タイム・イン・パワーズ・オブ・テン 一瞬から永遠まで、時間の流れの図鑑 (KS科学一般書)

  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061531550

作品紹介・あらすじ

ノーベル賞物理学者の著者が、時の流れをたどる旅に読者を招待。「1秒」から10倍ずつ順を追って、10の-44乗秒から10の90乗秒までのさまざまな自然現象を見渡す。美しい写真と最新科学に基づくイラストで魅せる一冊。

感想・レビュー・書評

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  • 資料ID:21504011
    請求記号:421||H
    配架場所:普通図書室

  • 時の流れといったとき、人が通常思い浮かべるのは数時間、数日、数ヶ月、数年の単位だろうか。私たちが認識できる時間枠は、短い方は1/10秒ほど、長い方は(長生きの人でも)100年程度だ。しかしビッグバンによって誕生した宇宙は、瞬きよりも短い時間の後に爆発的に膨張し始めた。そして私たちの寿命はおろか、地球が生まれ消滅するよりもずっとずっと長い期間、宇宙は存在し続ける。理論的には、ビッグバンから宇宙が膨らみ始めるよりもずっと短い時間も、また今私たちが知る宇宙が消え去るより先の長い時間も想定できる。
    本書では、いささか気が遠くなるような時間に関するあれこれを、主に理論物理の観点から考察していく。1秒から始め、まずは10秒、100秒、1000秒と徐々に長い時間へと進んでみよう。永遠という闇を覗いたら、一気に刹那に駆け下りる。その後は、少しずつ長い時間へと進み、再び1秒へと戻る旅だ。時の狭間に落ちないように、シートベルトをしっかり締めて出発だ。

    始めに、タイトルについて。「パワーズ・オブ・テン」とは10の累乗のことだ。本書では、「10^n」が鍵になる。10のn乗と読み、10をn回掛けたものである。nの部分は指数と呼ばれる。何だか小難しいようだが、10^1は10、10^2は100、10^3は1000という具合。指数部分がマイナスになったら、10で割っていくと思えばよい。10^-1は0.1、10^-2は0.01、10^-3は0.001。時間で言えば、0.1秒、0.01秒、0.001秒くらいならともかく、0.0000000001秒と書くよりは、10^-10と書く方が見やすくわかりやすい。

    時の流れを旅する中で、いくつか見所がある。天体の周期、電磁波など周期的にリズミカルに動くもの、原子核や素粒子の放射性崩壊、宇宙の誕生に関する理論などの宇宙論などだ。心臓の鼓動など、人体に関わる部分もあるが、人の時間枠は限られているので、宇宙や素粒子に関わる部分が多い。

    まずは長い方に出かけよう。
    1秒は時間の基本単位で、元は日中の時間を12時間に分け、第一段階として1時間を60分に、第二段階で1分を60秒に分けていた(そのため英語でsecond(二番目)という)。現在では原子時計で規定する。10秒は男子100mの記録に近いが、その短い間に自転する恒星(白色矮星)もあるという。1000(10^3)秒あれば光は地球と太陽の間を往復する。10万(10^5)秒はほぼ1日間に相当し、1000万(10^7)秒は4ヶ月程度で四季の一季にあたる。100億(10^10)秒となると317年で、人の寿命は飛び越える。植物を含めた生物の寿命はこの一桁上くらいまでだ。100兆(10^14)秒は317万年で、人類が現れたのは350万年ほど前なのでこの桁になる。地球に生命が誕生したのは10京(10^17)秒=31億7000万年ほど前のことだ。ビッグバンは138億年(4.354x10^17秒)前と言われているから、宇宙が出来てから意外に早く生命が誕生したようにも見える。
    さて宇宙の誕生という時間枠に到達したから、ここが時間の果てだろうか・・・? いやいや、理論物理ではこれよりも長い枠も無意味ではないという。宇宙の最短の寿命(300億年)、最も長生きの恒星の寿命(10兆年)、原子核の中の陽子が崩壊するまでの時間(10^41秒=3.17x10^33年)、太陽の数倍の質量のブラックホールの寿命(10^74秒=3x10^66年)などというものがある。
    途轍もないのは、ポアンカレの再帰時間と呼ばれるもの。閉じた系の中で、自由に運動している粒子が再び同じ場所に戻ってくるまでの時間である。数え上げの問題なので、計算すれば解けるそうなのだが、200個の区別不能な粒子が100万個の格子点を巡回する場合は、何と10^1000秒掛かるのだそうだ。えっと、それってどのくらい・・・? ちょっと想像が出来ない枠だ。

    気を取り直して、短い時間枠に飛ぼう。
    物理の上で意味がある最も短い単位は、10^-44秒。プランク時間と呼ばれるものである。物理学者マックス・プランクは、自然界で重要な役割を果たす3つの基本定数(プランク定数、ニュートンの万有引力定数、光速)があることを発見した。これらを組み合わせて、長さの次元、質量の次元、時間の次元を持つ単位が作り出され、このうち、時間に関するものがプランク時間だという。理論的には、何らかの物理現象が起こるために必要な最小限の時間がこれにあたるらしい。ビッグバンから宇宙の膨張が起こったのが10^-38~10^-32秒後。10^-25秒より先は素粒子物理が活躍する時間枠だ。原子は陽子や中性子、電子で出来ているが、それより小さい単位が素粒子だ。素粒子や素粒子が作る中間子の半減期がこの時間枠以降に入ってくる。電磁波の振動周期が関係してくるのは10^-20秒よりも長い時間である。振動周期は周波数(1秒間に振動する回数、Hz)の逆数にあたり、1回振動するために要する時間である。10^-19秒よりも短い振動周期を持つものはガンマ線と呼ばれる。X線は10^-19~10^-16秒程度。紫外光、可視光(10^-15秒付近)、赤外光(10^-14秒付近)、近赤外光と振動周期は長くなっていく。
    5 GHzのプロセッサが1つの命令を実行するのに要する時間は10^-10秒。同じ仕事をするのに、1974年のプロセッサは1μ(10^-6)秒要した。数十年のうちに処理能力は実に1万倍上がったわけだ。
    通信に使われる、超短波(10^-9秒付近)、短波(10^-7秒付近)長波(10^-5秒付近)の振動周期が出てくるあたりになると、少し、現実社会に近づいてくる感じがある。-9乗を表すナノ、-6乗を表すマイクロ、-3乗を表すミリは聞いたことがある人も多いだろう。
    神経細胞の情報処理速度は2ミリ秒というから、こうして見てくるとずいぶんと鷹揚にゆっくり反応するようにも思えてしまう。が、現実的にはほんのわずかの時間である。
    ハチドリは1秒間に50回羽ばたくことが出来るが、人が演奏可能な最も短い音符は0.1秒程度だそうである。

    長い時間、短い時間を通して、非常に広い範囲にわたっているのが、さまざまな同位元素の半減期である。同位元素とは陽子と電子の数が同じで、中性子の数が異なるものだ。この組み合わせによって、非常に安定なものもあるが、不安定なものは放射線を出してより安定なものに変わろうとする。これを放射性崩壊と呼び、存在するものの半量が崩壊するまでの時間を半減期と呼ぶ。安定さの度合いが異なると、同位元素の間でも半減期が非常に異なる例がある。原子番号71のルテチウムの場合は、30種を超える同位元素があり、半減期1秒以下の不安定なものから、378億年のかなり安定なものまである(崩壊しない安定なものもある)。

    空間の非常に小さい単位から大きな単位を見て行く場合のように、時間の場合も行き着く先は理論物理の世界である。宇宙であり、素粒子であり、存在の誕生に迫るエキサイティングな試みだ。数年、数十年が経つと、時間を巡る旅もさらにより遠くまで進めるのかもしれない。

    完全には理解できなかった部分もあった本を評価するのは気が引けるが、しかし、この驚きと可能性はやはり☆5に値すると思う。

  • 請求記号 421/H 85

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