津和野の殺人者 (講談社文庫 な 42-3)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (298ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062632874

感想・レビュー・書評

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  • 〇 感想
     中町信の作品であり1991年の作品。中町信の得意の叙述トリックもさりげなく仕込まれている。プロローグの病室のシーンは,中馬の病室を有子が訪れたシーンと見せかけて…真相は,真知子の病室を有子が訪れたシーンである。とはいえ,叙述トリックはこの程度
     津和野の病院で火事があったが,その病院で別所という女性が,二人の男性に暴行を受けた上で,殺害されたように見える事件が起こる。これが事件の発端。別所は,笹村という男性と情事を終えた後に,逆井千草という女性に殺害されていた。そのあと,中馬という女性がその病室を訪れ,三輪という男性に犯される。これらの一連の出来事の結果,別所は下着をはいていない状態で死んでいたので自殺ではないとされ,体内に,笹村のA型の精液があり,ベッドにB型の三輪の精液が残っていたので,A型とB型の二人の男性に犯され,殺害されたと思われてしまっていた。
     津和野行きのツアーに別所,中馬という女性二人組のほか,花村浩司,笹村の男性二人,三輪,石倉という男性二人,そして逆井夫妻が参加していたが,三輪と逆井夫妻が,別所,中馬に復讐をしようとして参加していたという点が,まず,御都合主義的。その復讐が同じ最終日にされ,さらに中馬が別所の部屋を訪れ,三輪が別所の部屋を訪れた際には,既に別所が殺害されていた。三輪は代わりに中馬を犯して,その精液が残るという。色々あった夜という感じだが,偶然に頼り過ぎで,ミステリとしてのリアリティに欠ける。トリックと意外性に重点を置きすぎているともいえる。
     その後の浩司殺害,笹村殺害,三輪殺害は,逆井夫妻が自分達の犯行だとばれないようにするために行う。どれもトリックらしいトリックもない。浩司殺しは,5155という数字のダイイングメッセージ。これは515号室を意味すると見せかけ,逆井夫妻の娘である真知子の受験番号だった。これも推理で溶けるような謎ではなく,単なる意外性の演出
     笹村殺害もダイイングメッセージ。貯金箱を壊し,10円玉と5円玉を握って死んでいたが,真のメッセージは,貯金箱と一緒に割った萩焼の壺の方で,ツアーで中馬の萩焼の壺を割った逆井克己を意味していたという。いや,それはひどい。さすがにそのダイイングメッセージは読者は気付きようがないし,被害者もそんな迂遠なメッセージを残すとは思えない。
     三輪殺しはキャッチホンを利用したアリバイトリック。これも特にこれといった伏線もなく,取って付けたように最後の有子が推理する程度
     全体的に見て,中町信らしいサービス精神に満ちた作品とはいえるが,トリックのデキ,小説としてのデキもいまいち。意外性だけを追求した駄作といってよさそう。★2で。

    ○ メモ
    ○ プロローグ
    「また来る」と言い残して,病室から出る花谷有子の後ろ姿をおびえた気持ちで見送る謎の人物の描写。謎の人物が男に襲われたシーンの回想を挟み,謎の人物が新聞の切り抜きを見ながら,回避したいと願っていた事態が忍び足で近づいているのを感じるという描写。この人物は誰なのか?
    ○ 第一部 事件
    ○ 第1章 四人の容疑者
     花谷有子の弟,浩司は,会社の同僚である笹村達也と一緒にツアーで萩・津和野に旅行に行き,ホテルの火災に遭う。笹谷達也の姉,桐子に会う。
     そのほか,逆井千草,その夫の克己別所安江,中馬美佐といった人々が火災に遭っていたが,別所安江が自殺と思われる形で亡くなる。安江は下着を身に着けない姿で転落死していた。安江は暴行を受けており,A型とB型の血液型の精液が検出されていた。
     安江に暴行できそうな病人は,石倉久,三輪伸彦,笹村達也,花谷浩司の4人だけだった。
     安江殺害の捜査で帰宅が遅れそうになったので,逆井と有子は津和野の観光。逆井は,浪人をしている20歳の娘がいるが,体調を崩しているという。
    ○ 第二章 四桁の数字
     津和野から東京に戻る。有子に弟の浩司から電話がある。「津和野の駅で。3か月前。確かめてみる,偶然と思えない。」そのような電話があったが,浩司は殺害される。浩は,5,1,5,5という4桁の数字を言い残して死亡していたという。有子は,浩司の部屋の整理をする中で,浩司が3か月前に行った陸中海岸の旅行で,浩司と笹村達也と中馬美佐,別所安江と知り合いになっていたことに気付く。
     井上警部と戸沢警部という刑事が捜査。また,津和野の病院の平林という看護婦から有子に電話。別所と笹村は恋人同士だったという。
     逆井克己から有子に電話。有子は,笹村と別所が恋人同士であったならば,A型は笹村の精液で,B型の人間が暴行犯だと推理する。
    ○ 第三章 陸中海岸の宿泊客
     有子は逆井夫妻とともに,陸中海岸旅行の捜査をする。逆井夫妻によると,笹村はいたずら好きだったという(伏線か。)。また,中馬と別所には,もう一人奈良雪子という連れがいた。
    ○ 第四章 繋温泉の宿泊客
     5,1,5,5の数字は515号ではないかと推理。浩司達が泊まった旅館では事件が起きていた。513号室に泊まった男性二人ずれは事故死。514号と515号に女性の宿泊客がいて,奈良雪子という女性は男性に襲われていた?この事件は,奈良雪子の復讐ではないかと,有子は推理する。
    ○ 第五章 割られた貯金箱
     有子は笹村に連絡し,奈良雪子のことなどを聞く。別所と笹村が付き合っていたことを笹村に確認する。笹村が,奈良雪子が暴行され,その復讐劇がこの事件であるという有子の推理を聞き,有子が思い違いをしているという。有子は笹村と会って話をする約束をするが,話をする前に笹村が殺害される(ちょっと御都合主義的に人が死んでいく…。)。笹村は焼物の貯金箱とタヌキの焼物を壊し,貯金箱から出た10円玉と5円玉を握っていた。
     有子は,浩司の最後の言葉は,「515ごう」であり,石倉と三輪のいずれかが奈良雪子の恋人だったのではないかという推理を井上警部にいう。奈良雪子は精神病で入院中だという。
    〇 第六章 タヌキに似た男
     有子は中馬に会う。中馬は病気で癌かもしれないという。3月の陸中旅行のことを聞く。中馬は8人もの男女がどんちゃん騒ぎをしていたというが,有子は7人ではないかと指摘する。中馬は,笹村のダイイングメッセージは,雄のタヌキを握ろうとしていたので,犯人はタヌキに似た石倉ではないかという推理をいう(この推理が当たっていたらバカミスすぎるが…)。また,中馬は,「犯人の復讐はもう終わったのよ。」との言っていた。
    〇 第七章 旅立つ男
     有子は,石倉と話をする。石倉は,奈良雪子の恋人は三輪ではないかと指摘する。三輪は奈良の恋人で,復讐として別所を犯した。しかし,別所を殺した犯人は別にいるのではないかという(御都合主義すぎるが…)。
     有子は,逆井に推理を話す。三輪は暴行犯であるが殺人犯ではない。真犯人は,暴行犯=殺人犯とするために,真相に気付きそうになった浩司と笹村を殺害したのではないか,と。
    〇 第八章 残された容疑者
     有子に三輪から手紙が届く。手紙の内容は,これまでの有子の推理を裏付ける内容。三輪は奈良雪子の恋人であり,その復讐として別所と中馬を犯そうとした。犯行があった日に復讐を遂げようとしたが,三輪が犯したのは別所ではなかった。別所は三輪が襲う前に死んでいたのだという(いや,それはあまりにも御都合主義では…)。
     有子は,その手紙の内容を逆井に伝えようと,自宅に電話。有子は酒井千草に会い,克己にも連絡を取る。三輪は真犯人が誰か分かっていたようであるが,殺害される(うーん,死に過ぎでは…。)。
     有子は,中馬が犯人ではないかと推理する。
    〇 第九章 病室にて
     有子は,病室で,中馬が真犯人であるという推理を伝える。しかし,笹村が,「思い違いをしている。」といった点や,10円玉と5円玉を持っていた点等,説明が付かない部分が残る。中馬は犯行を否認する。
    〇 第二部 解明
    〇 第十章 萩焼の壺
     有子は,中馬こそが連続殺人事件の犯人だと推理し,その証拠を手に入れようと紛争する。その最中,津和野の病院で,逆井克己が中馬が購入した萩焼の壺を割っていたという話を聞く。
     有子はそんなはずはないと思いながら,逆井克己が犯人ではないかを考え始める。
     有子は中馬が自殺をしたという話を聞く。
    〇 第十一章 515号室の女
     笹村が有子に言っていた思い違いの件について考える。もう一度ホテルに行き,捜査。515号室の騒ぎには,うるさいと苦情を言っていた女性が1人,加わっていたことを知る。その女性は受験生だったが,受験票を忘れていた。その受験票は浩司に預けられており,受験番号が5155だった。受験生は真知子といい,逆井夫妻の一人娘だった。
    〇 第十二章 休憩室にて
     有子は,逆井真知子の病院を訪れる。その病院で逆井千草に会い,逆井夫妻こそが真犯人であると告げる。
     別所殺害は千草。浩司殺人は,別所と逆井夫妻のつながりがばれるのを防ぐために克己が行った。笹村も別所と逆井夫妻がつながることを知っていたために殺害。笹村は,萩焼の壺を割ることで逆井夫妻の犯行であることを示そうとしていた。犯行に気付いた三輪から手紙をもらっており,三輪も殺害。三輪殺害の際の逆井からの電話はキャッチホンを利用したアリバイトリック。逆井夫妻は,中馬をも,犯人に偽装するために毒殺していた。
    〇 エピローグ
     プロローグの病室でのシーンは,有子が真知子の病室を訪れていたシーンであったことが分かる。

     

  • 津和野でのバスツアーで起きた火災、被害者の一人が暴行を受けて病院にて墜落死した。被害者のベッドと体内からは二種類の血液型が見つかる。犯人のパターンはたったの数種類か?真実に近づこうとしたときまた一人容疑者が殺された!!

    下北に続く殺人者シリーズの第二弾です。津和野のバスツアーを発端に陸中海岸や広島にまで飛ぶちょっとしたトラベルミステリーのような趣があります。この時代の作品、無駄に地名を推してきますよね。あんまり津和野は関係なかったかな。
    容疑者の一人である男の姉が主人公として探偵役なのですが、超素人一般人です。というか十津川警部がいたら一瞬で解決したと思う。それぐらい底の浅い事件であった。

  • 2016年25冊目。
    んー、模倣の殺意がそこそこ面白かったので借りてみたけど、終始突っ込みどころ満載な展開でした。あたしでも犯人も割と早い段階で分かってしまったし、まぁ2時間サスペンスドラマを流して見たという感じであればこんなもんでしょうかね。

  • 3- 

    細かいことは気にしない強引な話の展開や、ミスディレクションバリバリなのはいつものこと。読み手も最初から話がすんなり進むわけがないと思っているし、途中の推理は穴だらけだし、ふんだんにヒントもバラまかれるので、というかもうミスディレクションそのものがヒントになってしまっているので真犯人も容易に見当がついてしまう。ここはダイイング・メッセージの奇抜にして無理矢理な解釈にニヤニヤしながら読むのが○。

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著者プロフィール

1935年群馬県生まれ。早稲田大学文学部卒業。 66年に「闇の顔」で第1回双葉推理賞候補になる。『新人賞殺人事件』(後に『模倣の殺意』に改題)で単行本デビュー。叙述トリックを得意とし、『空白の殺意』『三幕の殺意』『天啓の殺意』などの著作がある。2009年逝去。

「2022年 『死の湖畔 Murder by The Lake 三部作#2 告発(accusation) 十和田湖・夏の日の悲劇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

中町信の作品

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