白村江 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061493797

作品紹介・あらすじ

海水みな赤し――唐・新羅連合軍の前に倭国の百済救援作戦は打ち砕かれた。日本の国家形成途上に起こった壮大なパワーゲームを検証し、古代史の通税を覆す力作。

2日間の戦闘を読み解く――倭国水軍はこの日、再度唐軍に攻撃を敢行した。しかし、この日の総攻撃に入るまでには、前夜、倭国水軍のなかで意見の分裂と対立があった。そのため、倭国水軍の攻撃は全体的な統制の採れていない、極めてちぐはぐなものであった。……唐船は倭船のなかに火矢を射込んだ。倭兵は懸命に消化につとめたが、間に合わなかった。多くの倭船が炎につつまれ、倭兵は放り出されるようにして錦江に飛び込んでいった。船より落ちた者は唐兵の放つ矢の恰好の標的となるか、あるいは溺れ死ぬしかなかった。たちまちのうちに、錦江河口の海水が倭兵の流す血に染まっていった。――本書より

感想・レビュー・書評

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  • 白村江の戦い、日本史でその名を記憶している人も多いだろう。私の時代は「はくすきのえ」で習ったが、本書は音読の「はくそんこう」で統一している。戦いに関する直接的な記述は多くなく、日本(当時の「倭国)、朝鮮半島(高句麗、百済、新羅の三つ巴)、大陸(隋から唐へ)の三つの歴史を振り返りながら、日本が朝鮮半島の百済を救出に赴いた白村江の戦いに至る経緯を追いかける。いずれの国においても日本史・世界史に出てくる著名な人物のみならず、現存する文献に残っている細部の人物まで登場していて、当時の混沌とした世界観が目の前に広がる様に生き生きと描かれている。
    日本といえば、大化の改新(645年)前後は蘇我氏が実権を握り、かの有名な中大兄皇子が登場するあたり。朝鮮半島は北の中国の一部までを支配する強大な高句麗と、東南に位置して後に半島統一を成し遂げる新羅、そして日本にも大量に文人や技術を伝播させてくれた西南の百済の三国が日々激しい領土の奪い合いを繰り広げる。時には大陸の唐と手を結び、時には争い合うなど近年の歴史の中でも目まぐるしく謀略やクーデター、団結などが詰め込まれた一大スペクタクルの時代だ。当時の時代感からすれば、相手国に敬意を示すために王族や権力を持つ重臣クラスの子息を相手方に送るのは常識であり、日本へも百済の王子の1人が数十年にわたり送られてくる。百済滅亡の危機に際しては、その王子が再び半島へ渡り、倭国の支援を引き出して新羅・唐の連合軍と戦う。
    現代社会では日本と韓国の仲の悪さだけがフォーカスされて如何にも戦い続ける宿命の様であったかの様に感じられるが、遥か古代より大陸中国や半島とは交易を重ね互いに手を取り合って発展してきた歴史がある。同じ東アジアに暮らす民族にとって重要なパートナーであり続けた。それも日本が朝鮮へ侵攻し、中国を敵に回す近代までは。
    本書で扱う時代からは隋を滅ぼして唐を建国した李世民(太宗)がのちに続く貞観の治世を築いたことで、ビジネスマンがよく読む貞観政要で有名だ。この唐は時代において最も律令や軍隊、技術的に最も進んだ存在であったことは間違いない。日本が参考にした統治制度や武器、宗教なども朝鮮半島の百済を経由して入ってきており、白村江で唐を敵に回すというのがどれ程強大な敵に挑んだ行動であったかが窺い知れる。国内を平定し次期天皇を目指した中大兄皇子の足場固めとしては非常に重要な戦いであったに違いない。
    とは言え、百済内でも王が守備していた城を出てしまうなど戦局も不利にあった日本が勝てる見込みは小さく、船団数では唐を凌いだと言われる大船団も火攻めに遭って敢えなく破れ去る。然し乍ら当の捕虜とされた日本人の多くはその後の唐に学び、日本の国力自体を強化する事に寄与していく。考えてみれば、外国との戦いは互いの文化や技術を高め合うための絶好の機会と言えなくない。ペリーが来校し国力強化に目覚めた日本が、海外から積極的に技術を取り入れて世界の列強に名を連ねていく流れも、海外からの刺激によっている。そう考えるとその後も元寇や秀吉の時代の朝鮮出兵(文禄・慶長の役)、前述のペリー来航による日米間で締結された通商条約(実質的な不利条約)など外国との戦闘を交えた関係性は日本の発展には不可欠であった。
    本書は日本初の大規模な海外遠征である白村江の戦いに至る各国の実情を踏まえながら、如何に他国と交わり共に成長してきたかの記録である。それぞれの歴史が糸を織りなす様に結ばれていく様は大変面白い。常時ワクワクしながら頁をめくれる一冊だ。

  • 倭国だけでなく、唐、高句麗、百済、新羅それぞれでドラマがあったことがわかって面白かった。

  • 「天智と天武」読んだら興味が出てきた

  • 白村江の戦いの時代的前後を,ところどころ小説調で書いてある。

    目新しい発見はなかったけど,あの時代の人間関係に詳しくなった。
    好きなのに,奈良時代の動きを捉えるのは難しい。
    名前が訓読みで,覚えにくいからだろうなあ。

    ちなみに日本で名前が音読みになるのは,道真の祖父君,清公が渡唐から帰ってきた際に進言したのが元々。

    女帝は中継ぎというのが定説だけれど,それにしても斉明天皇の行動力は凄まじいものがある。
    そういえば,観世音寺は斉明帝の菩提寺だったな。

    歴史はこうやって所々繋がっているのが,面白い。

  •  「白村江」~私は「はくすきのえ」と記憶している。しかし最近はそのまま音読みして「はくそんこう」と読んだりするようだ。だから「百済」も「くだら」を「ひゃくさい」とやるらしい(ちなみに朝鮮語読みでは「ペクチェ」)。なんか調子が狂う。

     「白村江の戦い」といえば、百済復興のために差し向けた倭国の水軍が、唐・新羅連合軍に大敗を喫したという7世紀に起こった大戦争という認識である。韓国ドラマを引き合いに出して恐縮だが、時はちょうどドラマ「善徳女王」に出てくる金春秋(キム・チュンチュ)(後の武列王)や金庾信(キム・ユシン)将軍らが大活躍したあたりの時代である。

     次にこれもドラマ連載中の「階伯(ケベク)」に出てくる百済の階伯将軍らが唐・新羅連合軍に敗れ、百済は滅亡する。そこで百済救済のために倭国が大軍を派遣するも、白村江で連合軍に大敗する。このとき圧倒的物量の差で負けたと言われているが、実は当時倭国は連合軍をしのぐほどの大軍を派遣していたというのだ。

     敗因は幹部である百済の旧王族の間に内部不和が生じ方針が定まらなかったこと、結果全軍の意思統一ができていなかったことなどによるものだという。歴史にイフは禁物だそうだが、もしこのとき百済・倭国連合が勝っていたら、半島に百済が復活し倭国が半島に権益を確保して、今の我が国の地図は違う形になっていたのかもしれない。

     また、百済に向け熟田津を出発する兵士を鼓舞するために額田王が、
    「熟田津に 船乗りせむと 月待てば 潮もかないぬ 今は漕ぎ出でな」
    と歌ったと万葉集(巻第一)はいっているが、著者は斉明天皇の作歌とするのが妥当だとういう。斉明女帝はこの戦争のために移動していた時だから、それも一理あると思った。なぜ額田王か、この戦争の全権の象徴である斉明天皇の方がふさわしいと私も思うようになった。

     このように、今まで一般常識のように思われていたことも、よく見れば歴史的事実は異なるかもしれないと気付かされる。

  • [ 内容 ]
    二日間の戦闘を読み解く。
    海水みな赤し―唐・新羅連合軍の前に倭国の百済救援作戦は打ち砕かれた。
    日本の国家形成途上に起こった壮大なパワーゲームを検証し、古代史の通説を覆す力作。

    [ 目次 ]
    プロローグ 捕虜たちの生還
    第1部 白村江への道
    第2部 検証・白村江の戦い
    エピローグ 敗戦史観を見直す

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 昔むかし、今なんかよりもずーっとマトモに、東アジア外交が機能してた頃のお話し。
    第一王子と偽って、ボンクラちゃんを人質に日本に助けを求める百済とか、良い駆け引きしてまんなぁ。
    黒歯常之将軍の、グローバルな生き様にも感服。

    著者である遠山先生の、中性的にして情熱溢れるストーリーテリングも、個人的に結構ツボです。


  • 20060804
    白村江の戦い。こんな昔から日本・朝鮮・中国はこんな関係だったのか。

  • 授業で読んで、すっごいおもしろくて買っちゃった笑
    高校で習ったのとはかなりイメージが覆される、ほんとにおもしろかった
    読みやすいからすっごいおすすめ ちなみに著者の方が授業してくださいました

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著者プロフィール

遠山美都男

1957年、東京都生まれ。学習院大学文学部卒業。同大学大学院人文科学研究科に進み、博士(史学)を取得。専門は日本古代史。『壬申の乱』『白村江』『天皇誕生』『蘇我氏四代』『大化改新と蘇我氏』ほか著書多数。

「2022年 『新版 大化改新 「乙巳の変」の謎を解く』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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