トモ、ぼくは元気です

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062135351

作品紹介・あらすじ

小学生最後の夏休み、ぼくは浪速の商店街にいた――。
読み終えたあと、きっと人にやさしくなれる。そんな物語。
椋鳩十児童文学賞受賞作家、待望の第2作!

ぼく、松本和樹は中学受験を控えた小学6年生。障害を抱える兄のトモをめぐって家で問題をおこし、“罰”として夏休みのあいだ祖父母の家に預けられることになった。関西弁とびかう浪速の商店街で、特別な夏がはじまる!

感想・レビュー・書評

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  • 単純に面白かった。
    なんだろう?
    多分、商店街の雑踏、祖父母の理髪店の二階の、かつては父のものだった古ぼけた部屋、向かいの和菓子屋の娘たち、夏祭りの夜店の金魚すくい、塾の無機質な空間、そういった作中の空気感がとてもよく伝わってきて、余計に入り込めたのだと思う。

    カズには一つ年が違う兄がいて、その兄のトモには障害がある。カズはトモの存在をフラットに受け入れているけれど、他の子は違う。他の子に笑われているトモを見ると、カズも恥ずかしい気持ちになっていた。
    そんな中、とあることがきっかけで、カズは今まで内に秘めていたもやもやした感情を爆発させてしまい、夏休みの間、父方の祖父の家に預けられることになる。

    カズの気持ちに寄り添って読み進んだ。
    トモと一緒に楽しんだ幼い頃。
    皆に笑われるトモを見て、恥ずかしく思ってしまった気持ち。
    トモが中学に上がり、自分一人の小学校生活になり、思わぬほどのびのびと暮らすことが出来ている自分。
    トモを救えなかった自分…。
    にがく苦しい気持ちが押し寄せて、切なくなってしまう。
    カズ自身は、トモはトモだとフラットに受け入れているのに、それを許さない周囲。
    自分はトモの世話をするための存在じゃないと叫ぶ内心の自分。

    幼い自分から思春期へと成長していく中での一つの壁なんだろう。
    その壁に、受験勉強という盾で殻に閉じこもる姿が、現代っ子のリアルだなと思った。

    トモの存在やカズの内面のもやもやなど全く介すことなく、否応なく進んでいく商店街の人々の流れが、怒涛だが心地よい。
    和菓子屋の三姉妹然り、自転車のおばさん然り、たこ焼き屋のおばさん然り。
    中でも、やはり夏美の存在が大きい。
    彼女の天真爛漫然とした在り様が、物語を押し進めていく。
    三姉妹の境遇にはびっくりした。少し設定盛りすぎ感がなきにしもだが、自分が世界で一番不幸だと思えるようなこんな時は、それが勘違いだと気付かせてくれる存在が必要だ。

    商店街バーサス商店街の金魚すくい対決。
    金魚すくいの名人の三姉妹の末っ子。
    金魚すくいのライバルは意地の悪い同級生で、しかし彼の境遇にもまた同情めいたものが湧いてしまう。

    商店街の風景と共に鮮やかに蘇るひと夏の思い出。
    その中で、少年は間違いなく、大人への一歩を歩み出したのだ。

  • 障害者のきょうだいの葛藤と成長いうテーマでも重くなり過ぎずさわやかにまとまっている。
    大事なのは書きすぎないことなんだなあと思った。
    主人公の和樹も、千夏と夏美の姉妹もそれぞれに結構重い家庭の事情を抱えているけれど、そこを書き込み過ぎると、いくらラストをさわやかにしても苦味が出てくる。読み手は子どもなんだから、これくらいがちょうどいい。実際に家庭の事情があったり、障害者のきょうだいがいる子どもが読んでも不快にならずかつ納得して、読後感がいいように書くのは難しいだろうが、よくできている。
    大阪?の商店街の人たちが皆おしゃべりでおせっかいだけど愛情たっぷりで、ちょっと理想の関西人すぎるなと大人としては思ったけど、子どもはこれくらい近所の人にあたたかく守って貰えるっていいな、と感じるだろう。
    お母さんは主人公に頼り過ぎていることをもっと反省した方がいいと個人的には思うし、もう少しお父さんが息子と話をすべきじゃないかと思うが、ここも書きすぎないからこれくらいの分量で収まったとも言える。
    子どもにもすすめやすい。

  • 夏休みの間、大阪の祖父母の家に預けられることになったカズキ。
    悶々とした気持ちが爆発してしまった、あの時。
    罪悪感と我慢の日々と。

    大阪の商店街。
    口煩い双子の女子。
    夏期講習の感じの悪いスネ夫。
    自転車で突っ込んでくるオバハン。
    あちこちのお店から声がかかる。
    いつの間にか巻き込まれた商店街同士の対決で、カズキは一歩踏み出した。

    親子と兄弟と友達と。
    いろんなことがヒリヒリしながら、考えさせる本。
    チビに読ませたかったのになー。断念!

  • 夏休み、ぼくはひとりで大阪のおじいちゃんちに行かされた。兄と同じ中学に行きたいくないと荒れて、家族をめちゃくちゃにしたという「罪」で、でもここでも「罪人ライフ」は悪くなかった。
    (『キラキラ子どもブックガイド』玉川大学出版部より)

  • サイコだけど大丈夫のような、障害のある兄を持つ弟が外界との接点を通じて、自分の境遇や葛藤を受け入れるストーリー。小学六年生の夏休みに父方の大阪の実家で幼馴染の少女たちと住まいのある商店街で過ごす。ハートフルな物語。自分の中にあるずるい心、卑しい心に徐々に向き合い、成長する姿が清々しい。自分の持っている当たり前の境遇を客観視して価値を見出すには、持ち場を離れて見ることが効果的。
    少年の成長とその後の可能性に気分が明るくなる小節。

  • 「カズちゃんらしないわ、そんなん」

    そんなこと言う子じゃなかったでしょう。

    どうしたの。和樹らしくないわよ。

    そう言われて

    ぼくらしくない?
    ぼくらしくないって、なんだよ。なにがぼくらしくないっていうんだ。

    と思う気持ちにハッとする。

    大人も子どもも「○○らしく」という考えにしばられるとつらくなる。

    このままグレてもおかしくないと思うぐらいなのに、小学6年生にして、自分をずるさを嫌だと思う和樹、大人だなあ。

    夏美と千夏とのからみ、そして商店街の金魚すくい大会のところはあまりおもしろいと思えなくて読み飛ばした。

    大阪弁の元気な女の子、苦手かも。

  • イライラする和樹。トモや親のせいだと感じてたけど、本当は自分の弱さにイライラしてたんだ。障害のある兄弟、受験など思春期の葛藤をかかえる男の子が、活気ある大阪の商店街で過ごす一夏のお話。

  • 数日前に読了。香坂さんは二冊目。
    カズの、嫌いというのとは違うトモへのうっとおしさが、すごくわかるなと思う。カズとトモ、当事者ふたりの間だけならそれほど問題ないのに、周囲からの扱いが関係すると、途端にややこしい事態になる。トモ自身を嫌いじゃないからこそ、関係を捉え直すのが余計に難しいんだよね…親の気持ちもわからなくなかったりすると、さらに。トモも含めて、皆それぞれに少しずつしんどさを抱えていて、それを解消するというより、認識しあって背負い直すことで少し軽くなる、という感じの終わりだったのがよかった。
    兄弟と姉妹にきれいにわけて描かれているのが興味深い。

  • 障害者の兄をもつ和樹。自分の心のなかにある弱さや醜さなど複雑な気持ちが正直に描かれていて好感がもてます。

    途中、読んでいると自分自身の心の弱さ、醜さをつっつかれて、ちょっと苦しくなりますが、読後感はさわやかです。

  • 胸がくうっと鳴く。
    カズは利口で、自分の気持ちに向き合う勇気もあって。
    だけど、嫌な思いや窮屈な気持を、抱えきれない時だってある。
    消化できない時だってある。それで良い。
    紙コップに手で蓋したのはかっこよかった。

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著者プロフィール

香坂 直
『走れ、セナ!』で、2004年第45回講談社児童文学新人賞佳作、2006年第16回椋鳩十児童文学賞を受賞。2007年『トモ、ぼくは元気です』で、第36回児童文芸新人賞を受賞。『みさき食堂へようこそ』などの作品がある。

「2013年 『YA! アンソロジー エール』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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