評伝高橋和巳 (講談社文芸文庫 かJ 1 現代日本の評伝)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (261ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061963412

作品紹介・あらすじ

今、なぜ高橋和巳なのか。三島由紀夫とともにその早い死が、文学が持っていた深甚な発信力を失う時期に重なる。戦後派文学の継承者として出発し、文学・思想の全てを闘い、闘いすぎて早逝した高橋に、最も深く親近した立場から、その高橋の生涯、その文学・思想を鮮かに追尋した力篇。評論家川西政明の誕生を明確に刻した力作評伝。

感想・レビュー・書評

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  • 編集者として、高橋和巳に親しく接した著者による評伝です。

    本書は大きく二部構成となっており、第一部では高橋の出生から、同人活動への取り組みがとりあげられています。とくに大学以降の高橋は、京都大学の同窓である小松左京らと親交をもちつつ、政治と文学の関係という古くて新しいテーマをめぐって軋轢に巻き込まれるなかで、彼自身の文学上のスタンスを築いていったことが明らかにされています。

    第二部では、妻・たか子との関係を中心に、家族や愛といったテーマをめぐる高橋の葛藤が明らかにされています。著者は、和巳とたか子のすれちがいを、やや突き放した視線で見つめ、高橋のたか子に対する愛がもっていた甘さを指摘しつつも、彼の愛についての考えが『悲の器』という代表作へつながっていったことを明らかにしています。また、高橋の政治的なスタンスについては、師であった吉川幸次郎との関係にも目くばりしながら、高橋の実践的な行動と『憂鬱なる党派』などの作品世界とのつながりについて考察がなされています。

    「解説」で秋山駿が、「高橋和巳論が、川西君にとっては、己れの生の審判の場所であった」と評しています。といっても、けっして著者自身の考えが前面に押し出されているのではなく、あくまで高橋和巳という対象の実像をていねいに追いかけた内容となっていますが、出生や家族、政治といったテーマを掘り下げることで、高橋和巳という作家を鏡として、著者自身が文学の世界にどのように入り込んでいったのかということがうかがえるようなところもあり、おもしろく読みました。

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著者プロフィール

1941年大阪市生まれ。文芸評論家。小社編集者として『埴谷雄高作品集』『高橋和巳作品集』を世に出す。著書『わが幻の国』で平林たい子文学賞、『武田泰淳伝』で伊藤整文学賞受賞。他の著書に『謎解き「死霊」論』『文士と姦通』等がある。

「2016年 『大岡昇平 文学の軌跡』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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