- Amazon.co.jp ・本 (305ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062043038
作品紹介・あらすじ
留学生活に傷つき、母国を去らねばなぬ在日韓国人女性の悲劇。第100回芥川賞受賞。
感想・レビュー・書評
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こないだ読んだ安田さんの「ヘイトスピーチ」の中に「李栄は、芥川賞作家・李良枝の妹である。「由煕」「ナビ・タリョン」などの作品で知られる李良枝は、1992年に37歳で夭折した。」という一節があり、これでわたしは初めてこの人を知った。なんとなく気になったので芥川賞を取った作品であるという「由煕」を図書館で借りて読んでみた。
話の一番最後の方に、朝起きて「ア」と発音したときに、それは「あ」なのか「아」なのかで、言葉の杖を掴めるかどうか試されている気がする、という部分があるのだけど、そこの部分がなんか、衝撃的だった。
韓国が「外国」と感じているわたし、いや、外国というか少なくとも「繋がり」は感じていないというか、いや、自分の祖先は渡来人ではないという確証も何もないので、もしかしたら繋がっている可能性はあるものの、取り敢えず感覚的には他の外国と同じ感覚とでもいいのか、韓国はわたしにとってはそのような国に過ぎない。だから、わたしにとっては朝鮮語は外国語で、だから「아」だってわたしにとっては永遠に外国語であるのだ。だけど、在日二世である主人公はそうではない。「あ」も「아」も自分と関係のある言葉。だけど主人公の中には「あ」と「아」の間にどうしても温度差がでてきてしまう。結局主人公は「아」を捨て「あ」に戻っていく、という話だったが、とても複雑な気分がする話だった。
他の2編はもっとわけが分からない話だった。この人、わたしにとって一定の「わけわからなさ」を持ってる人です。思考回路が全く分からない。だけど、それはなんとなく「あー、もう無理無理。わけ分かんないから次!」っていうより「なんでこの人はこういう話を書こうと思ったんだろうか」という風に気になる人。なので、次はこの人の「全集」(と言っても作家活動はたったの10年だそうだから、ほんの1巻のみだけど)を読むつもり。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
第100回芥川賞を受賞した在日韓国人2世の作家李良枝さんの小説です。
日本に生まれ育ち日本人として生活してきた主人公ユヒ。母国である韓国に留学しますが、理想とする母国像を強く持っていて、現実の韓国の文化や人、言葉を受け入れられずにとうとう韓国の大学を中退し、日本に帰国してしまう話です。最後の下宿先のオンニ(お姉さん)の目線でユヒが語られています。
ユヒは日本に帰る決断をしたけれど、またいつかきっとオンニが言うように旦那さんと子供を連れてオンニとアジュモニ(おばさん)の前に現れる気がします。言葉の杖を自由に操り両国間を往還して生活するユヒの姿を想像して本を閉じました。
外国語を身につける事は、その国の人や文化を受け入れ、その国の事が好きで興味を持てる強い何かがないと難しいことなんだと改めて感じました。留学時代に読んでみたかったです。 -
『由煕』
古井由吉『杳子』の身体動作の描写を思い出す。
ユヒがカセットデッキと机と壁で囲んだ四角の中に閉じこもるところは、僕が杳子の家で姉がケーキを机に並べるシーンの四角を思い出した。
疚しい(やま)
打擲(ちょうちゃく)
『来意』
語り手の名がかずこから発せられるまで、勝手に語り手は女かと思っていた。
『青色の風』
3作品読み、いろんな小説書くんだなぁと思った。
美しい女を出すような作品でないところがいい。
他者が受け入れがたい内面、外見、動きを描いているところがいい。
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芥川賞作品ということで読んだが、面白いという感じの小説ではない。
でもつい最後まで読んでしまった。面白いという感じではないが、面白くないというわけでもない。芥川賞作品ということで、そうなのかよくわからないが、最後まで読んでしまった。どこか実体験に基づいた小説なのだろうと思う。芥川賞全集14に収録されていた。正直、この作品のどこが良いのか自分にはわからない。 -
在日韓国人がソウル大学(S大学)に留学するが結局退学して帰国してしまう話である。韓国語を流ちょうに話さない、という状況を背景に持ってきている。
パッチギと同様に、在日韓国人の韓国での位置について、また新しい問題点を提起している。 -
「由煕」
特権と言うのか知らんけど
韓国の最高学府(ソウル大学?)に簡単な審査だけで入学した女がいた
彼女は、母国の文化に触れることで
在日としてのアイデンティティー不安に立ち向かおうとしたのだ
しかしなんというか、それ以前の問題で
エネルギッシュなソウル市民の猥雑さに耐え切れず
ギブアップしてしまう
そんな話です
インターネットもない時代じゃ仕方のないこととはいえ
リサーチ不足であろう
理想を裏切られた主人公は、韓国語にも拒絶反応を示すようになる
最後に暮らした郊外の下宿では
まるでホームステイのように暖かく迎えられたが
それで何かの埋め合わせができたわけでもない
裏に「過保護」へのいらだちも感じられる
「来意」
あるがままの自分でモテモテだった元・画家が
ひとりの女と出会ったことで表現欲を再燃させ
凡庸な現実とのギャップに悩むのだけど
「あるがままの私でいいのだ」という気づきを得た結果
日常に復帰していく
うーん…まあいいか
「青色の風」
両親の不仲に悩まされる少女
隣に住む少年の前ではお姉さんぶっている
しかし本当は死にたい気持ちを抑えているのだ
やがて、鏡の向こうに本当の自分の居場所があるのだと
妄想しはじめる -
表題作のみ
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この体験は万人に共通することではないような、ちょっと共感できなかった。
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第100回 芥川賞 初版