (2005年7月了)

  • ライフサイクル精神医学について学ぼうとエリクソンに興味を持ち、図書館で借りた。想像より薄く、読みやすそうであった。ただ、黄色に変色し、汚れた外装は歴史を感じさせ、さぞかし内容には現代社会との誤差があるのだろうと思った。
    しかし、実際に読み進めてみると、30年前に刊行されたとは思えないほど、現代でも当てはまる内容に驚いた。はじめの方のページにはエリクソン自身のアイデンティティの確立に影響を与えた事象などが書かれていて、どちらかというと退屈だった。途中からは個人的には非常に興味のある内容だった。ライフサイクルの概念自体が人生の本質に迫る内容であるが、著者の豊かな表現力も相まって、巷の自己啓発本が全て表層的に思えてしまうくらい、人生の本質に触れることのできる本に思えた。何度も読み返したいので、購入することにした。

  • 発達段階の螺旋モデルをより理解するための課題図書として読んだ。
    アイデンティティがエリクソンよりは詳しく説明されており、理解が深まった。
    名前の重要性。
    モラトリアムはもがいている時期であり、決してゆとりではないのである。自分はモラトリアムが長すぎる気がするなぁ。。。そろそろアイデンティティ達成したい。

  • 鑪←たたら、と読むらしい…。

    赤ちゃんが初めて触れられる人は母や父だろう。その母や父、両親を通して得られるのが「基本的信頼感」。信頼感がきちんと築けなかった時、不信感が根付いてしまう。そうすると他人も自分も信じるということが困難となり、不信感で苦しむこととなる。「基底欠損」

    これがすべてのベース。元となる。

    植物で例えるなら
    安定した根っこは地中に根を張り栄養をぐんぐん吸って発育し、果実も多く、質も良いものが収穫することが出来る。不安定な根っこは栄養の吸収もうまくいかず、風にあおられて倒れてしまったり害虫被害や病気に負けて発育不良になってしまう。

    難しい。わたしのような根張りが悪い栄養不足の発育不良の木が交配して受粉したのが、そもそもの間違いだったんじゃないだろうか…と思った。
    信頼かぁ…すべての基礎なんだなぁ。


    愛着に通じるものがある。
    安心できる場所で要求したものが得られ、すやすやと眠って育つことがこれほど大事なことだとは…。それがあってこその幼児期の躾(外からの要求)、応えてクリアできた時の自信(成功体験)が、自立への一歩になっていく。
    基底欠損はすべてのつまづきの始まり。

    メモ:ノート12

  • ライフサイクルとアイデンティティと臨床問題が良かった。

  • 自分とは何かについてエリクソンの発達論を
    とおして考える。気になったのは以下の個所。
    適切な時期に他人の影響を脱して自分を確立することが大切ということか。

    自分が、自分であることを他人に証明することは難しい。人は発達しながら自分自身を確立していく。思春期・青年期に他人の影響から離れ、自分が自分の主人公になっていく。これにはものすごエネルギーが必要である。自分の責任のもと自己決定性を獲得するというプロセスであろう。このプロセスの中で「自分である感覚」「社会的に役立つ自分」「思想的・価値的な信念」を得ていく自分を獲得する。

    また、老年期に自分自身を受容して、次世代含めて人類への関心をもち生き続ける、それを自我意識が統合された状態と考える。かたや自分自身を有用性だけで捉えると絶望に陥る。


  • 日常的にも使われるようになった「アイデンティティ」という言葉だが、その言葉の生まれた背景や「意味」を知る上で購入。

    エンハンはエリクソンの理論を紹介する形でとてもわかりやすい。著者が描いた図解もあり、直観的にわかるようになっている。

    後半はアイデンティティの形成について事例をもとに説明。社会的に大きな事件をアイデンティティという視点で観察して説明を試みることで、自己の統一の難しさなどを紹介している。

    p160
    日本では、個人や集団を超えた原理・原則ということがわかりにくい。それは「へ理屈」といって片付けられることが多い

    とあるが、これはどういうことだろうか。事実を観察するときに我々日本人は「甘え」を前提としていることをさしているのだろうか。
    その「甘え」の前提に反するような原理を持ち出しての指摘(例えば倫理や道徳、最新の科学的な情報)を持ち出して、目の前の事実にロジカルに当てはめて、何かを主張することを「へ理屈」とされてしまうことを指しているのであればよく理解できる。

    これは単に事実を述べているだけの人を「ちょっと面倒臭い人」で片付けてしまう構造に思えるし、そうすると「原理」は「面倒臭いもの」なのになる。なので結果として「へ理屈」となるのか。

  • 他人と交わることは、自分を発見し、自分を確立していく道程である、それなしには、私たちは社会的・職業的アイデンティティを築いて行くことはできない。
    私たちが生きていくためには、世の中を信じ、周囲の人を信じ、何よりも自分を信じていなければならない。
    有能感は社会的に生きていく上で欠くことのできないこころの力となり、支えとなる。
    人格の強い人とは、自分と他人との調和をはかることができ、しかも他の人を侵害したり、されたりしないで、自己実現をしている人のことである。

  • 「自分」とは何かー

    自分であることの証明、自己の確立。
    そしてそれを裏付けていたものが崩壊したとき、「自分」はどうなるか。

    海外で研究が始まった「アイデンティティ」。
    文化や宗教観が違う研究を、日本人向けに研究を受け継がれた大系を掲載。
    それらを実際の事例、事件、そしてとある人物の人生を引用し紹介。

    理論武装としてではなく、価値観や感性で自己を確立したいと思う。

  • 「自分」とは何か。アイデンティティについて、分かりやすく書かれた入門書。E・H・エリクソンの生い立ちも知ることができました。今や「選択」の時代。「選択」はアイデンティティの問題ということ。

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著者プロフィール

(たたら・みきはちろう)
1934年熊本県に生れる。1962年京都大学大学院博士課程修了。教育学博士。広島大学名誉教授、京都文教大学名誉教授。2021年歿。著書『試行カウンセリング』(誠信書房、1977)、『夢分析の実際』(創元社、1979)、『リッグスだより 治療共同体の経験』(誠信書房、1986)。訳書 シンガー『心理療法の鍵概念』(誠信書房、1976)、ボニーム『夢の臨床的利用』(誠信書房、1986)。

「2022年 『精神医学は対人関係論である【新装版】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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