氷川清話 (講談社学術文庫)

著者 :
制作 : 江藤 淳  松浦 玲 
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061594630

作品紹介・あらすじ

幕藩体制瓦解の中、勝海舟は数々の難局に手腕を発揮、江戸城を無血開城に導いて次代を拓いた。晩年、海舟が赤坂氷川の自邸で、歯に衣着せず語った辛辣な人物評、痛烈な時局批判の数々は、彼の人間臭さや豪快さに溢れ、今なお興味が尽きない。本書は、従来の流布本を徹底的に検討し直し、疑問点を正し、未収録談を拾い上げ再編集した決定版。

感想・レビュー・書評

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  • 勝海舟は、この時代としては長命ということになるであろう76歳まで生きている。晩年に入った明治20年代後半や明治30年頃に至ると、色々と談話を求められ、それが新聞等で発表もされていたようである。そうした公にされたモノを軸に、「かの勝海舟の談話」として纏まった形の本になって世に問われ、知られているのが『氷川清話』である。
    本書では、その『氷川清話』を巡る“問題”が指摘されている。或る程度知られている『氷川清話』には、編纂者による改竄が見受けられ、本来発表された時期に論じられた話題から明らかに逸れてしまっている例等も非常に多いのだそうだ。そして、その“問題”が在る本を底本に、明治時代の仮名遣いを現代風に改めたモノも出回っているのだという。
    そういう“問題”を受け、本書に携わった人達は「本来の勝海舟が公にした談話」の姿を再現する研究を重ね、勝海舟の全集を出版する過程でそれを実現し、それに依拠した文庫本が登場したのだという。その文庫本にしても、「勝海舟の談話?」と興味を覚えた読者が気軽に読むには読み悪い面が否定出来ないとして、読み易くするように整理した版が本書である。
    明治も半ばを過ぎれば、「一線を退いた高名な人物」を「識者」と見做して、新聞記者が「○○の動きをどう観ますか?」と尋ねに訪れる、或いは作家が“聞書き”の材料を求めて訪れるというのが方々に見受けられたようだ。勝海舟は、そういう人達を迎える機会が多かったようで、色々な談話が本書にも出ている。
    本書に在る談話の話題は、多分最も多いのが、談話が出た時期の政治、外交等に関する私見のようなモノだ。そして同時代や過去の人物評、文芸等に関する事、加えて自身の来歴に纏わる話題であろう。『氷川清話』と言えば、「晩年の勝海舟の回想」というイメージも強いように思うが、実は「識者」と見做された彼が“時局”に関連するコメントをしているという部分の方が寧ろ多い。
    勝海舟については、小説や映画やドラマの劇中人物のモデルになる頻度も高めで、色々と毀誉褒貶の在る人物であるとは思う。が、本書を読んで思うのは「俺は、俺が出来るように、俺が可能な限りに何事にも力を尽くした」、「武士の端くれとして、武士なりの鍛錬を重ねて青年期を過ごし、誰にも恥じることがないように生きて来た」というような矜持を胸に、「とりあえず、現在となっては一線を退いている者で、自身が何かを言ってどうなるでもないだろうが、こういうように思う」と世の中を達観して悠然としている彼の姿である。
    本書の本文には「敢えて話口調のような文」で綴っている箇所も多い。そういう部分を読むと、東京に在った学生時代に出くわした、一定以上の年配の方、殊に男性の「多分、“江戸”の流れを汲むような話し口調?」と感じたような声音が頭の中に浮かび上がる…本書を読んでいて、何か自身も老境の勝海舟の居る場所を訪ねて話しに耳を傾けている気分になる。
    大変な労力を投じて「本来の勝海舟が公にした談話」の姿を再現しようとして、そして「読み易い文庫本であること」にも一定程度配意された形で登場している本書は、なかなかに興味深いと思う。そして読後に、幕末期の複雑な事情を潜り抜けた勝海舟が「今の時代」を観て、どういう談話を発するであろうか、というようなことも思った…

  • おじいちゃんの家に行って話を聞くみたいな感じで良かった。現代の仕事に通じる話も多い。

  • この人は本当に江戸っ子なんだよなあ。
    曲がったことが嫌いで、すぐ行動して、根に持たず(好き嫌いはある)、口が立つ。
    下町で貧乏育ちだっただけあって、武士っぽくない。
    だから嫌われもさげすまれもしたんだろうけど。

    それでも、自分で言うだけあって、この人のしてきたことはすごい。
    本人曰く、自分が一番一生懸命勉強したのは剣術。
    その後に禅。
    だから肝が据わったのだと。
    今の人(明治期の人)は、勉学を修め、知識はあっても肝が据わっていないから大きなことができないのだと言い放つ。
    それと庶民から学ぶという姿勢の欠如。

    明治29年に全国的に大洪水が相次いだことについて
    幕府が作る堤防は、とにかく地下を深く掘って基礎を固め、その絵に柳を植え、見栄えはともかく丈夫な堤防を作った。そして堤防の周りの土地を百姓に唯で作らせたので、土地の者たちは必死で堤防のメンテナンスを自分たちで行った。明治政府はその土地にまでいちいち税金をかけるために細かく測量し、柳の木まで全部切り倒してしまった。
    ”昔の人は、今の人のやうに、人目に見えるやうなところに頓着しない。その代わりに誰にも見えない地底へ、イクラ力を籠めたか知れないよ。昔と今と違ふところは、こゝだよ。”

    同じく明治29年の東北の津波に対して、対応が後手に回る明治政府に対して、幕府の非常時対策を説く
    ”窮民に飯を喰はせなければ、みんな何処かへ逃げて行ってしまふよ。逃げられては困るヂャないか、どこまでも住み慣れたる土地に居た者を、その土地より逃がさずにチヤンと住まはしておくのが仁政と言ふものだよ。”

    明治26年
    ”行政改革といふことは、よく気をつけないと弱い者いぢめになるヨ。(中略)全体、改革といふことは、公平でなくてはいけない。そして大きい者から始めて、小さいものを後にするがよいヨ。言ひ換へれば、改革者が一番に自分を改革するのサ。”

    明治31年、第三次伊藤内閣の崩壊が迫っている時
    ”おれは超然主義の江戸子だから、威張ると苦しめたくなるし、弱ると助けたくなる。”
    そんな性分だよねえ。

    明治30年第二次松方内閣崩壊の頃
    ”天下の大勢を達観し、時局の大体を明察して、万事その機先を制するのが政治の本体だ。これがすなはち経綸といふものだ。この大本さへ定まれば、小策などはどうでもよいのサ。大西郷(だいさいごう)のごときは、明治十年にあんな乱暴をやつたけれども、今日に至つえ西郷を怨むものは天下に一人もあるまい。これは畢竟大西郷の大西郷たる所以の本領が、明らかに世の人に認められて居るからだ。”
    小細工の上手い長州人に対し、薩摩人は不器用だという好意的批評だそうです。

    明治28年、日清戦争の後の国際的な動きを見据えて
    ”ともあれ、日本人もあまり戦争に勝つたなどと威張つて居ると、あとで大変な目にあふヨ。県や鉄砲の戦争には勝つても、経済上の戦争に負けると、国は仕方がなくなるヨ。そして、この経済上の戦争にかけては、日本人は、とても支那人には及ばないだらうと思ふと、おれはひそかに心配するヨ。”
    日本人の考える国のあり方と中国人の考える国のあり方は全然別で、そのスケール感といい、個人主義の極まり方といい、この辺りの洞察については今私が読んでも目からうろこでした。

    これらは明治30年ころの発言が多い。
    維新から30年、薩長の藩閥政治に庶民がうんざりしているという背景から、維新の生き残りである勝海舟の元に話を聞きに来る人が多かったのだろう。
    あんなにぼろくそ言われた徳川の世は300年続き、それを否定した政府は30年でぼろくそ言われていると勝海舟は言う。
    いや、後に勝海舟の息子と結婚したクララ・ホイットニーは、来日した明治10年のころすでに「庶民は公方様の時代を懐かしんでいる」と日記に書いていたぞ。

    吉田松陰がもし、アメリカ密航に成功して、無事に本に戻ってきたなら、明治維新のありようはもっと違ったのではないかと思ったりもする。
    テロの推奨をしたけれど、彼自身は無私の人だったからね。
    維新から30年。
    明治天皇の心中を察する勝海舟。
    なるほど、確かに薩長に騙された感はあったかもしれないね。

    もっともっと引用したいけれど、キリがない。
    なんか勝先生の言葉を読みながら、中居くんのことを考えてしまったよ。
    中居君は政治のことは何も言わないけれど、見えないところへの目配りとか…。
    この本は絶対的座右の書にしよう。

  • 幕末の偉人『勝海舟』の談話集。明治の元勲から、当時の磁極、歴史上の人物から、近所に住む市井の人まで、自由闊達に語っている。斜に構えた言葉の中で、時に覗く心の厚さや哲学めいたワードがグッとくる。
    西郷をほめる内容が多いが、他には北条氏(鎌倉)を高く評価していることが見える。この時代はあまり読んでいない。次は北条関連を探してみよう。

  • NHK大河ドラマで子供のころ見ていて大変見いってしまった人物立ったので尊敬していました。俳優が渡徹也さんとかカッコいいだからかも知れませんね。いづれにしても幕末の大変な時に日本の将来を担って行く姿に感動したのかもしれません。その方の当時の様子をどんな思いでいたのかを知るこの本は大変興味深いものでしたね。

  • 時系列がぐちゃぐちゃで、少し読みづらかった。でも内容としては、幕末、維新、維新後について勝海舟の考えが網羅的に書かれていてとても面白い。

  • 歴史好きにはたまらない。晩年の勝海舟口語録。ひたすら西郷をほめちぎる。
    現代にも通じる人の道、政治の道を、江戸弁でまくしたてているので気持ちいい。
    学のあるフーテンの寅?

    ・外国といふものをドシゝ若手の連中に目撃させねばいかぬと思った
    ・人物が知られるのは100年後
     →今のことは今知れて、今の人に褒められなくては承知しないといふ尻の穴の小さい奴ばかりだろう
    ・これは今日の事で明日のことは余の知るところにあらず
    ・政治家の秘訣はほかにないのだよ。正心誠意の四字しかないよ
    ・人心を慰安する余裕(徳川家康→日光:信長・秀吉・家康3人の霊を合祀してある)
    ・難民の救済:東北の津波記述あり
    ・災害が起こったとしてもどこまでも住み慣れた土地にいた者を、その土地より逃さずにチャント住まわしておくのが仁政といふものだよ。
    ・とにかく、経済の事は経済学者にはわからない。
    ・なーに、塾考の上で決行すればやられない事わない
    ・心は明鏡止水のごとし
    ・平生小児視して居る者の中に、存外非常の傑物があるものだから、上に立つ物は、よほど公平な考へをもって、人物に注意して居ないと、国家のために大変な損をすることがある。
    ・気合が人にかかったと見たらすらりと横にかはすのだ。もし自分にかかって来たら、油断なくずんずん推していくのだ。
    ・西郷が偲ばれるのサ。彼は常に言っていたヨ。「人間一人前の仕事といふものは高が知れる」といってゐたヨ。
    ・人材は製造できない。畢竟自己の修養いかんにあるのだ。
    ・時間さへあらば、市中をぶらつけ。
    ・必ずこれのみと断定するな。
    ・人を集めて党を作るのは、一つの私ではないかと、おれは早くより疑ってゐるヨ。人はみな、さまざまにその長ずるところ、信ずるところを行へばよいのサ。社会は大きいから、あらうるものを包容して毫も不都合はない。
    ・何事も知らない風をして、独り局外に超然として居りながら、しかもよく大局を制する手腕のあったのは、近代ではただ西郷一人だ。世が文明になると、みな神経過敏になって、馬鹿の真似などはできなくなるから困る。
    ・大げんかせよ。おれはモー死にかかって、半分耄碌して居るが、世の中の若造も思いの外だよ。来年は戌年だといふから、発句を読んで置いた。これをご覧。
     「男らしく大喧嘩せよいぬの春」

  • 歯に衣着せぬ痛快な談話集。

    内政にしても外交にしても、事を為すには明鏡止水・虚心坦懐で誠心誠意・臨機応変に当たることが肝腎である、との海舟の信念は、全く現代社会にも妥当すべきことだろう。

    歴史を知るにも政治を知るにも学ぶところ多し。

  • 幕末から明治にかけて、勝と関わった様々な人物の回顧や人物評が、面白い。勝が、西郷さんを尊敬しているのが良く分かる。

  • 勝海舟の人となり、歴史の中でまわりの人とどう関わり、考えてきたのかその人間臭さのよくわかる書であった。坂本竜馬、西郷隆盛に影響を与えてきた。決断力、胆力の修養、陸奥宗光、李鴻章、田沼意次、大隈重信、大久保利通、等幕末の革命を支えてきた人間だと思う。道を開いていく考え方はとても参考になる。

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