荻原朔太郎

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (361ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062032001

作品紹介・あらすじ

朔太郎の全体像を地誌と歴史のなかに融合し、批評の新水路を拓く。絶筆になった評伝文学。

感想・レビュー・書評

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  • >日は断崖の上に登り
    >憂ひは陸橋の下を低く歩めり。
    >無限に遠き空の彼方
    >続ける鉄路の柵の背後に一つの寂しき影は漂ふ。

    磯田は、この詩の情景描写に、朔太郎が実際に見た風景が重なるはずだと考える。… 日とは夕陽を指し、だから断崖は線路の西側に位置し、さらに、この詩が朔太郎自身の「家郷の不在」「漂泊の孤独」をうたったものである以上、線路の先には、朔太郎の故郷の前橋がなければならない。… 以上から、朔太郎の視点は京浜東北線の上野から田端の間にあった、と結論づける。

    磯田の最後の著作となったこの本でも、朔太郎の人生の道程を歩みなおすかのような緻密な仕事ぶりで、実直な磯田の面目躍如。しかし、神経過敏な朔太郎の内的世界に踏み入るには、磯田のような実直さによるしかなかったのではないか。

    磯田は朔太郎の詩の全編を通じて“悔恨”という感情を見、そのニュアンスの変化を次のようにみる。
    それは他人や社会の眼に対する後悔の感情“regret”というより、良心の声がおのれの非を責める“repentance”であったが、自分が存在すること自体が取り返しのつかない悪であるかのように捉える感覚“remorse”となって、「見よ!人生は過失なり。」という呪詛や憤怒の表現に至る-
    朔太郎の多変化な作風の解釈に多くの者が苦渋する中、一本の筋と微妙な差異とを「聞き分けた」磯田の仕事には頭が下がる。

    また磯田が拾い上げた個々のエピソードにも興味が惹かれる。
    例えば、幼少時の前橋で寺から聞こえてきた和讃(仏徳賛美の歌)が漢文調の詩作に影響しているという記述や、父の医学書を幼少時から目にしたことが、疫学的解剖学的な詩の表現につながっているという記述は、旧来からの土着的なものと、西洋化の雰囲気の影響という新旧双方への朔太郎流咀嚼法が見られ、現代の情報技術の加速度的発達に対し、生活の飛躍的向上の一方で漠然とした不安も感じている私たちの心の在り方にも一つの道筋を示していると思った。
    (2011/10/2)

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