ロールズ (「現代思想の冒険者たち」Select)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062743600

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  • 入門書にしては難解。ロールズの思想が生まれた時代背景や彼の人となりについての情報は興味深い。

  • 100円購入2006-00-00

  • 倫理学の主要目標「複数の利害が競合し合っている具体的事例に即して、どちらの利害を優先すべきかを決断するのに用いられる、正当な諸原理を定式化すること」p58

    「正当化の手続き」p60

    【七つの正義原理】p64
    ①対立する諸要求は、同一の原理により評定されなければならない。
    ②どのような要求も充足するに値するものとみなされるべきであって、理由なく否定されてはならない。
    ③他の要求の充足を妨げることが予見されないなら、その要求を別の要求のために否認してはならない。
    ④できるかぎり多くの要求を充足すべきである。
    ⑤利害確保の手段は、合理性を有していなければならない。
    ⑥諸要求は、それ自体の強さに従って順序づけられねばらならない。
    ⑦対等な要求は、可能なかぎり平等に充足されるべきである。

    「ルール=実践観」p73

    【「公正としての正義」】p78
    ①正義を社会制度つまり実践の一つの徳性としてのみ言及する。
    ②正義の通常の意味(①根拠のない差別を取り除くこと②競合する諸要求の間に適正なバランスを確立すること)に注目する。
    ③本稿で提起される正義の原理を確固不動の原理そのものだとみなす必要はない。

    (ウィトゲンシュタインの「家族的類似性」を意識した説き口で)ウィトゲンシュタインが言語の本質や共通項を述べることを断念して、「重なりあい交差しあう類似性の複雑な網」を見てとったように、ロールズも正義の原理そのものをトップダウン式に開陳するのではなく、正義の通常の意味・使用法に着目して、そこからボトムアップ式に一群(ファミリー)の諸原理を掴み出そうとする。p80

    ロールズが自由かつ平等な人びとの「相互承認」を「公正としての正義」の根本におき、これに立脚して功利主義批判が開始できた理論的背景には、ハートの自然権再評価が強力な援軍として控えていたのだ。p86

    【正義感覚】p99
    「正義を公正として把握し、その相互了解に参加することを通じて、一つの立憲民主制がつくられる」

    格差原理とカントの定言命法の親和性 p112

    のちにある論者は、『正義論』の出現が「息苦しいまでの孤立主義に苦しめられてきた個々の専門分野を架橋して、対話のための共通基盤を与えてくれた」ばかりでなく、「アカデミズムの境界を超え出て、公共的討議のための鮮明な焦点を提供するものであった」と回顧している。p121

    【『正義論』の功績】p122
    ロールズが成し遂げたことは、社会契約という理念を政治的機構の基盤として語りなおし、修正し、それに新しい息吹を吹き込むことであった。ロールズは功利主義が正義と公正に関する私たちの直観と齟齬をきたすと論証した。「公正としての正義」という見解は、<他者の同様な自由と両立できる最も広範な自由に対する全員の権利>だけを構成要素とするのではない。<社会的・経済的不平等は、多数派の利益だけでなく全員の利益になっている限り、許容される>との主張も同時に含んでいる。この命題の政治的含意は、私たちの暮らしを変革するかもしれない。

    「功利主義は、個人間の差異を真剣に受け止めようとしない」p130

    【正義の二原理】p132
    ①各人は、基本的自由に対する平等の権利をもつべきである。その基本的自由は、他の人びとの同様な自由と両立しうる限りにおいて、最大限広範囲にわたる自由でなければならない。
    ②社会的・経済的不平等は、次の二条件を満たすものでなければならない。
    (1) それらの不平等が最も不遇な立場にある人の期待便益を最大化すること。<格差原理>
    (2) 公正な機会の均等という条件のもとで、すべての人に開かれている職務や地位に付随するものでしかないこと。<公正な機会均等原理>
    ⇒(a)平等な市民権(b)所得・富の分配が定める地位

    「積極的な義務」(相互扶助)と「消極的な義務」(他人に害を与えない)p136

    功利主義的学説の欠点は、不偏性=公平性(インパーシャリティ)を追い求めるあまり、それを没人格性=非人称性(インパーソナリティ)と取り違えているところにある。p140

    【正義の二原理が肉付けされて社会制度に埋め込まれていくプロセス】p140
    ①原初状態②憲法制定会議③立法段階④ルールの適用・遵守段階
    ⇒ロールズはアメリカ憲法の制定過程になぞらえながら説明する。

    「正義感覚」とは、道徳的観点を採用しそれに基づいて行為することを欲する一つの安定した心的傾向性であると定義できる。p152

    【快楽主義の誤謬】p156
    快楽主義が規定する自我は、その精神的境界内における快い経験の総量を最大化しようとすることで一体性を獲得する。公正としての正義においては、快楽主義の視座の完全な逆転が<正しさ>の優先性とカント的解釈とによってもたらされる。当事者は、快楽や苦痛を味わう力量ではなく道徳的人格を自我の基本的側面とみなす。彼らは、自分たちをみずからの究極目的を選択できる存在と考える。原初状態における当事者の目標は、各人が自分自身の統一を形成するための、正義にかなう好都合な諸条件を設定することである。

    【「原初状態」の効用】p159
    功利主義のように全員を一つの効用関数に合成することなく、世代を通じた公平な見方を可能にする原初状態。この視座から社会における自分たちの位置を見極めることは、自分たちを「永遠の相の下に」(sub specie aeternitatis)眺めることである。もちろん永続性の視座といっても、現世を超えた一定の場所や超越者の目から眺望するのではなく、人間がおかれている状況をあらゆる社会的・時間的見地を総合しながら公平に考察することなのだ。

    【ハーサニーの論難】p168
    そもそもマキシミン・ルールでもって「道徳的であること」を基礎づけることは不可能であり、むしろ原初状態で採用されるのは、マキシミンではなく平均効用最大化原理だと考えるほうが合理的である。

    経済学と倫理学との関心ギャップを埋めようと努めているのが、インド出身で二つの学問の再統合を追求しているアマルティア・センである。彼はロールズのナイーブな功利主義批判を「効用主義」に対する批判として洗練・強化するとともに、ロールズの正義論が財=モノの分配にとどまっているところを問題視する。171

    『正義論』の刊行以後のロールズは、功利主義批判の不当性(アロー)、平等主義的理論の行き過ぎ(ノージック)、倫理学方法論の欠陥(ヘーア)を攻撃するといった強力な包囲網に囲まれてしまった。p196

    【複合的平等 by ウォルツァー】p215
    ロールズのように社会的財の全領域を貫く単一の分配原理を定式化しようとするのではなく、別個の意味を担っている財の諸領域ーメンバーとしての資格、社会保障、財貨、公職、自由時間、教育、家庭生活、信仰生活、社会的承認、政治権力などーごとに、各財に「内在し、適切な関連性を有する」理由づけに従いつつ、平等な分配を志向すべきだとウォルツァーは考える。これが〜である。
    ⇒ロールズの分配原理の一元性・抽象性を克服しようと試みるユニークな構想

    【重なり合う合意】p230
    「一般に、公然と主張された正義の諸構想の間に<重なり合い>さえあれば、市民的不服従が政治的な異議申し立ての妥当かつ慎重な形態として展開されるのにじゅうぶんである。(中略)厳密な合意を獲得することは必要ではない。というのも大半の場合、ある程度の<重なり合う合意>によって互恵性の条件は満たされるからだ」
    ⇒市民的不服従の妥当性が社会的に承認されるための最低条件として、多数派・少数派の間に成立すべき緩やかな合意。

    【諸民衆の法】p241
    「国際法の諸原理と国際関係の諸規範に応用される、<正しさ>と正義の政治的構想」


    【「自由で民主的な民衆(ピープル)の間で妥当する正義原理】p242
    ①もろもろの民衆は自由かつ独立であり、彼らの自由と独立は他の民衆の尊重を受けるべきである。
    ②諸民衆は平等であって、自分たちの合意を取り決める当事者である。
    ③諸民衆は自衛の権利を保有するけれども、戦争への権利はいっさいもっていない。
    ④諸民衆は[他の民衆の社会に]介入しない義務を遵守すべきである。
    ⑤諸民衆は条約および約定を遵守すべきである。
    ⑥諸民衆は(自衛のためにやむなく始めたものであろうと)戦争遂行に課された一定の諸制約を遵守すべきである。
    ⑦諸民衆は人権をおおいに尊びその要求に応じるべきである。
    ↓(したがって上記の<諸民衆の法>において《人権》は次の三つの役目を負うことになる。
    ①ある政治体制の正統性とその法秩序のまともさの必要条件であること
    ②他の民衆から加えられる正当かつ強制的な介入(経済的制裁や軍事的介入)を排除するための十分な条件であること。
    ③諸民衆の多元的共存状態[を放置するのではなく、それ]に一定の制限を賦課すること。

    【穏当な多元主義】p258
    ①一定の権利、自由、機会の内容をきちんと定めていること
    ②右の一連の自由に特別な優先権を与えていること
    ③そうした自由や機会を有効に活用するための万能の手段[=基本財]をすべての市民に保障する、さまざまな措置を用意していること。

    カント「もし正義は滅びるならば、人間が地上に生きることにもはや何の価値もない」(『人倫の形而上学』第一部=法論、第四九節E)p262

  • ロールズの基本思想についてまとめられている本。全体的に内容が濃くなりすぎて、入門書としては少し難解ではある

  • ロールズについて、その伝記とセットにした形でリベラリズム論争を追いかける著作。

    『正義論』が壮大な体系を持っているゆえに、ともすればロールズの思想的・哲学的背景が疎かになりがちだが、この作品はその背景を忠実に描いている。さらに論争の広がり自体の追跡も非常に明快。ただ入門書レベルではないので、その点は★1つ分減点。

  • ロールズについて知りたければ。
    「正義論」の解説書ではない。
    というか、「正義論」の方が読みやすいかも。長いけど。

  • 自由と平等をどう両立させるか、という問題に関心があった。それで、たとえ古くとも、ロールズのリベラリズムは素人なりに知っておきたかった(「無知のヴェール」というアイデアを最初に知った時はかなり感動したし)。そのロールズの主著「正義論」の新訳がこの11月に出るのだから、予習をしておこう!

    ・・・という動機で本棚から引っ張り出したこの本。「現代思想の冒険者達」シリーズの一冊で、ロールズの人生と、「正義論」の概要・それへの反論・その後の展開などをまとめて書いてくれている入門書だ。ただし、いずれもとても簡略にまとめているので、今読み直しても、正直これ一冊ではロールズを理解できた気にはなれない。

    しかし、ロールズを読む上で誰の議論・著作を押さえたほうがいいのかというガイドにはなるし、アメリカの原爆投下を批判したり、ベトナム戦争でも大學の成績優秀者を免除しない「くじ引き徴兵」を提言したりと、ロールズの人物像をよく表すエピソードもあって、それなりに面白い。何より有益なのが第4章。ここでは「正義論」を縮約しており、自分が議論についていけるところとついていけないところがはっきりわかる。これは今後実際に「正義論」を読む上で大きな助けになるはず。

    というわけで、「この本だけでは何もわからないけど、何がわからないのかがわかる」ので、入門書としてはそれで十分なのではないかと思う。その先へ進むかは読んだ人の興味次第なのではないかな。

  • 英語がもう少しまともになったら原書を。

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著者プロフィール

川本隆史(かわもと・たかし)
1951年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程(倫理学専攻)修了。博士 (文学)。東京大学名誉教授、国際基督教大学教養学部特任教授。著書に『現代倫理学の冒険』(創文社、1995年)、『ロールズ:正義の原理』(講談社、1997年)など。

「2022年 『政治的リベラリズム 増補版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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