鹿鳴館の系譜: 近代日本文芸史誌 (講談社文芸文庫 いB 3)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (380ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061961104

作品紹介・あらすじ

日本近代の"欧化"の象徴としての鹿鳴館-。その華やかさのうしろにある"悲哀"を見出す著者が、近代日本百年の歩みを、そのヴァリエーションとして、再構成しながら、社会・風俗・建築・音楽など、文化の全領域に"欧化という伝統"を発掘。既成の文学史観を覆す知的スリルに満ちた長篇。磯田光一の代表的エッセイ。読売文学賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 近代日本の「欧化」の歴史において、伝統思想がどのような変容をこうむってきたのか、また西洋から受容した文化がどのようなしかたで文学をはじめとするわれわれのものの考え方に影響をあたえてきたのかということを追求している本です。

    本書で最初にとりあげられるのは、儒学的伝統のなかで古典の熟読を重視する文献についての学問を意味した「文学」が、小説・戯曲・詩歌を含むジャンルとしてのliteratureの訳語として採用されるに至る経緯です。そこには、皮相な欧化主義も、さらには、国家的な「学科」(science)編成の跡も、はっきりと刻印されていると著者はいいます。それにもかかわらず、この「文学」という訳語を通じて、近代日本文学におけるリアリズムが形成されていったことに著者は注意を向けています。

    著者は、小林秀雄の『本居宣長』で述べられていた、「日本の歴史は、外国文明の模倣によって始まったのではない、模倣の意味を問い、その答えを見附けたところに始まった」という言葉を紹介しています。近代日本において、「欧化」はかならずしも伝統からの脱却を意味していたわけではありませんでした。著者が、近代以降の日本における「鹿鳴館の系譜」をたどることで明らかにしているのは、「欧化という伝統」そのものにほかなりません。このばあいの「伝統」ということばは、なんらかのイデオロギーを意味するものではなく、したがってそれが近代になって作られたことを指摘することで片がつくようなものでもありません。著者が示そうとしているのは、むしろそうした「欧化」を批判しようとする意志や、反対にそこにしかわれわれの文学的な出発点はないとして引き受けようとする意志などが、それに掉さすものであるほかないような「伝統」であるというべきであるように思われます。

  • 131夜

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