ほめるな (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 18
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061497771

作品紹介・あらすじ

「ほめる教育」がなぜダメかを指摘し、コミュニケーション重視のインタラクティヴ型支援を提唱する。

感想・レビュー・書評

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  • 大学の授業でも教育実習でもはたまた「勇気づけ」でも「ほめる=善いことだ」と明示的・非明示的に伝えられています。
    「ほめる教育」推進派はほめる効果を以下の4つだと主張します。

    ①意欲を持たせる効果
    ②方向づける効果
    ③自信をあたえる効果
    ④人間関係をよくする効果
    これを徹底的に批判します。

    またM.レッパーの研究も興味深いです。
    内発的動機付け(本書ではアモーレ情熱)で絵を描いている幼児をA・Bグループに分けました。
    前者は「描いたらご褒美をあげる」、後者は「描いてみて」のみ。
    これで絵を描いてもらったところ、絵にはあまり違いがありませんでしたが、その後Aグループの幼児たちは絵を描くことが減ったそうです。
    これらのことから、「もともとアモーレ情熱に動かされて絵を描いていたのに、そこにほうびなどというものがからんでくると、大事なアモーレ情熱が弱められてしまう」(p.69)と著者は指摘します。修論もきっと同じですね。書いたら修了というごほうびがあるのですから、これ以上書こうと思いません。もしかしたら研究室を片付けないのも、昔はアモーレ情熱があったのに、ご褒美をもらいすぎてできないのかもしれません。

    ここで注意したいのは、筆者はすべての「ほめる教育」を批判しているのではない、ということです。
    これについては「自然にほめる」vs「意図的にほめる」で書いています(pp.76-93)。自然にほめるのと意図的にほめるのとは違うといいます。
    これまたおもしろい。

    一番興味深いのは、「じゃあどうすれいいんだ?」という問いの答え。
    「インタラクティブな支援」。これの条件に①ひとりの人間として尊重する、②コミュニケーションが双方的、③コミュニケーションが創造的の3つを挙げています。
    分かりやすく事例を挙げているのですが、これがまさしくうちのゼミなのです!!
    いやー、このゼミでよかったー。師匠に会いたくなったー、という本です。
    事例がたくさん書かれているのでとっても読みやすかったですよー。興味がある方、ぜひどうぞー。

    (まっちー)

  • 本当に納得すること、共感することばかりの本で、何回も読みたいと思った。

    「真の愛情さえあればあとはあまり問題ではない」

  • 「ほめるな」と言われて思い当たる節が。。
    教育現場ではほめることは手放しによいことだとされる。
    しかしながら、活動をほめることの繰り返しによって活動そのものではなく評価されること自体が中心の価値になってしまうというのは危惧すべき問題である。

    個人の経験だが、価値の転換が起こってしまった子どもたちは「掃除したら何くれる?」というのである。これは正直面食らった。確かに児童が掃除という面倒な活動自体に喜びを見出すまでにはほめることが必要なことであるとは思う。それはあくまでしかることとセットであるということだ。

    ニセモノのほめ方は子どもの心には届かない。そんなものは簡単に見破られる。話の取っ掛かりについ、適当にほめてしまったときの子どもの冷淡な表情が忘れられない。無理にほめる必要などないと私は思う。「ほめなければ」と追い立てられて口から滑り出る言葉では響かない。

    本の内容から逸れてしまうがほめる声かけが響く瞬間というのは、声かけする相手の心が何らかの状況、事象によってすでにざわついている状態なのではないか。そんなざわつきをうまく捉えた言葉だからこそ響いているように感じるのであって、こちらからの声かけのみで響くわけではないと思う。そんな心の機微を捉えるのが教員の仕事ではなかろうかと思う。

    これはさらに余談だが、小学生時代、読書感想文を書いたらよく書けていたのか放送室のカメラの前で読むことになってしまい、全クラスに放送されてしまったのだが、あまりいい思いをしなかった思い出がある。次の年、自分は「一生懸命書くとまた読まされることになるかもしれない」と手を抜くようになってしまったという過去がある。よい評価されることがその子にとってよい経験になるかというのは別だと思うのだ。

  • 「ほめる教育」には一見、数多くのプラス効果があるように見える。
    しかしそれを長期的な視野で見た場合、そして子どもたちの“人生の質”を考えた場合、それらは一転してマイナスの要素をも併せ持っていることが分かる。

    “褒められること”ことに動機づけられた人生は、受動的で打たれ弱くて視野が狭くなる。
    真に子どもたちを愛し、“創造力のある自立した人間”に育てようと思うならば、一方的に“無理やりほめる”のと“自然体で率直に接する”こと、どちらがより子どもを思いやっているのか、見えてくるはず。

    …非常に説得力があった。

  • 再読本。
    「ほめる教育」が子供をつぶす!とあるが、どうやらすこしづつその結果が出てきているのではと思える昨今。
    再読してみて印象に残ったのが、大人の稚拙な部分。
    「おばあちゃんが好き」と言った子供が許せない父と母。
    「何かひとつくらい先生に褒めてほしかった」という母親。
    著者は子供や生徒に対しての無償の愛の欠如を警告しているが、その状況はどんどん悪くなっていっていると思う。
    ちょっとタイトルが変わると、もう少し売れそうだと思うが。

  • ~120310
    人間として良いと思うことを心からほめる。双方向のやり取りのために、よく聞き、相手のことを受容すること。ほめることには根拠が必要だということ。

  • マニュアル社会に対して疑問をぶつけた一冊。昔、バイト先の塾で「とりあえずほめろ」的なことを言われたときには反発したものです。

  • 褒める教育の危険性を訴えた本である。褒める教育とは動物に芸を仕込むのと同じで自立性の発育を阻害するとのこと。最初の方は実験や調査に基づく内容で興味深かったが、後半では筆がのってきたのか、ほめる教育に対して精神論や感覚で、ムキになって批判している感じがして、あまり後味が良くなかった。

    とはいえほめる教育が予想以上に社会に普及しており、知らず知らずのうちに自分もしているかもしれないということ、またそれに危険な面があることを知っておくにはいい本かもしれない。

  • 2010年一冊目。
    「ほめることはいるかに芸を教えることと同じ。」
    なかなかに今までの考えを木っ端微塵にされた思いでしたが
    なるほどと思う面もあり、出会ってよかった本と思いました。
    いろいろ人に紹介するのですが、やっぱりほめる教育をしてきた
    人にとっては賛否両論ありますね。

  • ほめる教育に警鐘を鳴らし、真の愛情による教育の展開を叫ぶ一冊です。
    意図的にほめることの弊害、『ほめられないと動かない』、『評価付けによる萎縮が失敗耐性を弱くする』、『指示待ち人間になる』等をつくってしまい、社会的損失も大きくなる…この失敗耐性は特に危惧しなければならないと思います。
    『○○はいい子ね』などのようにほめすぎると、それはほめる側からの評価が強くなり、暗に『失敗したら評価しないよ』と言っているようなものになります。
    失敗をしないように行動したり、あるいは新しい事に挑戦しなくなる可能性は否定できません。
    外部評価による動機付けの実験を紹介していますが、著書の中で実証的・データ分析等の科学的論拠がおしなべて少なく、著者の経験や直感に頼った感が否めません。学術書とは言い難い内容となっていますが、まだまだデータの蓄積や解析等の収集、いかんせん長いスパンでの実証が期待される分野なので、これからが楽しみです。
    この本に興味のある人は波多野・稲垣著『無気力の心理学』、
    恒吉僚子著『人間形成の日米比較』、
    袰岩奈々著『感じない子ども こころを扱えない大人』
    をおすすめして終わりにします(笑)

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著者プロフィール

1949年生まれ。名古屋大学大学院修士課程修了。中京大学国際教養学部教授。主要著訳書:『怪物のルネサンス』(河出書房新社)、『森と悪魔―中世・ルネサンスの闇の系譜学』(岩波書店)、『ノストラダムス 予言集』(共訳、岩波書店)、Y. ベランジェ『プレイヤード派の詩人たち』(共訳、白水社)など。

「2016年 『フランス・ルネサンス文学集 2』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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